和食店をリノベした『那古野ハモニカ荘』など、とがったお店が集まると人気上昇

▲路地裏にお店が多数並ぶ「吉祥寺ハモニカ横丁」をイメージし、かつての大型店を5区画にわけて「那古野ハモニカ荘」と命名。吉祥寺に名前を使用する承諾を得たそう▲路地裏にお店が多数並ぶ「吉祥寺ハモニカ横丁」をイメージし、かつての大型店を5区画にわけて「那古野ハモニカ荘」と命名。吉祥寺に名前を使用する承諾を得たそう

名古屋駅から徒歩15分ほどにある「那古野(なごの)」は、近年、隠れ家的なお店が続々とオープンし、情報番組や雑誌などでよく取り上げられる注目エリアだ。

このエリアでは、アーケードのある商店街「円頓寺(えんどうじ)商店街」と、まるで映画のセットのような江戸時代の街並みが残る「四間道(しけみち)」が有名なのだが、訪れたときの第一印象は「レトロで渋い…」だと思う。でも商店街や入り組んだ路地をぶらりと歩いてみると、イタリアン、ビストロ、焼き菓子店など「こんなところにこんな穴場の店が!」という新発見があり、ワクワクしてくる。

2月には、昭和30年代に建てられた和食店「麒麟亭(きりんてい)」をリノベーションした初の複合施設『那古野ハモニカ荘』が完成して、またまた話題を呼んでいる。
なぜ今、那古野に新たな店が続々と集まり「おしゃれなスポット」と言われるのか? たくましく、しなやかに進化する那古野エリアの仕掛け人に話を伺った。

5店が入る『那古野ハモニカ荘』。カブキが楽しめるエンタメカフェも!

『那古野ハモニカ荘』は木造2階建て。1階には、無農薬・自家製麺のそば店「えんそば」と、日本ワインと味噌おでんの「凡才」が2月にオープンした。

2階には「名古屋山三郎(さんざぶろう)一座」の芝居が楽しめる「カブキカフェ ナゴヤ座」が4月にオープン予定。桟敷席で飲食しながらカブキを楽しめるほか、地域のカラオケ大会や寄り合いにも使えるそうだ。“まちに長時間滞在してほしい”という想いを込めたこのカフェは、かつて映画館や劇場でにぎわった名残を感じさせる、久しぶりのエンタメ施設となる。

さて、ハモニカ荘が誕生するきっかけとは? 那古野のまちづくりに関わる建築家、市原正人さんにお話を聞いた。

「麒麟亭が閉店するという話を聞き、目立つ店なので商店街としてもその後の使い道が気になっていました。新オーナーの方にお話を聞いたところ『用途はまだ決まっていない。建物を解体して月極駐車場にするかもしれない』という回答でした。そこで商店街が『新たなお店づくりをしたい』と企画・提案したところ、新オーナーが理解を示してくれたのです。

那古野エリアは出店希望が増えていますが、家賃が高いとお店が限られるため、2階建ての麒麟亭を区画分けして複合施設にすることに。麒麟亭の存在を表すのは『路地と2階窓にある格子』とプロジェクトチームの意見が一致し、両方を生かす設計になりました」(市原さん)

ちなみにハモニカ荘の5区画中、入居が決まっているのは3店。引き合いは結構あるのだが、断ることもあるのだとか。ちょっとうらやましい話ではある。

「円頓寺商店街は、店主が代々頑張って守ってきたお店がいくつもあります。新規のテナントを選ぶ基準としては『客層がバッティングしないこと』。ワインを扱う飲食店どうしでも“日本ワイン専門”となれば共存ができます。もうひとつは『まちの特徴をつくるオリジナリティーのあるお店かどうか』。わざわざ足を運びたくなるお店を誘致したいと考えていますね」

▲上左:「那古野ハモニカ荘」は左側の路地から各店に入るという、面白い設計。上右:路地に面して半屋内の路地があり、「ここで1杯」というのも楽しそう。下左:「凡才」はタイル貼りのモダンなデザイン。下右:ナゴヤ座は屋根裏の梁を生かした大空間に!▲上左:「那古野ハモニカ荘」は左側の路地から各店に入るという、面白い設計。上右:路地に面して半屋内の路地があり、「ここで1杯」というのも楽しそう。下左:「凡才」はタイル貼りのモダンなデザイン。下右:ナゴヤ座は屋根裏の梁を生かした大空間に!

那古野ブームの火付け役、「ナゴノダナバンク」とは?

