「出来ないづくし」の賃貸暮らしが変わる

2014年3月に竣工した「青豆ハウス」2014年3月に竣工した「青豆ハウス」

壁紙を変えられる、改装ができて原状回復の義務がない、団地にDIY部屋がある…。これらは近年にわかに増えてきた賃貸物件の特徴。いま、賃貸の暮らし方には変化が起きている。

日本の総住宅数は5759万戸、そのうち409万戸が賃貸用住宅の空き家という現状(※)では、徒歩分数、広さ、設備など従来のアピールポイントに加えて、付加価値をつけた入居者促進が必要なのもうなずける。※総務省「平成20年住宅・土地統計調査」

この付加価値を見てみると、壁紙を変える・家具がついてくるなど、部屋の中を変えるハード面での取組みが多い。では、部屋の中を変えたあとにやってくる賃貸物件の「付加価値」は何か。

今回は、「カスタマイズ賃貸」のパイオニア、メゾン青樹の新築賃貸「青豆ハウス」から、最も新しい賃貸の暮らし方を考察する。

「イベント」を通して入居検討者がゆるやかに交流する

入居者自らが、暮らす部屋の壁を塗るイベントが行われた入居者自らが、暮らす部屋の壁を塗るイベントが行われた

2014年3月に竣工した青豆ハウスは、3層メゾネットの全8部屋。東京メトロ有楽町線「平和台駅」から徒歩8分、60m2前後で家賃166,000円~と、このエリアの相場からすると高めの設定ながら、竣工前に満室になった。

青豆ハウスが面白いのは、竣工前から複数回にわたって入居検討者を招いたイベントを行ったこと。上棟式では骨組み状態の物件の下で夏まつりを、秋には家のかたちを成してきた物件を見ながら食事会をした。また竣工後、最初の入居者ということで、3層メゾネットそれぞれの部屋の壁を好きな色に、トイレの壁紙も好みの柄を選べるという特典を付けて、それを業者が施工せず、入居者自らがペンキを塗り、壁紙を貼るというイベントを行った。

これらのイベントを通して、入居者たちは自然に大家や他の入居者たちと交流し、入居前からゆるやかなコミュニケーションが生まれた。

高コミュニケーション力の入居者を惹きつける理由

166,000円の家賃で暮らせるなら、もう少し都心の選択もあるし、購入の検討もできそうだ。なぜ入居者たちは青豆ハウスを選んだのか。現在、青豆ハウスの住人で、出会いはシェアハウスという葉栗夫妻に聞いた。

「ふたりともシェアのワイワイした感じが好きなのですが、ふたり暮らしをするにあたって、シェアの明るくて楽しい雰囲気は残りつつプライベートも確保できる家を探していました」

築年数や設備ではなく、住んでいる人や雰囲気を重視した物件探しはなかなか進まなかったそう。
「たまたま青豆ハウスのイベントを知って、ちょっと行ってみようか…くらいの気持ちだったのですが、大家の青木さんに会って『青豆ハウス』が目指していることを聞いたり完成予想図を見ているうちに、そこにふたりで暮らしているイメージがついて、入居を決めました」

青豆ハウス第1号の入居者になった木村夫妻の引越しの動機も似ている。
「目の前に広がる区民菜園の開放感が良かったのと、面白い賃貸物件を手がけている青木さんが大家ということで、普通の賃貸で暮らすよりも濃い時間をすごせるだろうなと思って入居を決めました。ふたりとも人と話したり食べたりすることが好きなので、『隣室の住人の顔もわからない』ような賃貸では満足できないと思ったんです」

2家族に共通するのは、物件探しの優先順位が設備や徒歩分数ではなく、暮らした後に楽しめるかどうかを見極めていること。

第1号入居者の木村夫妻。
「普通の賃貸より濃い時間がすごせそうだと思い、入居を決めました」第1号入居者の木村夫妻。 「普通の賃貸より濃い時間がすごせそうだと思い、入居を決めました」

住人どうしのコミュニケーションが自然に生まれる設計とは

各戸の玄関の前には、隣室との境界をぼかした「テラス」がある各戸の玄関の前には、隣室との境界をぼかした「テラス」がある

入居後、そこに“楽しい”が待っていると思わせるのは、先のイベントだけでなく設計にも仕掛けがあるのではないか…。担当の株式会社ブルースタジオ大島さん・薬師寺さんに聞いた。

「賃貸住宅は期間限定だからこそ、住んでいるあいだに心身の成長も入居者どうしのコミュニケーションも、地域とのつながりも成長してほしいと思っています。そんな思いもあって、青豆ハウスは構想段階から“育つ”がテーマでした。そこで、植物がらせん状に成長していくということに着目し、2世帯・3階建てが絡みあいながら上へのぼっていく構造が浮かびました。1階はバスルーム・寝室の閉じた空間、2階がダイニング・キッチンで他の住人と共有できる空間、3階は家族が自由に使うプライベート空間と階数で使い方を分けています。また、2階を玄関にしてその延長上にコモンスペースであるテラスをつくりました」

コモンスペースは、日常導線上にあるべきという大島さん。
「現在の住まいはセキュリティやプライベート重視で閉じた空間がつくられますが、私たちは各戸の境界をぼかした設計をします。例えば青豆ハウスの一家族が夕暮れにテラスでお酒を飲んでいて、帰宅した隣の住人がそこに混じって自宅のテラスに椅子を持ち出すというように、境界を引かないことで住人の自然なコミュニケーションが生まれると思っています」

かつ、毎日行き来する導線上にそのスペースがあることで、日常に使われるコモンスペースになるという。たしかにどんなに豪華な施設であっても、使われないスペースは維持費の無駄だし、セキュリティ問題も出てくるだろう。

地域に開いていく賃貸住宅

入口を奥に入れて、地域に開いたスペースをつくった「青豆ハウス」のエントランス入口を奥に入れて、地域に開いたスペースをつくった「青豆ハウス」のエントランス

今後は地域に開かれた物件になりたいという青木さんと大島さん。
「青豆ハウスは敷地を塀で区切らず、道との境界に植物を植えています。また、入口を奥に入れて空いたスペースにご近所さんが座ってもいいようにベンチを置いて中間的な空間をつくりました」
暮らしはその建物内で完結するものではない。地域に溶け込み、近隣の住人と交流することで生まれる暮らしが、その地域で暮らすということだろう。

「入居者に、その地域と建物に暮らしているのだと当事者意識を持ってもらうことを大切にしています。そうなれば、その物件に暮らした期間が良い経験になったと感じてもらえる。賃貸物件が、学校みたいな存在になったら良いですね」

いま最も新しい賃貸の暮らし方とは、長い人生からみたら短い「期間限定の賃貸暮らし」のあいだに、地域や住人とめいいっぱい楽しんで、より豊かな次のステップを踏み出すことかもしれない。

■関連リンク
 【“家が笑ってるみたい”な共同住宅 青豆ハウス】(暮らしといっしょ) 
http://www.homes.co.jp/kurashito/life/jiyuu/case18/

2014年 07月22日 11時15分