代官山駅から徒歩2分、渋谷区所有の建物を街づくりの視点で有効活用

駅から建物、室内から駅が見えるほどの距離に建っており、駅からほとんど一直線駅から建物、室内から駅が見えるほどの距離に建っており、駅からほとんど一直線

場所は東急東横線代官山駅から徒歩2分。渋谷区所有の築48年、鉄筋コンクリート造4階建ての建物である。

東急電鉄がシェアハウスを手がけるのは今回が初めて。それなのに、シングルペアレント向け(*)、子育てをシェアするという運営難易度の高そうな物件になったのには理由がある。「区有資産という事もありますが、街づくりを手がける当社が、あえて今取り組む事業として、住まい方や家族の形の変化に応えるものを作りたいという意図もありました。また、建物自体が4階建ての小規模なものでもあり、ターゲットを絞り込む必要がありました」(東急電鉄都市開発事業本部住宅・ソリューション事業部住みかえ事業推進部賃貸住宅担当・近藤美穂さん)。

そこで、耐震補強を施した上、各戸は10.45m2から15.97m2のワンルームとし、各階にミニキッチン、トイレ、浴室、洗面室、1階に3台のIHガスコンロのあるキッチンとコモンスペース、屋上に菜園、子どもの遊び場、洗濯物干し場などを備えたシェアハウスへとリノベーション。2014年3月には入居が始まる。

(*)子ども好きな単身者も入居可

ソーシャルな繋がりで子育てを助け合う「子育てシェア」を導入

日当たりの良い共用のリビング。テレビ、いたずら書きしても良いウォールなどがあり、壁面には作り付けの収納も日当たりの良い共用のリビング。テレビ、いたずら書きしても良いウォールなどがあり、壁面には作り付けの収納も

共用部のリビングに子どもが落書きできるボードを設置、屋上に家庭菜園や子どもが素足で遊べるエリアを作るなど、設備面での子育て配慮はもちろんだが、それ以上に注目したいのは、ワンコイン(500円)で子育てを頼り合う地域ネットワーク「子育てシェア」を導入するという点。これは、PC、スマートフォンで子どもを預かってもらいたい場所や時間を登録、同じく登録している顔見知りの子育て仲間に手助けしてもらうというもの。ソーシャルな繋がりで子育てを支え合うという、従来の託児システムにない仕組みである。

全く知らない人に預けるわけではなく、少額とはいえ、料金が発生するので、知っている人に繰り返し預けても申し訳なく思う気持ちを持たずに済む点などが利用者に共感されている。

これらが評価され、2013年には経済産業省「新事業創出のための目利き、支援人材育成等事業」などにも選ばれた。また、不測の事態も想定、「子育てシェア」を通じた支援には対人、対物、アレルギーによる事故を対象に最大5000万円の賠償責任保険が適用される。こうしたサービスで保険が適用されるのは日本では初めてだという。

「このサービスを最大限活用してほしいです。入居者間のコミュニティは入居者が自分で作っていくことになりますが、このサービスを提供しているAsMamaさんには年に数回交流会イベントなどを行ってもらい、コミュニティ形成を手伝っていただくことになっています。原則として入居者は全員このサービスに加入することとなっており、まずは入居者同士で助け合い、さらにはこの建物を拠点に周辺にも助け合う子育ての輪を広げていければと考えています」(前出・近藤さん)。

シェアハウスを起点に街に新しい価値を創出

リビングの隣にあるキッチン。大型冷蔵庫にキッチンは3セットあり、収納も豊富。これなら本格的な料理も十分可能リビングの隣にあるキッチン。大型冷蔵庫にキッチンは3セットあり、収納も豊富。これなら本格的な料理も十分可能

この話で腑に落ちたことがある。担当者の近藤さんの肩書きにある、都市開発事業本部(中略)住みかえ事業推進本部という部署のことである。東急電鉄は街づくりを通じた沿線の価値の維持、向上に熱心な会社で、早い時期から沿線内で高齢者、若い世代の住替え促進などを手がけている。だが、その部署とシェアハウスにどんな繋がりがあるのか、名刺を見て疑問に思っていたのだ。

しかし、シェアハウスを作ることで、街に子育て支援のコミュニティが生まれるとしたら、それは街に新しい価値を付加することになる。つまり、今回の事業で、シェアハウスは単体の住宅としてだけ位置づけられているわけではなく、街の価値創出の場として考えられているというわけである。実際、同社が代官山とは別に進めている大田区上池台のシェアハウスも、街に開かれ、街と一体化する存在になるよう意図されているという。

「グループ企業の寮をリノベーションし、元々あった大きな食堂を活かした「食」をテーマにした物件です。業務用ガスコンロを設置し本格的な調理も楽しめます。食に関するイベントなどで、商店街などともジョイントしていけたら面白いだろうと考えています」。

商店街が充実しているエリアである。そこでイベントを通じて地元の人と繋がりができ、顔見知りが増えることは、入居者の安心、安全な暮らしにもつながる。加えて、開かれたシェアハウスで街を変える、面白い発想だと思う。

未婚のシングルマザー急増を実感する問い合わせ多数

屋上からは渋谷のビル群が望める。手前にウッドデッキ、奥に家庭菜園用のプランターが見える。まだ、がらんとしているが、生活が始まれば楽しい場所になるはずだ。反対側には洗濯物干し場もある屋上からは渋谷のビル群が望める。手前にウッドデッキ、奥に家庭菜園用のプランターが見える。まだ、がらんとしているが、生活が始まれば楽しい場所になるはずだ。反対側には洗濯物干し場もある

さて、最後にこの物件への反響を聞いてみた。シングルペアレント、特にシングルマザーと聞くと、経済的に大変な人が多いのではないかとつい思ってしまう。いくら代官山とはいえ、10万円近い家賃で入居希望者はいるのか。

「たくさんの問い合わせを頂いており、特に驚いたのはゼロ歳、1歳のお子さまのいる方からの問い合わせが多かったこと。基本的に、ご入居いただけるのは3歳から小学生以下で1人としています。それより小さいお子さまだと、ベビーカーのスペースを確保する必要があるのですが、敷地に余裕がなく、これから作るわけにも行かないので、現在は申し訳ないのですが、お断りしている状況。離婚だけではなく、未婚で子どもを持つといった選択をする方々も増えているのだろうと感じます」。

2010年の国勢調査では未婚のシングルマザー急増が話題になった。シングルマザー全体の数は約108万人で、そのうち、死別は7.2%、離婚は80.6%となっており、未婚の母は12.2%、約13万2000人である。そして、この数字は前回の2000年に比べて2倍以上。この10年で一人で産み、育てる選択をした女性が倍以上になっているのである。

この理由は言う間でもなく、女性の経済力の向上。特に渋谷は比較的男女差を感じにくくて済むIT系の企業が多く、家賃補助などが充実している会社もある。10万円という家賃は決して安くはないが、それでも子育てしながら働くなら、会社の近くのほうが便利だ。とすると、都心ではこの手のニーズはまだまだあるのかもしれない。


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「みんなで子育て」シェアハウス(東急電鉄)
子育てシェアサービス(AsMama)
シングル・マザーの最近の状況(総務省統計局)

2014年 02月15日 11時09分