湾岸エリアが注目される理由
本稿で扱う「湾岸エリア」は、行政上の明確な定義がある区域名ではないが、東京湾側に広がる中央区・港区・江東区の臨海部と、その都市機能に連続する周辺地域を指すものとする。さらに、有楽町線延伸によって湾岸部との結びつきが強まる東陽町・住吉方面も視野に入れる。
これらの地域は、かつて倉庫、工場、物流、貯木場をはじめとした港湾関連施設などが多く立地していたエリアである。しかし1990年代以降、住宅、業務、商業、文化、交通機能を組み合わせた都市再生プロジェクトが進められ、東京の都市構造を支える重要なエリアへと変化してきた。
なかでも中央区では、京橋・日本橋・月島の3地域のうち、湾岸エリアに位置する月島地域(佃・月島・勝どき・豊海・晴海)の人口増加が著しい。2026年4月1日時点の中央区人口は約19.2万人であり、このうち月島地域は約半分に相当する約9.2万人に達している。また、江東区豊洲でも近年の再開発等により急速に人口が増加している。
さらに注目を高めているのが、交通インフラの更新である。江東区側では、東京メトロ有楽町線の豊洲〜東陽町〜住吉間延伸が進められている。東京メトロによると、建設キロは約4.8km、総建設費は約2,690億円、開業目標は2030年代半ばとされている。2016年の交通政策審議会(国交省設置の諮問機関)において、事業化に向けた取り組みの方向性が示され、豊洲・東陽町・住吉を結ぶことで広域的な地下鉄ネットワークを形成し、臨海副都心と東京都東部の観光拠点や東京圏東部・北部地域とのアクセス利便性の向上、JR京葉線および東京メトロ東西線の混雑緩和が期待されている。
こうした人口増加と交通利便性の向上は、公示地価や住宅需要にも影響を及ぼしやすい。湾岸エリアは、都心近接性、水辺空間、大規模街区による再開発余地を併せ持つため、単なるタワーマンション集積地ではなく、東京の住宅・業務・大規模商業等の受け皿として再評価されているといえる。
本稿では、湾岸エリアの変化を、人口増加、交通インフラ、土地利用転換という3つの視点から整理した上で中央区・港区・江東区で進む主な都市再生プロジェクトを見ていく。なお、湾岸エリアでは市街地再開発事業以外にも個別のマンション開発が進んでいるが、本稿では都市計画・まちづくりとの関係が明確な市街地再開発事業を中心に扱っている。
湾岸エリアの開発を動かす3つの要因
湾岸エリアの開発を動かす要因は、大きく3つに整理できる。
第1に、都心近接性を背景とした住宅需要である。中央区月島地域では、市街地再開発事業や都市再生制度の活用を背景に、大規模な住宅供給が断続的に続いている。結果として、月島地域の人口は中央区全体の中でも半数を占めるようになっている。こうした人口増加は、湾岸エリアの都市構造を大きく変える要因となる。
第2に、交通インフラの更新である。東京メトロ有楽町線の豊洲〜東陽町〜住吉間延伸は、建設キロ約4.8km、2030年代半ばの開業を目指す計画であり、豊洲・東陽町・住吉を結ぶことで、臨海部と都区部東部のアクセス改善や東京メトロ東西線等の混雑緩和が期待されている。江東区側では、仮称・枝川駅、仮称・千石駅の整備により、鉄道空白地帯の解消も見込まれる。加えて、つくばエクスプレス(常磐新線)の東京駅延伸と、これに接続する都心部・臨海地域地下鉄の接続の事業化に向けた検討が進められており、都心部と臨海部とのアクセス性が向上する可能性がある。
第3に、水辺空間や大規模街区を活かした都市機能の再編である。湾岸部は、かつての東京港として発展してきた歴史的背景があり、比較的大きな敷地単位で開発を組み立てやすく、住宅だけでなく商業、業務、公共空間を一体的に整備しやすい。東京五輪の選手村として使用された晴海の跡地が、HARUMI FLAGとして大規模住宅街区へ転換されたことや、現在、旧築地市場跡地で新しい再開発が進められていることは、その象徴的な動きといえる。
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したがって、湾岸エリアの再開発は、単にタワーマンションが増えているという視点のみならず、都心近接性を活かした住宅供給、交通インフラの更新、水辺空間や大規模街区を活かした土地利用転換が重なり合って進む、複合的な市街地再編として捉えることができる。
