郊外型団地の課題と、のびのびとした環境で子育てをしたいファミリー層の願い

広大な敷地にある、若葉台団地。豊かな自然に囲まれ、四季が楽しめる環境が魅力だ広大な敷地にある、若葉台団地。豊かな自然に囲まれ、四季が楽しめる環境が魅力だ

若葉台団地は横浜市旭区にあり、約90ヘクタールもの広大な敷地を持つ分譲住宅・賃貸住宅などの複合団地だ。
敷地内には総戸数6,300戸の集合住宅の他、学校や幼稚園などの教育施設や医療施設に、充実した商業施設もあり便利な生活環境だ。さらに広大な敷地には10の公園までもを備えている。
「とても緑が多い団地です。里山がそのまま団地の中に入っているような環境ですね」
そう語るのは、神奈川県住宅供給公社 団地再生事業部 事業企画課の水上弘二氏だ。

昭和50年代に分譲が開始されたこの若葉台団地も、平成4年のピーク時には人口2万人を超えたが、平成27年の調査では1万5千人を切ったという。高齢化率に至っては39.5%。3つあった小学校と2つあった中学校はそれぞれ1つに統合されている。
「郊外型団地の典型的なパターン」と水上氏が話すように、郊外型団地の多くは、子ども世代の流出などによる少子高齢化が進み人口が減少し続けている。
しかし現状の若葉台団地の空き家率は賃貸住宅で7%前後で推移しており、分譲住宅の空き家率は、実際に住んでいない住居を調査した結果、2%程度だという。
「若葉台団地はまだ少し新しい団地なので、世間で騒がれている空き家問題というところまではいきません。しかしこのまま何の対策もせずにいれば、さらなる人口減少や空き家率の増加、それに伴う不動産価格の下落が起きることが予想されます。そうなる前に対策を打ちたいと考えました。」

そこで、この若葉台団地を、緑の多いのびのびとした環境で子育てをしたいという若年層や子育て世帯の住み替え先のひとつとして知ってもらう為に、4月11日に「体験入居室」をオープンした。実際に団地に宿泊して、団地の住み心地や環境を肌で感じてもらうことで、具体的に入居を決めるきっかけとなり、若年・子育て世代の流入を促したいとしている。

団地再生へ向けての若葉台団地の取り組み

郊外型団地の課題には国土交通省も取り組んでおり、平成25年度に「住宅団地型既存住宅流通促進モデル事業」という補助事業が創設されている。若葉台団地ではその補助事業を活用し、「世代循環型(Dターン)」と「流通誘導型(Iターン)」に分類し、各種取り組みを実施している。

まず「Dターン」は、ふるさとの若葉台を巣立った子世代の団地回帰をサポートする。そこで現在も住む親世帯が中央バスターミナルや商店街などに近く生活利便性の高い賃貸住宅に住み替え、団地の外に住んでいた子世帯が、親世帯が住んでいた3LDK-4LDKの部屋(分譲棟)に移り住むというイメージだ。

もう1つの「Iターン」は、団地にゆかりがない人を新たに呼び込むもの。
「体験入居室」はこの取り組みの一環で、団地に住んだことがない人に実際に団地暮らしを体験してもらい、若葉台の魅力や住み心地をリアルに肌で感じてもらい、最終的に団地内への住み替えに繋がるよう、サポートをする。

「まずは団地暮らしを体験していただいて、若葉台への住み替えを具体的に検討していただくきっかけになればと整備したのが今回の体験入居室になります。宿泊を通じて環境やコミュニティなどの団地の魅力と、暮らす上での利便性を体感していただきたいですね。」と、水上氏。
居室内の住み心地というよりも、大型スーパーや飲食店が連なる商業施設の利便性や、そこや広場に住人が集まる活気ある様子、緑が多く、子育てに適した環境であると体感してほしいということだろう。また、バス便であることがネックと思われがちだが、通勤通学の時間帯は特に、多くの本数が複数路線運行されている。こうした実際の通勤経路も体験してみることで、どう感じるのかを確認してほしいという思いもあるそうだ。

