住戸単位で改修、建物内にサービス付き高齢者向け住宅が分散するという新しい試み

11月26日に行われたゆいま~る高島平の記者発表。今後は板橋区とも連携、団地全体、地域全体で高齢者をどうケアしていくかなどの課題にも取り組む予定だという
11月26日に行われたゆいま~る高島平の記者発表。今後は板橋区とも連携、団地全体、地域全体で高齢者をどうケアしていくかなどの課題にも取り組む予定だという

板橋区にある高島平団地は昭和47年から入居が始まった総戸数8287戸の日本有数の大規模団地。誕生から40年以上が経過、契約者の46%が65歳以上と高齢化が進んでいる。板橋区全体の高齢化率は22.0%であるのに対し、団地のある高島平2丁目は40.1%、同3丁目は37.4%(平成25年版板橋区の統計)というから、高齢化最前線の場と言ってもいいだろう。

こうした高齢化は高島平に限らず、大都市圏近郊の他の団地でも進んでおり、UR都市機構はこれまでも高齢者に住みやすい街を目指して各種の施策を実施してきている。話題になったところでは、日野市の多摩平団地での「住棟ルネッサンス事業」があるが、ここは住棟1棟をまるまる改装、サービス付き高齢者向け住宅(以下サ高住と略す)などにしている。その他の団地でも住棟単位の転換は行われているが、高島平団地が新しいのはそれが住戸単位であるという点だ。

住棟単位で転換をする場合には全戸が空くまで手を付けられないが、住戸単位であればある程度まとまった数の空室が出たところで少しずつ転換ができ、一時に多額の投資が必要なくなる。また、全戸が高齢者向けではないため、同じ建物内に多世代が住むことになり、コミュニティが多様化する。居住者がいながらの工事になるので、そのためのさまざまな制約があるものの、総じていえばメリットの大きい方法というわけである。

だが、これまでのサ高住の各種要件は基本、こうした住戸単位の改修を想定していない。住戸内のみならず、階段の寸法やエレベーターなど共用部分に求められる要件もあるため、住戸単位の改修が可とされるまでには数多くの交渉が必要だっただろうと推察される。しかし、高島平団地でできたのであれば、他の団地でも同様に住戸単位での転換が可能になる。その意味では今後、団地の空室解消、高齢者に住みやすい団地作りへの大きな一歩と言えるわけだ。

オープン前の申し込みがすでに9割。高齢者向け住宅のニーズの高さを実感

今回改修が行われた建物。エレベーターもあり、共用部分のバリアフリー化が進んでいた棟が選ばれている。撮影・丸田歩
今回改修が行われた建物。エレベーターもあり、共用部分のバリアフリー化が進んでいた棟が選ばれている。撮影・丸田歩

今回舞台となったのは11階建て、全121戸の建物。そのうち、サ高住に転換され、「ゆいま~る高島平」と名付けられたのは30戸。今後の空き家発生状況などに応じて20戸までは拡大が可能ということになっているが、驚いたのはすでに27戸、9割の申し込みが入っているという点。ゆいま~る高島平のハウス長を務めるコミュニティネットの古賀眞由美さんによると「27戸の申し込みのうち、22戸は単身者でうち2戸が男性。それ以外の5戸はご夫婦に申し込みをいただいており、平均年齢は76.17歳」とのこと。

このプロジェクトに関わるスタッフは2年前から団地に住み込み、住民の声を聞くところから事業をスタートさせており、その間の口コミなどを中心に入居希望者が集まったのだとか。27組のうち、団地内からの転居は9組だけで、板橋区内はもちろん、遠くは北海道からも入居希望者が集まっているというから、高齢者が安心して暮らせる住宅へのニーズの高さが読み取れる。

その大きな要因が家賃。ここでは一括前払い、毎月払いの2種類の方法で家賃を払うことができるが、毎月払いの場合で9万3600円から9万8100円。広さは42.34m2から43.51m2で団地内の同じ広さの住宅に比べると1万円ほど高くなっているそうだが、「23区内でこの家賃のサ高住はまずない」。とはいえ、サ高住では家賃、管理費もしくは共益費に加え、生活支援サービスに関する費用も必要になる。

ゆいま~る高島平の場合、共益費が月額2700円、生活支援サービス費が一人入居時で3万6000円、二人入居時で5万4000円必要になるため、一人暮らしの場合で毎月の住居関連費は13万円強になる。もちろん、それでも他の物件に比べれば手頃ということで、これだけの申し込みが入っているわけだが、今後、年金の不安を抱えた年代が高齢になる頃にこの額を払えるだろうか。本題とはずれるが、不安を覚えた。

