2015年は相続税対策と空き家対策が注目された

2016年がスタートして1ケ月あまりが過ぎた。年初来、株式市場は大きく変調し国内経済の行く末を憂慮する声も聞かれるようになっていたが、1月29日に日銀が「マイナス金利政策」の導入を決定した。マイナス金利が直接的に不動産市場へ大きな影響を及ぼすものではないだろうが、今後どのような変化が表れるのか未知の部分も多い。その成否が不動産市場の波乱要因となることもあるだろう。

2016年には不動産市場でどのような動きが見込まれているのか、その概要をまとめておきたいが、まずは2015年の主な出来事を振り返っておく。

2015年は相続税の課税強化でスタートした。基礎控除額を従来の規定から4割縮減する改正であり、1月1日に施行されている。それを見越した貸家着工の増加は2012年頃から顕著にみられ、前回の消費税率引上げでいったんは減少へ転じた時期があったものの、2015年は再び増加傾向をみせた。国土交通省がまとめた新設住宅着工戸数の統計によれば、2015年の貸家着工合計は前年比4.6%の増加だ。

貸家(賃貸住宅)の建築と並んで、超高層マンションの上層階を使った相続税対策も注目された。しかし、これに対しては2015年11月に国税庁が是正の方針を示し、一定の歯止めがかけられた格好である。

2015年4月1日の宅地建物取引業法改正により、「宅地建物取引主任者」の名称が「宅地建物取引士」に改められた。だが、改称による効果があったのかどうか、その評価をするのには時期尚早だろう。スピード感をもって変革が進む業界の体質にはなっていない。

増え続ける空き家への対策として「空家等対策の推進に関する特別措置法」が全面施行されたのは2015年5月26日だ。その後、10月下旬に神奈川県横須賀市が「全国初」として特別措置法に基づく老朽空き家の強制撤去に踏み切った。だが後日、長崎県新上五島町での先行事例が判明している。

特別措置法により強制撤去の対象となった横須賀市内の空き家特別措置法により強制撤去の対象となった横須賀市内の空き家

マンション価格の値上がりは限界に近づいた?

2015年は東京都心部を中心にマンション価格の値上がりが目立った1年でもある。不動産経済研究所の調査による首都圏の新築マンション動向では、2015年11月の1戸あたり平均価格は6,328万円で1991年6月のバブル期以来、約24年ぶりに6,000万円台となった。その背景には東京都心部における「超」高額物件の販売もあるが、とくに9月から11月は3ケ月連続で平均価格が2ケタの上昇となったようである。

ただし、9月、10月、12月は契約率が70%を割り込んでいる。2015年10月に発覚したマンションの杭打ち問題と、その後の調査で明らかにされたデータ流用の常態化も影響しているだろうが、それよりも価格上昇を敬遠した消費者の心理が考えられる。平均価格でみるかぎり、価格上昇で消費者離れが起きたとされる2007年から2008年頃の水準をすでに上回っているのだ。

今回の価格上昇は都心部における富裕層の相続対策やインバウンド投資も影響しており、郊外にはあまり波及していないとする見方もある。建設費の高止まりにより、郊外部では新規供給が難しい状況もあるだろう。その一方で、2015年は中古マンションの価格上昇も目立つようになってきた。

東日本不動産流通機構のまとめによれば、東京都区部における中古マンションの成約単価は2012年10月から2015年12月まで、39ケ月連続で前年同月を上回っている。しかし、在庫件数は2015年9月以降、前年同月比で2ケタの増加が続いており、地域によっては在庫のダブつきが大きくなっているようだ。今後は中古マンション市場でも厳しい局面を迎えることになるかもしれない。

2016年の注目は民泊、空き家売却、三世代同居、そして駆け込み需要

2016年がスタートして1月早々に、不動産流通に関する一つの改善が行われた。不動産会社間での情報交換システムである「レインズ」への「ステータス管理」導入だ。

これは売主と買主の双方から仲介手数料を得ようとして情報を適切に開示しない、いわゆる「囲い込み」の防止を目的としたものであり、個人の売主が自分の物件情報の状態などを確認するための専用画面を設けたことが特長である。これによって「囲い込み」が完全に防げるわけではないが、ある程度の抑止効果は生まれるだろう。

2016年度の税制改正(予定)では、空き家の売却における「3,000万円特別控除」の導入が注目される。亡くなった親などから相続した「空き家とその敷地」または「空き家を除却した後の土地」を売却した場合でも、3,000万円の利益までは課税しないとするものだ。ただし、1981年5月31日以前に建築された家屋を既存住宅として売却するときには耐震リフォームをすること、相続してから3年目の12月31日までに売却することなどの要件を満たさなければならない。

これにより取得時期が古い、あるいは大都市で利便性が高いなど、譲渡益課税が発生するために売りづらかった土地の流動性が高まることもあるだろう。しかし、土地あるいは既存住宅のニーズが弱いエリアでは、売り物件が増えることで価格の下落要因となることも考えられる。

