さまざまな顔をもつ大田区

東京の高級住宅地の一つに挙げられる田園調布も大田区にある東京の高級住宅地の一つに挙げられる田園調布も大田区にある

東京23区の南端に位置する大田区。その面積は23区内で最も広い60.66平方キロメール(ただし、そのおよそ3割は羽田空港関連の敷地)に達し、23区全体の広さの10%弱を占める。人口は政令指定都市に匹敵する71万2千人あまり(2015年11月1日現在)を擁しており、世田谷区、練馬区に次いで23区内で3番目だ。

大田区の北西エリアは田園調布、久が原などに代表される高級住宅地が広がる一方で、南東エリアには首都圏の玄関口となる羽田空港が大きな存在感を示している。そして蒲田を中心としたエリアは東京都内で最大の工場集積地だ。2013年の工業統計調査によれば、大田区内にはおよそ1,500の事業所があり、その大半が中小の「町工場」である。某テレビドラマの舞台である町工場の外観には、大田区で実際に操業している工場(桂川精螺製作所)が使われた。

さらに、空港を間近にみる羽田周辺は江戸時代から続く漁師町であり、現在も多摩川河口から羽田沖の一帯で盛んに漁が行われている。

バラエティに富んださまざまな顔をもつ大田区だが、2014年5月に「国家戦略特区」の指定を受けたことで新たな計画が動き出した。大田区がこれからどのように変わろうとしているのか、その主な計画についてみていくことにしよう。

「国家戦略特区」とは何か?

大田区の計画に触れる前に、まずは「国家戦略特区」について、おさらいしておきたい。

「国家戦略特区」は「産業や国際競争力の強化及び国際的な経済活動の拠点の形成に関する施策の総合的かつ集中的な推進を図る」ことを目的とした「国家戦略特別区域法」(平成25年12月13日法律第107号)によって指定される区域だ。経済対策の一環として「いわゆる岩盤規制全般について突破口を開いていくもの」とされている。従来の特区制度が地方公共団体からの申請を国が認可するスタイルのものであったのに対し、「国家戦略特区」は国が自ら主導したしたうえで、国・地方公共団体・民間が一体となって取り組むとされているのが特色だろう。

具体的な内容は多岐にわたり、土地利用規制の見直し・道路法の特例・滞在施設の旅館業法の適用除外などによる「都市再生・まちづくり」のほか、「ビジネス環境の改善、起業・開業促進」「歴史的建築物の活用」「外国人材の活用」、さらに雇用、医療、農林水産業、教育、保育などにおける規制の緩和や特例、施策の推進などが挙げられている。

2014年5月1日の第1次指定では、東京圏(千代田区、中央区、港区、新宿区、文京区、江東区、品川区、大田区、渋谷区、神奈川県、千葉県成田市)、関西圏(京都府、大阪府、兵庫県)、新潟県新潟市、兵庫県養父市、福岡県福岡市、沖縄県の6地域が「国家戦略特区」となっている。この時点で東京23区は大田区を含む9区にとどまっているが、これは外国人労働者の受け入れなどに難色を示す区が指定を見送られたようだ。ただし、2015年8月28日には東京都全域に「国家戦略特区」の指定が拡大されている。また、同日に秋田県仙北市、宮城県仙台市、愛知県の3地域が第2次指定として「国家戦略特区」に追加された。

また、それぞれの特区における「地域計画」は2015年10月20日に認定されており、東京圏では「保険外併用療養に関する特例」「旅館業法の特例」「創業人材の受入れに係る出入国管理及び難民認定法の特例」が主な柱として掲げられている。

多摩川河口付近の夕景。多摩川河口付近には漁師町の面影も残る多摩川河口付近の夕景。多摩川河口付近には漁師町の面影も残る

大田区の「民泊」は2016年1月に条例施行

2015年12月7日、大田区議会本会議で「大田区国家戦略特別区域外国人滞在施設経営事業に関する条例」が可決、成立した。いわゆる「民泊条例」だ。
条例の制定は10月の大阪府に続いて2例目だが、大阪府は2016年4月の実施を目指している。それに対して大田区は2016年1月中に条例を施行し2月には稼働する予定のため、国内初の実施事例となるだろう。

大田区は当初、国家戦略特区制度を活用した「ホームホテル事業」として、区立の既存施設などを宿泊施設に提供する計画だった。しかし、2014年頃から顕著になってきた訪日外国人の増加とそれに伴う宿泊施設の不足などを背景に「民泊」の需要が急速に高まり、「外国人滞在施設経営事業」として制度の対象を広げたものである。大田区が「民泊」で先陣を切るのは、羽田空港を拠点とする「国際都市おおた」の環境整備や、訪日外国人向けの「エントランス」にしようとする意図もあるようだ。

