24時間換気システムの3~4倍に匹敵するレンジフードの熱量

大半のレンジフードの強運転の換気量は、なんと400~600m3にもなる大半のレンジフードの強運転の換気量は、なんと400~600m3にもなる

断熱、気密を頑張っている工務店が増えてきた。
そんな先進的な取り組みをしている工務店でもまだ大きく抜けているのが、住まいのパッシブデザインであるということは今までも伝えてきた。その他にもさらに抜けている大項目として、実はレンジフードがある。このことは、あらゆる省エネ系のテキスト等をみてもほとんど書かれていないと思う。

平均的な住宅は120m2(36.3坪)程度である。実際、国のモデルプランも120m2で考えられている。これで平均天井高さが2.5mだとすると容積は300m3になる。建築基準法の0.5回の換気量は150m3/h。しかしながら、大半のレンジフードの強運転の換気量は、なんと400~600m3にもなる。24時間換気システムのちょうど3~4倍に匹敵する。

ここで普通の24時間換気システムによってロスする熱量を計算してみたい。
まず内外1℃差あたりの換気による熱損失量は、
熱損失量=0.34(定数)×150m3=51W/K
となる。この値を床面積で割ると51÷120=0.425となり、これがQ値のうちの換気による熱損失分ということになる。
例えばQ値2.7の建物だとすると2.275が換気以外の熱損失分ということだ。

レンジフードの熱損失量はどのくらいか

レンジフードの場合ややこしいのが24時間換気のようにずっと稼働していないということだ。また、家庭によって利用時間がかなり異なる。そこでJIS C9921-2にレンジフードの使用時間が規定してあるのでそれを使うことにする。ちなみに使用時間の規定は1日6.6時間だそうだ。個人的にはそんなに使う方はいないと思うが、今回はこれに従うこととする。

使用する全員が、強で使用するとは限らないので、強設定の中でも一番弱めの400m3と設定し、前段の24時間換気システムと同様に計算してみた。ただし、1時間の平均値を計算することとする。
内外1℃差あたりの換気による熱損失量は、
熱損失量=0.34(定数)×400m3×6.6/24=37.4W/K
Q値として計算すると37.4÷120=0.31にもなる。

Q値0.31といえば、省エネ基準の気候区分で一地域分違ってくるのと同等である。具体的には東京と仙台くらいの差となる。
しかもこれは、1日に平均しての話。実際に使っている6時間に限定して考えると、レンジフードを使っている6.6時間の間Q値は1.13も悪化していることになる。しかも、大多数の日本の家庭の場合、レンジフードがついている時間は日没後で室温が下がりはじめ、かつ家族が最もよく揃う時間帯であることが多い。

金額にあてはめるとさらにわかりやすいと思う。外気温を5℃室温を20℃として計算すると1日分の換気によるロスは、6.6時間の熱損失量として、
熱損失量=0.34×400m3×6.6×(20-5)=13464Wにもなる。

エアコンの実効COPを3、電気の単価を31円/kWhとすると、13464/3×31×1/1000=139円/日のロスとなる。
一か月なら、4170円ものロスである。効率の良いエアコンですらこの金額なわけだから、それ以下の暖房器具を使っている場合、差額はさらに大きくなる。これは熱量だけの話だが、実際にはもっと状況が悪いともいえるかもしれない。

というのも冬場のLDKは一般的に締め切られている。
大半の日本の住宅の気密性能はたいしたことはないが、一般的に多い20畳前後のLDK(もしくは+和室)だけで400m3も引っ張り出すわけだ。このときばかりは自然給気口からも大量の冷気が入ってくるし、もちろんそこら中の隙間からも冷気が入ってくる。自然給気口はリビング、ダイニングの外壁側にあるので、居住者のいる場所をまともに通過することになる。気流感が不快なのはもちろんのこと、冷たく比重が重い冷気なので足元が特に冷やされる。そうすると不快なのでエアコンの設定温度を上げるか(あげてもほとんど効かないのだが…)こたつや電気ストーブ、ホットカーペットといった極めて効率の悪い採暖器具に頼らなければ我慢できないレベルになってしまう。

