墨田区が2013年に開始以降、続々と全国に広がった子育て支援住宅

子どもの誕生や進学などをきっかけに、住み替えや引越しの検討をする人は多い。とはいえ、「子育てがしやすい住宅に住みたい」と思っても、どんな基準で選べばいいのか、すぐに具体的な条件があげられない人もいるのではないだろうか。選択の際の参考となるひとつの指針として、自治体による子育て支援住宅の認定制度がある。細かな条件は自治体によって異なるが、安全性や家事のしやすさ、子育て支援の設備やサービスがある物件が認定対象とされている。

東京都が子育て支援住宅認定制度を開始したのが2016年。それに先立ち、全国で初めて子育て向けマンションの認定制度「すみだ良質な集合住宅認定制度」を2013年に開始したのが、東京都墨田区だ。それ以降、続々と認定制度を設ける自治体が拡大していった。

はじまったばかりの制度であり、また基準が厳しいこともあってか、まだまだ認定された物件が多いとは言い難い状況だ。そんななか、墨田区の「すみだ良質な集合住宅認定制度(子育て型)」と、「東京都子育て支援住宅認定制度」の両方の認定を受けた物件があると聞き、子育て応援賃貸マンション「ネウボーノ菊川」を訪れた。

ネウボーノ菊川外観。入口には「すみだ良質な集合住宅認定制度(子育て型)」と「東京都子育て支援住宅認定制度」の認定マークがネウボーノ菊川外観。入口には「すみだ良質な集合住宅認定制度(子育て型)」と「東京都子育て支援住宅認定制度」の認定マークが

多世帯の子どもと親が集うキッズスペース

<上>保育園から帰ってすぐに、中庭からキッズスペースに立ち寄った男の子。中央の男性が萬富の仲渡孝雄さん。子どもたちや親御さんから「なかとさん、なかとさん」と呼ばれ親しまれている<br>
<下>広々としたキッズスペースで走り回って遊ぶ子どもたち<上>保育園から帰ってすぐに、中庭からキッズスペースに立ち寄った男の子。中央の男性が萬富の仲渡孝雄さん。子どもたちや親御さんから「なかとさん、なかとさん」と呼ばれ親しまれている
<下>広々としたキッズスペースで走り回って遊ぶ子どもたち

前述したとおり、全国に先駆けて認定制度をはじめた墨田区であっても、認定されている物件は4件と決して多くない。(「子育て型」のみ、2018年5月17日現在)

耐火構造、エレベーター設置、基準適合住戸が全戸数の67%以上といった基本的な条件に加えて、住戸専有面積55m2以上、また居室3以上、床衝撃音対策など6つの必須条件、さらに住戸や共用部分、立地についても基準が設けらている。これだけ細かな基準を満たすには、新築で最初から認定を受けることを前提にして立地や設計を検討しなくては難しそうである。

「企画段階から東京都および墨田区の認定基準を満たすことを前提にしていました。弊社は長く不動産賃貸業を墨田区で営んでおりますが、社宅やビルの賃貸はあっても、子育て世帯向けの物件というのは初の試み。基準を満たすことは当然ですが、不動産物件として子育てを応援するにはどうすればよいのか。ただ設備や安全性などスペックだけでなく、どんなサービスが提供できるかを模索しながら進めていきました。当初はマンションの1階に保育園や小児科を誘致しようかと考えていましたが、入居者の皆さんが利用できる、キッズスペースにすることにしました。保育経験のある管理人が常駐し、イベントを開催するなどソフト面に特に力を入れることにしました。」

とは、ネウボーノ菊川の企画段階からかかわってきた株式会社萬富の仲渡孝雄さん。そもそもなぜ、子育て支援住宅に着目したのだろうか。

「萬富は1845年創業、もとは木材を扱っていましたが、不動産業としての歴史も長くあります。不動産の賃貸を通じ、長年お世話になっている地域に貢献できることがしたいという想いと、社長がちょうど子育て世代であることもあって2016年から子育て応援事業がはじまりました。その地域の子育て世代を応援することは、地域の永続性を支援することになり、私たちが不動産業を営むうえでも、欠かせないことだと思っています。」

みんなで育てているような感覚

では、実際に住んでいる人たちは子育て支援住宅での暮らしをどう感じているのだろうか。ちょうど、ネウボーノ菊川の1階にある、キッズスペースで子どもたちを遊ばせていたお母さんたちに伺った。

「私たち家族が関西からの転勤ということもあって、新しい土地で子どもに友達がすぐできたらいいな、と、子どものために入居を決めました。でも、実際に住んでみたら、子どもの為というより、私にとってよかったですね。うちの子はキッズスペースが大好きで、帰ってきたらまずここに寄ります。」

また、もう一人のお母さんも同様、ほかの地域から引越してきたという。
「ちょうどこの物件への引越しと2人目の出産が重なり、大変な時期だったのですが、管理人さんがキッズスペースに居てくれて、話し相手になってくれるのが心強かったですね。普通のマンションだったら環境の変化を上手く乗り越えられなかったかもしれません。同世代の子どもを持つお母さんともよくここでお話しして、世間話とか情報交換ができて住んでいて楽しいです。」

