「買う気持ち」が明確にならないと、 営業をしても、顧客は“焦らされている”と思ってしまう

「本気で買おうかなと思っている物件があったのですが、営業の方に質問をしても、今ひとつ答えがずれていて…だって、子供はもう大学生と高校生なのに、近くに大きな公園があるとか、小学校が近いと説明をされてもしょうがないでしょう?私たちが知りたいのは、中古なので構造は問題ないのか、売るときの資産性はどうなのかということなんですよね。そこは、何度聞いてもナシのつぶてなのに、"早く決めないと物件無くなっちゃいますよ"って焦らされてもねぇ…」。

今回は不動産業界の営業マン向けにコラムを書こうと思う。
先日HOME'Sのマイホームカウンターで冒頭の話を聞いた。売ることに集中するばかりに、一方的な商品説明だけをしてしまい、肝心のお客さんが何を知りたがっているのかについては萱の外になってしまった話だ。私のところに相談に来るお客さんの大多数はいろいろな不動産会社で物件を見てから来られることが多い。そこで話を聞いて見ると、ここ1~2年鳴りを潜めていた不動産会社の焦りを感じるようになった。

「焦らされる」というのはよくある話だ。私も不動産仲介をやっているので不動産会社側の気持ちはよく分かる。成約主義なのだから割引いて見ればある面しょうがない。実際に良い物件はすぐ売れてしまうので、無理に焦らせる気持ちはなくても、早く決めてもらわないといけないと思うモノだ。
ただ、それを受け手であるお客さんがどう思うのかが問題だ。おそらく焦らされると思うのは、お客さんは「買う」か「買う直前」の段階まで進んでいない。それなのに、「早く決めないとなくなってしまいますよ」と言われても、そもそも買うかどうかさえも決まっていないんですが…というところだろう。

冒頭の話に戻るが、うまくニーズを汲み上げて、質問に答えて、それに応じて商品説明をしていなければ、お客さんも当然「買う」か「買う直前」を決められないだろう。

鳴りを潜めていたのは売手市場だったから

買主も先行きの景気に不安を感じている面もあり、1~2年前と比べると購入に対する慎重度は高くなってきている買主も先行きの景気に不安を感じている面もあり、1~2年前と比べると購入に対する慎重度は高くなってきている

不動産会社の焦りを最近また感じるようになったのは何故か?

おそらく、売手市場の風向きが変わって買主市場へ変化しつつあるからだと思う(ちなみに、首都圏の話なので、それ以外のエリアだと売手市場だったかはよく分かっていない)。エリアによって異なるが、不動産会社によっては早い方はGW明けぐらいから、よく聞かれるのは初秋ぐらいから「今の売出価格に買主が付いていっていないので、価格は下がりつつある。それでもなかなか成約できない物件もある」という声がつぶやかれ始めた。また、実態として買主も先行きの景気に不安を感じている面もあり、1~2年前の買主の方々と比べると購入に対する慎重度は高くなってきている。

要は仲介する不動産会社も焦りだし、かと言って買主も及び腰なので、なかなかスムーズに成約までいかず、その焦りから多少強引に成約に持ち込もうと物件を薦めることも多くなり、買主としては「焦らされている」と不満に感じるという悪循環になりつつあるようなのだ。このような状況が生まれてきていると思う。

増える不動産の新サービスの背景

エージェント制や個人間売買、民泊など不動産での新しいサービスが日に日に多くなってきているエージェント制や個人間売買、民泊など不動産での新しいサービスが日に日に多くなってきている

そういった厳しい状況の中、不動産での新しいサービスが日に日に多くなってきている。
エージェント制や個人間売買、そしてAirbnb(民泊)、少し古ければ相続、シェアハウス、ITでの自宅査定、リノベーション+中古仲介など、様々な不動産サービスが供給され出している。まさに新サービスは百花繚乱だが、まだここ数年の動きであるのが驚きだ。また、従来の不動産ビジネスのコアである開発、売買、賃貸、管理という枠を超えて広がりを見せているのも新たなサービスの特徴だ。

