都心マンションの価格高騰が止まらない。新築物件の価格上昇は資材や人件費の高騰が影響していると言われるが、新築のみならず中古物件の価格も急上昇しているのだ。とりわけ中古の相場は上がり方が大きく、新築よりも割高感が強まっているとのデータも出ている。都心マンションの価格の現状と、今後の見通しを考察する。
中古が新築以上に割高になっている理由とは?
マンション価格はコロナ禍以降、大きく上昇した。首都圏の新築マンション平均坪単価は2019年から2022年までほぼ300万円台前半が続いていたが、2023年以降は400万円台にアップし、2025年後半以降は500万円台で推移している。
新築価格が上昇している要因として、建築コストの高騰が挙げられる。人手不足による人件費の増加は以前から指摘されていたが、コロナ禍やウクライナ紛争による物流の停滞などから建築資材の相場は上昇トレンドが続く。さらに直近では中東情勢の緊迫化が拍車をかけつつある。
だが、上昇しているのは中古価格も同様だ。特に築10年以内の築浅物件は上昇の度合いが大きい。築5年以内は2020年ごろから、築10年以内も2025年以降は坪単価が新築を上回り、現在も上昇の勢いが続いている。
中古マンションの価格が急上昇していることから、その割高感も強まっている。
マンションが割安か割高かを示す指標として、東京カンテイが「マンションPER」を公表している。これはマンション価格が月額賃料の何年分に相当するのかを、駅勢圏(徒歩20分以内)ごとに算出した数値だ。数値が高いほど投下資金を賃料で回収するまでの期間が長く、割高であることを示す。
新築と築10年中古についてマンションPERの首都圏平均値の推移を見ると、2020年までは新築が中古を大きく上回っていた。だが、2021年以降は中古のPERが急上昇し、2022年に逆転。2024年以降は新築もアップしているが、直近の2025年には新築が30.46、中古が31.78と差が開いている。
マンションPERは物件価格の高い都心ほど数値が高くなる傾向が見られる。2025年のデータで見ると、新築で最も数値の高い白金高輪駅(都営三田線)は47.83だった。さらに中古で最も高い神谷駅(東京メトロ日比谷線)は79.88に達している。新築・中古ともデータのある駅で比べると、半蔵門駅(東京メトロ半蔵門線)は新築47.47・中古54.98、渋谷駅(JR山手線)は新築40.26・中古50.43など、中古が新築を大きく上回った。
首都圏では全般的に中古の割高感が強まっているが、とりわけ都心ではその傾向が際立っている。その要因について、東京カンテイ市場調査部上席主任研究員の髙橋雅之さんは以下のように分析する。
「都心では中古の相場が新築以上に上昇している一方で、賃料水準の上振れは限られています。新築はオーナーサイドの意向で強気の家賃設定ができますが、中古は周辺に競合物件が多いこともあり、なかなか家賃を上げられないためです。賃料が抑えられている状況で価格が急上昇したため、割高感が強まっているのです。都心では表面利回りが2%台のエリアも少なくありません」
短期転売がマンション価格高騰の要因の一つ
中古マンションの割高感が強まっているのは、家賃の上昇を上回るスピードで物件価格が上昇しているためだ。そうした価格高騰の動きを促す要因として、購入から数年以内に売却する短期転売が活発化している状況が挙げられる。
下のグラフは都心3区(千代田区、中央区、港区)にある築5年以内のマンションのうち、中古物件として売りに出た戸数の割合を示したものだ。ここ数年は3区とも4%前後で推移しており、東京23区の平均と比べて比率が高く、短期転売が活発なことがわかる。
都心での短期転売が活発化するにしたがい、価格高騰の勢いも強まっている。築5年以内で売りに出されたマンション価格が新築分譲時からどの程度上がったかを示したデータを見ると、特に2024年以降に中央区と港区で上昇比率が高まっており、2025年には2倍前後の高値で売り出されている状況だ。
「都心では家賃収入による収益性を度外視し、短期で売り抜けて売買差益を狙う取引が急増しています。長期金利が上昇している現状では2%程度の利回りでは魅力的な投資とは言えませんが、高く売って差益が得られるのであれば高値でも購入する買い手が多いため、価格の高騰に拍車がかかっていたわけです」(髙橋さん)
短期転売が多い都心ほど価格が高騰している状況はデータでも読み取れるが、さらに物件ごとに見ていくと戸数の多い大規模マンションほど短期転売が活発になっているという。「大規模タワー物件の高層階や、低層でも高級感の高いレジデンスは希少性が高く、住宅としてのニーズも強いため、高額で転売しやすい状況です。物件によっては短期転売の比率が10%を超えていたり、価格が新築時の3倍を超えるケースも見られます」(髙橋さん)
大規模物件で短期転売が多くなっている状況は国のデータでも示されている。国土交通省が登記情報に基づいて新築マンションの購入後1年以内の売買の動向を調査したところ、100戸以上(保存登記数100件以上)のマンションで売買数が急増し、2024年1〜6月には総戸数に占める割合も1割近くにのぼっていた。
2026年に入って中古価格の上昇に急ブレーキか?
