初めての、街を“動詞”で尋ねる調査

2015年9月3日、HOME'S総研は『SensuousCity[官能都市]-身体で経験する都市 センシュアス・シティ・ランキング』を公表した2015年9月3日、HOME'S総研は『SensuousCity[官能都市]-身体で経験する都市 センシュアス・シティ・ランキング』を公表した

まことに手前味噌ながら、9月3日にHOME'S総研は「SensuousCity[官能都市]-身体で経験する都市 センシュアス・シティ・ランキング」を公表した。

これは、全国134の都市(調査母数の関係で自治体を任意に合わせたエリアがある)を対象として「ロマンスがある」、「食文化が豊か」とか、「共同体に帰属している」など、その土地に住んでいて経験したことを調査した結果によって、“実際に住むことに魅力を感じる街”をランキングしたものだ。ただし、ランキングと言っても、これまでの都市の評価手法~1人当たりの公園面積や百貨店数、従業員数1000人以上の企業数、犯罪発生率、高齢者人口比率などで街のポテンシャルとするような評価~を変えることを目的としており、都市の序列化・ランク付け自体を目的としたものではないので、総合順位で上位50位までの都市名を公表するにとどめている。

この調査がユニークな点は、街を“動詞”で調査したことだ。
街を見て、匂いを嗅いで、味わって、音を聞き雰囲気を感じ、実際にあるものを触って得られる実感値が街の設計や都市空間の成り立ちと微妙にリンクし、開発者の意図しないものとしても活用されることは決して珍しいことではない。街はまさしく生き物で、多彩な人々の多様な活用によって日々変化するものであることを考えると、1人あたりの公園面積が広いか狭いか、高齢者が多いか少ないかが、街の住み心地や印象の良し悪しに直結するとは思えない。

こうした観点で調査した結果、1位は東京都文京区、2位は大阪市北区、3位は武蔵野市という順位が得られた。

8区分32項目の指標が示すもの

ランキングに使用した指標をもう少し紹介すると、「地域のボランティアやチャリティに参加した」とか「夜の盛り場でハメを外して遊んだ」、「庶民的な店でうまい料理やお酒を楽しんだ」、「遠回り、寄り道していつもは歩かない道を歩いた」など、8つの区分ごとに4項目ずつ、合計32項目で調査している。もちろん街の楽しみ方、刺激の受け方は人様々であるから、なかには「不倫のデートをした」とか「ナンパした・された」などの項目も用意されている。この点でも大変ユニークな調査と言えるだろう。

東京都では23区のうち13区、都下では6自治体がランクインしており、大阪市でも8つの区・エリア、横浜市でも5区が上位50位までに登場している。大都市圏以外では8位に金沢市がランクインしているほか、12位には静岡市、14位盛岡市、17位福岡市、18位仙台市など、拠点性の極めて高い都市の名前が顔を出している。
つまり、誤解を恐れずに言えば、人口の絶対数が多い地域であるほど出会いの機会があり、多くの飲食店や物販店、美術館や博物館、動物園、公園、イベントホールなどが「娯楽装置」「生活利便装置」として備わっているため、それらを媒介としてセンシュアス的な要素も増える可能性が高まる。

同様に住んでいて楽しいかどうか(幸福度)、満足しているかどうか(満足度)についても、例えば東京23区の平均評価点は6.97および6.99と全国平均の6.80および6.79よりも高く、都市の人口規模が大きいほど数値が高くなるという傾向を示している。都市は何でも揃っていて楽しく便利に暮らすことができ、田舎や郊外は平凡で退屈な生活しかないなどとは全く思わないが、少なくとも回数や機会という点で、より多くの刺激を受ける可能性が高いのが人口規模の大きい都市ということになる。暮らしやすいか否かと、様々な機会を常に選択しつつポジティブに生活していくかどうかとは、求めているものが微妙に異なるということが理解できる。

センシュアス・シティと対極にある概念、ジェネリック・シティ

このように、人がランダムに活動する機会やアクティビティを捉えて「住んでみると奥行きを感じる味わい深い街」を調査したのが今回のセンシュアス・シティ・ランキングなのだが、一方で、オランダの建築家レム・コールハースは、著書の中で「Generic City(ジェネリック・シティ)」という言葉を用いて、グローバリゼーションの拡大およびそのパワーが効率性や利便性を際限なく追求することによる、都市空間の変質可能性について言及している。

ジェネリック・シティとは、最近よく耳にするジェネリック医薬品と同じ意味合いで、「あくまで一般的な、特許や知的所有権にかかわらない領域に都市空間と空間を構成する人間が移行した状況」、つまり奥行きや情報感度、センスといった擬人化された都市のエモーショナルな側面が再開発などによって画一化された風景に変化し、再構築された都市のことを示すものと解釈できる。単純に言えば、「きれいで便利で効率的だが、たいして面白くない街」というイメージだろうか。
一例を挙げれば、2020年東京五輪開催前の“トウキョウ”の化粧直しが、このようなジェネリック・シティ化を進行させる可能性を指摘しておく必要がある。

