人の「シックハウス症候群」は減っているが、ペットには増えている!?

部屋に入った瞬間、目がチカチカしたり、くしゃみやじんましんが出たり。
家の建材や塗料、接着剤などに含まれる『VOC(揮発性有機化合物、有機溶剤)』によって健康被害が起こる『シックハウス症候群』が、一時期話題となった。

2003年、建築基準法にシックハウス対策が盛り込まれたため、「発症する人は少なくなっているのでは?」と筆者は思っていたのだが、実際のところはどうなのだろうか? 愛知県一宮市にあるリフォーム会社、株式会社プラザの副島勝氏に聞いてみた。

「下記のグラフを見ると、『シックハウス症候群』の相談数は減っています。建築業界の努力が進み、多くの方は影響を受けないレベルにまでなってきましたが、敏感な方の中には『化学物質過敏症』などの症状に苦しんでいる方もいます」

VOCの影響は個人差がある上、体の小さな子どもやペットの方がより影響を受けやすい。
「自身の経験ですが、以前クロスを貼り替えたばかりの部屋へ訪れた時、私だけが目が開かず息がしづらくなったことがあり、個人差があることを実感しました。またさまざまなお宅に伺ううちに、『引越してから犬が皮膚炎になった』『よく吠えるようになった』などの声を聞くようになり、人間よりも弱者であるペットにとって今の住まいは厳しい環境かもしれないと思うようになりました」

そこで副島さんは、2015年3月から『ペットにやさしい住まいの環境を考える勉強会』をスタートさせた。室内で愛犬や愛猫が家族の一員として暮らす今だからこそ、“ペットが健康的に暮らせる住環境”について考えてみたい。

▲「シックハウス症候群」の相談件数は、2003年の建築基準法改正以降は減っている。ペットのシックハウス症候群について副島さんが5名の獣医師と情報交換を行ったところ、獣医師も今まで着目したことがなかったそう▲「シックハウス症候群」の相談件数は、2003年の建築基準法改正以降は減っている。ペットのシックハウス症候群について副島さんが5名の獣医師と情報交換を行ったところ、獣医師も今まで着目したことがなかったそう

化学物質ゼロは難しい・・・でも『勉強会』で少しずつ問題提起

▲プラザ 代表取締役・副島勝氏を囲む、アットホームな勉強会。「家具を新調したら具合が悪くなり、寝込んでしまったという話を聞いた」と参加者の一人。見過ごしがちなVOCについて意識するきっかけとなった▲プラザ 代表取締役・副島勝氏を囲む、アットホームな勉強会。「家具を新調したら具合が悪くなり、寝込んでしまったという話を聞いた」と参加者の一人。見過ごしがちなVOCについて意識するきっかけとなった

5月、プラザで『第3回 ペットにやさしい住まいの環境を考える勉強会』が開催され、筆者も参加。4名というアットホームな雰囲気の中、副島さんのレクチャーが始まった。

まず一般的な合板のフローリングのニオイをかいでみることに。独特なニオイはほぼ気にならなかったのだが、「シックハウス症候群の原因と言われるVOCの中には、ニオイがなく気付かない化学物質も多いんですよ」と聞き、一同驚いた様子。

「建築基準法で規制されているVOCは、建材や接着剤に含まれる『ホルムアルデヒド』と、シロアリ駆除剤の『クロルピリホス』の2種類だけというのを知っていますか?
VOCは数百種類あると言われ、数時間で揮発するものから2~3年かかるものまであります。建材だけでなく、家具やトイレの芳香剤などからも放出されているので、化学物質をゼロにすることは実質不可能なんです」(副島さん)

「でも、今ある住宅建材のすべてが悪というわけではありません」と副島さんはきっぱり。例えば一般的な建材である合板は、耐震性が高く、コストパフォーマンスがよいというメリットがある。否定ではなく新しい情報を発信することで、あくまで住まいの選択肢を増やしていきたいと副島さんは話す。

