自然の光がさしこみ、明るく開放感あふれる居住スペース

(左)社会福祉法人よしみ会 理事長職務代理者 中辻忠行氏
(右)同法人 法人本部 保育統括責任者 中辻祥代氏
(左)社会福祉法人よしみ会 理事長職務代理者 中辻忠行氏 (右)同法人 法人本部 保育統括責任者 中辻祥代氏

内閣府の発表によると、日本の高齢化率は26.7%(平成27年10月1日現在)。つまり、4人に1人は65歳以上という超高齢化社会の到来で、各地には次々と高齢者施設が作られている。

特別養護老人ホームや高齢者住宅、グループホーム…といろいろある高齢者施設の種類も知らなければ、中に入ったこともないという人も多いだろうが、大阪府堺市南区にある地域密着型特別養護老人ホーム「グランドオーク百寿」は、利用者以外の地域の方々がひんぱんに訪れるという。小さな子どもから高齢者まで幅広い方でにぎわう次代の高齢者施設の在り方とは、どういうものなのだろう。

地域密着型特別養護老人ホームとは、入居定員が29名以下の小規模な施設で原則として施設がある市町村に居住する人が利用可能。「グランドオーク百寿」の場合、大阪府堺市の方のみ利用ができる。運営するのは、社会福祉法人よしみ会。同法人の理事長職務代理者である中辻忠行氏にお話をうかがった。

「グランドオーク百寿は、入居者の方が居心地よく毎日を過ごしていただける“温かな家”でありたいと思っています。居住スペースは、自宅に近い居住生活の中でケアを行えるようユニット型を採用。施設名にもあえて“オーク”と木の名前を入れているように、施設内は木の温もりでつつまれるようなやわらなか空間に。窓からさす日はもちろん、吹き抜けの中庭を設けることで、光がさしこむ開放感を大切にしました」。

“終の棲家”としておやだかに人生を終える場所であり、高齢者目線であるとともに働きやすい場所

自宅のリビングのような、開放的で広々とした共有スペース。この横には、オープンキッチンもある
自宅のリビングのような、開放的で広々とした共有スペース。この横には、オープンキッチンもある

長年、福祉先進国であるスウェーデンを訪れ、高齢者施設の在り方を目の当たりにした中辻祥代氏は、日本の高齢者施設について次のように話す。
「日本では施設、つまり建物としてのハコを作るということに終始している感覚。私が勉強のために訪れたスウェーデンでは、高齢者施設とは“終の棲家”。人生をおだやかに終わっていくことを感じる場所なのです。そこには、人というものに対する圧倒的な差が存在しています。確かに、コスト面や人員配置など制約の中で運営をするのは難しいもの。が、5年後、10年後も必要とされる施設でありたいと思うなら、制約を越えてでも必ず成しえるものだと思っています。私たちが考えた施設はどこにでもあるものではなく、どこにもないものを作ること。そのために、外観、内観のビジュアルがもっとも大事なのです。グランドオーク百寿は内部の壁や床、照明、インテリアなど細部に至るまで、こだわりぬいたものを作り上げることができたと思います」。

デザインだけでなく、ソフト面でも他の高齢者施設とは異なる。たとえば、管理栄養士資格を持つ調理スタッフが常駐し、自社で食事を作り提供。調理面を委託する高齢者施設が大半の中、コスト面を度外視しても旬の手料理にこだわる。加えて、元大手カフェチェーンの店長をしていたというバリスタまで常駐。「外部委託は、いっさいしません。なぜなら、私たちが追求する施設の在り方を追求するには、同じ意志をもっていることが欠かせないのです」と忠行氏。

調理スタッフによって作られる温かい食事は、入居者、スタッフともに毎日、同じものをいただくそう。また、スタッフは制服ではなく、あえて私服。立場の違いを明確にせず、気軽に接してもらうようにと、小さなことにも配慮する。高齢者施設は施設を管理する側が運営しやすさを優先し、介護する側と介護される側には距離や立場の違いが確実に存在する。その垣根は、ここでは、いっさい感じられない。

