住宅街に残る木造長屋をリノベーション

「co-toiro iwabuchi」を運営する岩淵家守舎の織戸さん「co-toiro iwabuchi」を運営する岩淵家守舎の織戸さん

JR赤羽駅から10分ほど歩き、北本通りを越えると「岩淵町」。もとは、江戸幕府の将軍が日光の東照宮へ詣でる際に使用していた日光御成道の宿場町であったが、今は静かな住宅街だ。
荒川や新河岸川に近く、かつては染物や印刷など、水を使う工場が多かった。2018年2月までは23区唯一の酒造もあった、「水のまち」でもある。赤水門・青水門と呼ばれる新旧二つの岩淵水門がランドマークだ。

そんな岩淵のまちを歩いていると、周囲の住宅と一線を画す墨色の建物が集まった一角が現れる。1棟はDIY可能な賃貸住宅「コトイロの家」。もう1棟はシェアキッチン&コワーキングスペースの「co-toiro iwabuchi」。さらに店舗兼住居を合わせた計3棟は、いずれも木造長屋をリノベーションしたものだ。

手掛けたのは、「いわぶちコトイロPROJECT」を推進している織戸龍也さん。「コトイロの家」に住みながら、「co-toiro iwabuchi」を拠点として岩淵町の活性化に取り組んでいる。

場を作ることで新たな人の流れが生まれた

「2年前、リノベーションやまちづくりを実践的に学ぶ『リノベーションスクール@都電・東京』に参加しました。スクールでは実際の案件に対する提案が課題となっていて、この敷地のオーナーからの依頼に取り組むことになったのが岩淵に来たきっかけです」

織戸さんたちのチームに課された課題は、かつて染物工場だった敷地に建つ空き家のリノベーションだった。敷地内には約20棟の長屋があるが、半数ほどは空室。耐震性の問題などから入居者の募集もしておらず、昔から住んでいる高齢者が多くを占めている状態。リノベーションスクールで事業プランを提案した後、織戸さんはスクールの仲間と『株式会社岩淵家守舎』を立ち上げ、実際に1棟の空き家リノベーションに取り組み始めた。

リノベーションした建物は築60年の4軒長屋で、そのうち2軒は玄関を入ってすぐに階段があり、2階が居室になっているという造り。耐震性の問題などに対応する必要があったため、建物自体の改修はオーナーが受け持ち、織戸さんたちがデザイン・内装を担当した。

正面に4軒の玄関が並んだ元の長屋のデザインは踏襲し、扉はガラスの引き戸に。共通したデザインの暖簾をかけ、部屋を識別するとともに統一感を出した。
特徴的な墨色の外壁は、「周りの家は白やクリーム色の外壁が多いので、変わったことをわかりやすく示そうと、色を大きく変えました」と織戸さん。京町屋のようなイメージもあり、高級感を感じさせる。一見店舗のようにも見える佇まいだ。

「コトイロの家」の入居者が使用できるシェアキッチンとして作られたのが「co-toiro iwabuchi」。外観のデザインは共通だ。天井を抜いて高さを出したり、吹き抜けを作ったりしたことで、中は見た目よりも広く感じられる。
1階には、大きなテーブルと、調理器具が揃ったキッチン。2階はコワーキングスペースで、テーブル席と座敷席が用意されていた。

「もともと『コトイロの家』入居者の共有キッチンとして作ったのですが、毎日使うわけではないので、近隣の方を対象として貸し出しています。1階は近所のお母さんたちが子ども連れで利用していたり、ちょっとした食べ物を用意してセミナーを開いたりすることもありますね。2階を定期的に使っているのはデザイナーやSEなどの職業の方で、こちらも近隣に住んでいる方が中心です」

高齢者が多いというこの地域だが、「co-toiro iwabuchi」ができたことで、子育て世代や働き盛りの人たちが集まるようになってきた。少しずつ、まちが変わり始めている。

(左上)co-toiro iwabuchiの外観 (右上)1階のシェアキッチン<br />(左下)イベントを開いて参加者で手作りしたベンチ (右下)2階のコワーキングスペース(左上)co-toiro iwabuchiの外観 (右上)1階のシェアキッチン
(左下)イベントを開いて参加者で手作りしたベンチ (右下)2階のコワーキングスペース

まちの価値を向上させていくには

AERU COFFEE STOP。メルボルンで修業したというオーナーが経営しているAERU COFFEE STOP。メルボルンで修業したというオーナーが経営している

「コトイロの家」の隣には、3軒目のリノベーション物件として1階が店舗、2階が住居という形の店舗兼住居を作った。4軒長屋を2軒にしたぶん、それぞれの間口が広くなっている。現在はコーヒーショップ「AERU COFFEE STOP」と、自転車屋「BICYCLE STUDIO R-FACTORY」の2店舗が入居、営業中だ。

この場所は、ちょうど赤羽から荒川河川敷への通り道になっている。そのため、サイクリストやランナーなど、荒川沿いでアクティビティを楽しむ人たちが立ち寄りやすい場所なのだという。荒川河川敷にはバーベキュー場があり、夏には河川敷で花火が行われるなど、意外と人通りは多い。これまで岩淵町では、その行き帰りの人に商機を見出してこなかったが、「非常にもったいなかった」と織戸さんは言う。

