東京の郊外~三浦展×島原万丈

三浦展(みうら あつし)氏の新しい街歩き企画がLIFULL HOME'S PRESSでスタートする。

三浦氏は1982年、パルコに入社し、その後「アクロス」編集長に就任。90年、三菱総合研究所入社、99年に株式会社カルチャースタディーズ研究所を設立した。マーケティング・アナリストとして、著書として『下流社会』のほか、都市論・郊外論として『家族と幸福の戦後史』『ファスト風土化する日本』『東京は郊外から消えていく!』『新東京風景論』『スカイツリー東京下町散歩』『東京高級住宅地探訪』『昭和の郊外』『東京田園モダン』などを出版してきた。

その三浦氏が、新たに「東京の郊外」をテーマに実際に街を歩く企画を始める。

今回、新たな街歩き企画を始めるにあたり、LIFULL HOME'S総研の所長で2016年に『Sensuous City [官能都市]-身体で経験する都市;センシュアス・シティ・ランキング』を発表し、独自に街の魅力の要素を分析した島原万丈との対談を企画した。

島原氏との対談から、三浦氏の「街」に対する視点を、新たな街歩き企画への期待と共にお伝えしたい。

郊外の生存競争が始まっている ~ニュータウンに足りないものから考える

「郊外も、都市の付属物としての住宅地ではなく、自立した街としての魅力をアップしていけば、“住みたくなるまち”となるのではないか」と、三浦氏「郊外も、都市の付属物としての住宅地ではなく、自立した街としての魅力をアップしていけば、“住みたくなるまち”となるのではないか」と、三浦氏

-今回の新しい企画ですが、何故"東京の郊外"を取り上げたいと思ったのですか?

三浦:私の著書『東京郊外の生存競争が始まった! 静かな住宅地から仕事と娯楽のある都市へ』(光文社新書)で、衰退していくと言われている郊外も、今後は都市の付属物としての住宅地ではなく、自立した街としての魅力をアップしていけば、“住みたくなる街”となるのではないか、具体的には多様な働き方ができて、夜の娯楽もあることが魅力向上になると書きました。そういう視点から郊外を見直して今回改めて郊外を歩いてみようかと思ってるのです。島原さんもセンシュアスシティで夜のまちの娯楽を含めた調査データを出されましたね。

島原:今、郊外を取り上げる意味は大きいな、と思っています。三浦さんの著書の『東京は郊外から消えていく』等でも問題提起をされていましたが、東京といっても23区に集中していて、地方都市と比べてもずっと規模が大きい東京の郊外の課題は語られていない。今回、郊外の生存競争が議論されるべきというのは非常に大きな課題提起だと思います。

郊外…というと、高度経済成長期から開発され、ベッドタウンと呼ばれファミリーの街という性格が強かった。住民の属性的にも子育てに特化した街だったわけで、後知恵で振り返れば2つの意味で見込み違いがあったのではないかと。ひとつは子育てが終わった後の人達に向けての街づくり、もうひとつは新たな子育て層が流入による新陳代謝。専業主婦的モデルが共働きを前提としたライフスタイルへ家族のあり方が変化したり、都心の住環境も整備されたりすることで、子育てをするエリアとしても相対的に競争力が下がってしまっているのではないかと感じます。郊外のライフスタイルとして1つ付言すると、子育てに特化するまちであることで異質なものを排除してきたのか、センシュアス・シティ調査によれば、一般にニュータウンエリアでは、ご近所づきあいなどの共同体参加や、食べたり飲んだりといった娯楽的なアクティビティの項目頻度が低かった。

三浦:ニュータウンは特に家族に閉じた街になってしまいます。男性にとってはベッドタウンでしかなく、個人の生活の多様性がみられない。寝る場所だから安全で静かなのがいいのです。
しかし郊外の人材の潜在力は高いと思うんですよね。その人材を生かして、郊外を都市としてどう育て、開いていくかが大事。横浜の住宅地に若い建築家がコミュニティスペースを作り、夜はスナックを開いたら“実はこういう場所が欲しかった”という声が多いそうです。夜の娯楽というと誤解されるけれど、住民による住民のための娯楽が、郊外を都市化するきっかけになると思う。

島原:センシュアス・シティ調査によると、街の小さな酒場って共同体に帰属しているという意識が生まれる場所なんですよね。イギリスのパブではないけど、コミュニティのハブになる場所が必要なのかなと思いますよね。

三浦:ベッドタウンという名称に代わる名前が必要です。スナックタウンというか(笑)。単に寝に帰るのではなく、夜も活動できる街が必要。

街を魅力的に構成する要素は、どうあるべきか

「働き方、場所が多様化する中、通勤という制約が軽くなり、都心からの距離はネガティブにとらえなくてもよくなってきている」と島原氏「働き方、場所が多様化する中、通勤という制約が軽くなり、都心からの距離はネガティブにとらえなくてもよくなってきている」と島原氏

