博多・天神から広がる郊外・市外への関心の予感
「<九州圏版> 2026年 LIFULL HOME'S みんなが探した!住みたい街ランキング」の上位を見渡すと、博多や薬院、西新など福岡市の都心・準都心エリアが常連として並ぶ。一方で近年、郊外や福岡市外の駅が順位を上げる動きも目立ち始めている。住まい探しの関心が、都心の利便性だけでなく「先々の可能性」にも向きつつあることの表れかもしれない。
筆者は九州在住のライター・編集者として活動する中で、再開発の計画や鉄道整備の進捗を追うたびに『数年後に化けるのではないか』と感じるエリアにいくつも出会ってきた。
今回取り上げるのは、現時点では「住みたい街ランキング2026」の上位にないものの、市街地再開発事業や土地区画整理事業、鉄道の新駅設置などにより、今後の評価上昇が期待される6つの街だ。福岡市内の新駅誕生や北九州市の駅前再開発、熊本へのTSMC進出によって生まれた新市街地など、九州各地から選んだ6つの街を紹介する。
(1)14年ぶりの新駅開業で上昇気配「桜並木・雑餉隈(ざっしょのくま)」(福岡)
〈桜並木〉2026年 借りて住みたい街ランキング120位、買って住みたい街ランキング110位
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〈雑餉隈〉2026年 借りて住みたい街ランキング30位、買って住みたい街ランキング14位
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2024年3月、西鉄天神大牟田線に14年ぶりの新駅「桜並木駅」が開業した。雑餉隈駅〜春日原駅間に位置するこの新駅の名は、近隣にある地域のシンボル「桜並木通り」に由来する。春になれば花びらが舞う約600メートルの並木道は、長年にわたり住民が手入れを続けてきた場所であり、新駅はその名を受け継ぐ形で誕生した。
この新駅誕生の背景にあるのは、県と市が総事業費1,000億円超を投じて進めてきた連続立体交差事業だ。鉄道の高架化により19ヶ所の踏切が撤去されたことで、慢性化していた交通渋滞が緩和されただけでなく、長年の課題であった「線路による街の分断」が解消。エリア全体の一体感が増している。
特筆すべきは、駅前に整備されたバス路線の充実だ。桜並木駅は、西鉄バス旧雑餉隈自動車営業所の敷地の一部を活用して建設された。これに伴い、かつての「雑餉隈車庫」バス停も駅前ロータリーに隣接する「桜並木駅」バス停へと再編。ここから博多駅、天神、さらには福岡空港国際線ターミナルへも乗り換えなしでアクセスできる。天神まで西鉄電車で最速15分という立地を維持しつつ、バスという広域な選択肢を併せ持つこの交通環境は、福岡市内でも際立っている。
また、新駅の「新しさ」を支えるのが、隣接する雑餉隈エリアの「歴史」だ。ソフトバンクの創業地としても知られる雑餉隈には、駅そばに戦後間もなく形成された「銀天町商店街」が今も息づく。戦後、米国人向けの繁華街として栄えた記憶を刻みつつ、現在は約70店舗が軒を連ねる地元密着型の商業地として機能している。昔ながらの青果店と、新しく開業したカフェや居酒屋が混在するこの独自の生活感は、チェーン店主体の街並みにはない落ち着いた暮らしを求める層にとって魅力となっている。
桜並木駅の2024年度の一日平均乗降人員は5,368人と、福岡市内の西鉄天神大牟田線の駅では最少となっている。しかし隣接する雑餉隈駅の1万2,375人と合わせると、両駅圏内で約1万8,000人規模の利用者を有している。高架下の有効活用や駅周辺のマンション開発が完了する数年後には、周辺エリアの人口増とともに両駅を核とした居住圏としての評価が高まり、住みたい街ランキングの上位へと浮上する可能性は十分にある。
(2)博多・小倉へのアクセス良好、学生の街からの脱皮を目指す「折尾」(福岡)
2026年 借りて住みたい街ランキング20位、買って住みたい街ランキング35位
