創建から約1300年もの歴史を持つ世界遺産『春日大社』

21世紀の今も、まったく人の手が加えられていない春日山原始林の麓に鎮座する『春日大社』。

奈良時代の初め、平城京の守護と国民の繁栄を祈願するために、タケミカヅチノミコトが白鹿に乗って奈良の御蓋山(みかさやま)に降臨し、神護景雲2(768)年、タケミカヅチノミコトをはじめとする四柱の神様を祀る社殿が造営された。

平成10(1998)年に世界遺産として登録された『春日大社』は、創建から1248年目を迎えた今年、『第六十次 式年造替(しきねんぞうたい)』のクライマックスを迎えている。

▲筆者が取材に訪れたのは、奈良の観光閑散期といわれる梅雨真っ只中の6月。<br />しっとりと雨に濡れた春日山原始林の緑もまた美しく、神々しさが感じられた。<br />約32万坪の広大な敷地の中には本殿以外に61の摂末社があり、家内安全・縁結び・金運招福などの神様が祀られている▲筆者が取材に訪れたのは、奈良の観光閑散期といわれる梅雨真っ只中の6月。
しっとりと雨に濡れた春日山原始林の緑もまた美しく、神々しさが感じられた。
約32万坪の広大な敷地の中には本殿以外に61の摂末社があり、家内安全・縁結び・金運招福などの神様が祀られている

奈良時代から続く、20年に一度の『式年造替(しきねんぞうたい)』とは?

▲この日境内を案内してくださった『春日大社』広報担当の秋田真吾さん。「式年造替は、地元の皆様をはじめ、“この歴史的行事を後世へ継承しよう”という想いで支えてくださっている皆様のバックアップがないと成り立たない行事です。2013年のお伊勢さんの遷宮が大きな注目を集めましたが、春日大社の式年造替についても全国の皆様に広く知っていただきたいと思っています」と秋田さん▲この日境内を案内してくださった『春日大社』広報担当の秋田真吾さん。「式年造替は、地元の皆様をはじめ、“この歴史的行事を後世へ継承しよう”という想いで支えてくださっている皆様のバックアップがないと成り立たない行事です。2013年のお伊勢さんの遷宮が大きな注目を集めましたが、春日大社の式年造替についても全国の皆様に広く知っていただきたいと思っています」と秋田さん

「伊勢神宮や出雲大社は、式年遷宮といって20年に一度のサイクルで神様の住まいである神殿のお引越しをおこないますが、春日大社の場合は『お引越し』ではなく『造り替え』を行います。

正確な年代は定かではありませんが、どうやら奈良時代からずっとこの儀式が行われていたようで、だいたい20年に一度の割合で『式年造替』が実施されてきました。

今年2016年はちょうどその節目の年にあたり、11月6日に行事のクライマックスとなる本殿遷座祭を予定しています」と解説してくださったのは、春日大社広報担当の秋田真吾さん。

『式年造替』では、四柱の神が鎮座する本殿をはじめとする社殿の屋根の葺き替えや、朱の塗り替えなどの修理を順次行っていく。まさに“神殿の大規模リノベーション工事”だ。

しかし、リノベーションと言っても、私たちがマイホームを修繕するのとは(当たり前だが)事情が異なる。我が国には、古来から受け継がれてきた伝統工法や、建材、塗料などがあり、それらを極力継承しながら約1300年前の創建当初の『春日大社』の姿を再現しなくてはならない。すでに現代では入手困難になった素材や、担い手の少ない専門技術もあるため、職人による手仕事の伝統を次の式年造替へと繋いでいくことが、秋田さんをはじめとする『式年造替』に関わる人たちにとっての重大任務なのだ。

「お伊勢さんの遷宮も同じですが、20年というサイクルが定められているのは“技術の伝承にちょうど良いタイミング”だからです。昔は今のように正確な図面や映像資料が無かった時代。だからこそ、実物の仕上がりを目で見て覚える見伝(けんでん)と、口で伝えられて覚える口伝(くでん)によって技術が継承されていたんですね。

例えば、入社してすぐの職人さんが10代で最初の造替を経験し、屋根の葺き替えなどの特殊な技術を見よう見まねで学ぶ。それから20年が経つと、その職人さんが30代の主任となって後輩を指導することができる。さらに20年が経ったら、今度は50代のベテラン棟梁として現場を見守ることができる…昔は人生50年と言われた時代ですから、もしも造替が30年サイクルだったとしたらこれがうまく廻りません。20年だからこそ、“技術の橋渡し”がちょうど良く行えると昔の人たちは考えたのでしょう」(秋田さん談)。

造替を後世へと継承するために必要な人(技術)とモノ(素材)、資金

式年造替は、主に国や公共団体からの補助金によって支えられているが、貴重な世界遺産と言えども潤沢にその資金が集まるわけではない。そのため、「神様がお遷りになられるのに必要な重要な建物だけは毎回実施。その他は40年に一度という形で造替を1回飛ばしにしている箇所もあります」と秋田さん。

