首都圏で大地震発生という想定で、被災地を疑似体験しながら学習

大阪府北部地震、西日本豪雨、立て続けに起きる台風、そして北海道胆振東部地震……自然災害が続いている。そもそも日本は自然災害が発生しやすい国。もしものときに備え、被害を少なくするための準備をしておきたい。そのために知っておきたいキーワードが「72時間(3日間)」。自然災害が発生したとき、国や自治体の支援体制が整うまでに最低でも必要な時間だという。災害に見舞われた後、自力で72時間を生き抜く力が必須なのだ。

そこで取材に出向いたのは『そなエリア東京』。東京臨海広域防災公園にある、国が運営する入場無料の防災体験学習施設だ。「東京直下72h TOUR」と題した体験学習ができる。タブレット端末を使い、画面に表示される防災クイズに答えながら、72時間を生き延びる知恵を学ぶというものだ。

筆者も参加した。冬の夕方6時に駅ビルの10階にいるというシチュエーション。映画を観て帰宅する途中、1階へと下降するエレベーターの中でマグニチュード7.3、最大震度7の大地震に遭遇するという設定だ。

★上左)高さ74mの白い鉄塔が目を引く『そなエリア東京』。オープンしたのは2010年7月。東日本大震災以降、来場者が増え続けており、海外からの視察も多いという</BR>★上右)オペレーションルーム。映画『シン・ゴジラ』のロケ地としても知られ、窓越しから見学可能。ふだんは稼働していないが、首都圏で巨大地震などが発生した場合、ここに政府の緊急災害現地対策本部が設置される</BR>★下右)「東京直下72h TOUR」のスタート地点はエレベーターホール。ここでスタッフから場面設定などの説明を受ける</BR>★下左)タブレット端末の画面には設問が表示され、それに答えながら進行していく★上左)高さ74mの白い鉄塔が目を引く『そなエリア東京』。オープンしたのは2010年7月。東日本大震災以降、来場者が増え続けており、海外からの視察も多いという
★上右)オペレーションルーム。映画『シン・ゴジラ』のロケ地としても知られ、窓越しから見学可能。ふだんは稼働していないが、首都圏で巨大地震などが発生した場合、ここに政府の緊急災害現地対策本部が設置される
★下右)「東京直下72h TOUR」のスタート地点はエレベーターホール。ここでスタッフから場面設定などの説明を受ける
★下左)タブレット端末の画面には設問が表示され、それに答えながら進行していく

リアルに再現した被災地で、まちに潜む危険を知る

まず、エレベーターホールでスタッフからタブレット端末が渡され、使い方などの説明を受ける。このタブレットはツアーの道案内やクイズの出題、画像・動画の表示による解説など、体験学習の鍵となる端末だ。

「端末ごとにクイズの内容が異なっているので、何度でも参加いただけます」と、東京臨海広域防災公園の管理センターで広報を担当する伊藤公之さん。ちなみにこの体験学習の1回の所要時間は約30分。

さて、いよいよ出発。エレベーターに乗り込むと、ほどなくエレベーターが揺れ、緊急停止。明かりも消えてしまった。暗闇の中、「関東地方に大きな地震が発生しました。余震の危険があります。落ち着いて行動してください」とアナウンスが流れてきて少し緊張……。

エレベーターの扉が開いたら、薄暗い避難通路を通って外へ脱出。目の前に現れたのは、ジオラマで再現された被災地のまちだ。地震で建物や電柱などが倒壊し、サイレンや、上空をヘリコプターが飛び交う音が響き渡る。屋外モニターに映し出されているのは、緊急地震速報を報道するアナウンサーの緊迫した表情。

リアルに再現された被災地で端末の指示にしたがって移動する。指示された場所へと進むと、AR(拡張現実)マーカーが貼ってあり、それを読み取ると、画面にクイズが表示される。クイズは、「大地震が起きるとどんな被害が発生するのか」や「被災した街でどう自分の身を守るか」を問う問題。例えば、地震によって火災が発生している建物の近くで出題されたのは「火災現場から数百メートル離れている場所は安全?」という問題。正解は「安全ではない」。大火災になると、火の粉が数百メートルから2キロメートル以上飛ぶこともあるのだという。火事のほかにも、物の落下や、液状化でマンホールが浮き上がってくる現象などに関する出題があり、CG付きの解説を通して、被災地にはいろいろな危険が潜んでいることがわかった。

リアルに再現された被災地のまちリアルに再現された被災地のまち

建物の耐震性、家具の転倒防止など、住まいの備えの重要性を再認識

再現被災地を見まわすと、崩れてしまった瓦屋根の住宅と、倒壊せずに被害が少なかった住宅が並んでいるのが目に入る。そこで出題されたのは、倒壊した古い建物の建築年を問うもの。これは、建物の耐震性の重要性を学べる問題だ。

