ペットの数が、子どもの数を超えた!ペットと暮らす住宅設計とは?

飼い主のベッドで寛ぐネコ飼い主のベッドで寛ぐネコ

ペットブームがおこって約10年、家族の一員または人生に寄り添うパートナーとして多くの犬や猫などが飼育されている。一般社団法人ペットフード協会が行った、平成24年度 全国犬・猫飼育実態の調査結果では、犬の飼育数は1153万匹、猫は974万匹といわれ、その合計は日本の15歳未満の人口1649万人を優に超えた。
ペットを我が子のように育てたいという飼い主も多い昨今。その住宅事情は、どうなっているのだろうか。

ペット可物件やペット共生住宅などの中には、室内にネコの通路・キャットウォークを設置したり住居内のドアにネコ用の小さなドアを設けた住宅など、設計の中にペットのための仕様を取り入れた住まいがでてきている。また、ネットや書籍などでもペットとの暮らしに関する情報が豊富に揃ってきた。

ペットと住まいの関係に興味を覚えた頃、斬新なアイデアでネコと人の快適な住まいを実現したリノベーション物件があるとの情報が!
その物件を手がけた建築デザイナー・中西宗平氏を訪ねてみた。

人もネコも、体感し刺激がもてる住まいをデザイン

過去にネコを飼育した経験がある中西氏は、野良ネコの行動をつぶさに観察し、生態や習性に関する情報も調べ勉強したうえで、リノベーション物件を設計デザインした。

そのデザインとは、暗くて狭い所を好むネコの習性を活かして、天井裏にネコ専用のトンネルを設け、住まいのデザインの中にスタイリッシュに活かすというもの。

なぜ天井なのか?その理由は、1階と2階の間にある床スラブと大梁が関係する建物の構造にあるという。大梁の寸法が縦に550mmあったため、大梁の梁下あわせで天井を張ると床スラブと天井の間に大きな空間ができる。その空間を活用し、ネコが楽しめる動線を考え天井裏に登るという仕掛けを造ったのだ。
壁に設けたキャットウォークのステップを登る様子や、その出入口を装飾するフォトフレームのような窓から顔を覗かせるネコの顔は、人の目も楽しませてくれる。

天井へ続くキャットウォークはひんやりとした鉄板、柔らかな温かさのある木製の壁の吊り戸棚、野良ネコが歩くアスファルトをイメージしたモルタルの床というように、部屋の中の素材をそれぞれ変えている。行動するたびに、ネコが足の裏で色んな感触を楽しめるようにという工夫だ。1階はモルタルの床、2階は木の床、壁には木の古材を張るなど人にとっても、住戸内を移動するときに体や視覚的な刺激が感じられるよう、部屋ごとに変化を与えている。

壁に設置されたステップを登り天井裏へ壁に設置されたステップを登り天井裏へ

デザイン性に優れながらも掃除などのメンテナンスも考えられた設計

一瞬の愛らしい仕草をフォトフレームで飾る、粋なデザイン一瞬の愛らしい仕草をフォトフレームで飾る、粋なデザイン

気になるのは、天井裏がどうなっているのかということだ。抜けたネコの毛はどうやって掃除するのだろう?ネコが入ったまま出てこなくなったりしないのだろうか?そんな心配が頭をよぎるが、その点もちゃんと考えて設計されている。

掃除については、トンネルの内側にゴム製の筒が入っていて、取り出してジャブジャブと洗うことができるという。1部屋に数カ所設けられたトンネルの長さは、短いものから長いものまで様々で、中には行き止まりのトンネルもあるという。また、天井裏を通じて部屋移動ができないため、隣の部屋へ行くには天井裏から出てくる必要がある。天井裏から出てこなくなると、人とネコとの間に距離を感じてしまうため、どのネコがどこにいるのか気配が感じられるように配慮したのだ。

