債権法改正によって「瑕疵担保責任」は「契約不適合責任」へ

2020年4月1日に民法が改正され、新たに「契約不適合責任」という概念が導入されることになる(写真はイメージ)2020年4月1日に民法が改正され、新たに「契約不適合責任」という概念が導入されることになる(写真はイメージ)

2020年4月1日に民法が改正される。民法全体の大改正ではなく、債権法と言われる売買契約や不法行為に関する規定を大幅に見直し、売買契約における瑕疵担保責任という概念に代わって新たに「契約不適合責任」という概念が導入されることになる。これは不動産の売買契約にもとても大きな影響を与えることになる。

これまで、民法第570条などによって、瑕疵担保責任=商品に何らかの瑕疵(きず、欠陥、不適合などのトラブル)があれば売主がその責任を取らなければならないという文言通りの規定が存在しており、①売買の目的物に普通の注意を払っても発見できないような「隠れた瑕疵」がある場合には、②売主は損害賠償の責を負うか、瑕疵が重大で契約の目的が達せられないときは契約解除され、③瑕疵の発生については引渡し後何年という制限もなく(実際は民法の債権消滅時効により10年で消滅し瑕疵発見後は1年以内に請求しなければならない)、④売主の故意・過失に関わりなく責任を負うという無過失責任であったため、売主にはとても重い責任があるとされていた。

民法第570条はその文言について債務不履行の一般原則(同法第415条ほか)との関係や責任の法的性質が明確でないとの指摘が為されており、また瑕疵についても法文定義は設けられていないため、専ら判例や法律解釈(※心理的瑕疵、環境的瑕疵などが認められてきたがその範囲は一律ではない)によって定義されてきた経緯があるが、ここでは特に触れない。

※心理的瑕疵:過去に自殺・殺人・事故・火災などがあり心理的に住み心地に影響する場合等
 環境的瑕疵:近隣からの騒音・振動・異臭などによって安心して暮らせない場合等

「瑕疵担保責任」は任意規定

瑕疵担保責任に関する規定は、多くの判例や法律の解釈によって「任意規定」とされている。つまり強制規定ではないので契約内容によって売主の瑕疵担保責任を制限することが可能だった(瑕疵担保責任の一部免責)。

上記の“瑕疵担保責任原則論”では売主の責任は少なくとも消滅時効にかかる10年間は存することになり、それは商慣習上(中古住宅流通契約上)極めて長いということから、中古住宅の売買契約においては、大抵の場合契約書によって売買契約締結日から3ヶ月程度に制限され、中には売買締結時点で売主の瑕疵担保責任なしとの契約書(瑕疵担保責任免責契約)も存在するのが現状である。

現況有姿での販売(中古住宅の現況を良くも悪くもそのまま反映した“訳あり価格”での販売)が普通に行なわれている以上、任意規定である瑕疵担保責任は売主とその意向を反映し忖度した不動産会社によって制限され、これまで買主側は場合によっては“安物買いの銭失い”になりかねない住宅購入となってしまうこともあり得る話だったのである。
新築住宅については、売主であるマンションデベロッパーやハウスメーカーなど比較的経営規模の大きい企業が手掛けていることもあり、個別での検査や保証などに加えて2000年4月に施行された「住宅の品質確保の促進等に関する法律」=品確法によって10年間の保証がすでに義務付けられている。

新築住宅は最低10年の瑕疵担保保証があるのに、中古住宅は契約によって僅か3ヶ月(以下)の保証期間しかなければ、新築と中古の価格差があっても住宅購入という高価な買物の保証=安全性にも歴然とした差があることになり、結果的に購入者の目が変わらず圧倒的に新築に向き続けることにも、納得せざるを得ない状況である。

「契約不適合責任」になると実際に何が変わるのか

今回の民法改正は、買主保護の意味合いが強く押し出されているようだ今回の民法改正は、買主保護の意味合いが強く押し出されているようだ

2020年4月に実施される民法改正では、これまで説明してきた「瑕疵担保責任」という文言は使用されず、代わりに「契約の内容に適合しないもの」という表現になる。また、売主の瑕疵担保責任は法定責任から契約責任=債務不履行責任に法的整理が行なわれたため、契約不適合責任は特定物・不特定物の別を問わず適用され(住宅は特定物)、契約不適合の対象は原始的瑕疵に限られないことにもなった。さらに、買主の取り得る法的手段として、これまでの契約解除、損害賠償請求に加えて追完請求、代金減額請求も認められた。それぞれ見ていこう。

まず、これまでの瑕疵担保責任は債務不履行責任とは別に、特に法律で定めた(重い)責任との認識が為されてきたが、今回の民法改正では債務不履行責任に考え方が一本化されたため、「責任の帰結」が従前と大きく変わることになった。
どういうことかというと、瑕疵担保責任は重い責任だが、重いが故に商慣習に馴染まない部分があり、それをこれまで契約で「軽く」制限することが可能だった。それを債務不履行責任とすることで、責任範囲や買主の対抗措置を拡大し、手続きなども軽減化し、これまでより買主に有利な(といっても売主に有利すぎないようバランスを考慮して調整した)責任形態になったということになる。また、契約責任としたことで、これまで契約締結時までに生じたもの(原始的瑕疵)に限るとされていた瑕疵も、改正民法では、契約の履行時までに生じたものであれば契約不適合責任を負うことになる。

