URが直面する居住者の急速な高齢化

住戸数6,700戸を抱える築42年の埼玉県「みさと団地」住戸数6,700戸を抱える築42年の埼玉県「みさと団地」

高度経済成長期、都市部への人口集中による住宅不足の解消のため、当時の日本住宅公団(※現在のUR都市機構)によって多く建てられた団地。当時は、都市部へ働きに出る若い世代が世帯の中心だった団地もいま高齢化が急速に進んでいる。

UR都市機構の調査によると、同機構の持つ賃貸住宅全体のうち、高齢者(65歳以上)のいる世帯が全体の38.9%となっており、平成22年国勢調査の高齢者(65歳以上)のいる世帯の37.8%と比較して全国平均を上回っていることがわかる。
加えてこの先2025年までに急速に高齢化が進展する大都市近郊地域と、URが有する大規模な団地のある地域とが重複しており、今後、高齢者に対して長く暮らせる住まいを提供できるかがURにとって急務となっている。
こうした状況に対応すべくURは、団地内への医療福祉施設等の誘致や、高齢者が安全に住み続けるために必要な居住環境「健康寿命サポート住宅」の整備、また、多様な世代の支えあいが可能なコミュニティの場の提供といった「地域医療福祉拠点」の形成を推進している。

今回、この「地域医療福祉拠点」の具体的な取り組みの紹介と、「健康寿命サポート住宅」の見学会が埼玉県のみさと団地で開催されたので、その様子をお伝えしたい。

他世代交流や相互の支え合いを可能にする「地域医療福祉拠点」の形成

今回の説明会では、まずUR都市機構理事 瀬良智機氏による「地域医療福祉拠点」を形成する上で、URが推進する3つの取り組みが説明された。

まず1つ目は、地域における充実した医療福祉施設の推進だ。
介護や医療が必要になっても住み慣れた団地でそのまま暮らすことができる地域づくりを目指しており、すでにこのみさと団地においては、在宅診療の診療所や訪問介護事業者のセンターといった団地外の事業者が団地の空きスペースに誘致され、サービスを受けられる状態となっている。
2つ目が、昨年2014年に発表した高齢者が安全に住み続けるための住宅「健康寿命サポート住宅」の提供である。冬の浴室の寒さ対策を施した設備など、居住者等からのアンケート結果等を反映した住宅を、2015年10月30日から募集開始した。
3つ目は、若い世帯や子育て世帯など、多様な世代間交流ができる地域づくりだ。

URでは、こうした地域医療福祉拠点として機能する団地を、すでに全国で23団地で取り組みに着手、平成32年までに100団地での拠点形成を目指しているという。

左から
元プロ陸上選手 為末大氏、松竹芸能株式会社代表取締役社長 井上貴弘氏、三郷市長 木津雅晟氏、UR都市機構理事 瀬良智機氏、UR都市機構東日本賃貸住宅本部埼玉エリア経営部部長 麻正人氏左から 元プロ陸上選手 為末大氏、松竹芸能株式会社代表取締役社長 井上貴弘氏、三郷市長 木津雅晟氏、UR都市機構理事 瀬良智機氏、UR都市機構東日本賃貸住宅本部埼玉エリア経営部部長 麻正人氏

身体的な自立を住宅改修というハード面でサポート

次に「健康寿命サポート住宅」について紹介したい。
瀬良理事によると、現在URに住んでいる65歳以上の居住者のうち、約97%はサポートの必要がない「自立」した身体状態だという。健康寿命サポート住宅は、こうした「自立」している高齢者の、虚弱、要支援、要介護という身体状況の変化を移行させず、遅らせることをサポートし、継続的に健康的な生活を送ることを目指しているという。

健康寿命サポート住宅に取られたハード面の主な改修は以下のとおりだ。
①玄関やトイレに手すりの設置
②ゆっくり閉まるドア
③人感センサー付き照明
④モニター付きインターホン
⑤高齢者足腰に配慮した段差の軽減等
⑥アンケート結果を反映した浴室暖房

特に⑥に関しては、「冬場の浴室と脱衣室の温度差が危険と認識している」というアンケート回答が多かったことから、浴室の寒暖差を起因とするヒートショック(※)対策として、浴槽の下部分にある吹き出し口から温風の出る暖房設備が設置されている。
※急激な温度変化による血圧の変動を起因とする健康被害のこと。

これらの改修は、改修コストが賃料に反映しないよう、最小限に抑えられており、「健康寿命サポート住宅」の「継続的な住みやすさ」という点に配慮がされている。

浴槽下の吹き出し口から温風が出る仕組みとなっている浴槽下の吹き出し口から温風が出る仕組みとなっている

「笑いとエクササイズ」による心のケア、ソフト面からのサポートも

松竹芸能所属の落語家 笑福亭純瓶による寄席の実演。
頭の体操にもなる「なぞかけ」の披露で会場は大いに盛り上がっていた松竹芸能所属の落語家 笑福亭純瓶による寄席の実演。 頭の体操にもなる「なぞかけ」の披露で会場は大いに盛り上がっていた

健康寿命サポート住宅は、こうしたハード面のサポートに加えて、実はソフト面からのサポートも特徴の一つとなっている。

「笑い」と「エクササイズ」を組み合わせた今回の健康増進プログラムは、運動機能の衰えにより、要介護になるリスクが高まる”ロコモティブシンドローム”の予防に効果が期待されている。
また、健康増進プログラム終了後には、住民同士の交流の場としての茶話会を開催し、外出する機会の創出を図っている。

「笑い」については、松竹芸能所属の落語家が落語を実演し、「エクササイズ」については、元プロ陸上選手の為末大氏と、元陸上日本代表チームのチームトレーナーを務めた曽我武史氏が「ロコモ予防体操(※)」を指導する。(※ロコモ予防体操:為末氏と曽我氏が開発した、ロコモティブシンドローム予防のための簡単に取り組むことのできる体操のこと。)

今回の取り組みに対し為末氏は、「僕たちはスポーツの観点から歩くことや体のサポートを、住民同士のコミュニケーションなどの心の健康に関しては、笑いを通じた落語がサポートする、その結果、日常からさまざまな世代と交流していただき、日々を健康で過ごすことが大切だと思います。」と語り、「心」と「体」というお互いの健康を補足し合いながら取り組む”落語と体操”の組み合わせに期待を述べた。

今回、健康寿命サポート住宅を取り上げたが、URが目指すのは、若者から子育て世帯、高齢者などを含む多様な世帯が共生するコミュニティ(=ミクストコミュニティ)の形成である。今回紹介した高齢者向けの住宅だけではなく、家族が近くに住む世帯を対象にした「近居割」や、子育て世代サポートのための小学校修了前の子供がいる世帯を対象にした「子育て割」など様々な施策を行っている。

現在、全国に約75万戸という膨大な賃貸住宅の戸数を抱えるUR。
今回の取り組みだけでなく、新しい集合住宅の形を様々な年齢層や世帯、ライフスタイルに対しどう提供していくのかを期待したい。

2015年 12月01日 11時08分