住宅が「つくれない」局面へ

はじめに

住宅が「つくれない」局面に入りつつある。職人は慢性的に不足し、資材のコストは10年で4割上昇した。そこへ2026年春のナフサショックが重なった。こうした「ヒト」と「モノ」の二重の供給制約に、現場はどう抗えるのか。ヒントはリノベーション業界の最前線にある。筆者が選考委員長を務めるリノベーション・オブ・ザ・イヤーの近年の受賞作品群を手がかりに、供給制約時代の3つの方向性を探る。

【LIFULL HOME'S】リノベーション会社を探す
【LIFULL HOME'S】ハウジングアドバイザーにリノベーションの無料相談をする

職人不足と資材高騰にナフサショックの追い打ち

住宅建築の前提条件、端的に言えば工期やコストの相場感が、かつて私たちが知っていたそれとはまったく次元の異なるものになった。建設業界に関わる各種統計をみれば、その変化の大きさは驚くべきものである。
まず職人不足の深刻さだ。建設技能者数は1997年の464万人から2024年には303万人へと、ピーク時比で34%も減少している(日本建設業連合会)。就業者の高齢化も著しく、大工就業者の40%以上が60歳以上、平均年齢は約55歳に達する。その一方で30歳未満はわずか7%にとどまり、若手人材の不足は深刻である。帝国データバンクによると2024年の建設業の「人手不足倒産」は99件と全産業で最多、わずか2年で約3倍に膨れ上がった。
次に資材コストの高騰だ。一般財団法人建設物価調査会の建設資材物価指数(2015年基準)は2025年時点で143を超え、10年で4割以上上昇したことになる。これが人手不足による労務費や物流コストの上昇と合わさり、木造住宅の建築コストは2026年3月時点で2015年比で約50%以上は高騰している。

このような状況にナフサショックが追い打ちをかけた。2026年4月13日、TOTO株式会社がユニットバスの新規受注停止を発表した(その後すぐに受注再開するも、納期見通しは不透明のまま)。壁・天井に貼るフィルム用接着剤に含まれるナフサ由来の有機溶剤の調達が困難になったことが原因だ。そのしわ寄せが他のメーカーへドミノ倒しのように波及し、業界は大混乱に陥った。
現代の日本の住宅は「石油化学製品の集合体」と言っても過言ではない。断熱材、塩ビ管、コーキング剤、接着剤、溶剤など見えない部分から、樹脂サッシ、壁紙、床材、ユニットバス、システムキッチンといった見える部分まで、一般消費者の想像をはるかに超えた範囲でナフサ由来の原料に依存している。いま現場を悩ませているのは、ただ「高くなった」だけでなく、「入ってこない」「いつ入るか分からない」という状況だ。
思い起こせば、コロナ禍のウッドショック、半導体不足によるトイレ・給湯器の製造停止が起こったのもほんの数年前である。そして今回のナフサショックだ。グローバルなサプライチェーンのどこか1ヶ所に目詰まりが生じれば現場がたちまち麻痺してしまうという構造的な脆弱性が、繰り返し露わになっている。

「ヒト」と「モノ」——二重の供給制約時代の経営リスク

職人が足りず、材料も高く、しかも安定して入ってこない。この状況下では、かつてのようにプランを設計し、効率的な工程を組み、仕様通りに資材を調達し、職人を手配して、施工し引渡しする、という事業サイクルに見通しが立たなくなっている。経営リスクとしては、コストが「上がる」よりも「読めなくなる」方が深刻だ。着工遅延・工期延長はキャッシュフローの悪化を招き、経営の不確実性は増す一方である。

人口減少と高齢化の結果としての人手不足は、今後も解消の見込みがない。2030年には建設技能工が約18万人不足するとの試算もある。働き方改革(時間外労働上限規制対応)によって短くなった労働時間が再び長くなることも考えにくい。仮に外国人労働者を大量に受け入れるとしても育成にはそれなりの時間もかかるし、なにより現場の品質を担保する施工管理者(現場監督)の不足がすでに危機的状況だ。また、当面は円安環境が続くと見られるため、輸入原料のコストも高止まりしたままだろう。ナフサショックはいずれ終息するとしても、世界情勢の不透明さを前提とすれば、グローバルなサプライチェーンには常に不安定さが伴うことを覚悟しなければならない。「ヒト(職人)」と「モノ(資材)」という二軸の供給制約は、一時的な局面ではなく、これからの住宅建築の恒常的な条件として受け入れなければならない。

では、住宅建築はこの構造的な制約にどう抗うか。悩みの種は、「ヒト」と「モノ」という2つの供給制約である。それゆえ対策もまたこの2点にフォーカスされる。そのヒントを、リノベーション業界の近年の動きに見出すことができる。

