ペットの防災を考えるイベントが開催された

東日本大震災から5年。東北地方を襲った大震災の記憶がくっきりと残るなか、4月14日、熊本県熊本地方を震源とする震度7の「平成28年熊本地震」が発生した。4月16日にも最大震度7の激しい揺れが起き、その後も続く余震で熊本は甚大な被害を受けてしまった。

そんな折り、4月23日~5月22日の1ヵ月間に渡って東京都世田谷区で開催されたのが『いぬと、ねこと、わたしの防災 いっしょに逃げてもいいのかな?展』と題した展覧会(主催:公益財団法人せたがや文化財団 生活工房)。自然災害が起きてしまったとき、一緒に暮らしているペットをどう守るか、ペットと一緒に逃げる「同行避難」をテーマにした展覧会だ。関連プログラムとしてトークセッション『もしものために、必要なもの』が5月7日に開催された。そのトークセッションの様子を中心に2回に分けてレポートする。

展覧会では、災害時に避難先で起こる問題をリアルに想定し、幅広い観点からの展示が見られた。例えば、災害が発生したら飼い主はどんなことをしたらいいのかを解説したシミュレーションや、避難所でペットとともにどう過ごすかを想定した疑似避難所、ふだんから用意しておきたい避難グッズなど。また、「ペットと防災」をテーマにインテリアデザイナーや建築家などクリエイターが制作したグッズも展示され、来場者の目を引いていた。

トークセッションに登壇したのは、ペットと防災についてさまざまな取り組みを実践しているNPO法人ANICE(アナイス)の代表・平井潤子さん。2000年に三宅島噴火災害動物救援センター犬舎チーフ・メンテナンスチーフとして活動し、その後も新潟県中越大震災動物救済本部監事、東日本大震災緊急災害時動物救援本部現場チーム、伊豆大島台風26号・27号被害による同行避難対応などに携わってきた専門家である。この展覧会でも、監修として企画段階から関わった。その平井さんとともに登壇したのは、この展覧会で防災グッズなどを制作したクリエイターたち5人。それぞれの動物を大切にする気持ちや、制作のこだわりが語られた。

上左)展覧会の会場内の大型パネルでは、災害発生から3日間の行動シミュレーションをイラストともに解説</BR>上右)いざというとき、持っていきたい避難グッズも展示</BR>下左)展覧会にはペットと暮らしている人だけではなく、暮らしていない人の来場も多かった
</BR>下右)避難した先でペットと同居可のケースを想定した疑似避難所
上左)展覧会の会場内の大型パネルでは、災害発生から3日間の行動シミュレーションをイラストともに解説
上右)いざというとき、持っていきたい避難グッズも展示
下左)展覧会にはペットと暮らしている人だけではなく、暮らしていない人の来場も多かった
下右)避難した先でペットと同居可のケースを想定した疑似避難所

環境省では「同行避難」を原則としたガイドラインを発行

トークセッション(5月7日開催)にはペット防災の専門家である平井潤子さんのほか、展覧会に参加したクリエイターたちが登壇トークセッション(5月7日開催)にはペット防災の専門家である平井潤子さんのほか、展覧会に参加したクリエイターたちが登壇

前半では、災害時におけるペットの同行避難における現状と課題について、平井さんが解説。平井さんは熊本地震の現地へも足を運んでおり、その報告も交えて話があった。

「みなさんに最初に考えていただきたいのは、『避難する』とはどういうことなのか、です。大規模な災害が起きると、全員が避難所へ行くと思われがちです。でも、行き先が避難所とは限らないケースもあります。例えば津波が来るとわかっているときに海辺の避難所には行かないわけです。危険な場所から安全な場所へ避難することが避難するということ。そのとき、ペットも一緒に安全な場所へ避難することが同行避難です。指定された避難所が危険な場合もありますから、どうしたらいいのかを落ち着いて考え、安全な避難先を選ばなければなりません」。