東京23区でランキングと賃料を比較した“センシュアス的な街”と“ジェネリック的な街”

何らかの理由によって特定のエリアに住みたいという判断の指標たり得るのは、一般的には分譲および賃貸住宅の流通価格あるいは賃料である。ただし、分譲住宅の流通価格は景気変動に基づく買い進み、もしくは売り惜しみなどの影響を受けて価格のボラティリティが拡大するという側面がある。したがって、ボラティリティが小さく(粘着性)、景気変動から遅れて緩慢に動く(遅効性)賃料がより適当であるとの判断で、センシュアス・シティ・ランキングと賃料水準によるジェネリック・シティ・ランキングを比較してみた。ジェネリック・シティが、効率と利便性を追求した街と定義すれば、便利であるが故に賃料は相応に高水準となり、センシュアス・シティ・ランキングよりも上位に登場することになる。

東京23区では(本誌では首都圏、近畿圏の比較結果を掲載している)、下図の通り、文京区、目黒区、台東区、品川区などは、賃料ランキングよりもセンシュアス・シティ・ランキングが高く、「センシュアス的」な要素が強いエリアと見ることができ、反対に港区、千代田区、渋谷区、江戸川区などはどちらかといえば「ジェネリック的」なエリアと見ることができる。東京23区ではセンシュアス・シティとジェネリック・シティ双方の条件が揃っているエリアが多数あるのだが、特に台東区、葛飾区、荒川区などはセンシュアスな要素が様々充実していて「楽しく、ヒューマニスティックに生活する」ことを重視したい向きには、比較的安価な生活コストで居住することができる魅力的なエリアとなる。

一般論として、下町で人と人との距離が近い庶民的なエリアは、人情の機微に触れつつ地域コミュニティに参画できるエリアは「住みやすい」もしくは「住んで楽しい」という経済的側面とは異なる価値のあるエリアと認識する蓋然性が高まると言えるのだろう。

「センシュアス的」シティと「ジェネリック的」シティのランキング比較「センシュアス的」シティと「ジェネリック的」シティのランキング比較

センシュアスとジェネリックは正反対の概念だが、同時に成立し得る

都市のエモーショナルな側面=センシュアス・シティとしての要素と、都市の利便性および効率性=ジェネリック・シティとしての要素の対比を通じて、「都市に居住する楽しさと価値」を検証すると、

1)データを掲出した東京23区をはじめ、大阪市中心部、および居住エリアとして非常に人気の高い武蔵野市、京都市、金沢市、福岡市、仙台市などはセンシュアス的要素とジェネリック的要素がバランス良く整っており、都市に居住し生活するためのアクティビティと利便性=居住価値がともに高い

2)首都圏および近畿圏など大都市圏の郊外では、都市圏中心部との対比において、概ねセンシュアス的要素よりもジェネリック的要素が強く訴求されるエリアが多い(ベッドタウン化)

3)都市圏の規模が小さくになるにつれてセンシュアス的要素とジェネリック的要素の相関性は失われ、特に生活圏・文化圏としての独自性が強調されるエリアは、センシュアス・シティの上位に登場する(金沢市など)
といういくつかの特徴が浮き彫りになる。

生活効率や利便性が高いエリアは「ヒト・モノ・カネ」を呼び込むことになるため、必然的にアクティビティも充足し、都市にセンシュアス的な要素が増える結果を招く。そのことがさらに「ヒト・モノ・カネ」を呼び込む拡大再生産的な活動につながって「都市に居住する楽しさ」は「価値」と同時に存在することになり、センシュアス・シティとジェネリック・シティとは見立てが正反対であるだけで、相容れない概念ではない。
それを実際に示しているのが、文京区であり、大阪市北区であり、武蔵野市であるということになる。

都市が都市として、またセンシュアス・シティとして存在するためには、前提としてジェネリック的な要素である効率性や利便性が必要なのであり、カオス理論における初期値鋭敏性のごとく、わずかな利便性の違いが、都市の居住性やセンシュアス・シティとしてのアクティビティの違いに表れることになるのだろう。

※「SensuousCity~身体で経験する都市;センシュアス・シティ・ランキング」は、HOME'S総研の専用サイトから全ページがダウンロード可能なので、興味の赴くまま、そして時間の許す限り、街の奥行きを示す新たな指標として楽しんでもらいたい。

一位の文京区の様子。小石川後楽園から東京ドームやマンションが臨める一位の文京区の様子。小石川後楽園から東京ドームやマンションが臨める

2015年 10月07日 11時04分