つぎに、契約責任としたことによって、買主が取り得る対抗措置が、解除(契約した目的を達成できない場合)と損害賠償(旧民法第570条および第566条)のみだったのが、改正民法では、追完請求=完全履行請求(第562条)と代金減額請求(第563条)も可能になった。
具体的には、修補(瑕疵を修理し補うこと)、代替物を引渡すこと、不足分を引渡すことを請求できるようになり、またこれらが売主によって為されない場合には、催告して代金の減額を求めることもできるようになる。なお、契約の解除についても事前の催告が必要になるが、今回の改正によって、契約目的の達成は可能だがハードルが高い場合には契約解除できることになり、解除できるケースが増えることが想定される。さらに、瑕疵自体も「隠れた瑕疵」である必要がなくなったため、買主の善意・無過失は解除の要件として不要になったことも法的には比較的大きな違いとなる。
今回の民法改正は、買主保護の意味合いが強く押し出されているといって良いだろう。

買主の権利行使の期間や制限にも違いがある

これまで、瑕疵を理由とした損害賠償請求および契約解除要求の権利行使は、買主がその事実を知ってから1年以内にしなければならないと規定されていた。
民法改正以降は、①種類または品質に関する契約不適合を理由とする追完請求などの権利行使は、買主が契約不適合を知った時から1年以内に通知(不適合の内容を把握することが可能な程度の通知)をすれば良く、②数量や移転した権利に関する契約不適合を理由とする権利行使については期間制限が設けられていない。

もちろん消滅時効にかかる可能性はあるが、今回の改正によって債権者が権利を行使できる時(客観的起算点)から10年が経過した時点だけでなく、債権者が権利を行使することができることを知った時(主観的起算点)から5年が経過した際も債権は消滅時効にかかるので、注意が必要だ。
これが今回の改正で買主に対する唯一の“権利(期間)縮小”と言える。
なお、損害賠償請求には、売主の帰責性が求められることとなっている。

「契約不適合責任」対策にはインスペクション+瑕疵保険が有効

これまで示してきたように、民法改正によって不動産売買で制限されてきた買主の権利が拡充され、相対的に売主の責任および責任が及ぶ範囲は広くなる。

では、改正以前のように「売った後の責任は取らない」とか「瑕疵は3ヶ月以内に見つからなければ請求権消滅」などという売主有利の契約はできなくなるのだろうか。答はNOだ。
というのも民法改正によっても「契約不適合責任」は任意規定であることに変わりはなく、契約で売主の責任を制限することは可能だからだ。このため、個人間売買においては契約不適合責任について一部または全部免責することも契約上は可能になる(もちろん買主の同意が必要であることもこれまでと変わりがない)。

ただし、これまでの瑕疵担保責任は、買主の取り得る対抗措置が専ら「信頼利益に限られる損害賠償」や「目的を達することができない場合の契約解除」に限られていた。大抵の場合、瑕疵担保責任期間があっても信頼利益(=契約が有効に成立したと誤信することで生じたコスト)に限られる損害賠償なら、売主に請求してもどこまで対応してくれるかわからないため“泣き寝入り”するケースも少なくなかったと考えられる。また契約解除に至っては、引渡しを受けて居住している状況で再度生活の拠点を移すことは現実的ではないため、“実際には使いにくい対抗措置”であったと言える。

これが民法改正後の2020年4月以降は、信頼利益だけでなく履行利益(=その契約がきちんと履行されていれば、その利用や転売などにより発生したであろう利益)も損害賠償請求の対象となり、追完請求および代金減額請求も認められるため、“現実的に買主が行使しやすい対抗措置”となる可能性が高い。
例えば、契約によって3ヶ月に制限された契約不適合責任であっても、購入後3ヶ月以内に何らかの瑕疵が見つかれば、それを補修せよとの主張は格段にしやすくなるはずだ。つまり、買主の請求に対する心理的ハードルが下がるぶんだけ、売主の対応すべき事態が増えることになる。

目下の対策としては、契約不適合責任に対応するには、まず契約書(もしくは物件状況確認書および付帯設備表)に物件の状態・状況を細大漏らさず記載することがとても重要になる。

これまでは契約書に多くを記載(大抵の場合売買契約に不利な瑕疵の状況に関する記載)せずとも成立し、引渡しした物件については買主の対抗措置が限られていたことで大きなトラブルに発展するケースは限られていたが、これからは追完請求もしくは代金減額請求という「行使しやすい対抗措置」ができることによって、売主への請求は確実に増えることが予想される。したがって、契約書の容認事項欄に、例えば雨漏りの状況や近隣の騒音程度など、買主から(少なくとも3ヶ月以内に)何らか指摘を受けそうな物件の状態・状況を詳細に記載することが「契約責任」を果たす上で極めて重要なポイントとなる。

ただし、この記載によって物件の売買価格について買主から交渉が入ることにはほぼ疑問の余地がない。
買主からの減額交渉に対応するには、契約書に記載すること以外に「インスペクション+瑕疵保険」への加入がこれまで以上に有効な「武器」となるだろう。
仮に契約書に記載されていない隠れた瑕疵(かどうかは今後問題にされない)が発見されても、事前にインスペクション(=専門家による建物の現況調査)によって特段の指摘がなく(仮に指摘があっても引渡しまでに補修すれば良い)、瑕疵保険に加入できる状態もしくは売主がコストを負担して瑕疵保険に加入済みであれば、追完請求にかかるコストを保険の適用によって賄うことができるし、このようなセーフティネット=保険も用意してありますから安心して買っていただけますよというアピールにすることもできるからだ。

売主にとっても、買主にとっても、民法改正後に住宅を売買する際に必要なのは、契約書の記載事項の見直しと、それ以上にインスペクション+瑕疵保険の仕組みを有効活用することと心得たい。

「契約不適合責任」対策にはインスペクション+瑕疵保険が有効

2019年 10月03日 11時00分