リノベーションが課題の最前線

なぜリノベーションなのか。理由はその「小ささ」にある。ハウスメーカーや新築分譲・買取再販事業と異なり、個人住宅のリノベーションは1戸ごとのオーダーメイドでつくられるためスケールメリットを追求しにくい。そのため職人や建材・製品の在庫をあらかじめ確保しておく余裕がなく、職人やメーカー・問屋への交渉力も弱い。だからこそ、コロナ後に顕在化した人手不足と物価高の影響を真っ先に受けたのがこの業界だった。株式会社リフォーム産業新聞社の調査では、リフォーム事業者の8割超が人材不足を訴え、「職人不足」が最大の経営課題となっている(「住宅リフォーム市場データブック2026」)。
しかし逆に言えば、小さく柔軟な事業体は環境の変化にいち早く適応する力も持つ。筆者が選考委員長を務める「リノベーション・オブ・ザ・イヤー(一般社団法人リノベーション協議会)」は、その年の最もエポックメイキングな作品を表彰するアワードのため、時代の変化の波頭がいち早く表れる。そういった視線で改めてこの数年の受賞作品群を振り返れば、供給制約時代を「前提」とした仕事が確実に増えていることが分かる。

以下では、近年のリノベーション・オブ・ザ・イヤー受賞作品から、二重の供給制約時代の生存戦略として三つの方向性を読み解いていく。なお、紹介するリノベーション事例は、設計施工当時に必ずしも二重の供給制約時代の生存戦略として意図されたものではない。しかし今から振り返ってみれば、そのような文脈で再解釈が可能である、という見立てである。

ヒント1:DIYを「補完的労働力」として設計する

「ヒト」の制約への直接的なアプローチが、DIYの再評価である。2025年の総合グランプリを受賞した「人間は、つくることをやめない」(合同会社つみき設計施工社)は、住み手や友人が仕上げや造作に関わり、空間を段階的に完成させていくプロジェクトだ。耐震・断熱など構造的な基幹部分はプロが担い、家族と100人以上の仲間が数ヶ月かけて内外装や外構を仕上げた。

2025年総合グランプリ「人間は、つくることをやめない」(合同会社つみき設計施工社)
家族と100⼈以上の仲間が数ヶ月かけてDIYで内外装を仕上げた2025年総合グランプリ「人間は、つくることをやめない」(合同会社つみき設計施工社) 家族と100⼈以上の仲間が数ヶ月かけてDIYで内外装を仕上げた

ここで行われたのは単なるコスト削減ではない。この作品がリノベーション・オブ・ザ・イヤーに投じたメッセージは、専門職能に委ねられてきた建築行為を再び生活者の側に引き戻す試みだ。規格化・工業化で効率化の極致として成立したプレファブ住宅を題材に、あえて非効率を引き受けながら住まい手が自ら手を動かす工程を組み込んでいる。住まい手にとっては、工期や仕上がりの均質性よりも、関与のプロセスそのものが何ものにも代えがたい価値と意味を持つ。

しかし現在、このアプローチは別の意味合いで読み解くこともできる。職人不足という制約のもとでは、DIYは価値観の表明にとどまらず、労働力の一部を補完する実務的な手段として機能するのだ。欧米では、ちょっとした補修や造作・壁の塗装・床の張り替え・設備交換まで、幅広くDIYが根付いていることはよく知られている。欧米人の生活文化や人生哲学に根ざす部分も大きいが、それだけでなく、深刻な職人不足とコスト高への否応無しの対応という側面も小さくはない。プロを呼んでも数ヶ月待ちというのも珍しくなく、依頼できたとしても工賃は高い。また熟練度の低い外国人労働者の仕事の質の低さも、ユーザーがDIYを選択する理由になっていると聞く。
これは対岸の火事ではない。「ヒト」の供給制約とはそういうことだ。日本のリフォーム事業者の最大の経営課題は「職人不足」であり、かつてはスケジュールを引いてから職人を手配していたのが、いまでは職人を確保してからでないとスケジュールが立てられない、というのが実情だ。受注はできても「対応できない」「着工できない」という切実な声が現場から上がっている。

日本でも10年ほど前にDIYはブームと言えるほどの盛り上がりをみせていたが、その後なぜかリノベーションシーンでの存在感は薄れていった。しかしこれからの日本の住宅現場で、職人の供給制約は大きくなることはあっても小さくなることはない。これを工業化で対応(現場加工の手間を減らす製品の開発)しようとすると、今度は「モノ」の供給制約のリスクを高めてしまう。DIYを「趣味の選択肢」ではなく「建築生産の新たな担い手」として再定義する時期が来ているのではないか。
設計上の鍵は「分業の明確化」にある。プロが担うべき領域(構造・耐震・防水・設備の基幹部分)と、住まい手が担える領域(塗装・タイル貼り・造作家具の組み立てなど)を明確に区分し、その前提で設計することで、性能に関わる品質を確保しつつ専門職の工数を削減できる。DIY前提の設計思想は、コスト・工期・顧客満足の三点を同時に改善する可能性を持っている。