トンネル内はネコ1匹が通れる幅なので、意地悪なネコはそこに居座って交通渋滞を作ったり、出入口附近にいるネコは登ろうとして中を覗いたネコの頭をポンッと叩いたりするという。ネコ同士の微笑ましい光景が生活のアクセントになっている。また、物理的に離れていても心理的にグッと縮まる仕掛けも用意されている。それは、天井の出入口に設置したフォトフレームだ。ネコたちは意識してはいないが、そこから覗いている顔や尻尾といった一瞬の可愛い仕草が思い出の写真のように見え、ふっとしたときにクスッと笑えるのだという。

ネコの習性を取り入れた住まい、その発想はどこからきたのか

ネコと暮らす住まいの事例は色々あるが、この斬新なデザインに興味を覚える方も多いのではないだろうか。この発想はどこからきたのか気になるところだ。

中西氏が依頼内容の打ち合わせで自宅を訪れたとき、出迎えてくれたのは施主の女性と7匹のネコだったという。当初は、コンクリート打ちっ放しで施工された外壁のクリーニングの依頼だった。話しの中で「内装もリノベーションしたいが、どこをどうすればいいか分からない」という相談を受けた。

住宅を見渡し最初に気になったもの、それは複雑に入り組んでみえたネコと人、それぞれの生活動線だ。これは住んでいる側からすると、長年の生活で慣れてしまい気付かなくなっている問題点のひとつだろう。居住空間の中に、いつも使う場所とほとんど使わないスペースがあり、人が往き来する動線にネコが往来し混雑しているように見えたという。この動線をすっきりさせることで、人にとってもネコにとってもストレス無く快適に暮らせる住まいが創れるのではないかと考えた。

そこで、暗くて狭い所を好むネコの習性を取り入れた住まいのリノベーションを提案。スマートでスタイリッシュにまとめられた居住空間の中に、ネコの快適性を取り入れたのだ。それが天井裏のネコ専用トンネルや出入口のフォトフレーム、ネコが登り降りするためのキャットウォークというわけだ。

リビングの黒い壁の上部に設けられたネコ用の出入口リビングの黒い壁の上部に設けられたネコ用の出入口

施主様に生活することの醍醐味を思い出させた
ホテルを彷彿させる住まいのデザイン

Sohei Nakanishi Design 建築デザイナー 中西宗平氏Sohei Nakanishi Design 建築デザイナー 中西宗平氏

リノベーションの竣工後、実際に暮らしてみた感想はどうなのだろうか。
施主様いわく、トンネル効果のほどは不明だが15歳を筆頭に歳を重ねつつある7匹のネコは皆、健康でのびのび元気にしているという。リノベーションをする前は使われていなかった部屋の隅から隅まで、人もネコも有意義に使って活動しているという。

仕事が忙しくコーヒーすら楽しめない日々を送っていたという施主様。リノベーションの相談の中で、旅行が好きでホテルで過ごす時間が自分にとって、とても大切な時間だ、と中西氏に話しをしたそうだ。そのホテルを彷彿させるすっきりとした居心地の良いベッドルームや浴室、キッチンもお気に入りなのだとか。キャンドルを灯したり、アロマを楽しむ気持ちのゆとりができたし、友人が遊びに来ることが増え、キッチンに立つことも多く食器を集めるようになったという。いつ誰が来てもいいようにと楽しんで掃除をするようになったという。リタイヤメントした今では、朝起きると好きな音楽をかけて今日はリビングでコーヒーを飲もうか、テラスにしようかと、忘れかけていた生活を楽しむ醍醐味というものを味わえるようになったという。

施主様と会って話すことがデザインにつながると中西氏は話す。生活スタイルのヒアリングはもちろん、室内のインテリアや趣味で集めているもの、その人の癖や仕草まで、すべてにおいて建築デザインのヒントになるという。
「僕の仕事は、施主様とのコラボなんです。このスタイルがネコを飼っている、すべての人に当てはまるわけではないと思うし、今回の施主さんだったから、このデザインがあっていたんだろうと思います」と微笑みながら語っていた。

取材協力:Sohei Nakanishi Design
http://www.s-n-design.net/
写真:中里洋平

2014年 01月02日 12時04分