センシュアス・シティとは

「センシュアス・シティ(官能都市)」とは、安全性や利便性といった客観的なスペックではなく、人々の体験や街との関わり合いといった“動詞”で都市を評価する概念だ。センシュアス度の高い都市は、経済合理性の下でそうしたスペックばかりを追求し、均質化されてしまった街では得られない「生きがい」や「自分らしさ」といったウェルビーイングをもたらすとともに、街に「場所の意味(ナラティブ)」を育むとして注目されている。

本連載は、2025年9月にLIFULL HOME'S総研が発表した調査研究レポート『Sensuous City[官能都市] 2025 身体で経験する都市あるいは都市のナラティブ』より、LIFULL HOME'S PRESS編集部の渋谷雄大が執筆した「センシュアス・シティのつくりかた」を、一部加筆・修正のうえ全10回にわたり再掲するものだ。効率や機能性を超えて、豊かな都市の体験を生み出す全国10の事例をピックアップする。第1回は、「グラングリーン大阪」(大阪市北区)を紹介する。

グラングリーン大阪での取り組み

「大阪最後の一等地」と称された、JR大阪駅北側の梅田貨物駅跡地約24ヘクタールで、産学官連携による「うめきたプロジェクト」が進められている。2013年に「グランフロント大阪」として開業した先行開業区域(うめきた1期地区)は、ショッピングモールやレストラン、オフィス、ホテルなどで構成される南館および北館と、高層マンションで構成されており、開業から10年で4億7,000万人の累計来場者を記録するなど、数多くの人が訪れる場所になっている。そして道路を挟んだ西側のエリア「うめきた2期地区」で現在、三菱地所株式会社を代表企業とするJV(ジョイント・ベンチャー)9社による開発が進められている。うめきた2期地区は、「“Osaka MIDORI LIFE”の創造」~「みどり」と「イノベーション」の融合~というコンセプトを掲げ、約4.5ヘクタールの大型都市公園「うめきた公園」を中心に、公園の南側にホテルやオフィスが入居する南館と高層マンションを、公園の北側にホテルを主とした北館と高層マンションを配置する計画となっている。うめきた公園は、大規模ターミナル駅直結の都市公園としては世界最大級の規模であり、上質な天然芝と水盤のある芝生広場や大屋根、豊かな緑とダイナミックな水系のある「うめきたの森」などを整備する。

「グラングリーン大阪」と名付けられたうめきた2期地区は、2024年9月に先行まちびらきが行われ、うめきた公園(サウスパークとノースパークの一部)とノースタワーが開業。JR大阪駅前に誕生した広大なうめきた公園は多くの市民や観光客に驚きをもって迎えられた。都心のオアシスのような魅力的な空間であるが、この開発の真価は、単なる公園整備にとどまらず、街全体の美観と機能を統合する点にある。公園と街の管理を一体的に進めることで、人々の交流の場としての活用が推進されている。サウスパークでは、音楽イベントや冬のイルミネーションなど、開業後半年で約50件以上の多彩なイベントが実施された。平日・休日を問わず、幅広い世代が訪れ、先行まちびらきからの来場者はすでに1,000万人を突破。都市の新たなシンボルとして、確実に根付いてきている。2025年3月には南館もオープン。うめきた公園では、家族連れや会社員、学生、観光客が思い思いに過ごす風景が生まれつつあり、人々の動きや街との関わり方が大きく変化しているのを実感する。

大阪府はニューヨーク・タイムズの「2025年に行くべき52ヶ所」に選ばれ、さらにグラングリーン大阪は「Gamechanging project(都市の在り方を変える革新的なプロジェクト)」として取り上げられている。

サウスパークの芝生広場では、幅広い年代の人々が、思い思いにくつろいでいる(撮影:井口克美)サウスパークの芝生広場では、幅広い年代の人々が、思い思いにくつろいでいる(撮影:井口克美)

文は、一般社団法人住まいる総合研究所 代表理事 井口克美『グラングリーン大阪南館がグランドオープン。“うめきたエリア”のさらなる活性化に期待』(LIFULL HOME'S PRESS 2025年4月16日公開)、『「うめきた2期」の概要と工事の進捗状況。大阪最後の一等地で次世代の都市モデルを』(LIFULL HOME'S PRESS 2021年11月8日公開 )を基に、LIFULL HOME'S PRESS編集部 渋谷雄大が要約・責了。内容は取材当時のもので、現在と異なる可能性があります。

センシュアス・シティのつくりかた:画一的な都市開発から脱却する

うめきた2期地区は、民間による高収益開発を促す各種の優遇措置を受けられる都市再生緊急地域および特定都市再生緊急地域内にあり、本来であれば容積率を最大限に活用した高層ビル群の建設が主流となる立地である。しかし、本プロジェクトでは、決して高収益とはいえない「みどり」を整備した。これまでの再開発の主流であった「土地の合理的かつ健全な高度利用」という経済合理性優先の思想とは異なる開発といえる。もともとうめきた2期地区には、ビル群やサッカースタジアムを建設する構想があったが、地元経済団体の関西経済同友会は「ひとびとにやすらぎと生きるよろこびをもたらす空間こそが、世界都市大阪の魅力を高め、ひいては経済活動を盛んにする」として、「ほんまもんのみどり」による「グリーンパーク」とすることを提言していた。しかし、経済合理性を重視する民間主導の都市再開発では、短期的に利益を生まない「みどり」はつくられにくい。そこで同会は、大阪府と大阪市が土地を取得して整備することを提言。橋下市政下で具体化し、敷地の一部が大阪市が管理する都市公園として整備されることとなった。

開業後のうめきた公園は、都市にありながら、緑や水に直接触れる、小鳥のさえずりや虫の音に耳を澄ませるといった「都市のリトリート」体験を提供しているのはもちろん、多彩な催しは「文化・娯楽」などにつながる体験をもたらし、歩行者のためのルートやベンチは「ウォーカブル」な都市空間を演出するなど、多くのセンシュアス・シティの構成因子を刺激する。このようにかつてないセンシュアスな空間を実現した最も大きな要因は、近視眼的な経済合理性ではなく、中長期的な都市の在り方から逆算した姿勢だろう。関西経済同友会の言葉を借りると「『理念』なしには、いかに費用を投じても、厳しい都市間競争に勝つことはできない。単一の敷地の収益性ではなく、「この都市に何が必要か」という都市全体の価値判断を起点とするまちづくりは、画一的な都市開発から脱却し、ナラティブが紡がれる個性ある都市を実現するうえで欠かせないものとなるはずだ。すでにグラングリーン大阪は全体の約70%が完成。2027年春の全面オープンに向けて期待が高まっている。

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第2回は、プレイスメイキングの視点を取り入れた「GREEN SPRINGS」(東京都立川市)の事例を紹介する。