民泊仲介サイトとしてはアメリカ発の「Airbnb」(エアービーアンドビー)が先行しているものの、2015年12月7日には早くも大田区の民泊物件を対象にした予約仲介サイト「STAY JAPAN」(とまれる株式会社)が開設された。「民泊」を認める条例などが全国各地に広がればこのサイトの対象エリアも増えるだろうが、いずれにしても制度の動きに民間が素早く対応している。

大田区の「民泊」は建築基準法によって「ホテル・旅館」の建築が可能な用途地域(第一種住居地域、第二種住居地域、準住居地域、近隣商業地域、商業地域、準工業地域)にかぎられるが、北西部の住宅エリアを除けば区内の大半が該当する。また、民泊条例では事前に近隣住民に周知すること、必要に応じて区職員による立ち入り調査ができることなども規定された。

だが、民泊条例によって認められるのは「6泊7日以上」の滞在である。「民泊」の利用は原則として訪日外国人となるが、空港近くのエリアに6泊以上も留まり続けるニーズがどれほどあるのか、「民泊解禁」の効果を疑問視する声も少なからずあるようだ。観光目的の訪日外国人なら数日間のうちに全国各地を巡ることも多いだろう。

その一方で、厚生労働省と国土交通省は「民泊」を全国で解禁する準備を始めている。大田区などの国家戦略特区による「民泊」が「旅館業法の適用除外」なのに対して、全国規模で考えられているのが「旅館業法の規制緩和」だ。後者には宿泊日数の制限が設けられないほか、日本人も利用できる予定であり、宿泊者の利便性は高まるだろう。大田区が先行する制度は早期に見直しを迫られるかもしれない。

「蒲蒲線」で利便性が向上する

全国に先駆けて始まることで「民泊」が注目されがちなものの、大田区は羽田空港の沖合移転により生じた跡地でのまちづくり、蒲田駅周辺の再開発、「新空港線」の整備など、空港関連事業に重点を置いているようだ。
1978年に成田空港が開港してから中華航空を除くすべての国際線が移転し、羽田空港は国内線を主体として運用されてきた。しかし、2010年に再び国際化されてからは入国する外国人数も国際線貨物の取扱量も急速に伸び続けている。

ところが、羽田空港へ乗り入れている京浜急行線の「京急蒲田駅」と、JR線・東急線の「蒲田駅」は約800m離れているのである。品川方面や川崎・横浜方面とのアクセスにはあまり問題がないものの、渋谷、新宿、池袋など内陸方面、あるいは地元である大田区の北西部からも、大きく迂回して電車を乗り継ぐか、あるいは重い荷物を持ったまま2つの「蒲田駅」間を10分ほど歩かねばならない。この両駅を結ぶのが「新空港線」、いわゆる「蒲蒲線」であり、これによって羽田空港へのアクセスが飛躍的に向上するものと期待されている。

現行案では東急蒲田地下駅と京急蒲田地下駅をそれぞれ新設したうえで、東急多摩川線「矢口渡」駅付近から京浜急行線「大鳥居」駅付近を結ぶことになっているが、大田区は初年度の経済波及効果が東京都内分だけで約2,385億円になるとの試算をまとめたようだ。

羽田空港へのアクセスなど、利便性の向上が求められている羽田空港へのアクセスなど、利便性の向上が求められている

工場集積地の特性を生かした計画も

大田区では国家戦略特区制度を活用した「医療機器における薬事承認の迅速化」にも取組んでいる。
高精度な加工技術を有する工場が多い大田区は、その特性を生かして最先端医療機器の開発をリードしようとしている。そのために革新的医療機器の薬事承認を迅速化し、競争力のある製品の実用化を促進することが求められるのだ。

それ以外にも大田区では国家戦略特区制度を活用して、創業・イノベーション創出、外国人材の活用、「おもてなし」の国際都市の実現など多くの計画を掲げている。これには古民家などに対する建築基準法の適用除外による「歴史的建造物の活用」も含まれている。また、「エリアマネジメントに係る道路法の特例」として「さかさ川通り-おいしい道計画-」の事業計画も国家戦略特区での認定を受けた。これはイベント開催時に公道内へカフェやベンチを設置するなど、観光推進面での取組みである。

硬軟取り混ぜてさまざまな事業を推進し、「日本全体の成長の起爆剤になる」としている大田区だが、これから数年のうちにどのような変化をみせるのか、大いに注目していきたい。

工場集積地であることは大田区の大きな特色(写真は某ドラマの撮影にも使われた工場)工場集積地であることは大田区の大きな特色(写真は某ドラマの撮影にも使われた工場)

2016年 01月29日 11時05分