センシュアス・シティとは

「センシュアス・シティ(官能都市)」とは、安全性や利便性といった客観的なスペックではなく、人々の体験や街との関わり合いといった“動詞”で都市を評価する概念だ。センシュアス度の高い都市は、経済合理性の下でそうしたスペックばかりを追求し、均質化されてしまった街では得られない「生きがい」や「自分らしさ」といったウェルビーイングをもたらすとともに、街に「場所の意味(ナラティブ)」を育むとして注目されている。

本連載は、2025年9月にLIFULL HOME'S総研が発表した調査研究レポート『Sensuous City[官能都市] 2025 身体で経験する都市あるいは都市のナラティブ』より、LIFULL HOME'S PRESS編集部の渋谷雄大が執筆した「センシュアス・シティのつくりかた」を、一部加筆・修正のうえ全10回にわたり再掲するものだ。効率や機能性を超えて、豊かな都市の体験を生み出す全国10の事例をピックアップする。第5回は、「人宿町のリノベーションまちづくり」(静岡市)を紹介する。

人宿町のリノベーションまちづくりでの取り組み

2025年2月8日、兵庫県姫路市で民間主導による新しいまちづくりをテーマとしたシンポジウム「なぜあの企業は地域に投資するのか? 民間が担うこれからの公共」が開催された。主催は株式会社リノベリング。同社は地域の潜在資源を活用して地域の課題を解決する「リノベーションまちづくり」を推進する取り組みを行う。地域を変える人材を集め、実際に空き物件を題材にして事業提案をする「リノベーションスクール」を全国各地で開催。多くの地域でエリアリノベーションによるまちづくりを行い、成果を上げている。

シンポジウムの第1部では、まず各地で民間によるまちづくりの取り組みを行い、成果を出している3名が登壇。その一人が、静岡市にある建築デザイン企業・株式会社創造舎の山梨洋靖代表だ。山梨さんは静岡市出身で、地元建設会社での勤務を経て、2007年に創造舎を独立開業。2011年に静岡市葵区の人宿町(ひとやどちょう)にある銭湯だった廃ビルをリノベーションし、自社ビルとして事務所を郊外より移転、山梨さんの住居も同ビルに移した。また同町の通りを「人宿町人情通り」と名付け、「OMACHI創造計画」としてまちづくりの活動に取り組んでいる。人宿町はJR静岡駅の北西約600m、静岡市のシンボルである駿府城公園の南西約500mという場所に位置する。昭和時代には映画館が数軒ある娯楽の街だった。しかし、しだいに映画館が撤退していき、いつしか廃ビルが多く活気の失われたエリアとなっていた。その人宿町に活気を取り戻したいと考えた山梨さんは、佐賀市の「わいわい!!! コンテナ」プロジェクト(※1)を知る。これを参考にすべく佐賀を視察。そして、人宿町内の空地にコンテナ広場をつくり、定期的にイベント開催を始めた。この結果、人宿町に人が集まるようになったという。

コンテナ広場が期間満了で終了したあと、山梨さんはさらなる取り組みを始める。2016年に自主運営にてラーメン店をオープン。また翌2017年には5階建ビルの大幅リノベーションを実施した。これを契機にOMACHI創造計画が本格始動し、エリア内のビルを次々にリノベーションしていく。人宿町人情通り周辺は徒歩3分ほどで回れる小さなエリアだが、山梨さんはそのエリア内に110店舗を誘致(2024年現在)した。
「人宿町のまちづくりは、行政の補助金に頼らず、民間の力のみで取り組んできました。ビルを購入してリノベーションし、そこへテナントとして店に入ってもらい、家賃をいただいて収入としたことがポイントです。またテナント出店したい人を期間限定で雇用し、修業のような形で弊社の飲食店で働いてもらい、タイミングを見て独立できるスタイルをつくっています。このように、まちづくりを継続させる仕組みづくりが重要だと思います。また人宿町に誘致した店は、いずれも個人店です。こだわりや情熱を持った店主たちだからこそ、魅力のあるエリアになっていると思います」と山梨さんは話す。

山梨さんは、地域の活性化のことを常に考えるようにしているという。地域の活性化は先頭に立つボス的存在が必要で、ボス的存在がいないと統率がとれた街がつくれず、魅力が育たないと話す。そのため山梨さん自身がリーダーとなり、自ら手と足を動かし、地域を見ているそうだ。

※1 街なかに増え続ける空き地を借用して、芝生の“原っぱ”に置き換え、中古コンテナを使った雑誌図書館や交流スペース、チャレンジショップを設置し、街なかの回遊を促す社会実験

生まれ変わった人宿町人情通り生まれ変わった人宿町人情通り

文は、フォトライター 淺野陽介『シンポジウム「なぜあの企業は地域に投資するのか? 民間が担うこれからの公共」企業が地域とともに発展する新しいまちづくりの形』(LIFULL HOME'S PRESS 2025年3月9日公開)を基にLIFULL HOME'S PRESS編集部 渋谷雄大が要約・責了。内容は取材当時のもので、現在と異なる可能性があります。

センシュアス・シティのつくりかた:記憶を継承し、新たな記憶を創り出すリノベーションまちづくり

高層・大規模化に伴い、再開発ビルのテナント賃料はただでさえ高くなりがちだ。それに加えて、本章の冒頭で述べたように近年はさらに建設費が高騰しており、もはや小商いやチャレンジ的なお店が入居しやすい低めの賃料設定とすることは困難だろう。実際、再開発エリアの周辺ではチェーン店が増加する一方で、エリアによっては既存店舗が減少しているという報告もある(塚本・牛垣, 2023)。これは、店舗のみならず住居にも当てはまる。再開発エリア周辺では物件価格が上昇するという指摘もあり(※2)、個性ある個人店を開いたりエリアに新たな文化をもたらしたりする若者は、住みづらくなるだろう(※3)。

しかし、人宿町で行われているようなリノベーションまちづくりであれば、既存建物を活用するために費用が抑えられ、個人店やチャレンジ店も入居しやすい家賃設定が可能となる。個人店は属人的なぶん、店主と客、客同士のコミュニケーションが生まれやすい。センシュアス・シティの因子には「馴染みの飲み屋で店主や常連客と盛り上がった」や「店の人や他の客とおしゃべりしながら買い物をした」といった評価項目からなる「親密な共同体」があるが、「日本で一番人情が深いまち」を目指すという人宿町OMACHI創造計画は、リノベーションまちづくりによってそれを体現しようとしている。

※2 LIFULL HOME'S PRESS 福嶋真司 2025年6月2日公開『再開発が途絶えない渋谷駅周辺中古マンション価格は何を根拠にどう変わったのか?』による
※3 こうした現象に近いものを表す言葉に「ジェントリフィケーション」がある。都市の高級化を表す言葉で、再開発などによって地域の地価が高騰し、居住者の所得層が入れ替わることを指す


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第6回は、街をつくり変えるのではなく、街を語り直すした「大津宿場町構想」(滋賀県大津市)の事例を紹介する。