【中央区湾岸】勝どき・月島・豊海で進む高密度な住宅再編
中央区湾岸で目立つのは、勝どき・月島・豊海を中心とした高密度な住宅再編である。
勝どき
勝どき東地区第一種市街地再開発事業では、A1・A2街区の超高層建築物(パークタワー勝どき)が竣工し、残すB街区では、延べ面積約5.2万m2の超高層建築物(店舗用途を含む)が2026年4月に着工し、建築工事が進められている。事業計画(2023年6月15日変更)では、建築工事の竣工は2028年10月(現地設置の標識では、2029年5月下旬)とされており、勝どき駅周辺では段階的に住宅・商業・公共機能を組み合わせた街区更新が進んでいる。
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豊海町
豊海町では、豊海地区第一種市街地再開発事業が2023年1月に着工している。区域面積は約2.0ha、延べ面積は約22.8万m2で、住宅、店舗、区民館、診療所、保育所などを含む大規模複合開発である。住宅戸数は2,046戸(一般販売対象戸数1,509戸)とされ、竣工時期は2026年11月下旬、入居時期は2027年8月下旬予定とされている。
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月島
月島では、月島三丁目北地区・南地区の再開発が進む。北地区のうちA街区では、高さ約199m、総戸数1,285戸(うち、非分譲住戸340戸、広告対象外住戸30戸)の住宅を中核に、木造住宅密集地の解消、建物共同化、広場整備などを通じた防災性向上が掲げられており、竣工は2026年6月下旬、2027年3月下旬に入居が予定されている。また、南地区では、総戸数744戸(うち、一般販売対象戸数516戸)の超高層建築物が2024年1月に着工し、2028年9月下旬の竣工に向けて事業が進められている。
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これらの事業を通じて、中央区湾岸では単なるタワーマンション供給にとどまらず、防災性、公共空間、生活利便施設を一体的に更新する市街地再編が進んでいる。勝どき・月島・豊海は、湾岸エリアの住宅需要を受け止める中心的な地域として、今後も人口増加と都市機能更新の結節点になっていくことが想定される。
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【港区湾岸】高輪ゲートウェイ・品川方面で進む業務・交通結節型の再編
港区の湾岸では、中央区湾岸のような住宅供給型の再開発とはやや異なり、業務、商業、交通結節、国際交流機能を中心とした再編が進んでいる。港区の一部は、都市再生緊急整備地域に指定されており、都市機能の高度化が政策的にも位置づけられている。なかでも、2025年にまちびらきし、2026年3月にグランドオープンを迎えた高輪ゲートウェイシティは、商業施設に加え、住宅、オフィス、文化・交流機能を備えた複合的な建築群であり、港区湾岸における都市機能更新を象徴する動きといえる。
また、品川駅周辺では、国際交流拠点の形成に向けたまちづくりが進む。品川駅・田町駅周辺地域は、リニア中央新幹線や東海道新幹線、羽田空港へのアクセス利便性を背景に、国内外の玄関口としての発展が期待される地域とされている。品川駅西口では、土地区画整理事業や市街地再編などが進められており、駅前空間と交通処理の再編が本格化している。
<港区・湾岸エリアでの主な市街地再開発>
(1)浜松町二丁目地区第一種市街地再開発事業
・位置:浜松町二丁目(浜松町駅)
・用途:住宅(389戸)、事務所、店舗、公益施設(港区立みなと芸術センター)
※住宅部分の名称:WORLD TOWER RESIDENCE(ワールドタワーレジデンス)、2025年3月入居〜
・規模:地下2階・地上46階、高さ約185m
・竣工予定:2027年5月
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(2)泉岳寺駅地区第二種市街地再開発事業
・位置:高輪二丁目(泉岳寺駅)
・用途:住宅(380戸)、事務所、店舗、地下鉄駅施設
・規模:地下3階・地上30階、高さ約145m