「自転車とコーヒーは相性がよくて、最近は荒川の土手をサイクリングする人が、ひと休みしに立ち寄ってくれるようになってきました。現在敷地内にあるのは2店舗だけですが、周辺にはもともと、銭湯や製麺所、豆腐店などもあります。そうした既存の店を活かすのに加え、カフェなどの飲食系店舗も増えてくれたら、立ち寄る人が増え、まちとしての価値もより向上していくんじゃないかと考えています」

織戸さんが「いわぶちコトイロPROJECT」で構想するのは、「co-toiro iwabuchi」を中心として広がる、活気あるまち。すでに別のオーナーから近隣の物件のリノベーション依頼を受けているそうで、これからも近隣の空き家をリノベーションしてシェアハウスや簡易民泊、アトリエなどを作ったり、店舗を誘致したりといった展開を想定している。

「次にリノベーションする家は、壁を墨色ではなく別の色にしたいと考えています。いろんな色があった方が、染物工場だったこの場所にも合っていると思うので」と織戸さん。まちが個性豊かに彩られ、賑やかになっていきそうだ。

まちにどうやって溶け込む? 住民との関係性づくり

(上)元の長屋(下)コトイロの家(上)元の長屋(下)コトイロの家

岩淵の活性化に邁進する織戸さんだが、実は足立区出身だ。知らない土地で新しい活動をするにあたって、どのようにして周囲の協力を得たのだろうか。

「このまちに住むことから始まって、お祭りに参加する、行事の準備を手伝うなど、地域に積極的に関わっていきました。例えば、この地域ではお神輿を出すお祭りは2年に一度なのですが、お神輿が出ない小さなお祭りの年に、僕たちが働きかけて、お祭りに合わせて流しそうめんをやったりしました。思ったよりも地域の人たちは僕たちのやることを面白がってくれて、新しい取組みにも積極的でしたね」

今では、「co-toiro iwabuchi」の周辺で何かを作ったりしていると、「今度は何をやっているんだ?」と地域の人が積極的に話しかけてくれるほど、織戸さんたちの取組みが受け入れられているそうだ。

「今、『コトイロの家』に入居している方たちは、この地域とはゆかりのない人が多いですが、みんなここでの生活が楽しいと言ってくれていますね。家に帰ってきたとき、別の入居者と鉢合わせて、そのままシェアキッチンで一緒に食事をすることもあります。地域のお祭りやイベントには準備段階から積極的に参加してくれ、隣人同士だけでなく、もともと住んでいる方々との交流も生まれていますよ」

「コトイロの家」周辺は長く住んでいる人が多いこともあり、お互い顔見知り。織戸さんにお子さんが生まれたときは、このあたりでは久々の子どもだということで、地域のみんなが喜んでくれたそうだ。

「地域のみんなで子どもを育てている感じです。子どもと散歩しているとみんなが話しかけてくれるし、『あれ、いない』と思ったら、近所のおじいちゃんの家でテレビを見ていたりすることもあるんですよ」

都心では希薄になってきている「ご近所づきあい」が、ここでは当たり前に生きている。地域のまとまりを大切にしつつ、よそ者をすんなり受け入れる懐の広さも併せ持つ岩淵町の人々と、まちや地域の人たちを大切にする織戸さんたちの考え方とが、このまちの住みやすさをつくり出しているのかもしれない。

「宿場町まるしぇ」を軸に広がるつながり

「co-toiro iwabuchi」周辺では、敷地内の私道を利用して様々なイベントを開催している。中でも大きなイベントが、月1回の「宿場町まるしぇ」だ。この日は私道に10あまりの出店が並び、地域の人たちが集まってくる。これまで6回を開催し、現在ではおよそ500~600人もの来場があるという。

出店者は、敷地内のコーヒーショップや近所の商店はもちろん、織戸さんが旅行先で知り合ったという関東近郊の農家など、さまざま。イベントの準備はコトイロの家の住民、出店者に加え、友人や近隣の方が手伝ってくれているそう。
「中には準備の時間にふらっとやってきて手伝って、準備が終わったらサッと去っていくような方もいらっしゃいます。本当に助かっているんですよ」と織戸さん。地域への協力を惜しまないという気質は、赤羽の住人に共通しているのかもしれない。

織戸さんは今、この「まるしぇ」をもっと頻繁に開催できるようにしたいと考えている。

「岩淵町は買い物できる場所が少なく、高齢の方たちも買い物をしに赤羽まで出なければいけません。『まるしぇ』の回数が増えれば、ここに市場が生まれ、遠出しなくても買い物ができるようになります。また、今はボランティアで運営していますが、事業化できれば雇用が生まれる可能性もある。これから岩淵町だけでなく、日光御成道の各宿場町ともつながりを作って出店者を増やし、もっと盛り上げていきたいと思っています」

まるしぇには、既に日光御成道の終点である日光のブルワリーが参加しているそう。「コトイロの家」から始まったプロジェクトは、まちの境を超えてどこまで広がっていくのか。今後の展開に期待したい。

■取材協力
co-toiro iwabuchi
https://www.cotoiro.com/

宿場町まるしぇ
https://shukubamachi-marche.localinfo.jp/

宿場町まるしぇの様子。幅広い年代の人が集まり、住宅街ににぎわいが生まれる宿場町まるしぇの様子。幅広い年代の人が集まり、住宅街ににぎわいが生まれる

2018年 11月08日 11時05分