センシュアス・シティとは
「センシュアス・シティ(官能都市)」とは、安全性や利便性といった客観的なスペックではなく、人々の体験や街との関わり合いといった“動詞”で都市を評価する概念だ。センシュアス度の高い都市は、経済合理性の下でそうしたスペックばかりを追求し、均質化されてしまった街では得られない「生きがい」や「自分らしさ」といったウェルビーイングをもたらすとともに、街に「場所の意味(ナラティブ)」を育むとして注目されている。
本連載は、2025年9月にLIFULL HOME'S総研が発表した調査研究レポート『Sensuous City[官能都市] 2025 身体で経験する都市あるいは都市のナラティブ』より、LIFULL HOME'S PRESS編集部の渋谷雄大が執筆した「センシュアス・シティのつくりかた」を、一部加筆・修正のうえ全10回にわたり再掲するものだ。効率や機能性を超えて、豊かな都市の体験を生み出す全国10の事例をピックアップする。第8回は、「ミズベリング信濃川やすらぎ堤」(新潟市)を紹介する。
ミズベリング信濃川やすらぎ堤での取り組み
新潟市を訪れたならぜひ、訪れてみてほしい場所がある。市の中心部を流れる信濃川の河川敷「やすらぎ堤」である。やすらぎ堤では2006年に社会実験として萬代橋の下流側、右岸(新潟駅側)で萬代橋サンセットカフェが始まって以降、信濃川やすらぎ堤川まつり、萬代橋誕生祭などといったイベントで水辺を使い続けてきた。そこに2016年から加わったのが「ミズベリング信濃川やすらぎ堤」。これは2011年に行われた河川占用許可準則の改正により、河川区域で民間事業者等による企業活動が可能になったことを契機として開催されるようになったもの。実際に水面を含めた河川区域を利用するためには都市・地域再生等利用区域の指定を受ける必要もあったが、新潟市では前述のサンセットカフェや河川敷を利用した各種イベントを続けてきた実績があり、2016年には指定を受け、同年から「ミズベリング信濃川やすらぎ堤」がスタートしている。メインとなる会場は右岸側。堤上の遊歩道脇の萬代橋寄りに1軒、八千代橋寄りに6軒の飲食店が出店しており、店内に加え、河川敷に設置されたテント内で飲食が楽しめるようになっている。テントや椅子、ランタンその他用意されているのはすべて新潟県三条市に本社を置くアウトドア用品等で知られる株式会社スノーピークの製品。3年目(2018年)には平日限定で「水辺キャンピングオフィス」も行われた。水辺に設置されたテントやタープ内で会議や打ち合わせ、そしてその後の懇親会を楽しんでみては?という提案である。いつものメンバーで行う会議でも、場所が変わるだけで気分が変わり、自由な発想が生まれたり、互いの距離を近く感じたりするそうで、それが水辺の開放的な空間であればさらに自由になれるはず。試してみたいものである。
市民からのポジティブな評価も増えている。
「信濃川の夕暮れがこんなにきれいとは知らなかった、気持ちの良い空間だった、新潟にやすらぎ堤があって良かったなど、やすらぎ堤を訪れることで、これまで気づかなかったこの街の良さに気づいたというような声を聞いています。やすらぎ堤が自分たちの街を愛する気持ち、シビックプライドの醸成につながっているのです」(新潟市都市政策部まちづくり推進課 以下まちづくり推進課)
視察などで新潟市を訪れた他自治体の職員が見学を要望することも増えているそうで、新潟市の取り組みは全国的にも知られつつある。水辺を使いたいと考える自治体も増えているのだろう。歩いたり、走ったり、ぼおっとしたりする場から飲食、買い物、仕事などで人が集う場へと変化してきたやすらぎ堤にさらに新しい使い方が増えるかどうか。年々使い方が多彩になってきたことを考えると、今後にも期待したい。
文は、住まいと街の解説者 中川寛子『食べて、遊んで、働いて。使い方多彩な「ミズベリング信濃川やすらぎ堤」に行って来た』(LIFULL HOME'S PRESS 2019年7月22日公開)を基にLIFULL HOME'S PRESS編集部 渋谷雄大が要約・責了。内容は取材当時のもので、現在と異なる可能性があります。
センシュアス・シティのつくりかた:都市にある自然資源を活用する
ミズベリングとは、まだ十分に活用されていない水辺環境に対する社会の関心を高め、その新しい活用の可能性を切り開いていくための官民一体の協働プロジェクト。かつて街の象徴として人々の暮らしとともにあった水辺も、高度経済成長とともに効率重視の排水路と化し、街並みから背を向けられる状況にある。また、治水の観点からその利用は厳しく制限され、利用する場合にも公共性、公益性が重視され、その主体は公的機関に限定されていたが、2011年の河川敷地占用許可準則の改正により、全国の河川で民間事業者による飲食店や照明施設等を設けて営利事業を行うことが可能になった。ただし民間事業者が河川敷地を利用するには、都市および地域の再生等のための利用によらなければならない。これらを背景に、水辺を「つくる」だけでなく水辺や周辺地域・文化を「つかいこなす」ことを視野に、その活用のムーブメントを起こそうというのがミズベリングのミッションだ。
信濃川のやすらぎ堤の活用は、萬代橋サンセットカフェの社会実験から始まり、2016年以降はミズベリングとして実施している。同年「信濃川やすらぎ堤かわまちづくり」として国のかわまちづくり支援制度に登録、2019年には「かわまちづくり大賞」も受賞した。センシュアス指標の「都市のリトリート」場面を創り出せる水辺の活用だが、ミズベリングではその参加方法を「『水辺が好き』『水辺を良くしたい』。そのアツい気持ちさえあれば、立派なミズベリスト。仲間を集めて『ミズベリング○○』を立ち上げるだけ」と説明しているように、全国的なコミュニティや支援が豊富にある点が特徴的。
国交省も、各河川の国管理区間において、民間事業者等による河川敷地の活用が可能と想定される箇所を「河川敷地の民間等活用に資するポテンシャルリスト」で公開しているほか、市町村や民間事業者に向けた「かわよろず」という相談窓口も用意している。
民間に河川が開かれた今、まずは動いてみることがセンシュアス・シティをつくる第一歩になりそうだ。
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第9回は、余白で新たな“動詞”を創り出した「豊島区小規模公園活用プロジェクト」(東京都豊島区)の事例を紹介する。
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