■関連リンク
【LIFULL HOME’S PRESS】「DIY的 ー この小さくて大きな生活革命」島原万丈(2015)

2025年総合グランプリ「人間は、つくることをやめない」(合同会社つみき設計施工社)
家族と100⼈以上の仲間が数ヶ月かけてDIYで内外装を仕上げた2015年の記事「DIY的 ー この小さくて大きな生活革命」では、若い女性が牽引するDIYブームを取り上げた

ヒント2:「既存活用」で調達リスクを下げる

ごく単純な話だが、「モノ」の制約への第1のアプローチは新規に調達しないことだ。大前提として、すべての資材をゼロから調達しなければならない新築行為は、消費者にとって時間的にもコスト的にも非常にハードルが高いものになり、市場全体の中古住宅のリノベーションへのシフトが一段と進むという認識が必要だ。
そのうえで参考にしたいのが、2024年の総合グランプリ「ReMAKE―既存の内装を活かす試み―」(TOOL BOX株式会社)である。
この作品は、既存の間取りや仕上げを極力壊さず生かすことを前提に手を加えることで空間を再構築した実験的なリノベーションだ。I型のシステムキッチンを切断してL型に再生し、フローリングは表面塗装で意匠を変更、解体した建具や天井材は他の部分の材として転用する。そういう数々の工夫によって、既存の内装・設備の使える部分を最大限残しながら、まったく新しい空間デザインを成立させた。
ここで行われているのは「編集」という発想だ。スケルトンに解体したハコに一から新しくつくるのではなく、すでにあるものをどう読み替えるか——その判断の積み重ねによって、非常に個性的な空間が組み立てられている。

2024年総合グランプリ「ReMAKE―既存の内装を活かす試み―」(TOOL BOX株式会社)
解体ではなく二次加工に手間をかけることで生まれてくる新しいアイデアやデザイン2024年総合グランプリ「ReMAKE―既存の内装を活かす試み―」(TOOL BOX株式会社) 解体ではなく二次加工に手間をかけることで生まれてくる新しいアイデアやデザイン

このアプローチをモノの調達という点にフォーカスすれば、「壊さない」ことの意味がより鮮明になる。前述のように10年で約4割上昇した建設資材は高止まりが続いている。解体して新材に置き換える工程を最小化することは、調達コストと調達リスクを同時に削減する。価格が高騰し、いつ入るかも読めない資材に依存しなくてよい設計は、今やシンプルに経営合理性を持つ。
もちろん、実験的プロジェクトである「ReMAKE」ほどの徹底は、むしろ熟練の職人技を必要とする部分も大きく現実的にはハードルが高い。だが、古い建材やパーツを再生して活用する「アップサイクル」は、これまでのリノベーションでも広く好意的に取り入れられてきたことは事実である。建物の記憶の継承のために既存のものを再利用したり、古民家などが解体されるときにレスキューしていた建材や建具・家具などを新しいリノベーション空間に使用することで、新品の製品には出せない味わい深さを作り出すことなどが、アップサイクルの魅力である。

これまで「アップサイクル」は情緒的ないし意匠的な価値、あるいは環境意識の高い取組みとして語られることが多かった。しかしナフサショックを経験した今では、評価軸を変えるべきかもしれない。これは「サーキュラー・エコノミー(循環型経済)」の建築的実践でもある。サーキュラーとは循環を意味し、近代化以降の大量生産・大量消費・大量廃棄の産業モデルを反省し、資源の循環利用を重視して最小限の資源投入量で豊かさを得ようという考え方である。必要以上の解体・廃棄・新設という工程を根本から見直すことで、資材投入コストが下がり、調達リスクも回避できる。ともすれば「意識高い系」と揶揄されがちだった循環利用が、供給制約時代においては合理的な戦略の一つとなりうる。

2024年総合グランプリ「ReMAKE―既存の内装を活かす試み―」(TOOL BOX株式会社)
解体ではなく二次加工に手間をかけることで生まれてくる新しいアイデアやデザイン2023年特別賞「東京下町の古民家よ、再び」(株式会社コスモスイニシア) 解体される古民家から回収した建具や家具をマンションに再利用して和のテイストをつくる
2024年総合グランプリ「ReMAKE―既存の内装を活かす試み―」(TOOL BOX株式会社)
解体ではなく二次加工に手間をかけることで生まれてくる新しいアイデアやデザイン2022年特別賞「風景のカケラ、再編集「PAAK STOCK」」(株式会社PAAK DESIGN) 解体される古い建物から木材や建具をレスキューして、次の建築へ再利用するためにストックする

