センシュアス・シティとは

「センシュアス・シティ(官能都市)」とは、安全性や利便性といった客観的なスペックではなく、人々の体験や街との関わり合いといった“動詞”で都市を評価する概念だ。センシュアス度の高い都市は、経済合理性の下でそうしたスペックばかりを追求し、均質化されてしまった街では得られない「生きがい」や「自分らしさ」といったウェルビーイングをもたらすとともに、街に「場所の意味(ナラティブ)」を育むとして注目されている。

本連載は、2025年9月にLIFULL HOME'S総研が発表した調査研究レポート『Sensuous City[官能都市] 2025 身体で経験する都市あるいは都市のナラティブ』より、LIFULL HOME'S PRESS編集部の渋谷雄大が執筆した「センシュアス・シティのつくりかた」を、一部加筆・修正のうえ全10回にわたり再掲するものだ。効率や機能性を超えて、豊かな都市の体験を生み出す全国10の事例をピックアップする。第9回は、「豊島区小規模公園活用プロジェクト」(東京都豊島区)を紹介する。

豊島区小規模公園活用プロジェクトでの取り組み

東京都豊島区といえば、「南池袋公園」が頭に浮かぶのではないだろうか? 池袋駅近くにありながら、約7,800m2と相当の広さがあり、緑豊かで使い勝手がよく、カフェがあるなどおしゃれ感もある。もはや同区の公園の代名詞といってもいい。ところが、意外にも豊島区の公園の区民ひとりあたりの面積は、東京23区では最低ランクだ。また、大きな公園はほとんどなく、1,000m2以下の小さな公園や児童公園が約7割を占める(2020年1月時点)という。
「区は維持管理はしてきたものの、残念ながら、住民に使われず閑散としている公園が少なくありませんでした」(豊島区「わたしらしく、暮らせるまち。」推進アドバイザーの宮田麻子さん)

住民にもっと公園に目を向けてもらうにはどうすればいいか。そこで、宮田さんがまず着手したのは、老朽化して近寄りがたくなった公園トイレを改善する「としまパブリックトイレプロジェクト」。区内133ヶ所のうち85ヶ所を改修。そのうち24ケ所のトイレの内外の壁に明るくカラフルな絵を描き、「アートトイレ」へと変えた。

そして、2018年から取り組んだのが、「小さな公園活用プロジェクト」。コンセプトは「ともに育つ公園」だ。地元の公園をもっと使いやすく、過ごしやすいものになるよう、“みんなで考え育てていく”という趣旨である。
「現在、多くの公園では残念ながら『〇〇禁止』が多く、思うように活用できていません。まずは、そういった状況を覆し、『〇〇できる』を増やすことが重要だと考えました。公園の設備や遊具といったハードだけではなく、住民のコミュニティ形成や公園の活用ルールなど、公園に関わるソフトの見直しを通じて状況を変えていく方針です」(宮田さん)

数ヶ所の公園を選び、パイロット事業として試験的にプロジェクトをスタート。周辺住民を対象に「“〇〇公園をみんなで育てよう”井戸端かいぎ」や「“公園でどう過ごしたい”投票」を行って、住民の意見をうまく引き出し、取りまとめていった。2019年12月には「過ごしたい公園」を形にしたイベントが、西巣鴨二丁目公園で開催された。井戸端かいぎで出たアイデアをもとにデザインしたウッドデッキやベンチ、新たなサインを取り入れた看板、本とコーヒーを楽しめる通称「パークトラック」のお披露目のほか、近隣住民の発案で公園の防災かまどでいももちをつくって組み立て式の屋台で販売するなど、非常ににぎやかな一日となった。看板は「〇〇禁止」という言葉を排除し、新たに、「くつろぐ」「遊ぶ」「集う」など、できることをまとめて示したデザインである。同月、西池袋の上り屋敷公園でも同様の趣旨のイベントが行われた。今後、「小さな公園プロジェクト」ではこの2公園をモデルにしながら、同様の手法でより多くの公園の活用を促進していきたいとする。

白い屋根のコンパクトな屋台は組み立て式。使用後は公園内の倉庫にしまう(撮影:介川亜紀)白い屋根のコンパクトな屋台は組み立て式。使用後は公園内の倉庫にしまう(撮影:介川亜紀)

文は、編集者 介川亜紀『豊島区で小規模公園活用プロジェクトが進行中。公民連携のリニューアルで長く暮らしやすいまちを目指す』(LIFULL HOME'S PRESS 2020年3月13日公開 )を基にLIFULL HOME'S PRESS編集部 渋谷雄大が要約・責了。内容は取材当時のもので、現在と異なる可能性があります。

センシュアス・シティのつくりかた:余白が新たな“動詞”を創り出す

豊島区が取り組む「小さな公園活用プロジェクト」は、センシュアス度を高めるうえで重要な要素である「余白」を、都市の真ん中で創り出す試みだ。センシュアス・シティとは、本質的に「動詞」で測られる都市である。しかし従来の公園設計は、「何ができるか」ではなく「何をしてはいけないか」を基準としてきた。たとえば、「ボール遊び禁止」「火気厳禁」「テント禁止」といった文言が並ぶ看板がその象徴であり、こうした禁止事項は空間の使い方をあらかじめ限定し、利用者の創造的な関与(動詞の創出)を抑制してきた。

こうした状況に対して豊島区は、「○○してもよい」という選択肢を広げる方向へと発想を転換した。「くつろぐ」「遊ぶ」「集う」など、能動的な動詞を通じて空間の利用方法を提示し、利用者が主体的に関われる(動詞を創造できる)環境を整備したのである。このアプローチは、都市空間を「使われることを前提に設計する」というプレイスメイキング的な思想と軌を一にするものといえる。

さらに本プロジェクトの特徴は、単なるハードの更新にとどまらない点にある。地域住民との対話を重ね、「どのように過ごしたいか」「どのような場所であってほしいか」といった声を丁寧に引き出し、それをもとに看板やウッドデッキ、移動式のコーヒースタンド「パークトラック」などを導入するプロセスは、まさに場を育てる継続的なまちづくりの実践である。その結果、公園は「完成された施設」から「ともに変化し続ける場」へと変容した。

近年、Park-PFIの導入により大規模公園の利活用が進むが、この豊島区のような身近な小規模公園においても、創意と工夫によって空間の可能性を引き出すことができる。本プロジェクトは、その具体的な手本を示している。

センシュアス・シティにおける公共空間とは、都市が一方的に提供する「正解」ではなく、市民とともに見出していく「余白」の集積である。その余白があるからこそ、偶発的な出会いや即興的なアクティビティが生まれ、都市に自由と創造性が宿る。豊島区の小さな公園の活用は、都市の細部に宿る「余白」から、新たな“動詞”を引き出すセンシュアス・シティの実践例といえるだろう。

================

第10回(最終回)は、再開発エリアでプレイスメイキングを行う「新虎ストリートマルシェ」(東京都港区)の事例を紹介する。