民法改正、個人情報保護法改正、所得税増税などで住宅市場が変わる可能性がある

元号が平成から令和に変わった2019年、10月には消費税が10%に引き上げられると共に軽減税率が適用され、住宅ローン減税も13年に延長された。景気浮揚および維持対策が現在のところは奏効して、株価や消費者物価指数、金利などに大きな景気変動は発生していない。

しかし、不動産経済研究所の調査によれば2019年10月の首都圏新築マンション発売戸数は2,007戸と統計開始以来10月の戸数としては最低を記録。11月は大型物件の販売開始でやや持ち直したものの以降はやや低調に推移する見込みで、やはり消費増税の影響は特に新築住宅の供給面で大きな影響を与えている。

また、2020年には住宅の市場流通に大きく関連する法改正が行われる。

一つは民法の改正だ。これまでの売買契約上の「瑕疵担保責任」という考え方が抜本的に改められ、4月からは「契約不適合責任」に統一される。住宅の売買においても契約書通りに履行しているか否かが問われることによって、相対的に売主の責任がこれまでよりやや重くなる(=法律上の説明責任を果たす必要が高まる)ことになる。
具体的には売買契約書の内容および建物の状態を示す申告書の内容が、実際の状況を正確に反映しているかどうかがポイントになるため、売主も不動産会社もこれまで以上に丁寧な説明を心掛ける必要がある。

二つ目は個人情報保護法の改正だ。同法は3年ごとに見直されているため2020年の改正が見込まれている段階だが、現状では仮名化・匿名化によってデータの利活用の幅や機会が広がる可能性が想定される。一方で、個人の権利の強化、罰則の強化などが盛り込まれることが想定されている。事業者の対応コストは増えることが予想されるため、住宅業界においても相応の備えが必要になる。

さらに、建築物省エネ法が2019年11月16日から一部改正され、注文戸建住宅を年間300戸以上、および賃貸アパートを年間1,000戸以上供給する事業者に対して住宅トップランナー基準を努力義務として課すこととなった(目標年度などは省令で規定)。今後は、延べ面積300m2未満の小規模住宅の新築時に、建築主へ設計者や建築士が省エネ性能に関する説明を義務付ける改正も実施される。

関連する法改正が目白押しの2020年住宅業界は果たして本格的にフローからストックの時代になるのか、制度変更で中古住宅の流通に影響はないのか、また所得税の増税が資産継承に与える影響など、2020年の住宅市場動向について有識者の観測を聞いた。

民法改正、個人情報保護法改正、所得税増税などで住宅市場が変わる可能性がある

2020年の不動産・住宅市況予測~岡本郁雄氏

<b>岡本郁雄</b>:ファイナンシャルプランナーCFP®、中小企業診断士、宅地建物取引士。不動産領域のコンサルタントとして、マーケティング業務、コンサルティング業務、住まいの選び方などに関する講演や執筆、メディア出演など幅広く活躍中。延べ3000件超のマンションのモデルルームや現地を見学するなど不動産市場の動向に詳しい。神戸大学工学部卒。岡山県倉敷市生まれ岡本郁雄:ファイナンシャルプランナーCFP®、中小企業診断士、宅地建物取引士。不動産領域のコンサルタントとして、マーケティング業務、コンサルティング業務、住まいの選び方などに関する講演や執筆、メディア出演など幅広く活躍中。延べ3000件超のマンションのモデルルームや現地を見学するなど不動産市場の動向に詳しい。神戸大学工学部卒。岡山県倉敷市生まれ

2019年の不動産・住宅マーケットは、都市部を中心に地価や不動産価格が上昇する一方で新築住宅の売れ行きが鈍化する1年だった。令和元年都道府県地価調査による基準地価は、前年比0.4%上昇。地方圏の商業地も28年ぶりに上昇に転じた。その半面、首都圏新築マンション供給戸数(2019年)は、前年比15.7%減の3.13万戸(出典:不動産経済研究所 首都圏・近畿圏マンション市場予測)の見込み。消費税率の引上げや台風19号の影響もあり首都圏新築マンションの契約率は2019年10月が42.6%、2019年11月が55.2%と低調に推移(ともに不動産経済研究所発表)している。