長期的な利回りよりも短期的な売買差益を重視する傾向が強まって価格が高騰していた都心の中古マンションだが、ここへきて潮目が変わる兆しも現れ始めた。
まず、物件価格に上げ止まりの動きが見られる。都心6区(都心3区、新宿区、文京区、渋谷区)の70m2あたり中古マンション価格は右肩上がりで推移していたが、2026年2月と3月は2カ月連続で前月比0.2%ダウン。4月は3カ月ぶりに上昇したが、上昇率は0.5%とわずかだった。
「中古価格の上昇に伴って新規に売り出される流通戸数も2024年後半から増えていますが、継続して流通している戸数、つまり在庫物件がそれ以上に増えています。価格の急上昇に買い手がついてこられず、ここへきて価格上昇にブレーキがかかってきたようです」(髙橋さん)
中古マンション市場では売り出してからある程度時間が経つと価格を見直す、つまり値下げするケースが多い。市場に在庫物件が溜まってくると、価格を改定する物件が増えてくるのはそのためだ。都心6区のデータを見ても2024年後半以降は価格を改定した物件のシェアが高まっており、直近の2026年4月には49.1%とほぼ半数に達している。
価格をどの程度下げたかを示す値下げ率も拡大傾向にあり、都心6区の直近では6.1%とここ10年で最も大きな下げ幅となった。同様の動きは東京23区全体でも見られるが、直近の価格改定シェアは44.3%、値下げ率は5.9%となっており、都心のほうが振れ幅は大きくなっている。
中古マンション価格は下落に転じるのか
急激な価格上昇から上げ止まりに転じつつある都心中古マンションだが、今後は相場が下落に転じるのだろうか。髙橋さんによると「大幅な下落局面に転じる可能性は低い」という。
「過去のデータと照らし合わせると、値下げ率が短い期間で8〜10%程度まで拡大すれば本格的な下落局面に移行しますが、現状ではそこまで下がってはいません。短期転売を狙った取引は下火になると思いますが、都心で住まいを購入したいという実需は衰えていないので、適正な上昇カーブに戻るまでの調整が続くと見ています」(髙橋さん)
自治体や国、業界が短期転売を規制する動きが強まっていることも、今後の価格動向に影響を与えそうだ。千代田区が分譲マンションの転売や買主一人当たりの購入戸数の規制を打ち出し、デベロッパーも自主規制を導入する動きが出ている。また、国も短期転売による価格高騰を問題視しており、調査を進めているようだ。
「短期転売の規制とは別に、行き過ぎたタワマン節税を抑制するために物件の相続税評価額を実勢価格に近づけるよう税制を見直す動きも出ています。そうした規制強化により投機的な売買がしにくくなり、マンション相場が実需層の手に届きやすい水準に落ち着くことが期待されます」(髙橋さん)
もちろん、価格がこの先さらに上振れる可能性もないわけではない。例えば中東情勢の混迷が長引くことで建築コストが一段とアップし、新築マンション価格の上昇が中古市場に波及するといったシナリオはあり得るだろう。あるいは株高や円安を背景とした投資マネーの流入により、都心不動産の高騰に拍車がかかる可能性も否定できない。
都心中古マンションの異常なまでの割高感が解消するのか、あるいは再び強い右肩上がりの相場に転じるのか。今後の価格動向を注視していく必要がありそうだ。
取材協力:東京カンテイ(https://www.kantei.ne.jp)













