瑕疵保険の導入から6年、その普及は進んでいるのだろうか

「リフォーム瑕疵保険」やマンションにおける「大規模修繕工事瑕疵保険」もスタート「リフォーム瑕疵保険」やマンションにおける「大規模修繕工事瑕疵保険」もスタート

新築住宅に比べて既存住宅(中古住宅)では、建物の瑕疵(隠れた欠陥など)に対する保証が手薄になりがちだ。新築住宅であれば「住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)」に基づいて、引渡し後10年間の保証(瑕疵担保責任)が売主および請負人に義務付けられている。

それに対し、個人が売主となる既存住宅では瑕疵担保責任期間が引渡し後1ケ月から3ケ月程度に設定されることが多く、「瑕疵担保責任を負わない」とする特約も有効である。宅地建物取引業者が売主となる既存住宅でも、瑕疵担保責任期間は引渡し後2年間に限定されることが大半だ。

そのため「既存住宅を買って万一、欠陥などがあったらどうしよう」という消費者の不安はなかなか拭うことができない。それをカバーする仕組みとして導入されたのが「既存住宅売買瑕疵保険」であり、国土交通大臣が指定した「住宅瑕疵担保責任保険法人」による取扱いが2010年4月に始まった。それと前後して、「リフォーム瑕疵保険」やマンションにおける「大規模修繕工事瑕疵保険」もスタートしている。

これらの瑕疵保険について、制度のあらましやこれまでの加入状況とともに、今後の見通しや既存住宅流通市場への影響などを考えてみることにしよう。

瑕疵保険への加入は一定の建物検査が前提

既存住宅売買瑕疵保険は、一定の建物検査(インスペクション)を受けた建物に対して保証をするものだが、その売主が宅地建物取引業者か個人かで仕組みがやや異なる。「宅建業者販売タイプ」は既存住宅を買い取った宅地建物取引業者が一般消費者向けに再販をするときのものであり、保険に加入するのはその売主業者だ。それに対して個人が売主となる「個人間売買タイプ」では、申込みを受けた検査機関が保険に加入したうえで購入者への保証をする。

保証の対象となるのはどちらのタイプも構造耐力上主要な部分、雨水の浸入を防止する部分などであり、新築住宅における10年間の瑕疵担保責任範囲とほぼ同じだ。ただし、保険商品によっては一定の設備も対象に含まれる。また、保証期間は5年間(共通)、2年間(宅建業者販売タイプ)、1年間(個人間売買タイプ)のうちいずれかであり、保険商品によって異なる。保険金額(上限)は500万円または1,000万円に設定され、補修費用のほか、瑕疵の調査費用、補修工事中の転居・仮住まい費用なども支払われる。

その一方で、リフォーム瑕疵保険は保険商品による違いが大きく、保険期間は1年〜10年、保険金額は請負金額に応じて100万円〜2,000万円の間で設定される。保険対象は原則としてリフォーム工事を実施した「すべての部分」だ。補修費用のほかに、調査費用や転居・仮住まい費用などが支払われる点は既存住宅売買瑕疵保険と同じだが、実際に加入する際にはとくに保険期間について注意しておきたい。

また、大規模修繕工事瑕疵保険は主に管理組合が加入するものだが、保険期間は1年〜10年、保険金額は工事費用に応じて1,000万円〜5億円の間で設定される。マンションの大規模修繕工事では、管理会社から指示されるままに保険へ加入するケースがあるかもしれないが、管理組合としてしっかりとチェックすることが必要だろう。

瑕疵保険の加入件数は徐々に増えつつあるが、そのペースは緩やか

それでは瑕疵保険への加入状況はどうなっているだろうか。その推移を毎年追ったデータはあいにく見つからなかったが、国土交通省の制度検討資料の中に「証券発行件数」をまとめたものがあった。それを表したのが下のグラフである。

リフォーム瑕疵保険、既存住宅売買瑕疵保険とも、それぞれ国による補助事業があった年に大きく伸びているが、それを過ぎると件数が伸び悩んでいる状況のようだ。とくにリフォーム瑕疵保険については、2011年以降に漸減傾向がみられる。それに対して、「補助事業の影響」があった年を除いて考えれば、大規模修繕工事瑕疵保険、既存住宅売買瑕疵保険とも徐々に増えつつある。ただし、その増加ペースは緩やかだ。

また、「証券発行件数」とタイムラグはあるが、「申込み実績」を他の国土交通省資料から拾ってみると2014年度はリフォーム瑕疵保険が2,493戸、大規模修繕工事瑕疵保険が618棟、既存住宅売買瑕疵保険(宅建業者販売タイプ)が6,822戸、既存住宅売買瑕疵保険(個人間売買タイプ)が1,430戸だった。さらに「国土交通白書2016」によれば、2015年度の既存住宅売買瑕疵保険(宅建業者販売タイプと個人間売買タイプの合計)の申込み戸数は9,309戸となっている。

リフォーム関連は依然として伸び悩んでいるものの、既存住宅売買瑕疵保険については増加傾向が続いているといえるだろう。2013年秋に保険期間の短縮や保険金額の低減をした「ライトプラン」が導入されてから、加入申込み件数が次第に増えつつあるようだ。だが、既存住宅売買の大半を占める「売主が個人」のケースでは、保険利用がいまだに低調だといわざるを得ない。

国土交通省資料をもとに作成国土交通省資料をもとに作成

依然として根強い「新築信仰」を変えることは難しい?