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日本初の立体交差駅として知られるJR折尾駅は、石炭輸送の要衝として栄えた街の玄関口だ。かつて駅南側の堀川運河沿いには居酒屋やスナックが軒を連ね、炭鉱や製鉄関係の労働者でにぎわった。
駅は鹿児島本線と筑豊本線が異なる高さで交差するという構造ゆえに、乗り換え動線の長さや踏切による道路分断が長年の課題だった。しかし2021年の新駅舎供用開始、2022年のホーム全面高架化を経て、駅構造は抜本的に効率化された。
JR九州が発表する折尾駅の2024年度の乗車人員は1万4,110人と、北九州市内では小倉駅に次ぐ人数である。駅周辺に高校、大学が点在していることがこの人数に表れているが、特筆すべきは、特急を利用すれば博多まで約35分、小倉までも約15分という高いアクセス性だ。福岡・北九州のどちらも通勤・通学圏内に収めるこの交通スペックは、居住地としての大きな優位性となっている。
駅南側では、昭和の飲食街が立ち並んだ堀川運河沿いの約16.9ヘクタールで区画整理が進み、続いて民間開発も動き出した。北九州市やJR九州、不動産開発2社は2025年4月、折尾駅南側のまちづくりで連携協定を締結。駅前の7ヘクタールの土地でマンションやシェアオフィスなどの民間開発を進めると発表した。第1弾として駅に近い0.6ヘクタールに90億円を投じ、2028年度までに分譲・賃貸マンション4棟を建設する計画だ。これまでは学生街としての賃貸需要が中心だったが、この再開発により、ファミリー層や資産価値を重視する層をターゲットとした高層マンションが立ち並ぶ駅前へと変貌しつつある。
また、折尾駅の北西部には若松区・八幡西区にまたがる約335ヘクタールの北九州学術研究都市が広がっている。北九州市立大学や九州工業大学、早稲田大学など5大学が集積するこのエリアは現在も住宅地としての開発が続く人気エリアであり、折尾駅はバスを含めた主要な交通拠点として機能している。さらに2024年7月には、半導体後工程の世界大手・台湾の日月光(ASE)グループが学研都市内の市有地約16万平方メートルを取得する仮契約を市と結んだ。熊本のTSMCとの連携も視野に入れた進出で、九州の半導体産業のさらなる集積につながることが期待されている。
インフラ整備が完成形に近づいたことで、単なる乗り換え駅としての役割から、生活圏としての魅力が改めて問われている。博多・小倉双方へのアクセス力という交通上の優位性に、周辺成長エリアとの連携、そして居住機能の集積が加わった折尾駅周辺は、今後さらに有力な居住選択肢として存在感を増していくはずだ。
(3)福岡市第3の都市が駅周辺を中心に盛り返す「西鉄久留米」(福岡)
2026年 借りて住みたい街ランキング40位、買って住みたい街ランキング21位
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久留米市は、福岡県で福岡市、北九州市に次ぐ人口第3位の都市である。市の中心駅、西鉄久留米駅周辺は、西鉄電車が1日300本以上、路線バスが1,000本以上運行する福岡県南部屈指の交通結節点だ 。特に、西鉄久留米駅の1日あたりの乗降人員は約3万人を数え、九州内の西鉄およびJR各駅の中でも上位10駅に入る有数の規模を誇る。西鉄特急を利用すれば福岡市の中心部(天神)まで約30分。この圧倒的な利便性を有する一方で、2024年には市全体の人口が30万人を割り込んだと発表された。
久留米は世界的企業であるブリヂストンの創業地として知られる。1931年(昭和6年)、石橋正二郎により設立された同社は、地下足袋の生産からタイヤ製造へと事業を拡大し、この地から世界へと羽ばたいた。現在も市内には大規模な工場や関連施設が点在し、街の産業基盤を支え続けている。
こうした歴史ある産業基盤と利便性を背景に、街は新たな局面を迎えている。2025年7月にまとめられた「西鉄久留米駅周辺整備構想(案)」によれば、市全体では人口減少が進行する一方で、西鉄久留米駅から半径500m圏内のエリアに限れば、年少人口(0〜14歳)は平成30年度比で129%と大幅に増加しており、生産年齢人口も微増傾向にある。駅周辺は、すでに子育て世帯に選ばれるエリアとして静かに変化しつつある。