もちろんこの悪影響は冬に限ったことではない。夏の冷房時も同じ話である。冷房時は暑く湿った外気をどんどん入れ込んでくるということになる。
弊害はこれだけではない。熱環境的に見た場合の気密性能は低レベルの住宅が多いのだが、それでも大半の住宅において、子どもの帰宅時にレンジフードがついていると玄関ドアを開けにくいという弊害が起こる。現在の玄関ドアは非常に大きく幅90cm高さが2.3m程度の製品がほとんどである。子どもが小さい間、帰ってきてドアを開けようとしてもちょうどその時間帯は調理をしていることが多い時間と重なる。

解決策としての2つの方法

ではどうすれば良いのか?
一般的には2つの方法が考えられる。ひとつは一般的なレンジフードを使いながら、レンジフードに連動する形で気密ダンパーがついた専用の給気口をレンジフードの近くに設ける方法である。今思えば、昔の建物の方がこの方法をとっていたことが多い気がする。だが、最近の建物ではまずこれを採用している住宅を見ることはない。やらないよりはやったほうがいいのだが、難しい点もある。ガスコンロ使用時は、火に近すぎると炎が揺れる。また調理者が給気口とレンジフードの間に立つ位置関係になると、調理者はかなりの寒さを感じてしまう。

ということで、理想的には…というか、常識的には同時給排気型のレンジフードを使うべきである。一般的なレンジフードの場合排気用の直径150mmのダクトしかついていないが、このタイプは給気用としても同じ径のダクトがついている。これを使っても熱量としては同じ量が逃げてしまうが、大半は調理の熱から相殺することができる。少なくともリビングやダイニングの足元を冷気が強烈な勢いで通るということは、ほとんどなくなる。

熱のことだけを考えると、究極のレンジフードとして室内循環式レンジフードというものが数年前から日本でも発売されている。IH専用で、かつフィルターも何種類も交換しなければならないという手間もあるが、冷暖房費が節約できることと、より上質な室内環境が手に入ることを考えると、これもひとつの選択肢となるべき設備である。この手のレンジフードは日本では極めて珍しいが、ドイツではかなり一般化してきているようだ。実際、私はドイツでこれが使われている例を数例みかけた。

一般的な排気のみのレンジフードと同時給排気型のレンジフードとの冷気の動きの比較一般的な排気のみのレンジフードと同時給排気型のレンジフードとの冷気の動きの比較

メーカーと施主、両方にとって良い施策とは?

現在キッチンメーカーでは、上位4社でレンジフード市場の約85%を占めている現在キッチンメーカーでは、上位4社でレンジフード市場の約85%を占めている

これまで述べてきたように、非常に大きな影響があるレンジフードだが、残念ながら上記で紹介した3方式のうち、どれかが実践出来ている住宅は、日本では今のところ1割もないのではないかと思う。
このような住まいの設備の熱損失量の問題は、建築学科でも教えてもらえない、国の基準にもない、確認検査機関からの指摘もなければ、キッチンメーカーからのアドバイスもないのである。その結果、日本全体として大量の熱と、エネルギーと、CO2とお金が捨てられているのだ。

だれかが基準をつくり、制度化するのを待っていてはどうにもならない。一番即効性があるのは、キッチンメーカー及びレンジフードメーカー自らが動くことだと思う。現在キッチンメーカーでは、上位4社でレンジフード市場の約85%を占めている。この4社がレンジフードのバリエーションを基本的には同時給排気型を推奨するものとし、それが出来ない場合はレンジフードの近くに専用の給気口を設けることを条件とすることでの販売を前提にすればよい話である。
これだと、商品バリエーションを変える必要もなく、キッチンメーカーの売上も上がり、施主の快適性はあがり、光熱費は下がる。まさにメーカーと施主、両方にとって良いことだと思う。
実は、すでにこのうちの2社とは直接この話をしている。あとの2社が動けばすぐにでも実現できる項目だと考えている。

この記事を読まれた読者の方々も以降のレンジフード選定は上記を考え、ぜひ間違いのない選択をしていただきたい。

2015年 12月11日 11時06分