ネウボーノ菊川では、子育て経験あり、もしくは保育士資格を持っている管理人が週5日(水・金以外)日中の時間帯に常駐する。3人の子育て経験がある管理人さんは、「雑誌や育児書にある内容は全て満点の完璧なやり方。でも、忙しい中あれもこれも完璧にやろうとすると疲れてしまう。夜泣きのことや離乳食のこと、ささいなことが相談できる場があることがストレス発散になっているようです。イベントも定期的に企画・開催していますが、イベントを通じて入居者の親御さん同士、お子さん同士が仲良くなっていってますよ」と話す。

よその子、うちの子、という雰囲気ではなく、ここは「みんなで育てているような感覚」という、お母さんの言葉が印象的だった。

<上>共用部のキッズガーデン内にある菜園。きゅうりやパプリカなどの夏野菜が植わっている。苗植えや収穫は日にちを決めてイベントとして実施。水やりをする子どもたち<br>
<左下>キッズスペースにはおもちゃを常備。奥にしまってあるおもちゃもあり、その子の好きなものに合わせて管理人さんが出してくれることもある<br>
<右下>キッズスペースに隣接する和室のゲストルーム。布団も用意してあり、申請をすれば家族が宿泊することも可能(有料)<上>共用部のキッズガーデン内にある菜園。きゅうりやパプリカなどの夏野菜が植わっている。苗植えや収穫は日にちを決めてイベントとして実施。水やりをする子どもたち
<左下>キッズスペースにはおもちゃを常備。奥にしまってあるおもちゃもあり、その子の好きなものに合わせて管理人さんが出してくれることもある
<右下>キッズスペースに隣接する和室のゲストルーム。布団も用意してあり、申請をすれば家族が宿泊することも可能(有料)

子育て世帯向けに考えられた設計

ネウボーノ菊川は、55m2の2LDKタイプが22戸、29m2の1DKタイプが4戸の計26戸。入居対象者は「これから出産を控えている世帯 」、もしくは「未就学児(小学校入学前)が入居する世帯などだ。

室内には、家事をしながら子どもの様子が見守れる対面式のキッチンがあり、トイレやお風呂なども広めのつくりになっている。コンロはチャイルドロック付で、シャッター付コンセントや、柱や壁には角のないものを採用するなど、安全性にも配慮している。全戸に大型トランクルームを設置したことも、子どものおもちゃなど何かとかさばるものが多い子育て世代の入居者に好評だそうだ。

キッズスペース以外にも、砂場やキッズガーデンなど、子ども達が遊べるスペースがある。菜園では野菜を育てており、子どもの食育にも役立っているとのこと。全戸平置きの駐輪場に加え、複数自転車がある世帯はトランクルームに自転車を保管できる。自転車やベビーカーがあっても移動がしやすいよう、廊下もエレベーターも広め。カーシェアリングサービスも提供されており、入居者は月会費無料とのこと。

物件は道路に面したところにあるのだが、共用スペースからの出入り口のキーは子どもの高さでは届かない位置に設置されており安心。これは、認定基準以外で工夫した点だという。

<左上>2LDKタイプのリビング・ダイニング<br>
<右上>1戸に1つ設置されたトランクルーム<br>
<左下>広々とした廊下。ベビーカーがすれ違えるよう広めのつくりにした<br>
<右下>入居者はカーシェアリングサービスを月会費無料で利用できる<左上>2LDKタイプのリビング・ダイニング
<右上>1戸に1つ設置されたトランクルーム
<左下>広々とした廊下。ベビーカーがすれ違えるよう広めのつくりにした
<右下>入居者はカーシェアリングサービスを月会費無料で利用できる

子育て応援サービスの提供で物件の差別化も期待

管理人が主催した、入居者同士の交流イベントの様子管理人が主催した、入居者同士の交流イベントの様子

ネウボーノ菊川の入居対象者を絞ることについて、当初は悩んだと仲渡さんは話す。

「貸主にとって、入居対象者を絞ると言うことはリスクになりますが、結果的にはよかったと思っています。例えば分譲マンションであれば一気に子ども達も成長していくのでこういったキッズルームやサービスの提供は難しいですが、賃貸であれば入居者の方が入れ替わっていきますので、一定のサービスが提供し続けられる。また、お子さんの年齢が近いこともありコミュニケーションも生まれやすいです。例えば、同じようなスペックの新築マンションが隣に建ったとしても、この物件が特別なサービスを提供することによって物件の差別化にもなります。現在満室で、入居者様からも好評です。今後も子育て応援住宅を増やしていければと考えております。」

共用部の充実やサービスの提供が賃貸物件でも進んでいくことは、入居者にとって嬉しいことだ。周辺の家賃相場と比較してやや賃料は高めであるものの、「こんな物件がもっと増えてほしい」と話す入居者も。入居者ニーズに合わせた物件の差別化は進むのだろうか。子育て支援住宅に認定される物件が増えていくことも、期待したい。

2018年 06月26日 11時05分