2026年度から10年間にわたる市の次期総合計画に反映されるこの整備構想では、これまで課題だったバス・タクシー・歩行者の動線錯綜を、新たなバスターミナルの整備や多層構造化によって解消することを目指している 。さらに、駅北側の「職住近接エリア」や南東部の「多世代交流エリア」など、ライフスタイルに応じた明確な土地利用の方向性が示された。2024年10月には駅ビルが「レイリア久留米」としてグランドオープンし、日常の利便性はさらに向上している。
これまで、新築マンションの供給が続いたJR久留米駅前の動きに注目が集まってきたが、商業機能の厚みと圧倒的な福岡都心へのアクセス力を考えれば、西鉄久留米駅周辺の「持ち直し」への期待は大きい。この10年先を見据えた再編が、住む街としての西鉄久留米の評価を再び引き上げていく可能性は十分にある。
(4)18年ぶり中学校新設 九州大学近接で文教地区へ「周船寺」(福岡)
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周船寺駅は福岡市最西端の駅で、古くからの落ち着いた住宅街が広がるエリアだ。2000年以降の都市開発で新興マンション街として急成長した隣の九大学研都市エリアとは対照的に、周船寺は長く住んでいる方が多く一軒家が目立つ、静かな住宅地としての性格を保っている。
JR筑肥線は姪浜駅で福岡市地下鉄空港線と相互直通運転を行っており、周船寺駅から天神・博多・福岡空港まで乗り換えなしでアクセスできる。天神まで約28分、博多まで約33分という所要時間は、福岡市の外縁部に位置する駅としては破格に近い。
さらに、周船寺エリアは九州大学の伊都キャンパスに近接している。大学に近いエリアは塾や学習施設が自然に集まり、教育水準への関心が高い層の定住を促す「文教地区」としての性格を帯びていく傾向がある。地下鉄空港線沿線には有力な高校や大学が集積しており、周船寺から乗り換えなしでアクセスできるこの路線の教育環境の厚みは、子育て世帯にとってのひとつの選択理由になっている。
その周船寺エリアで今、人口増加を示す動きが出ている。1997年から始まった伊都地区の土地区画整理事業と九州大学の移転を機に、福岡市西区の人口は増加傾向を保ち続けている。こうした子育て世帯の流入を背景に、周船寺地区を通学区域に含む公立中学校が2026年4月に新設された。
JR筑肥線は周船寺駅の先、西側に向かって糸島市方面へと延びており、沿線には豊かな自然が広がる。周船寺は都心へのアクセスと落ち着いた暮らしの両方を享受できるエリアだ。都心部と比べ家賃・地価が手ごろな水準にある点も、住宅を探す側にとっての魅力で、今後も新たな住民の流入が見込まれる。
(5)「スタジアムシティ」効果で注目度アップ「長崎」(長崎)
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2022年秋の西九州新幹線の開業を皮切りに、2023年11月にはJR長崎駅ビルが全面開業し、長崎駅周辺は長崎の玄関口にふさわしい景観へと変わりつつある。さらに駅から徒歩約10分の三菱重工幸町工場跡地では、2024年10月にジャパネットホールディングスが主導する「長崎スタジアムシティ」が開業。総事業費約1,000億円を投じたこの純民間プロジェクトは、約2万席のサッカースタジアム、約6,000席の多目的アリーナ、ホテル、商業施設、オフィス棟を備えた東京ドーム約1.5個分の巨大複合施設だ。行政の財政的支援を一切受けない純民間事業として完遂した点は、地方都市における民間主導の都市開発として、ひとつのモデルを示している。
同施設は、開業からわずか1ヶ月で55万人が来場し、平日でも約1万3,000人が訪れる盛況ぶりを見せた。その後も平日には1万人弱の来場が定着し、週末には2万〜3万人が訪れるなど、2025年10月には開業1年で年間来場者数が延べ485万人を突破した。2025年8月には単月での黒字化も達成しており、ビジネスモデルとしての持続可能性も証明しつつある。