どこか郷愁を感じさせる那古野界隈の活性化を担っているのが「那古野下町衆(那古衆)」。2007年、若手商店主を中心に、クリエイターや建築家、大学教授が集まり結成された。2009年には那古衆の“空き家対策プロジェクト”として「ナゴノダナバンク」が立ち上がり、建築家の市原さんがリーダーを務めている。とはいえ、市原さんは那古野出身ではないそうだ。

「僕は20年前から円頓寺商店街に三味線と長唄の稽古で訪れていて、『人通りは少ないが老舗が残っている面白い商店街だな』とポテンシャルを感じていました。いろんな人に薦めつつも説得力のなさを感じて『本当に商売が成り立つか』と自ら出店してみることにしたんです(笑)」

こうして市原さんは2010年、商店街の空き物件を自らリノベーションし、ギャラリー&セレクトショップ「galerie P+EN(ギャルリーペン)」をオープン。
「せっかくなら楽しい方がいいので(笑)。スペインバルを開く友人を誘い、隣同士でお店を開きました。これがメディアに取り上げられ、少しずつ出店希望者が増えていった気がします」

さて出店希望者の窓口を担っている「ナゴノダナバンク」であるが、実は空き店舗のストックを持っているわけではない。那古野への出店希望があり“面白そう、楽しそう”とニーズが一致すれば、そこから物件探しを始めるという。

「気になる空き物件を見つけたら、所有者探しからなんてこともざらです。『あの家は貸さないらしい』という噂があった建物も交渉したら快諾してくれたこともあります。物件探しをしていると“ご縁”を実感することが多いですね」

さらに聞くと、商店街への年間の出店数は2~3店に抑えているという意外な話も。それは新しい店舗が商店街になじみ、仲間意識を持ってもらうため。そしてまちの表情を大きく変貌させないため。「変わった!」よりも「変わらない懐かしさ」を大切にするまちづくりが、今新しい。

▲建築家の市原正人さんが営む「galerie P+EN」。真っ白なアトリエに洋服やアクセサリーが並び、商店街でひときわ異彩を放っている▲建築家の市原正人さんが営む「galerie P+EN」。真っ白なアトリエに洋服やアクセサリーが並び、商店街でひときわ異彩を放っている

昭和レトロは北欧モダンに通じる。建物には手を加えすぎない

さて「ナゴノダナバンク」が関わってきたお店をいくつか紹介しよう。

円頓寺商店街で有名なお店といえば、2015年にオープンした「喫茶、食堂、民宿。西アサヒ」。ぶ厚いタマゴサンドで人気を博した老舗の喫茶店が、ナゴノダナバンクと新オーナーのタッグにより復活。インバウンド観光を手がける新オーナーの想いをくみ、2階にゲストハウスのある喫茶・食堂として生まれ変わった。

「『スタイリッシュな雰囲気』とよく言われますが、実はほとんど触っていなくて。内装は床・照明・厨房を変えただけです。僕は常々『昭和レトロは北欧モダンに通じる』と考えていて、レトロな柄や木目が今おしゃれだと受け止められているみたいですね」

このほか、市原さんの楽しい空想から実現したのが「SAKE BAR 圓谷(まるたに)」。
「とある古民家を気に入って、勝手に中を想像してバーを設計していたんです。その後、関谷酒造さんから『日本酒のお店を開きたい』という要望があり、そのプランを提案した後に所有者の方と交渉。順番がまったく逆ですよね(笑)。実際の中は空想よりも広くて、川と庭が望める最高の立地でした!」

街と建物とお店がうまくマッチングして、「行ってみたい」お店が続々とお目見えしている那古野エリア。一過性のブームではなく「10年続くお店をつくる」ことを目標に、楽しく面白いまちづくりが進んでいる。名古屋駅からぶらりと足を延ばして、アツ~イ那古野を歩いてみてほしい。

取材協力/那古野下町衆
http://nagosyu.net/

▲上左:市原さんの店「ギャルリーペン」は友人のスペインバル「BAR DUFI」の右隣に。上右:大きな窓がモダンな「喫茶、食堂、民宿。西アサヒ」。下左:江戸時代の米蔵を生かした「SAKE BAR圓谷」。下右:蔵を改築した創作和食店「満愛貴(まあき)」▲上左:市原さんの店「ギャルリーペン」は友人のスペインバル「BAR DUFI」の右隣に。上右:大きな窓がモダンな「喫茶、食堂、民宿。西アサヒ」。下左:江戸時代の米蔵を生かした「SAKE BAR圓谷」。下右:蔵を改築した創作和食店「満愛貴(まあき)」

2016年 03月17日 11時05分