「HaaS」で変わるUR都市機構の役割

URにおけるIoT及びAI等活用研究会が発行したUR2030。2030年、我々の生活はどう変化し、団地はどうなっていくかをまとめたコンセプトブックだURにおけるIoT及びAI等活用研究会が発行したUR2030。2030年、我々の生活はどう変化し、団地はどうなっていくかをまとめたコンセプトブックだ

最近、耳にする機会の増えた言葉に「MaaS(マース)」がある。「モビリティ・アズ・ア・サービス」の略で、情報通信技術を活用していろいろな種類の交通サービスを統合し、予約から利用、決済まで一括で行えるようにすることで、利便性向上や交通の効率化を目指す取組みだ。「MaaS」の実現によって、自動車メーカーは、自動車を売るのではなく、移動というサービスを提供する会社になるともいわれている。一部では実証実験も始まっているので、そう遠い未来の話ではないだろう。

IoTやAI、ビッグデータなどの活用は、何も自動車に限ったものではない。住まいへの活用を考えたのが「HaaS(ハース)」。「ハウジング・アズ・ア・サービス」だ。
独立行政法人都市再生機構(UR都市機構)は、2030年という近い将来の住まいについてまとめたコンセプトブック『UR 2030』の中で、「MaaS」が自動車メーカーの役割に変化をもたらすように、「HaaS」によって、UR都市機構の役割にも、ハウジングという新たな生活環境(サービス)の提供が加わると予測。また、東洋大学情報連携学部 学術実業連携機構(INIAD cHUB)との連携で、「HaaS」によって「Open Smart UR」の実現を目指すとも語っている。

「Open Smart UR」とは、スマートで安心、魅力的な住環境、サービスとしての住まいを意味する。その一部を具体化した「スタートアップモデル住戸」が、東京都北区にある赤羽台団地に設けられた。現在、民間企業向けに公開され、注目を集めている。

センサーが見守る2030年の住まい

赤羽台団地はJR赤羽駅から徒歩約10分の高台にあり、1962(昭和37)年に入居が始まった大規模団地だ。建物の老朽化や耐震上の課題などに伴い、2000年から建て替え事業が行われたが、放射状に住戸が配置された独特の形状の「スターハウス」は建て替えずに保存されることになり、登録有形文化財となる見込みだ。
その中の1棟に最新設備の整った「スタートアップモデル住戸」と、それとは全く対照的な、入居直後、1962(昭和37)年ごろの住まいを再現した「再現モデル住戸」が設けられている。

広さはいずれも約44m2。「再現モデル住戸」は3Kですべて和室だが、「スタートアップモデル住戸」は、2人とAIが暮らすワンルームにしている。
スタートアップモデル住戸内には44個ものセンサーが設置されていて、温度、湿度、気圧、CO2濃度などを常時モニター。そこから得たデータをもとに、床暖房や放射冷暖房などの空調設備を最適に制御することで、快適な室内環境と省エネを実現するだけでなく、ひとり暮らしの高齢者の安全確保や見守りなども可能になる。例えば、トイレ内のCO2濃度が上がり続ければ、中に人が長時間にわたって居ることがわかり、動けなくなるなど、何らかのアクシデントが発生しているとAIが判断するわけだ。また、室内の温度差を把握することによって、ヒートショックや熱中症などの予防につなげることもできる。

(左)再現モデル住戸のお茶の間(上)と、スタートアップモデル住戸のダイニング(下)。家の中心にあったちゃぶ台は、さまざまな情報を映し出す多機能テーブルに進化。(右)再現モデル住戸の風呂(上)と、スタートアップモデル住戸の風呂(下)。風呂の水面に情報が表示され、ヒートショックを防ぐ入浴のタイミングを教えてくれる(左)再現モデル住戸のお茶の間(上)と、スタートアップモデル住戸のダイニング(下)。家の中心にあったちゃぶ台は、さまざまな情報を映し出す多機能テーブルに進化。(右)再現モデル住戸の風呂(上)と、スタートアップモデル住戸の風呂(下)。風呂の水面に情報が表示され、ヒートショックを防ぐ入浴のタイミングを教えてくれる

多様な住み手のニーズを満たす設備、サービスとは

(上)スマート冷蔵庫が組み込まれたキッチンイメージ。食材の数や賞味期限を管理してくれる。(下)寝室にはスマートスピーカーが。声で操作できるので、難しい操作不要で使うことができる(上)スマート冷蔵庫が組み込まれたキッチンイメージ。食材の数や賞味期限を管理してくれる。(下)寝室にはスマートスピーカーが。声で操作できるので、難しい操作不要で使うことができる

2030年の住まいは、高齢者だけでなく、子育て世代、テレワークで働く人など、多様な住み手のニーズに柔軟に対応する。出勤のために身支度を整えている間に、交通情報やニュースなどを提供してくれる洗面所のインフォメーションミラー、レシピや家計簿と連動するスマート冷蔵庫、ワンステップでオフィスのデスクへと切り替えられるダイニングテーブルなども可能になるだろう。

また、各種のデリバリーサービス、クリーニングの集配、ロボット宅配やドローン配送など、あらゆる物品のやりとりのポータルとなるスマート宅配ロッカーも欠かせない設備。スマートキーで開閉できるため、住人同士のモノの貸し借りに利用することも想定されている。

そして、照明の調整やブラインドの開閉、家電の操作などはAIスマートスピーカーと連携し、音声や動作による指示が可能。高齢者や身体が不自由な方でも使いやすい。
2020年度から小学校で必修化されるプログラミング教育を受けた世代が、2030年には社会に出ることもあり、IoTやAIの一般化は加速すると予測される。住人がプログラミングによって住環境をカスタマイズすることも可能となっており、起床時に目覚ましの音に反応して自動でカーテンが開くようにする、室内の温度・湿度を自分好みに設定するなど、きめ細かい設定が可能だという。

企業や行政との幅広い連携で、未来のコミュニティ創造へ

2017年、赤羽台団地の一角に、東洋大学情報連携学部が開学したことがきっかけで、UR都市機構との連携は始まったそうだ。団地の視察や意見交換などを行う中で、両者は2018年に技術協力の覚書を締結。家電などに搭載されているリアルタイムOS「TRON」を手がけたことで著名な学部長の坂村健氏を会長とする「URにおけるIoT及びAI等活用研究会」を設置し、これからの住まい、団地のあり方を研究してきた。
同研究会は、「スタートアップモデル住戸」は到達点ではなく、モデルのひとつであり、2030年に向けた出発点にすぎないと捉えている。今後は「Open Smart UR研究会」として、スマートな住戸にとどまらず、団地全体の暮らしや、さらに広いコミュニティについて研究が進められる予定だ。そのためには、住宅、設備機器、家電など関連する企業や団体、さらにはサービス関連企業や行政などと幅広く連携する必要があり、「Open Smart UR研究会」を連携のプラットフォームとして機能させるべく、多くの企業・団体に参加してほしいと坂村氏はメッセージを送っている。

「スタートアップモデル住戸」と「再現モデル住戸」の間には、70年近くの長い時間がある。両者を見比べると、日本人の住まい方や生活のスタイルといったものが、いかに変わってきたかを実感することができ、感慨を覚える人も少なくないだろう。2つのモデル住戸は、2019年10月の中旬に一般公開が予定されている。

2019年 09月19日 11時05分