まるでおもちゃ箱! 4年半45回の「千人会議」から生まれた『南生協病院』

2010年、名古屋市緑区のJR南大高駅前に、総合病院『南生協病院』がオープンした。
モノトーンのスタイリッシュな建物には、病院の概念をくつがえす施設がそろっている。
ロータリーには、お洒落な石窯のベーカリーやパン教室、オーガニックレストランが軒を連ね、館内に入るとカフェや旅行カウンター、2階には図書館、フィットネスクラブまで!

内科・外科・小児科・産婦人科といった23の診療科目がそろう総合病院でありながら、ショッピングモールのように寛いだ空気が流れ、なんだか病院らしくない印象に驚かされた。

「“病院らしくない”理由は、『南生協病院』が南医療生協の組合員や職員、専門家による会議によって生まれたからだと思います。4年半の間、45回の『千人会議』を開催し、市民参加で病院をイチからつくり上げました」(南医療生活協同組合 服部真和氏)

千人会議(新南生協病院建設推進会議)で、参加者に「どんな病院にしたい?」と聞いたところ、「市場がほしい、森林浴がしたい、プールがほしい」などから「ロッククライミングがしたい」という大胆な案まで、たくさんの意見が出た。その中で実現可能なもの難しいものを話し合いの中で決めていき、おもちゃ箱のような病院の形が出来上がったのだという。

そもそも、この南生協病院を運営する『南医療生活協同組合(南医療生協)』とは?
誕生ものがたりから、尋ねてみた。

▲スタイリッシュな『南生協病院』。レストランが並ぶロータリー(上)や大きな庇の正面玄関(下右)では、第一土曜10:30~15:30に「だんらん市」というマルシェを開催中▲スタイリッシュな『南生協病院』。レストランが並ぶロータリー(上)や大きな庇の正面玄関(下右)では、第一土曜10:30~15:30に「だんらん市」というマルシェを開催中

伊勢湾台風で駆けつけてくれた医療チームが、生協誕生のきっかけに

▲『南生協病院』の2階には、「フィットネスクラブwish」がある。病院を健康づくりの場にしたいという意気込みが伝わってくる▲『南生協病院』の2階には、「フィットネスクラブwish」がある。病院を健康づくりの場にしたいという意気込みが伝わってくる

1959年9月、東海地方に伊勢湾台風が襲来。名古屋市南区周辺は、貯木場から流れ出た木材によって家が破壊され、甚大な被害を受けた。

「南区周辺は当時“無医村”だったため、東京や関西から駆けつけてくれた医師・看護師・医療スタッフに大変助けられました。“こんな人たちが地元にいてくれたら”という思いから、2年後小さな診療所をつくるために308人が出資金を出して『南医療生協』が創立されました」

かくして南医療生協初の診療所が、南区星崎のパン焼き小屋からスタート。今では、組合員が愛知県内に約76,000人、診療所や病院、介護事業所を含む事業所は64か所に拡大! それぞれ電子カルテで結ばれて、きめ細かな医療ネットワークが構築されている。

「でも実は、南医療生協の大きな役割は、健康なまちづくり支援なのです。創立当時から地域に医師や看護師がおじゃまして、健康チェックを行ってきたんですよ」と服部氏。
同生協では、地域の組合員が3人集まると「班会」を開くことができ、医師や看護師の健康チェックを無料で受けられるのだという。

ちいさなちいさな活動拠点「班会」で、普段からお互いの健康に目配りを。行政頼みや他人任せではなく“お互いさまの助け合い”が、南医療生協の軸となっている。

3人からの「班」が網目のように広がって、まちのお困りごとを解決!

南医療生協の「班会」の活動は、健康管理だけにとどまらない。

「班会とは、ご近所のみなさんで集まって、だんらんや助け合い、学びのできる場です。約1100班あり、班会は年に1万回ほど。趣味の集まりや買い物といった気軽な班会も多く、生協では会場となる家の光熱費などを一部サポートしています」

このような班会が集まって支部となり、愛知県内で85支部が活動。班会や支部は、自治会や民生委員と一緒に活動することも多く、「まちづくり」の担い手になっている。
そして、まちのさまざまなお困りごとを組合員たちで解決しているのだという!

「星崎診療所の近くにある唯一のスーパーが閉店し、高齢の方が困っているという情報が生協に寄せられました。そこで組合員さんは、そのエリアを回るお豆腐屋さんに頼んで、総菜を週1回診療所で販売してもらうことに。また伝手で探した農家の野菜も置くことになりました。診療所がスーパー代わりになったんです(笑)」

「生協には『おたがいさまシート』があり、お困りごとが寄せられます。例えば、医師がそのシートを見て高齢の患者さんが“さびしい”という悩みを抱えていると知ったら、支部に連絡。組合員から声かけをしたり、新聞を出すといったお手伝いをすることもあります」
介護保険ではできない“程よいおせっかい”は、もちろん無償。「お互いさま」の輪を広げて、地域の方をどんどん巻き込むことを目指しているそうだ。

「生協では、創立当時から“自宅で安心して暮らし続ける”という考え方なんですよ」と服部氏。まさに国が取り組もうとしている在宅介護・医療の形が市民主体で根付いているのは、ぜひ参考にしたい。

▲愛知県山間部にある「豊根村」の医師から相談を受け、村おこしにも協力している。新施設「南生協よってって横丁」には、豊根村の杉を随所に活用!▲愛知県山間部にある「豊根村」の医師から相談を受け、村おこしにも協力している。新施設「南生協よってって横丁」には、豊根村の杉を随所に活用!

「天気がいいから外でごはんを食べよう」。組合員が自然体でサポート

▲東海市の「生協のんびり村」は2008年にオープン。グループホーム「ほんわか」、小規模多機能ホーム「おさぼり」、喫茶「ちゃら」など、ネーミングも秀逸!▲東海市の「生協のんびり村」は2008年にオープン。グループホーム「ほんわか」、小規模多機能ホーム「おさぼり」、喫茶「ちゃら」など、ネーミングも秀逸!

さてさて組合員のパワフルな活動事例として、「ここが面白いんですよ」と教えてくれたのが、東海市にある『生協のんびり村』。地元の方から提供された約800坪の土地に、グループホーム・小規模多機能ホーム・多世代共生住宅などがずらり。高齢者が役割をもってイキイキ過ごせる村であり、南医療生協の事業所のひとつである。

「広い敷地内に、大きな民家が並んでいるのんびりとした場所です。ここは、組合員さんが毎日出入りしています。建物の修繕や日曜大工を思い思いに実施しているので、行く度に雰囲気が変わっていて驚かされます」

一角には、組合員が開いた喫茶店があり、近所の人や利用者のたまり場になっている。村内で飼っている鶏の玉子をモーニングに出してみたりと、実に自由でのびのびとした雰囲気だという。
「『今日は天気がいいから外でごはん食べようか』と声をかけるなど、組合員さん各々が、好きなことをして交流しています。組合員さんや利用者さんのワンダーランドですね」と笑顔で話してくれた。

地域の人々が出資してつくられた『南医療生協』。だからこそ、組合員は自発的に活動し、職員や医師は組合員や地域のために貢献する。懐かしくも新しい「お互いさまのまちづくり」が、今注目を集めている。

取材協力/南医療生活協同組合

2015年 06月19日 11時11分