フロントは困った時の総合相談窓口として機能

フロントに置かれている書棚は、入居者が図書を管理。勉強会やセミナーなども開催される。撮影・コミュニティネット
フロントに置かれている書棚は、入居者が図書を管理。勉強会やセミナーなども開催される。撮影・コミュニティネット

さて、実際の物件を見ていこう。ゆいま~る高島平は住宅30戸と生活支援サービスを提供する生活コーディネーターが日中常駐するフロントからなる。フロントは住戸のある棟に隣接する建物1階にあり、入居者のコミュニティスペースとしても利用できる。団地内には他にも住民が集えるコミュニティカフェがあり、今後は連携して共に団地内のコミュニティ醸成、問題解決に取り組んでいくという。

また、団地内の高齢者からの要望としてサ高住に転居するつもりはないが、生活支援サービスだけは利用したいという声があり、当初1年間は5件くらいをめどにサービスだけの提供も行う予定。「この要望は想定外でしたが、ニーズが高いので実際には10件くらいに増えるかもしれません。高齢者の住まいでは介護が中心と思われがちですが、ここでは自宅に住み続けることを前提に在宅支援がメインになります」。

サ高住で最低限提供しなければいけない生活支援サービスとしては安否確認と生活相談があり、ゆいま~る高島平では各人に1台支給されるセコムのマイドクタープラスという、携帯の小型版のような端末を利用して1日1回以上の安否確認、緊急時の対応などを行う。セコムスタッフが駆けつけるなどの対処を行う緊急通報機能のほかに電話、メール、GPSなどの機能もあり、看護師との健康相談も可能。いつでも誰かとつながる安心があるわけだ。

その他、日常生活の困りごと対応や安全管理、健康管理などの支援も内容によっては有料だが受けられることになっており、フロントは言ってみれば困った時の万能相談窓口のようなもの。介護事業者の紹介や、介護保険の申請の手続きをサポートしてもらうなどのサービスが受けられ、こちらは生活支援サービス費内で行われるため、無料だ。

ちなみに介護保険が適用される介護サービスや食事の提供などを付加しようとすると、建物に共同住宅ではなく、有料老人ホームとしての要件が適用されるため、スプリンクラーが必要になるなど、改修が大がかりになる。そのため、今回は共同住宅に許容される範囲を逸脱しないサービス付加になったそうである。

水回り集約、バリアフリー化などで明るく、使いやすくなった住戸

続いて住戸。元々和室2室にキッチンのついた間取りを改修した1DK2タイプ、1LDK1タイプの計3タイプがあり、収納量、居室の広さ、形状などが異なる。室内をバリアフリーにするため、玄関、バルコニーに段差が生じているが、玄関はスロープが設置できるほど広く、ゆったり作られているので、車いす利用でも居住可能。水回りも同様に身体機能低下にも対応できる広さがあり、かつ住戸中央に集約されているため、あまり動き回らずに済む。もちろん、玄関、トイレ、浴室などには手すりも設置されている。従前の間取りでは暗く、風通しの悪かった北側の部屋が明るくなっており、気持ちよく住めそうだ。

気持ちいいといえば、窓の外に広がる団地ならではのゆったり感もそのひとつ。住棟間が広く取られているので開放的で、そこに歳月を経て成長した木々の紅葉や新緑が彩を添える。室内で過ごす時間が多い高齢者でも、ここなら外を眺めているだけで気分が明るくなるのではないかと思える。幸い、高島平団地は都営三田線で都心直結という立地の良さもあり、子どものいる若い世代も多く居住しており、晴れた日には子どもたちの声も聞こえるとか。高齢者だけの静かな住まいより、そのほうが楽しそうだ。

高島平団地に限らず、首都圏近郊では高齢化が進み、空室のある団地も少なくない。この例があちこちの団地に波及、高齢者が安心して暮らせる住宅が増えると同時に、多世代にとって住みやすい団地に変化していくことに期待したい。

南北に広いLDKを設けたCタイプの室内。キッチンが室内中央に設けられているため、動きやすいのが特徴。玄関は2.8畳あり、北側の寒気を寄せ付けない効果もあるとか。浴室には手すりが設置されている。水回りを除き、撮影・丸田歩
南北に広いLDKを設けたCタイプの室内。キッチンが室内中央に設けられているため、動きやすいのが特徴。玄関は2.8畳あり、北側の寒気を寄せ付けない効果もあるとか。浴室には手すりが設置されている。水回りを除き、撮影・丸田歩

2014年 12月18日 11時22分