今まで住宅の補修を請求する法的根拠がなかった
たとえば一戸建てを購入したとする。そこの契約条件は大きなグランドピアノを置けることだった。ところが引渡しを受けてみると、ピアノを置けるだけの床の強度がなかった。このような場合は、当然ながらその部分を補修してほしいと考えるだろう。ところが今までは、売買契約においてどのような場合に補修を請求できるのかの法的根拠がなかった。そのため多くの争いごとが繰り返されてきたのだ。
このようなことから2020年4月1日、民法の一部を改正する法律が施行される。民法のうち債権(お金を受け取る権利等)関係の規定は、1896(明治29)年以降、約120年間ほとんど改正されていなかった。今回の改正では、契約に関する規定を中心に、現代社会の実務で通用する基本的なルールを明文化するものとしている。そのなかでも前回は賃貸借契約について解説したが、今回は不動産取引の売買契約においてこの改正がどう影響するのかを事例とともに考えてみたい。
契約内容に適合していなかった物件の場合
まず売買とはなにかを確認しよう。売買とは売主が財産権を買主に移転し、買主がその代金を支払うことを約束する契約だ。これにはコンビニでの買い物といった安価なものから、自宅用の土地や建物など高額な取り引きまで幅広く含まれる。
今回の民法一部改正のうち、売買契約に関連する部分はおもに次の2つだ。
①売主が引き渡した目的物が種類や品質の点で契約内容と異なっていたり、数量が不足していた場合(契約内容に適合していなかった場合)の、売主が負う責任に関するルールの見直し
事例
「Aさんはグランドピアノを置ける一戸建てを探していた。B社は『この家なら床に補強が入っているので大丈夫。契約書にもそのことを記載する』とある物件を紹介し、Aさんは購入することにした。ところがグランドピアノを搬入して数日後、床がたわみはじめてしまった。AさんはB社に対してどのような請求ができるのか」
改正前の民法では、買主は損害賠償と契約解除を請求することができた。しかし、どのような場合なら補修や代替物の引渡しができるのかに関する規定はなかった。また、代金の減額を請求することは限られた場合にしか認められていなかった。
そこで改正後の民法では、売主と買主のいずれかの帰責事由(法的落ち度等)に応じて、売主は契約不適合責任を負うことになり、買主は従来の損害賠償請求と契約解除のほか、追完(補修や代替物の引渡し等)など完全な履行を請求することや、代金の減額も請求できるようになった。ただし、これらの請求ができるのは、引き渡された商品(物件)が契約に適合していないことを知ってから1年以内に売主へ通知する必要がある。
納期が遅れるといった場合の契約解除がしやすくなる
②契約を解除するための要件の見直し
事例
「A社はリフォーム部材をB社から購入する契約を結んだ。しかし、B社は責めに帰することができない事情(落雷による倉庫火災)により納期を守ることができなくなった。A社は納期を守ってもらわないと工期に支障をきたすので、B社の売買契約を解除して、C社から購入することにしたい」
改正前の民法では、契約を解除するためには債務(商品を引き渡す義務等)を履行できなかった者に帰責事由(法的な落ち度等)が必要だった。つまり上記の場合、B社に帰責事由がないので契約を解除することができないのだ。
そこで改正後の民法では、債務を履行しなかった者に帰責事由がなくても、その相手は売買契約を解除できるようになった。
責任を追及しやすくなった分、契約内容に注意を
以上のように今回の民法の一部改正によって、私たち消費者の選択肢は広がる。従来は目的を実現できない住まいに対しては、損害賠償か契約解除の二者選択だったのが、補修や代替物さらに代金減額も請求できるようになる。そして納期が間に合わないといった場合の契約の解除もしやすくなる。
ただし、中古住宅の個人間売買などでは、買主の同意さえあれば契約によって契約不適合責任を一部または全部免責にすることも可能だ。したがって今後は、従来以上に責任を追及しやすくなった分、「どの部分の責任が追及できないのか」と契約内容の免責部分に注意を払う必要があるだろう。
■法務省:売買,消費貸借,定型約款などの契約に関するルールの見直し
http://www.moj.go.jp/content/001289629.pdf
2020年 01月15日 11時05分