どこにもないものを作ることで、若い世代や子どもが集まってくる

従来の高齢者施設ともっとも異なる点は、地域の方の拠点、つまり誰でも利用できるということ。グランドオーク百寿の1階には、地域のさまざまな方が集う「地域交流スペース」がある。管理栄養士が作るオリジナルランチやバリスタが淹れるコーヒーを味わえるカフェ、大阪中央卸売市場から直送された新鮮な野菜を販売するマーケット、生活消費財や子どもたちが喜ぶ駄菓子などを販売するミニコンビニを設置。高齢者施設という側面から考えれば、あえて必要のない地域交流スペースをなぜ作ったのか。

忠行氏は次のように話す。「グランドオーク百寿のある堺市南区茶山台は泉北ニュータウンに位置し、計画的な街づくりが進められた住みやすい街でした。ニュータウン開発から約50年経ち、他のニュータウンと同様、加速する高齢化、人口減少という問題をかかえています。この場所は、もともとスーパーがあったのですが閉店になり、商店街にも人が来なくなるなど、地域の方の集まる場所が次々と消えつつある現状。新たに高齢者施設を開所するにあたり、地域の方々が交流できる基点、つまり“人が集まる”施設であるべきだと思ったのです。地域密着という言葉を私たちはお飾りの言葉ではなく、真に“交流”が生まれる場所にする覚悟でのぞみました。 地域の方の生活支援やコミュニティ形成の場として、“開かれた施設”。それによって施設自体に活気が生まれますし、施設の雰囲気を体感していただくことにもつながります」と忠行氏は力説する。

(左上)フロントの奥の事務所で人の出入りを見守る(左下)パリスタが淹れる本格コーヒー、管理栄養士のオリジナルランチが
いただける「OAK cafe」(右上)野菜や日用品、文房具や駄菓子を販売する「OAK market」
(右下)10種類以上ものランチが、500円~700円でいただけるとあり、連日、多くの人でにぎわう(左上)フロントの奥の事務所で人の出入りを見守る(左下)パリスタが淹れる本格コーヒー、管理栄養士のオリジナルランチが いただける「OAK cafe」(右上)野菜や日用品、文房具や駄菓子を販売する「OAK market」 (右下)10種類以上ものランチが、500円~700円でいただけるとあり、連日、多くの人でにぎわう

地域の方が気軽に入れる高齢者施設をデザインで創り上げる

利用される高齢者の視点にたった施設づくりを追求する、株式会社日比野設計 福祉施設研究所の裏木 隆氏。利用される高齢者の視点にたった施設づくりを追求する、株式会社日比野設計 福祉施設研究所の裏木 隆氏。

設計面では、どのような工夫がなされているのか。グランドオーク百寿の設計を担当した株式会社日比野設計 福祉施設研究所所長の裏木 隆氏にお聞きした。

「グランドオーク百寿の設計コンセプトはサービスアパートメント。ホテルとアパート、日常と非日常の同居です。入居者の方が暮らす2・3階はアパート、1階はホテルのラウンジの役割を持たせました。地域の方に開かれた施設にする、ということは覚悟のいることです。従来とは異なる高齢者施設ですから、インテリア、窓、壁の色、床などすべてコンセプトを貫くには費用もかかりますし、日々の清掃を含めたメンテナンスも手間がかかります。それでも、高齢者施設=暗いというイメージを打破し、地域の子どもから子育て世代、団塊世代、そして入所されていないお年寄りまで、多くの方に利用していただくためにコンセプトを明確にし、どなたでも立ち寄ってみたくなるような場所としました。外部からの出入りがあるので、セキュリティやプライバシー確保にも気を配らなければなりません。入所者の方々が快適に過ごすことができ、地域の方が気軽に立ち寄れる開かれた施設にしたいという強い信念があってこそ、今までにない施設を作ることができたと思います」。

地域の方が施設に足を踏み入れることでその魅力を体感し、友達をさそって、子どもを連れて、訪れることで新しい交流が生まれ、また新しい方がそこを訪れ、コミュニティの輪が広がっていく。
ニュータウンには、そのような場所こそが必要なのかもしれない。

<取材協力>
地域密着型特別養護老人ホーム「グランドオーク百寿」
http://www.grand-oak.jp/

2016年 12月08日 11時01分