また、中古マンションは、2019年11月度の成約価格(首都圏)が前年同月比7.6%(東日本不動産流通機構 2019年11月度月例速報)上昇するなど堅調な売れ行きだ。リノベーション住宅など新築にこだわらない30代のユーザーも散見され中古市場は広がりつつある。民法の改正による「瑕疵担保責任」から「契約不適合責任」への転換は、取引の透明化につながり中古流通にもプラスになるはずだ。

2019年7月1日時点の都道府県地価調査では、台東区や荒川区など都心アクセスの良好なエリアの地価が上昇する中、首都圏遠隔地では下落エリアも見られる。厚生労働省発表の令和元年の出生数は推計86万4千人でピーク時(209万人)を大きく下回る。全国の婚姻件数推計値も58万3千組と減少傾向が続き住宅需要の増加は期待しにくい。2019年は、都心の駅直結タワーなど将来性と希少性を兼ね備えたプロジェクトに人気が集まった。2020年も将来を見据え住まいを選ぶ傾向は続くだろう。注目は、新築マンションの大量供給が続く東京湾岸エリアで、中古を含めかつてないほど選択肢が豊富だ。

2020年は、東京五輪関連施設だけでなくJR山手線の新駅「高輪ゲートウェイ」駅(3月)開業や、日比谷線の新駅「虎ノ門ヒルズ」駅(6月)誕生など都市再生が大きく進展する。内閣府発表(2019年12月18日)の政府経済見通しによれば令和2年度の実質GDP は、1.4%の成長見通しで不動産価格にはプラス要因だ。また、11月に行われるアメリカ大統領選挙の行方も気になるところ。アメリカの政策は、為替変動など日本の不動産価格にも影響を与え2020年の大きな変動要因であることは認識しておきたい。

新築マンションの供給は微増、大規模開発物件に注目~松田忠司氏

<b>松田忠司</b>:株式会社不動産経済研究所企画調査部主任研究員。1974年生まれ、福岡県出身。東京理科大学理学部卒。2004年8月に株式会社不動産経済研究所に入社。以降、一貫して新築分譲マンションの調査に携わり、首都圏マンション・建売市場動向を毎月発表している。2012年10月から現職松田忠司:株式会社不動産経済研究所企画調査部主任研究員。1974年生まれ、福岡県出身。東京理科大学理学部卒。2004年8月に株式会社不動産経済研究所に入社。以降、一貫して新築分譲マンションの調査に携わり、首都圏マンション・建売市場動向を毎月発表している。2012年10月から現職

華々しい五輪イヤーとなりそうな2020年ではあるものの、住宅市場はその中にあって厳しい状況が予想される。20年度の住宅着工は消費増税の影響などから86万戸前後となる見通しで、89万戸ほどが見込まれる19年度との比較では3万戸程度減少することになる。

マンション市場を見ると、低調だった2019年との比較では上向くことが期待できるものの、回復は弱いものになりそうだ。首都圏の発売は約3万2,000戸で、3万1,300戸程度を見込む19年と比べ2.2%増と、増加するものの微増にとどまる。一方、近畿圏の発売は約1万7,000戸で、19年(1万6,800戸見込み)比1.2%増と、やはり微増となりそうだ。マンション価格は施工費の高騰などから高止まりしており、2020年中に急落することは考えにくい状況で、供給も大幅増となることは見込めない。しかし首都圏では価格が上昇し過ぎて販売が厳しくなった一部のエリアなどで調整が入り、価格は若干ながら下がる可能性もある。
東京23区の供給は1万4,000戸と19年(1万3,800戸)比1.4%増となる見込み。引き続き湾岸や駅近の大型超高層案件が市場をけん引、中でも3月発売予定の『プラウドタワー亀戸クロス』(江東区、25階建て、総戸数934戸)や6月予定の『パークタワー勝どきミッド/サウス』(中央区、45階・58階建て、総戸数2,786戸、うち販売1,679戸)などが目玉となるほか、3月の高輪ゲートウェイ駅暫定開業によってその周辺エリアにも注目が集まる。