・竣工予定:2031年度(事業完了予定:2033年3月)
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(3)高輪三丁目品川駅前地区第一種市街地再開発事業
・位置:港区高輪三丁目(品川駅)
・用途:事務所、店舗、MICE、産業支援施設
・規模:地下2階・地上30階、高さ約155m
・竣工予定:2029年3月
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(4)TAKANAWA GATEWAY CITY RESIDENCE(品川開発プロジェクトの一部、非市街地再開発)
・位置:芝浦4丁目等(高輪ゲートウェイ駅)
・用途:住宅(総戸数847戸)、物販店舗、飲食店、各種学校
・規模:地下2階・地上44階、高さ約172m
・竣工:2026年3月
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【江東区湾岸】有楽町線延伸で生まれる豊洲〜東陽町〜住吉の新たな都市軸
江東区湾岸の将来を考えるうえで最も大きな変化が、東京8号線(東京メトロ有楽町線)の豊洲〜住吉間延伸である。計画では、有楽町線を豊洲駅から分岐し、東陽町駅を経由して住吉駅方面へ約4.8km延伸する。途中には仮称・枝川駅と仮称・千石駅の2つの中間新駅が設けられる予定であり、豊洲〜東陽町〜住吉を結ぶ新たな都市軸が形成される。
東京メトロによると、総建設費は約2,690億円、開業目標は2030年代半ばとされている。2022年3月に鉄道事業許可を受け、2024年6月には都市計画決定が告示され、同年11月には工事にも着手している。
この延伸の意義は、単に江東区内に新駅ができることにとどまらない。豊洲駅では有楽町線、東陽町駅では東京メトロ東西線、住吉駅では東京メトロ半蔵門線・都営新宿線と接続することで、臨海部と都区部東部を結ぶ広域的な地下鉄ネットワークが強化される。住吉駅で半蔵門線と接続することにより、錦糸町・押上・北千住方面から豊洲方面へのアクセス利便性向上も期待される。
これまで湾岸側の豊洲と、内陸側の東陽町・住吉の間は、距離の近さに比べて公共交通では移動しにくい関係にあった。延伸後は、湾岸部の住宅・業務機能と、区役所周辺や半蔵門線・都営新宿線沿線が結ばれ、江東区の都市構造は東西方向の移動だけでなく、南北方向の回遊を持つ形へ変化していく。
重要なのは、この鉄道延伸に合わせて、沿線各駅で市街地再編に向けたまちづくりが進み始めている点である。江東区は、有楽町線延伸の整備効果を区の発展に最大限結び付けるため、2023年3月に「江東区地下鉄8号線沿線まちづくり構想」を策定した。同構想は、沿線地域の将来像を地域住民・事業者・行政等が共有し、一体感を持ったまちづくりを進めることを目的としている。区はこの構想を基本に、仮称・枝川駅周辺、仮称・千石駅周辺、住吉駅周辺で地区まちづくりを進めている。
(仮称)枝川駅
すでに地区まちづくりが具体化している。江東区は、地域住民等との意見交換を踏まえ、2025年3月に「(仮称)枝川駅周辺地区まちづくり方針」を策定した。枝川周辺は、豊洲に近接しながらも、これまで鉄道駅からやや距離がある地域として扱われてきた。新駅が設置されれば、豊洲の業務・商業・住宅機能と連続しつつ、水辺や既存住宅地を活かした生活圏として再評価される可能性がある。つまり、枝川駅周辺は、湾岸側の成長を内陸側へつなぐ接点として重要な位置を占める。
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東陽町駅
東陽町駅周辺も、延伸によって位置づけが変わるエリアである。東陽町は、江東区役所や業務施設、集合住宅、生活利便施設が集まる既成市街地であり、湾岸の新興開発地とは発展した時期が異なり、歴史がある。東京メトロ東西線に加えて有楽町線延伸の結節点となれば、江東区中央部の交通拠点として再評価され、駅周辺の歩行者動線の確保や老朽化した建物の更新が進む可能性がある。ただし、その変化は豊洲や勝どきのような大規模タワーマンション開発というより、段階的に更新していく形になることが想定される。
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(仮称)千石駅・住吉駅