ここで問題になってくるのは、安全とされる避難所がペットを受け入れてくれるのかどうか、ということ。

環境省では東日本大震災後の2013年、『災害時におけるペットの救護対策ガイドライン』を発行し、その中で「飼い主はペットと一緒に避難する同行避難が原則」としている。背景には、東日本大震災ではペットと一緒に避難することが難しいため、ペットを置き去りにせざるを得ないケースが相次いだことが挙げられる。その結果、多くのペットが命を落としたり、行方不明になり、生き延びることができても飼い主と離ればなれで暮らしているペットも少なくないという。そうした経緯もあり、動物愛護の観点からも、また被災した飼い主の心のケアの観点からも、同行避難をすることが重要だと考えられるようになったのだ。また、被災動物を放浪状態のまま放置することで、野犬化した犬が住民へ危害を与える、犬や猫が繁殖してこれまでの生態系へ影響をおよぼすといった恐れがあるため、飼い主がペットと一緒に避難することが社会全体にとって有益なこととされている。

ただ、注意が必要なのは、環境省のガイドラインでは、同行避難については、「災害発生時に、飼い主が飼育しているペットを同行し、避難場所まで安全に避難すること。同行避難は避難所での人とペットの同居を意味するものではない」と定義づけをしていること。同行避難イコール飼い主と一緒に避難所の中へ入室できる、ということではないのだ。

非常時にペットの飼い主に求められることとは?

熊本の被災地を訪れた平井さん(左)が、現地の状況を解説熊本の被災地を訪れた平井さん(左)が、現地の状況を解説

実際のところ、避難所でのペットの受け入れ状況はどうなのだろう?

「環境省が同行避難のガイドラインを出したり、地域での防災計画が整備されたり、ペットの同行避難に対する理解は少しずつ進歩してきていると思います。自治体によっては備蓄品を用意しているケースも増えていますし、現場で対応できるボランティアのリーダー育成に取り組んでいる自治体もあります。ただ、災害が起きてしまったとき、『ペットの受け入れはOKです』という避難所はまだまだ少ないと思います。避難所ごとに、状況に応じて対応しているのが実状ではないでしょうか」。

地域の防災計画の中で、あらかじめ、「ペット可」と決められた場所でも、災害時にその避難所に入れなかったということも被災地で起きているという。が、自然災害という非常事態には、さまざまな想定外の状況が起こり得ることを頭の片隅に入れておいてほしいと平井さんは話す。

「ペットの受け入れ体制が整っていない可能性もあるし、ペットの同行避難について理解している避難所の運営責任者がいち早く駆けつけているとは限りません。大規模な災害が発生した場合には、その運営責任者の方が被害に遭われている状況もあるのです。また、避難所の近くの大きな総合病院から、入院患者さん全員が避難されているケースもあります。ケガをしている人、点滴をしている方など症状の重い方が大勢いる状態ですと、『ペットはこの避難所には入れません』と、判断されることもあります。このイベントに来てくださっている方は、ペットは大切な家族というお気持ちの方ばかりだと思いますから、『可愛がっているペットを外に出すなんて…!』と、感情的になってしまうかもしれません。でも、そんなときに大切なのは、飼い主としてどんな行動がとれるのかということなのです」。

日頃から地域のコミュニティを築いておくことが重要

展覧会の会場では、同行避難に対しての世田谷区の保健所や獣医などの取り組みも紹介されていた展覧会の会場では、同行避難に対しての世田谷区の保健所や獣医などの取り組みも紹介されていた

では、「ペットは避難所の中には入れません」となったとき、飼い主はどう行動すればいいのだろう? 平井さんは、飼い主がいかに冷静になって考え、避難所の運営者と話し合いができるのかどうかが分かれ道になってくると言う。

「飼い主は避難所がどういう状況にあるのかを理解したうえで、人と動物をどう棲み分けをすればいいのか、避難所の運営者側にどう提案できるのか、考えてみることから始めてほしいと思います。そして、『避難所内のここのスペースを、私たちペット連れの居場所として提供してもらえないでしょうか』といった投げかけができればいいのかなと。ただ、避難所には動物が苦手な方やアレルギーのある方もいらっしゃるでしょう。そうした方々へ配慮しつつ、避難所の運営者側と話し合う。そういう行動をすることが、避難所でペットと一緒にいられる場所を得ることの第一歩になると思います」。

熊本地震では「ペットの同行避難は当たり前のことになってきているのかなと感じるほど、避難所やその周辺ではたくさんのペットたちがいました」と平井さん。ペットの受け入れについては、避難所によってペット同伴不可だったケースもあれば、ペットと飼い主が同居できていた避難所もあったという。