その一方、23区内を中心に多くの物件が東京五輪開催期間中から8月中旬までの1ヵ月程度モデルルームを休業することになりそうで、秋商戦の本格始動が例年より遅くなるといった影響が出る可能性がある。また19年の台風19号による被害から、ハザードマップで浸水被害が想定されるような河川沿いの物件では防災強化が急務となっており、その影響は2020年にも続くことになりそうだ。

2020年は東京23区以外でも大阪市の靱本町計画(西区、36階建て、約350戸)のほか、名古屋市や札幌市といった全国主要都市の中心部でも大規模超高層が始動して人気を集める。マンション市場が本格回復するのはまだ先になるものの、このような大規模開発を中心に見どころの多い一年になりそうだ。

2020年の新築マンション価格は高値安定~酒造 豊氏

<b>酒造 豊</b>:(株)長谷工総合研究所 取締役市場調査室長。1986年4月 長谷川工務店(現長谷工コーポレーション)入社。分譲マンション市場動向の調査・分析を担当。1994年7月長谷工総合研究所に配属。首都圏・近畿圏における分譲マンション市場動向中心に、住宅市場、不動産市場全般の調査・分析を担当。2001年6月より、不動産関連情報誌「CRI」の編集人を務めている酒造 豊:(株)長谷工総合研究所 取締役市場調査室長。1986年4月 長谷川工務店(現長谷工コーポレーション)入社。分譲マンション市場動向の調査・分析を担当。1994年7月長谷工総合研究所に配属。首都圏・近畿圏における分譲マンション市場動向中心に、住宅市場、不動産市場全般の調査・分析を担当。2001年6月より、不動産関連情報誌「CRI」の編集人を務めている

五輪イヤーの2020年が始まった。2020年の東京五輪開催までは不動産価格は上昇し続けるものの、開催終了後には国内景気の低迷などもあって不動産価格は暴落するとの声もあるが、現時点ではその可能性は少ないと思われる。

不動産経済研究所によると、2019年の首都圏における新規発売戸数は3万1,000戸強と1992年(2万6,248戸)以来の低水準となり、近畿圏でも1万7,000戸弱と、首都圏同様、1992年(1万2,121戸)以来の低水準となる見通しだ。2020年の新規供給戸数も大幅増とはならず、横ばいから微増にとどまると思われる。
新築マンションの平均価格は首都圏全体で6,000万円程度に上昇していることから、中堅所得者層が購入可能な4,000万円未満の供給戸数が大幅に減少している。2020年の新築マンション価格も建築資材などは景気や為替の状況などから価格変動が生じる可能性はあるものの、労務関連費用は働き方改革などの影響もあって、下がる可能性は少ないのが実情だ。加えて、最寄り駅から徒歩5分以内といった利便性の高い物件が供給の中心であり、立地条件の面でもマンション価格が下がる可能性は少ないと思われる。新築マンションの新規供給戸数が大幅増とならず、価格も高値安定となれば、中古マンション市場の拡大傾向が2020年も継続すると思われる。

また、2019年は大型台風によって大きな被害が生じた。近年、「数十年に一度」や「観測史上初」といった豪雨が毎年のように発生し、大きな被害が生じている。これまで以上に「安全・安心に住まう」といった視点が重要になる。
住宅購入については、昔から「買いたい時が買い時だ」と言われている。まずは「住みたい・買いたい」と思える物件を見つける必要がある。日々の生活をイメージして、マンションの立地条件や周辺環境、マンション価格、仕様設備などを検討する必要がある。

2020年 01月16日 11時05分