これには、不動産業界側に危機意識があるのかもしれない。消費者が求めるものを提供していったらこんなにサービスが増えてきた、というよりも前のめりな感じがするのは、不動産業界側に「従来の売買、賃貸、管理、開発では収益を上げるのは年々厳しくなっている」という現状認識があるからに違いない。不動産業は斜陽産業になりつつあるのかもしれない。

危機意識は賃貸業から広がっているようだ。聞くところによると東日本大震災あたりから賃貸における入居希望者数の落ち込みが大きいようだ。集客はおおむね1~2割減。ある不動産会社だと、3割減というところもある。

「今までと同じようにやっていては駄目だ」…そのように言う賃貸を専門とする不動産会社もある。また、昨今アパート・オーナーが勉強をしたり、自ら広告活動に乗り出しているのもこの流れに違いない。それだけ、空室が増えてきたのだ。この影響は賃貸にとどまらず、売買、管理、開発も大なり小なり影響を与えている。

厳しい市況を乗り越える2つの視点

この厳しい状況を打破するためには2つの視点が考えられる。

1つは、自分も売買、賃貸、管理、開発の他に今の時代の潮流を読み取り、そこに視点を合わせた新たな不動産ビジネスに取り組むということだ。経営者側の視点だ。共働きの女性に合わせた洗濯の時間を短くできる洗剤やエステ、リフレッシュサービスが花開いているのと同じように、不動産でも潮流を読み込むことで新たな不動産ビジネスを立ち上げることができるはずだ。

もう1つは、足元の不動産のスキルを高める、見直すということである。営業マンや前線で働く人の視点だ。特に売買では、ITの発達により消費者の知識や情報力が高まり、スキル不足の営業ではかなりの優良商品を囲んでいない限り、成約しづらくなっている。スキル不足では「その物件はネットで出ていたからもう知っているわよ。あなたから買うぐらいなら仲介手数料を負けてくれるところにするわ」こうなるのがオチだ。

なぜこの物件があなたにとって最適なのか、スキルを高めて顧客のニーズを汲みつつ不動産を絡めて語れることが不動産営業にとっては不可欠になりつつある。いわば、不動産のストーリーテラーになることが必要なのかもしれない。

物件をただ売主から買主へと、左から右へ動かすだけなのはよほど良い物件以外は難しい。それだけ、昔と比べると大変な時代であり、消費者目線では普通になりつつあるのかもしれない。

不動産営業に求められるのは「不動産のストーリーテラー」のスキル?

私が平成25年に上梓した不動産実務本『不動産の基本を学ぶ』が重版となり5万部となった。不動産本で3万部を超すのは稀。某ビジネス書大手出版社の編集長からはケンもホロロだった企画がリベンジした形だ。こう書くと、おいおい自慢かよ、と思われる方も多いと思うが、単なる自慢話で取り上げた訳ではない。このような実務本が、しかも本を読まなそうな不動産業界の皆さんに買っていただけた理由は、おそらく内容の良し悪し以上に、今の危機的な状況を受けて不動産のスキルを高めたい、見直したいという不動産営業マンが増えたのではないかと思う。だからとりあえず手に取ってみてもらったと思う。

実際に、この本の5万部達成を記念して行う読者還元のセミナー『「不動産の基本を学ぶ」フォローアップセミナー』を今年12月と来年1月に開催しますと告知したところ、多くの読者の方々から参加の意向を受けただけではなく、「よりしっかりと不動産の知識を固めて、顧客に合わせた情報提供をしていきたい」という声を頂いている。それだけ、不動産営業マン、前線で働く人も危機感を持っているのだと感じた。

以上、雑然と書いてきた。
ここ数年見え隠れてしてきたが、不動産営業マン、前線で働く人のスキルはより高度化を求められる段階に入ってきたのではないかと思う。私はそれはストーリーテラーのスキルだと思うがどうだろうか?

正解かどうかは、しばらくいろいろと見て判断しようと思う。

不動産営業マン、前線で働く人のスキルはより高度化を求められる段階に入ってきたのではないかと思う不動産営業マン、前線で働く人のスキルはより高度化を求められる段階に入ってきたのではないかと思う

2016年 01月02日 11時00分