この施設が注目されるのは、単なる集客数だけではない。長崎市は長年、人口の転出超過が全国ワーストレベルにあり、若年層の流出が深刻な地域課題となっている。通常、こうした地域創生は行政の役割と考えられがちだが、本プロジェクトは「民間が本気で地域課題に向き合う」という強い理念のもとにスタートした。施設運営に伴う雇用創出は約1万3,000人に及ぶとされ、年間約850万人の利用者を見込む。さらに開業から1年間で約963億円という巨額の経済波及効果が試算されており、スポーツを核にした民間主導の都市再生モデルとして注目を集めるこの施設が、居住地としての長崎駅周辺の評価にどう影響するか、今後の行方が気になるところだ。
これまで長崎駅周辺は「観光の街」としての側面が強く、居住地としては斜面地や郊外のベッドタウンに需要が分散していた。しかし、駅周辺に「職・住・遊」がフラットに集約されたことで、住む街としての長崎駅周辺の評価は新たな段階に入りつつある。
(6)TSMC進出で大規模まちづくりへ 新駅の設置も計画中「原水・光の森」(熊本)
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JR豊肥本線の原水駅と光の森駅は、世界最大の半導体受託製造企業・台湾積体電路製造(TSMC)の進出を機に急速に変容しつつあるエリアにある。豊肥本線は大分市と熊本市という2つの県庁所在地を結ぶ幹線で、両駅はその熊本都市圏の通勤・通学路線としての役割も担っている。
光の森駅の2024年度の1日平均乗車人員は2,698人で熊本県内JR駅6位、原水駅は1,624人で同10位。しかし原水駅に限れば、TSMC関連の開発が本格化する前の2022年度は1,089人だったものが、わずか2年で約1.5倍に急増しており、エリアへの人口流入が数字に表れ始めている。
2駅が立地する菊陽町は、2025年の地価公示で14.5%の上昇を記録し、隣接する大津町(20.0%)・合志市(9.0%)とあわせ、熊本県内の公示地価上昇率の上位3位を独占した。光の森エリアはTSMC進出以前から人気の住宅地として知られていた。2004年に大型商業施設「ゆめタウン光の森」がオープンして以降、住宅と商業施設が一体的に発展し、熊本市北部のベッドタウンとして計画的に整備された住環境が子育て世代を中心に支持を集めてきた。そこにTSMC関連企業の従業員や家族の流入が加わり、需要がさらに加速している。
この需要の受け皿として動き出したのが、原水駅を核とした大規模まちづくり事業だ。菊陽町は2024年9月、原水駅から西に約1.9キロのエリアを対象に約70ヘクタールの土地区画整理事業を実施すると発表した。将来ビジョンでは、原水駅周辺を「職住近接エリア」、計画中の新駅周辺を商業施設やホテルが集まる「にぎわいエリア」、両駅の中間地点を企業の研究拠点や大学施設が立地する「知の集積エリア」とする3ゾーン構成が描かれている。2024年3月には熊本大学との連携協定が締結され、大学キャンパスや共同利用施設、半導体ミュージアムなどの誘致が具体化しており、完成目標は2031年とされている。
JR豊肥本線の三里木〜原水間に計画されている新駅の開業目標は、まちづくりと地域公共交通を一体的に計画するため、当初の2027年春から2029年春以降へと延期された。新駅と土地区画整理事業が連動することで、ソニーグループや東京エレクトロンなど世界的企業が周辺エリアに集積する産業クラスターの真横に、職住近接の新市街地が形成される見通しだ。かつて農地が広がっていたこのエリアが、半導体という国際的な産業力学を起点に急速に転換しつつある。
今回取り上げた6つの街には、共通点がある。新駅の開業、駅前再開発、新幹線開業、半導体産業の集積——契機はそれぞれ異なるが、どの街でも変化が起こり始めている。
これらの街の多くは、現時点では人気ランキングの上位に位置していない。しかしそれは裏を返せば、賃料や地価の上昇余地が残っているということでもある。ランキングの数字だけでなく、実際に街を歩いて変化を感じてみることも、住まい探しのひとつの視点になるはずだ。




