島原:郊外でもニュータウンだと街にライフスタイルの特色がそれぞれないというか、そういう感じはありますよね。すべて、同じにつくられているようなイメージ。

三浦:例えば、住みたい街によく名前があがる吉祥寺は、街を魅力的にしている要素がわかりやすい。緑が多くて歩いて楽しめたり、新しいカフェも古い居酒屋もあったり。それだけでなく吉祥寺って、実はワーカブルな側面がある。百貨店の宝石売り場でも銀行でも不動産屋でもカフェでも雑貨屋でも働ける。それが女性にとって魅力的なんだと思うのです。そういうふうに街の魅力を構成する要素の順列組合せがどうなると魅力が増すのか、調べたい。

島原:テレワークやサテライトオフィスが進んだりしている今、通勤という制約が軽くなってきている。今後は自動運転の技術も発達してくる。そうなると、都心からの距離は必ずしもネガティブな条件でなくなるかもしれない。生き残る街にするためには、そういった要素の研究も必要なんでしょうね。

『もしも、東京(という中心)がなかったら』。もう一度、まちの文脈を読み解いてみたい

三浦:郊外の娯楽という今回の企画の一番最初のきっかけは、2010年に建築家の藤村龍至くんと対談するために彼が育った埼玉県の椿峰ニュータウンを歩いてみたことなんです。良い街だなあ、と思って…何故こんなによい街なのかというと、すべてを更地にしないで、もともとあった自然や土地を活かしてつくっていたんです。中世は山口氏という武士が治めていた土地でお城もあった。ああ、郊外にも長い歴史はあるんだな、と気がついた。そういった街の成り立ちを知るってことが、シビックプライドにつながる。たとえニュータウンが新しい街づくりをするとき、単に吉祥寺風とか自由が丘風にならずに独自のものをつくっていけることにつながると思うのです。

島原:そのとおりですね。これからどういった街にしたいのか、ということを他から借りるのではなく、内側に潜在している可能性を発見して、手がかりをつかんでいく。

三浦:本当に長期的にその街に住みたいと思う街にするためには、ここにしかないものを再度見直して、それを核とした街づくりが大切なんではないか。なので、今回は、まず八王子とか青梅とか、歴史がある街から始めていこうと思っています。でも、おそらくそういう歴史を、新興住民もあまり知らないのではないかと思うので。

島原:そういった街づくりは、必要ですよね。ブルースタジオの大島さんもホシノタニ団地を手掛けるときに、もともとの座間という街の歴史を紐解いていました。歴史を踏まえることで、新しいコンセプトの説得力が出てくる。

三浦:なにより、地元の人が納得できる。

島原:郊外とかニュータウンとか、ひとくくりにしがちだし……そうなると東京都心からの距離みたいなものでしか差別化できない。でも、全ての街がそれぞれ本当は違うんですよね。

三浦:地方創生で、地方の魅力の再発見のようなことが叫ばれているけど、実は郊外も同じなのではないかと。鎌倉や川越など歴史を大切にしている街が今も生き残り、人気がある。そもそも、郊外という言い方をやめないといけない。東京にはいろいろな街があって、それぞれの面白さを紐解いていきたいというのが今回の連載です。

島原:今の東京の郊外は都心から放射線状に伸びる鉄道の駅をベースにつくられているけど、昔は例えば川の交通とか旧街道とかが重要な役割をしていて、そこが街の成り立ちをつくっていたとかありますよね。

三浦:その点は陣内秀信さんと一緒に書いた『中央線がなかったら』と同じことだと思うんです。東京からの距離とか、鉄道とか、今のモノサシではない街の見方を提案してみようと思う。そういう意味では「今回のテーマは、『もしも東京(という中心)がなかったら』ということかもしれないね。

それぞれの街の「文化的地形や文化的地層を探る」

島原:たとえば、夜のお店がある街は、宿場町や門前町や交易拠点など、昔からそもそもひとつの"都市"だったことが多い。そこには住む・働く・遊ぶのすべての要素があったはず。独自の路線でのこっていくためには、歴史からアプローチするその街の成り立ちの発見が必要ですよね。

三浦:街を実際に歩くことで、隠されている街の古い文化的地層を発見しながら、現在の街の魅力も見つけたい。

「"ブラタモリ"は地形や地層を見るのが好きだけど、僕のは文化的地形や文化的地層を探る連載」だと三浦氏は言う。

新企画での新たな街の魅力の発掘に期待したい。

東京郊外を「文化的地形や文化的地層を探る」新連載にご期待ください東京郊外を「文化的地形や文化的地層を探る」新連載にご期待ください

2017年 09月11日 11時03分