こうして同社が5月に発表したのが、VOCを低減する『ペットリフォームパック』だ。

「200人に1人でも選んでくれれば」。ペットのための自然素材リフォーム

さてさて『ペットリフォームパック』の内容とは? 
「自然素材を使って、VOCの発生源を極端に減らす」「VOCを吸着・除去する建材を使う」のがポイントだ。

■断熱材
「断熱材でよく使われているのが、触るとチクチクするグラスウールと、現場で吹き付ける発泡ウレタンフォームですが、私が新たに着目した断熱材が『サーモウール』です。羊毛生まれなので子どもが触っても安心で、ニオイやVOCを吸着して分解してくれる作用があります」

■壁と天井
壁と天井には、なめらかな『ドイツ漆喰』やコテ跡が美しい『スイス漆喰』を塗って、VOCの吸着を促す。
「物質やニオイを吸着するには、数ミリほどの厚みがある“呼吸する壁”がおすすめです。漆喰は細かな粉が落ちることがあるので、ネコちゃんが爪とぎをするというお宅には、強度があって補修しやすい『パーフェクトウォール』も適しています」

■床
接着剤が多く使われている合板を避けて、床材には香りかぐわしいヒノキの無垢材を提案。ニカワの接着剤で貼り、ペットがなめてもいいように自然由来の塗料で仕上げるというこだわりだ。
「実は木材の中でも、マツやスギから『アセトアルデヒド』というVOCがわずかに放散されるということが分かってきたので、ヒノキを選びました。室内を走る愛犬の転倒防止としても、すべりにくい無垢材が適していると思います」

このように断熱材からまるごと入れ替える『ペットリフォームパック』の気になる費用は、洋室6畳で約60万円だという。ペットのためには惜しくないと考えるか、少々贅沢かなと思うかは、価値観の分かれるところかもしれない。
「100人、200人に1人でも要望してくれる人がいればいいと思って用意しました。1社ぐらいはワンちゃんネコちゃんがラクになることを徹底的に考えるリフォーム会社があってもいいですよね」(副島さん)

▲左:手触りのよいヒノキ無垢材と、ニカワの接着剤、自然素材の塗料。
右:羊毛から生まれた断熱材「サーモウール」はふわふわの感触▲左:手触りのよいヒノキ無垢材と、ニカワの接着剤、自然素材の塗料。 右:羊毛から生まれた断熱材「サーモウール」はふわふわの感触

タイルを貼るだけ、クロスの上から塗り壁という簡単リフォームもアリ

▲左:自然素材を使った同社の施工例。壁と天井を塗り壁で仕上げ、床は無垢を採用した。
右:機能性タイルで吸臭性・吸湿性をアップ▲左:自然素材を使った同社の施工例。壁と天井を塗り壁で仕上げ、床は無垢を採用した。 右:機能性タイルで吸臭性・吸湿性をアップ

愛知県一宮市で数々のリフォームを手掛けるプラザのポリシーは、「“どこの会社でもいい”というリフォームは行わない」ということ。
「タイルの目地の幅まで気になる、という方こそうちのお客様です」と副島さんは笑う。だからこそ、ニッチな市場の『ペットリフォーム』にも注力できるのだという。

「今後は月に1回のペースで『ペットにやさしい住まいの環境を考える勉強会』を開催する予定です。口コミで少しずつペットリフォームが広まり、愛犬や愛猫のためにこんなことにも気をつけてあげればいいんだ、という気づきにつながるといいですね」(副島さん)

また「なるべくローコストで健康に配慮した住まいを提供したい」というのも同社のこだわり。吸臭・吸湿性のある「機能性タイル」を壁の一部に貼ったり、クロスの上からも塗れる塗り壁を採用するという手軽な方法もあると教えてくれた。

ペットがイキイキと暮らせる住まいは、人間にとっても真に心地がいいはず。キャットウォークや足洗い場といった設備面だけでなく、ペットの健康にこだわったリフォームは、今後新たな選択肢になりそうだ。

取材協力/プラザ

2015年 06月07日 10時56分