既存住宅売買瑕疵保険制度の整備を進める背景のひとつとして、既存住宅に対する購入者の「質に対する不安」が挙げられている。新築住宅なら欠陥工事がないというわけではないが、新築住宅の購入者に対しては引渡しから10年間の保証など、一定の消費者保護策がとられている。それに対して既存住宅における保証が十分だったとはいえない。

その不安を低減させるための既存住宅売買瑕疵保険だが、これによって既存住宅の流通量が大きく増えるのかといえば疑問の残るところだろう。国土交通省が2016年7月に公表した「平成27年度住宅市場動向調査」の中に「中古住宅にしなかった理由」をまとめた項目がある。それによれば注文住宅取得世帯、分譲住宅取得世帯、分譲マンション取得世帯のいずれも「新築の方が気持ち良いから」という回答が7割近い圧倒的多数を占めているのだ。

それに対して「隠れた不具合が心配だった」とする回答は全体の4分の1程度にすぎない。「保証やアフターサービスが無いと思った」という回答を合わせても4割前後だ(複数回答による重複を含む)。インスペクションの実施や瑕疵保険制度の整備によって、既存住宅に目を向けさせることができるのは主にこの層である。既存住宅に対する不安を払拭したとしても「新築の方が気持ち良い」とする心理を変えさせることは困難だろう。

もうひとつ注目したいのは、およそ3割の人が「リフォーム費用などで割高になる」という理由で中古住宅を敬遠している点だ。同じ調査における中古戸建住宅取得世帯、中古マンション取得世帯への設問では、およそ8割の人が「予算的にみて中古住宅が手頃だったから」という理由で中古住宅を選んでいる。新築住宅を買った人は「中古住宅は割高だ」と考え、中古住宅を買った人は「中古住宅は割安だ」と考えているのだろうか。

この結果だけで判断することはできないが、新築志向の強い人は「もし中古住宅を買うのなら徹底的にリフォームをして、設備はすべて新品に交換する」という発想から「中古は割高」というイメージを抱いているのかもしれない。

「平成27年度住宅市場動向調査」(国土交通省)をもとに作成「平成27年度住宅市場動向調査」(国土交通省)をもとに作成

建物検査、保証、保険による取組みと同時に求められる、建物維持管理への意識の変化

既存住宅売買瑕疵保険の普及を促すため、2013年4月から住宅ローン控除、住宅取得資金に関する贈与税の非課税措置、登録免許税や不動産取得税の特例、マイホームの買換え特例など住宅税制における適用要件(一定の築年数を超えた既存住宅の場合)に「既存住宅売買瑕疵保険への加入」が加えられた。2014年4月からは、既存住宅取得後に実施する耐震改修工事における税制特例などでも「既存住宅売買瑕疵保険への加入」が要件のひとつとなっている。宅地建物取引業者が売主となる既存住宅で「すまい給付金」を受ける場合も同様である。

また、2018年までに施行される予定の改正宅地建物取引業法では、既存住宅を売買する前における「建物検査(インスペクション)のあっせん」と「検査を実施した場合の説明」が義務付けられる。それと同時に、インスペクションを実施することによって、既存住宅売買瑕疵保険への加入を促進することも目指しているのだ。2016年3月に策定された「住生活基本計画」では、2014年時点で5%だった保険加入率を2025年に20%まで引上げることが目標とされた。

その一方で、不動産流通大手では既存住宅売買瑕疵保険とは異なる独自の保証制度、あるいは既存住宅売買瑕疵保険を組み合わせてアレンジした保証も積極的に取り入れている。また、独自の自社保証をすることが困難な中小不動産会社に対しては、株式会社ネクストが「HOME’S住みかえ保証」を提供するなど、さまざまな瑕疵保証サービスが生まれている。ただし、それぞれ保証内容が異なるため、消費者にとっては分かりづらい状況もありそうだ。

リフォーム瑕疵保険に加入した物件に対するリフォームローンの金利優遇や、リフォーム瑕疵保険の保証対象に工事以外の現況検査部分(住宅全体の構造部分・防水部分)を加えた「リフォームワイド」の提供、フラット35による「リフォームパック」、さらに一部の自治体による補助事業(保険加入物件に補助金を交付)など、瑕疵保険と組み合わせた取組事例もある。ところが、リフォーム瑕疵保険への加入率(全リフォーム実施戸数・棟数に占める保険加入戸数・棟数の割合)は2013年時点でわずか0.2%にとどまり、その普及には大きな壁も存在する。

いずれにしても、既存住宅に対する保証制度の充実は歓迎するべきだろう。しかし、保険に加入すればそれで安心というわけではない。瑕疵を発生させないことが第一優先であることはもちろんだが、それと同時に建物の点検や手入れの重要性を消費者自身に理解してもらうことが、既存住宅流通市場の拡大、整備には大切だ。

適切なメンテナンスをすることによって、被害を未然に防いだり最小限の被害にとどめたりすることのできる瑕疵もあるのだ。瑕疵にはあたらないような不具合を長年放置して、大きな問題に発展することもあるだろう。何かあったらすべて販売側の責任、ではなく、購入者自身もしっかりと建物の維持管理をしていく意識が欠かせない。

既存住宅流通市場の拡大、整備には、建物の点検や手入れの重要性を消費者自身が理解することが重要だ既存住宅流通市場の拡大、整備には、建物の点検や手入れの重要性を消費者自身が理解することが重要だ

2016年 08月23日 11時08分