震度6~7程度の地震でも倒壊、崩壊しないための新耐震基準が定められたのは、1981年6月1日の建築基準法改正でのこと。それ以前に建てられた建物は、大地震に弱いとされている。実際に阪神・淡路大震災(1995年)では命を落とした人の約8割が建物の倒壊による圧死で、その大半が建築基準法改正以前に建てられたものだったという。ここ再現被災地で倒壊しなかった住宅の場合、柱と柱の間に斜めに「筋交い」が入り、耐震補強がなされているという解説があり、筋交いの部分が示されていた。建物の耐震性を高めているかどうかで、自分と家族を守れるかどうか、生死の分かれ目になることにあらためて気づかされた。

また、倒壊しなかった住宅のジオラマでは、地震対策をしていない部屋と、対策をしている部屋の比較ができた。何もしていない部屋はすべての家具が倒れていて室内は散乱状態。この状態では家具類の下敷きになるリスクが高い。一方、地震への備えができている部屋は、家具と天井の間をポール式のつっぱり棒で固定し、転倒防止対策をしていることが示されていた。家具を壁などに固定できるストッパーや金具、ガラスの飛散を防止するフィルムなどは、ホームセンターなどで購入できるので、すぐに始められる防災対策として覚えておきたい。

崩れた住宅の瓦礫の中から聞こえてきたのは「誰か助けて!」という女性の声。安全に助け出すにはどうするべきなのか? 
「地震直後には近くの建物が倒れてくるなど、自分もケガをする可能性があります。ひとりで行動せず、周囲にいる人に協力を求め、一緒に助け合って救助をすることが大切です。まずやるべきことは自分の身を守ること。自分が助からないと、家族や誰も助けることができないのです」と、広報・伊藤さんが教えてくれた。

★上左)緊迫感漂う再現被災地</BR>★上右)タブレットをマンホールにかざすと、液状化現象の動画を見ることができる</BR>★下右)左は地震対策をしている部屋。家具と天井の間が、ポール式のつっぱり棒で固定されている</BR>★下左)崩れて瓦礫となった住宅。その隣にある住宅は倒れずに済んでいて、注意深く見てみると、壁に筋交いをほどこしていることがわかる★上左)緊迫感漂う再現被災地
★上右)タブレットをマンホールにかざすと、液状化現象の動画を見ることができる
★下右)左は地震対策をしている部屋。家具と天井の間が、ポール式のつっぱり棒で固定されている
★下左)崩れて瓦礫となった住宅。その隣にある住宅は倒れずに済んでいて、注意深く見てみると、壁に筋交いをほどこしていることがわかる

物資が不足するなかで、避難生活をどう生き抜くか?

被災したまちを抜け、次は避難生活について学べる部屋へと進む。ここは避難生活を生き抜くために必要な道具類、自治体が準備している初期消火や救急用に使う資機材などが展示され、クイズに答えたり、動画などを確認したりしながら学んでいく。

ここでまず学んだのは、災害対策基本法における「避難場所」と「避難所」の違い。「避難場所」は大規模な自然災害の危険から迅速に避難する場所で、主に公園や広場など屋外の場所が指定されている。状況が落ち着くまでに一時的に滞在する場所なので、基本的には水や食料などの配給はない。それに対して「避難所」は災害で自宅が倒壊するなど、住めなくなった人たちの生活の場。水や食料、生活物資の配給が行なわれ、一般的に公民館や小・中学校の体育館などが利用される。いざというときにはどちらに避難したらいいのか、確認しておきたい。

また、震災直後の物資がない状況で生き残るために、身近なものをどう使うかという知恵も学べる。例えば、スーパーのレジ袋。骨折したときの応急手当用に三角巾として使えるということで、タブレットの画面で作り方を知ることができた。ふだん何げなく使っているものでもアイデアしだいで、災害時の助けになるのだ。

展示で目を引いたのは、災害時用のトイレの数々。大地震などが起きると断水や停電、下水道や排水設備の破損により、水洗トイレが使えなくなる。災害時にはどんなトイレが使えるのか、知識を持つことが災害への備えになるだろう。ここで紹介されていたのは、マンホールトイレ(下水道管路にあるマンホールの上に簡易な便座やテントなどを設け、災害時にトイレとして活用するもの)、水のいらないラップ式ポータブルトイレ(消臭加工したラップで、排泄物を自動的に密封処理)など。水がなくても使える携帯トイレも展示されていて、端末で使い方の解説を見ることができた。