伝統的な素材の確保も大変だ。春日大社の屋根の修復には檜皮(ひわだ)と呼ばれる檜の樹皮が使われており、通常は樹齢70年~80年以上のヒノキから採取される。しかし、近年はヒノキの大木が減っているほか、檜皮を採取する原皮師(もとかわし)の数も減少していることから、貴重で高価な素材となりつつあるという。

また、春日大社の代名詞とも言える朱塗りの神殿には、古来から水銀を混ぜ合わせて作る水銀朱(本朱)という塗料が使われていたが、国産の水銀朱が手に入りにくくなり、すべての建物に使用することが難しくなりつつある。ちなみに、国宝の本殿は水銀朱のみで塗られているため、非常に朱の色が濃い。

▲下塗り、中塗り、上塗りと3度の塗り重ねによって鮮やかな朱色が完成する神殿(写真は中門/撮影:桑原英文)。<br />今回の式年造替は2007年の一之鳥居から着工、<br />2016年の本社本殿の正遷宮をもって、すべての造替が完了する予定となっている▲下塗り、中塗り、上塗りと3度の塗り重ねによって鮮やかな朱色が完成する神殿(写真は中門/撮影:桑原英文)。
今回の式年造替は2007年の一之鳥居から着工、
2016年の本社本殿の正遷宮をもって、すべての造替が完了する予定となっている

古都の伝統・文化を守ることにもつながっている20年に一度の式年造替

「実は、春日大社が後世に残そうとしているものは、式年造替を行うための職人さんの伝統技術だけではありません。

春日大社の本殿近くには、日本最古の酒蔵である『酒殿(さかどの)』があり、今もその酒蔵を使って昔ながらの方法で春日祭で奉るお神酒の醸造が行われています。また、奈良時代に遣唐使によって持ち込まれた『餢飳(ぶと)』という唐菓子があるのですが、それを今も神職が当時の技法で造り続けています。さらに、『餢飳』と同じ時代にシルクロードを通ってやってきた芸能があり、春日大社ではその舞や音楽も現代まで継承しています。

なぜなら、酒・菓子・芸能・音楽…そのすべてが神事に欠かせないものであり、その伝統を守ることは神様をお守りすることにつながるのだと考えているからなのです。そして、20年に一度の式年造替があるからこそ地元の皆様と密接に結びつき、春日さまの信仰が今日まで受け継がれているのでしょう」(秋田さん談)。

▲境内には長い歴史の中で寄進されてきた約3000基の燈籠があり、<br />中には徳川綱吉や藤堂高虎といった歴史上の人物の名前が寄進者として刻まれているものもある。<br />明治維新前までは毎晩すべての燈籠に蝋燭が灯され、「万燈籠」と呼ばれていたが、<br />現在は2月の節分と8月の14日・15日の年3日間のみ献灯。<br />ただし、特別参拝エリア内にある藤浪之屋では105基の燈籠にLED電球が灯され、<br />美しく幻想的な万燈籠の様子を体験できる展示がおこなわれている(写真は藤浪之屋の燈籠の様子)▲境内には長い歴史の中で寄進されてきた約3000基の燈籠があり、
中には徳川綱吉や藤堂高虎といった歴史上の人物の名前が寄進者として刻まれているものもある。
明治維新前までは毎晩すべての燈籠に蝋燭が灯され、「万燈籠」と呼ばれていたが、
現在は2月の節分と8月の14日・15日の年3日間のみ献灯。
ただし、特別参拝エリア内にある藤浪之屋では105基の燈籠にLED電球が灯され、
美しく幻想的な万燈籠の様子を体験できる展示がおこなわれている(写真は藤浪之屋の燈籠の様子)

第六十次 式年造替のクライマックスは、2016年11月

▲“世界で一番街に近い原始林”と言われる春日原始林。基本的に人が足を踏み入れることは禁止されているため、約1300年もの間、ほとんど姿を変えずにこの場所に存在しているという。初夏には野生の藤の花が満開となり神聖な鎮守の杜に鮮やかな彩を添える▲“世界で一番街に近い原始林”と言われる春日原始林。基本的に人が足を踏み入れることは禁止されているため、約1300年もの間、ほとんど姿を変えずにこの場所に存在しているという。初夏には野生の藤の花が満開となり神聖な鎮守の杜に鮮やかな彩を添える

式年造替のクライマックスとなるのは、すべての修繕工事を終えて神様が仮御殿から再び本殿に還る『本殿遷座祭』。第六十次の『本殿遷座祭』は2016年11月6日に予定されている。

また、『本殿遷座祭』前の10月6日~23日には『お砂持ち行事』が行われるが、これは白砂を持って通常入ることができない御本殿の内院に白砂を納め、新装された国宝の本殿を間近で拝観できる20年に一度だけの行事だ。

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すべてが秒速で進化していく21世紀の現代において、約1300年前の人々の営みや伝統・文化を極力そのままの姿で継承し続けている世界遺産『春日大社』。皆さんも、式年遷宮を迎えたこの節目の年に、“春日大社が守り続けているもの”を現地で体感してみてはいかがだろうか?

■取材協力/春日大社
http://www.kasugataisha.or.jp/index.html
■第六十次 式年遷宮 特別行事・特別企画
http://www.kasuga-houshuku.jp/special/

2016年 07月14日 11時06分