「2014年11月の白馬の地震(長野県神城断層地震)でのことなのですが、こんな事例があります。私は地震発生から1週間後に現地を訪れて、避難所の運営者に聞き取り調査をしました。そうしたら、『みなさん、ペット連れで来ていて、ペットは風防室に置いてもらうことにしました。そこから犬の散歩にも行かれていましたよ』とのことでした。そこで私が『何か問題はなかったのでしょうか?』と質問すると、『問題って、何のことでしょうか?』と、聞き返されてしまいました。よくよく聞いてみると、もともとこの地域は住民同士のコミュニティが密で、ご近所で飼っているペットのこともよく知っている関係なのだそうです。だから避難してきた人同士で『ペットがいるんだったら、ここに置いておけば? こっちの室内は人だけにしよう』というような話し合いがごく自然にできていたのです。ちなみにこの地域では、ある家屋が倒壊したとき、住民みんなが力を合わせて、下敷きになっていたお年寄りを救出したことがニュースでも報道されていました」。

この白馬での聞き取り調査で、ペットの受け入れ体制や仕組みを整備することも大切だが、いざというときに話し合って解決できるような地域のコミュニティを作っておくことの重要性を実感したという平井さん。
「例えば、いつも糞が放置されているとか、吠えていてご近所にご迷惑をかけているような状態では、災害が起きてしまったとき、避難所で受け入れてもらうのは難しくなると思います。被災してみんなが緊張している状態なのですから。飼い主はふだんからペットの飼育に関するモラルやマナーを守り、ペットのトラブルはできる限りないようにしておくことが大切です」。

ペットの飼い主同士で連携することが重要

ペットに必要なしつけを行ない、避難用品を準備しておく。これは最低限の備えだろう。でも、地域のコミュニティはどのようにして築いていけばいいのだろう? 生まれ育った地元でずっと暮らしているのならご近所と顔見知りかもしれないが、東京など都会ではそうではなかったりもする。

「都会ではコミュニティを築くのは難しいかもしれません。ですが、犬を飼っている方ならば、散歩でよくご一緒する飼い主仲間っていますよね。また、ペット可のマンションに住んでいる方なら、飼い主同士、仲よくしていらっしゃると思います。非常時にそうしたペット仲間と連携できるよう、常日頃からコミュニケーションをはかり、助け合いのルールを作っておくということに取り組んでみていただきたいと思います」。

さて、会場ではペットの同行避難のためのパンフレットが配布されたのだが、そのタイトルは、『いっしょに逃げてもいいんだよ。』。ペットと暮らす人が、ふだんから気をつけておきたいことや心構え、避難グッズ、避難方法などが紹介されたものだ。このパンフレットの内容やタイトルにも平井さんは携わっているのだが、この「いいんだよ」は、「何もかも用意されているからOKです」ということではなく、「一緒に逃げてもいいんだよ」となるような準備をしてほしいとの思いを込めたという。
「自分が何を用意しておき、どう避難するか、避難先でどう工夫するか、どう問題を解決するのかを考えておくことが大切です。そうした準備を今日から始めていただきたいと思います」。

次回記事では、この展覧会でペットを守るためのグッズなどを制作したクリエイターたちの思いをお伝えしたい。

☆取材協力
公益財団法人せたがや文化財団 生活工房
http://setagaya-ldc.net/

『いっしょに逃げてもいいんだよ。』には、避難所の屋外、テントを張る、飼い主の車内など、複数の避難パターンがまとめられているのだが、「ここに掲載した方法が最終地点ということではなくて、選択肢の1つとして知っておいていただければと思います。1つの方法がオールマイティではありません。災害の状況によって変わってくるので、そのときどきによって安全な避難方法を考えることが大切です」と、平井さん

『いっしょに逃げてもいいんだよ。』には、避難所の屋外、テントを張る、飼い主の車内など、複数の避難パターンがまとめられているのだが、「ここに掲載した方法が最終地点ということではなくて、選択肢の1つとして知っておいていただければと思います。1つの方法がオールマイティではありません。災害の状況によって変わってくるので、そのときどきによって安全な避難方法を考えることが大切です」と、平井さん

2016年 06月23日 11時06分