★上左)この部屋の中央には起震機があり、震度1~7の地震の揺れを体感できる</BR>★上右)レジ袋を使った三角巾。スタッフが作ってみせてくれた</BR>★下右)ラップ式ポータブルトイレ、マンホールトイレなど、災害時用のトイレの展示</BR>★下左)タブレットの画面で、携帯トイレなどの使い方を知ることができた★上左)この部屋の中央には起震機があり、震度1~7の地震の揺れを体感できる
★上右)レジ袋を使った三角巾。スタッフが作ってみせてくれた
★下右)ラップ式ポータブルトイレ、マンホールトイレなど、災害時用のトイレの展示
★下左)タブレットの画面で、携帯トイレなどの使い方を知ることができた

「自分事」として防災を考える

避難生活の一端をかいま見ることができるのが、室内に再現された避難所。東日本大震災の後の福島県いわき市の避難所が再現されている。ダンボールで仕切られているが、人ひとりが横になれる程度の広さしかなく、プライバシーの確保もままならない。体験用スペースに入ってみたところ、寝返りを打つこともできず、窮屈。天井がないから誰かにのぞかれそうで落ち着かない。筆者は1分といられなかったが、こんな空間での生活が5ヶ月以上続いた被災者も少なくなかったという。非常時になれば、こうした避難生活があることも想定しなければならないが、どんな備えをすればいいのだろう。この再現避難所の解説パネルでは、「被災者からの問いかけ」として5つのポイントを伝えている。それらの概要は次の通りだ。

■プライバシーはどう守る? 着替えや洗濯物を干すときはどうする?
■避難所が整備されるまで時間がかかるが、それまでの食料や水を日ごろから確保できている?
■冬に災害が起きた場合、備蓄の毛布や衣類が届くまで時間がかかる。寒さで身を守る方法を考えている?
■避難所ではペットを受け入れてもらえるのか、考えたことがある?
■災害時の連絡手段や情報収集に欠かせない携帯電話。しかし、バッテリーが切れたらどうする?

これらの5つに対して自分なりに考え、できる準備をすることから始めたい。さらには小さい子どもと一緒の場合や老いた親との避難生活など、自分の生活環境に合わせて防災を考えておくことが重要だろう。

この体験学習を通し、災害をイメージする力、災害に対応する心構えが養えると感じた。

館内にはこのほかに防災学習ゾーンもある。災害時に役立つグッズ類や情報が幅広く展示されていて、体験学習で得た気づきを具体的な備えへとつなげるヒントもつかめると思うので、ぜひ見学してほしい。

☆取材協力
東京臨海広域防災公園 そなエリア東京
http://www.tokyorinkai-koen.jp/sonaarea/

★上左)再現された避難所。震災直後は隣の人と仕切るダンボールなどはなく、床に毛布を敷いて並んで睡眠をとる生活が続いたところがほとんどだったという。左端が体験スペース</BR>★上右)防災学習ゾーン。災害発生後の物資が不足するなかで、ペットボトルや大判ハンカチなど、身の回りのものを活用する知恵を紹介しているコーナー。家族の安否確認の方法や、ケガをしたときの止血の方法なども学べる</BR>★下右)さまざまな防災グッズが展示されている防災学習ゾーンには、生理用品や使い捨て下着など、女性に必要な防災用品を集めたセットの展示もあった</BR>★下左)地震の備えのひとつとして、土のうの準備の必要性を解説。東日本大震災では海沿いの地域で地盤の沈下などが発生し、満潮時などには海面が上昇して浸水してきたという。そうした浸水被害に備え、事前に土のうを準備しておく必要がある(防災学習ゾーン)★上左)再現された避難所。震災直後は隣の人と仕切るダンボールなどはなく、床に毛布を敷いて並んで睡眠をとる生活が続いたところがほとんどだったという。左端が体験スペース
★上右)防災学習ゾーン。災害発生後の物資が不足するなかで、ペットボトルや大判ハンカチなど、身の回りのものを活用する知恵を紹介しているコーナー。家族の安否確認の方法や、ケガをしたときの止血の方法なども学べる
★下右)さまざまな防災グッズが展示されている防災学習ゾーンには、生理用品や使い捨て下着など、女性に必要な防災用品を集めたセットの展示もあった
★下左)地震の備えのひとつとして、土のうの準備の必要性を解説。東日本大震災では海沿いの地域で地盤の沈下などが発生し、満潮時などには海面が上昇して浸水してきたという。そうした浸水被害に備え、事前に土のうを準備しておく必要がある(防災学習ゾーン)

2018年 09月27日 11時05分