年間を通して四季折々の様々なイベントが開催され、多くの人が集う。年間を通して四季折々の様々なイベントが開催され、多くの人が集う。

気になる「体験入居室」へ

キッチンからリビングを見渡せるつくりの、体験入居室のLDK。あたたかみのある内装にもこだわったというキッチンからリビングを見渡せるつくりの、体験入居室のLDK。あたたかみのある内装にもこだわったという

気になる「体験入居室」を案内してもらった。
元々の間取りは古い団地らしい3DK(58m2)だったが、カウンターキッチンのある1LDKの部屋に改修されている。小さな子供がいる場合、目が届く広いLDKがある方が良いのではと考えてこの間取りにしたのだそうだ。一般的な団地のイメージとは異なる、今風のナチュラルでモダンなオシャレなモデルルームのようだ。

寝室の内装には、神奈川県住宅供給公社が別途プロジェクトで参加しているメガソーラープロジェクトにおいて発生した伐採材が使われており、自然な色合いの落ち着いた雰囲気になっている。
ベランダからは団地内の広場や商業施設が見渡せて、その奥に広がる森のような公園も見える。広場などで遊ぶ子どもたちの元気な声が聞こえてきていた。
利用料金は無料で、寝具やタオル、調理器具、食器、各種家電製品など、生活に必要なものは原則用意されているので、少ない荷物で気軽に宿泊できそうだ。宿泊体験できる期間は原則として1泊2日ということだ。

この部屋は体験入居のために用意された部屋であるため、体験を経て具体的に賃貸住宅に入居を希望する場合は現在募集している他の部屋から選ぶことになる。間取りを変更したリニューアル住戸など様々なタイプの間取りから選ぶことができるそうだ。
また、もちろん賃貸だけでなく売買物件も含めて検討することができる。「若葉台まちづくりセンター」では賃貸・売買の仲介からリフォームの提案まで色々なニーズに応え、ユーザーにとっての選択肢を多く用意して住宅の適正な流通を促すことが団地全体の活性化につながるとの考えだ。

子育て世代のニーズと団地再生

神奈川県住宅供給公社の水上弘二氏(左)と渡辺哲氏(右)神奈川県住宅供給公社の水上弘二氏(左)と渡辺哲氏(右)

この「体験入居」の取組みについては、住人も同じ方向を向いて応援してくれているという。「若葉台連合自治会が発行している”みんなの若葉台”という住民向けのコミュニティ新聞で、一面の紙面を割いて体験入居室のことを紹介してくれています。管理側だけではなく、住人の皆さんと一緒にプロジェクトを組んで、色んな取組みを行っている。そういったコミュニティの賑わいも、この団地の大きな魅力だと考えています。」(水上氏)

実際に団地を訪問して分かったが、駅からのバスの本数も多くてアクセスも便利だと感じたし、商業施設の多さからも生活は便利そうだ。学校帰りの子どもが近所の人と楽しそうに話している姿も見られ、まちに活気があり、明るい印象を受けた。
「若葉台の特徴として見られるのは、住民さんがみんな若葉台ラブだということです」という水上氏。
団地の衰退は、進む少子高齢化や人口減少とともにコミュニティや活気が失われることが原因しているように思う。若葉台団地の場合は、住民が「まちを盛り上げよう」という意識をもち、実際に行動されている部分が魅力となり、他と比較しても低い空室率を保つことができているのではないだろうか。

体験入居室を利用することでこうしたソフト面を体験できるのは、団地にも、住替えを検討している世帯にも、双方にとてもメリットがあると思う。
一般的な住替え先の検討方法としては駅からの距離や間取りなどが選択肢になりがちだ。しかし、実際に住んでみないとわからないコミュニティや環境こそが、実際の子育て環境にとっては大事なのではないか。今回のように実際の暮らしを体験してみるニーズは、現状もとても多いだろう。
若葉台団地の緑あふれる環境や賑わいのあるコミュニティを保ち、その環境を望む若い世帯がのびのび暮らすことで、団地再生へとつながり、最終的に双方のニーズを満たす。そのきっかけとなる「体験入居」、住まいの選択肢として団地を検討する方は、試してみてはいかがだろう。

2015年 04月28日 11時07分