仮称・千石駅周辺や住吉駅周辺でも、地区まちづくりの検討が進められている。江東区は、枝川駅周辺に続き、千石駅周辺および住吉駅周辺についても、沿線まちづくり構想を基本として、地域住民等と議論を深めながらまちづくりを推進するとしている。
千石周辺は、住宅地や公共施設、生活道路が混在する地域であり、新駅整備により歩行者環境や生活利便性の向上が論点となりやすい。一方、住吉駅周辺は半蔵門線・都営新宿線との接続性を持つ既存の交通結節点である。住吉は、湾岸部そのものというより、旧深川側の既成市街地に位置するエリアであり、有楽町線延伸によって豊洲・東陽町方面との結び付きが強まれば、江東区北部と湾岸部をつなぐ結節点としての役割が高まる。
延伸により湾岸エリアへのアクセスが向上すれば、単に駅周辺の地価や住宅需要が高まるだけでなく、豊洲、東陽町、住吉を結ぶ一帯が、江東区内の新しい都市軸として再評価される可能性がある。
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湾岸エリアの将来性
湾岸エリアの将来性は、都心近接性、交通インフラの更新、大規模な土地利用転換が重なる点にある。中央区湾岸では、勝どき・月島・豊海を中心に住宅供給と生活利便施設の整備が進み、港区湾岸では業務・交通結節・国際交流機能の強化が進む。さらに江東区では、有楽町線延伸により豊洲〜東陽町〜住吉を結ぶ新たな都市軸が形成される見通しである。これらを一体的に見ると、湾岸エリアは単なるタワーマンション集積地ではなく、居住・業務・交通・水辺空間が重なり合う複合的なエリアへ変化しつつある。
さらに、長期的な交通インフラの論点として、都心部・臨海地域地下鉄構想と、つくばエクスプレス(TX)の東京駅延伸との接続も挙げられる。TX東京延伸は、2016年の交通政策審議会答申第198号で常磐新線の延伸として位置づけられ、都心部・臨海地域地下鉄構想についても、同構想と常磐新線延伸との一体整備が示された。
その後、2021年の交通政策審議会答申第371号では、都心部・臨海地域地下鉄構想について、TXとの接続も含めて事業化に向けた検討の深度化を図るべきとされている。現時点では有楽町線延伸のように都市計画決定後の工事段階に入っているものではなく、事業化に向けた検討段階にある点には注意が必要である。それでも、将来的に実現すれば、東京駅・銀座・築地・勝どき・晴海・有明方面を結ぶ都心側の新線とTXが接続し、湾岸エリアの広域的な交通結節性を高める可能性がある。
一方で、注意点もある。地価や住宅価格の上昇により、湾岸居住が一部の層に限られやすくなる点も見逃せない。再開発や交通インフラの更新は地域価値を高める一方で、住宅取得や賃貸居住のハードルを上げる可能性もある。今後の湾岸エリアを評価するには、開発規模や資産性だけでなく、暮らし続けられる都市としての基盤がどこまで整うかを見る必要がある。
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まとめ
湾岸エリアでは、中央区・港区・江東区のそれぞれで異なる性格の再開発が進んでいる。
中央区湾岸では、勝どき・月島・豊海を中心に、向こう数年で数千戸規模の住宅供給が続く。港区湾岸では、高輪ゲートウェイシティや品川駅周辺を中心に、業務・交通結節機能の更新が進むとともに、リニア中央新幹線の開業も控えている。
江東区では、現在工事が進められている有楽町線延伸を軸に、豊洲から東陽町、住吉へとつながる新たな都市軸の形成が進む。特に、有楽町線延伸によって、東京北東部の拠点の一つである北千住方面から東陽町・豊洲方面へのアクセス性が高まり、(仮称)枝川駅や東陽町駅周辺が、湾岸エリアと連続する新たな拠点として再認識される可能性がある。
湾岸エリアは、単なるタワーマンション集積地や投資対象としての評価にとどまらず、居住・業務・商業の集積、交通利便性、水辺・緑地空間が重なり合う複合的な都市エリアへと変化しつつある。また、水害リスクや液状化、災害時のライフライン維持といった課題は残るものの、交通利便性、都心近接性、旧深川側で見られる既成市街地としての生活利便、再開発余地を考えると、東京東部・北東部の生活圏としての評価は、今後高まっていく可能性がある。

