ヒント3:自然素材・地産地消で「サプライチェーン」を再設計する

「モノ」の制約への第二のアプローチは、素材選択の見直しが挙げられる。特に古民家リノベーションでは必要とされる木、土、石、紙といった自然素材由来の製品は、石油化学製品への依存度が低い。また地域木材は調達経路が短いので、物流コストの上昇に対して強みとなる。
2025年部門最優秀賞「市営住宅のあり方を、団地の経験値で解く」(株式会社フロッグハウス)は、通常ビニールクロスで仕上げられる壁に兵庫県産の無垢の杉板を使用している。同社は2025年にも芦屋市の市営住宅のリノベーションにおいて県産材をフローリングに使用するなど、地産地消を強く意識した仕事を続けている。

2023年部門最優秀賞&プレイヤーズチョイスアワード「これからの団地リノベのあり方を問う」(株式会社フロッグハウス)
神戸市内の団地の壁に兵庫県産の杉材を使用し、室内に柔らかな空気感と木の香りをもたらしている2023年部門最優秀賞&プレイヤーズチョイスアワード「これからの団地リノベのあり方を問う」(株式会社フロッグハウス) 神戸市内の団地の壁に兵庫県産の杉材を使用し、室内に柔らかな空気感と木の香りをもたらしている

たしかに自然素材にはコストや施工の難易度など課題がある。しかし供給制約という観点から改めて評価すると、その合理性が浮かび上がる。
第一に、供給リスクの分散だ。合成フローリングやビニールクロスなどナフサ由来の原料を使う内装材は、今回のショックで供給不安と値上がりが相次いだ。一方、国産木材・漆喰・珪藻土などの自然素材はこの連鎖から相対的に切り離されている。地産地消を基本とすることは、グローバルなサプライチェーンリスクをローカルな調達で置き換えるヘッジ戦略になる。このまま輸入に依存する製品の価格が上がり続ければ、価格差も縮まるだろう。第二に、居住環境の質の向上だ。複合フローリングやビニールクロスに比べて、無垢フローリングや漆喰・珪藻土の壁はまず見た目や手触りの上質さが違う。また、ケミカルな製品が経年でただ劣化するのに対して、自然素材は経年で味わいを増して表情の変化を楽しめるので、耐久性という点でもメリットが大きい。そのうえシックハウス症候群やアレルギーなどの健康リスクを低減する。第三に、地域産業への波及だ。住宅産業を地域の林業と結び直すことで、サプライチェーンのレジリエンスと地域経済の持続可能性が同時に高まる。株式会社フロッグハウスのように地産地消を基本とすることは、本来ローカルな生業であった住宅産業に地域性という価値を取り戻す契機にもなる。

「思想」から「戦略」へ——住宅建築の経済安全保障

DIY、既存資源の循環活用・アップサイクル、自然素材・地産地消。これら三つのアプローチは、これまで「思想やライフスタイルの選択」として語られることが多かった。こだわりのある人・好きな人が価値観や趣味として選ぶもの、あるいは意識の高い人がわざわざ選ぶもの——そういう位置づけだった。しかし、「ヒト(職人)」の慢性的な不足と「モノ(資材)」のグローバルサプライチェーンの断続的な混乱という二重の制約が重なった今、この三つはコスト・工期・調達リスクへの現実的な対応策、すなわち生存戦略として位置づけ直すことができる。

これはいわば、住宅建築における「経済安全保障」の再構築だ。国家の経済安全保障が重要物資の国産化・分散化・備蓄を重視するように、住宅建築もまた、特定の素材・工法・サプライチェーンへの過度な依存から脱し、より分散的でレジリエントな生産のあり方を模索すべき時期にある。DIYは熟練した職人への依存の分散、既存品の循環活用は実質的な備蓄の実現、地産地消はサプライチェーンの短縮と国産化——それぞれが経済安全保障の原則に対応している。

供給制約は日本の家を「どうつくるか」を問い直す機会でもある。リノベーション・オブ・ザ・イヤーに集まる作品群は、時代の要請に対する具体的な回答をすべてとは言わないまでも、少なくともヒントは示していると言えるだろう。「小さく弱い」と思われてきたリノベーション業界こそが、実は大きく急な環境変化にいち早く適応してきたフロントランナーだったのだ。供給制約時代にも「つくり続けられる」住宅産業の未来の一端がそこにはある。