また、2016年度の税制改正(予定)により「三世代同居改修工事に係る特例」も創設される。自己所有の家屋で「三世代同居」を目的とした一定の改修工事(キッチン、浴室、トイレ、玄関の増設工事で、いずれか2つ以上が複数になるもの)を実施したときに、所得税を控除するものである。

ただし、総務省が実施した「住宅・土地統計調査」によれば「三世代同居」は2013年時点で全世帯数の5.2%にすぎない。これを増やすためにはさまざまなハードルが存在し、税制支援だけではその効果が限定的に終わることもありそうだ。

2017年4月に予定される消費税率の再引上げを前に、「引渡し時期に関わらず現行の税率が適用される経過措置」の期限が2016年9月末となる。2016年9月までの契約もしくは2017年3月までの引渡しを目指した「駆け込み需要」が2016年中に、ある程度の盛り上がりをみせるだろう。その一方で、不動産会社の多くは増税後の「反動減」に備えた動きを見せ始めている。これまで国内での新築一辺倒だった会社が、リフォーム・リノベーション事業へ参入するなど事業の多角化、あるいは海外展開などが目立つ1年になるかもしれない。

また、「民泊」の解禁に向けた動きも活発になりそうだ。不動産会社による「民泊」事業参入も増えるだろう。観光庁がまとめた「訪日外国人消費動向調査」によれば、2015年の訪日外国人旅行者数は前年比47.1%増の1,974万人(速報値)に達した。政府が2020年の目標として掲げた2,000万人を早くも達成する勢いであり、とくに東京、大阪などではホテル不足が深刻である。民泊仲介サイトの「Airbnb」(エアビーアンドビー)には国内で2万件を超える登録があるとされるが、その多くが現状では違法として扱われている。このまま「民泊」を違法とし続けることは現実的でないため、ルール作りは2016年の早いうちに進められるだろう。

ステータス管理の画面例(公益財団法人東日本不動産流通機構の「ステータス管理」説明書類より引用)ステータス管理の画面例(公益財団法人東日本不動産流通機構の「ステータス管理」説明書類より引用)

住宅政策は既存住宅流通・リフォーム市場の活性化が課題に

2016年は住宅市場をめぐる政策面でもいくつかの変化がありそうだ。

まず、既存住宅流通・リフォーム市場の活性化を目的とした政策や事業では、2013年度から実施されている「長期優良住宅化リフォーム推進事業」の拡充に加え、2016年4月からは「既存住宅の長期優良住宅認定制度」もスタートする予定だ。これは既存ストックのリフォームにより住宅の質の向上を図ろうとするものである。

また、「住宅ストック維持・向上促進事業」として、不動産会社、金融機関、建築士、工務店、住宅検査会社などの連携による既存住宅流通市場の仕組みの整備を支援する制度も始まる。その実効性を高めていくためのハードルは高いだろうが、一定の成果が上がることを期待したい。

さらに、国土交通省が住宅診断(インスペクション)の普及を促進する方針であることは、新聞などでも報じられている。宅地建物取引業法を改正したうえで2018年の施行を目指すようだが、それに向けた環境整備は2016年のうちから進められるだろう。

その一方で、2015年6月に閣議決定された「地方創生基本方針」をもとに、各都道府県や市町村で「地方版総合戦略」がつくられることになっている。2016年度はこれに沿った計画が本格的に動き出すことになるが、「地方版総合戦略」によって地域の不動産のあり方が問われる場面も出てくるだろう。個々の不動産、住宅の立地条件などによっては、その将来性が大きく左右されることになる。

新しい「住生活基本計画」は2016年3月に閣議決定の予定

2016年は住宅に関する国の基本方針が見直される。2015年1月から12月にかけて「社会資本整備審議会住宅宅地分科会」による検討会が開かれていたが、2016年3月に新たな「住生活基本計画(全国計画)」が閣議決定される予定だ。これは今後10年間の方向性を示すものだが、新たな「住生活基本計画」改定案は1月22日に公表され、次の8つの目標が掲げられた。

【居住者からの視点】
 目標1 結婚・出産を希望する若年世帯・子育て世帯が安心して暮らせる住生活の実現
 目標2 高齢者が自立して暮らすことができる住生活の実現
 目標3 住宅の確保に特に配慮を要する者の居住の安定の確保
【住宅ストックからの視点】
 目標4 住宅すごろくを超える新たな住宅循環システムの構築
 目標5 建替えやリフォームによる安全で質の高い住宅への更新
 目標6 急増する空き家の活用・除却の推進
【産業・地域からの視点】
 目標7 強い経済の実現に貢献する住宅関連産業の成長
 目標8 住宅地の魅力の維持・向上

もちろん、個々の目標を抽象的に提示しただけではなく、それぞれについて「基本的な施策」「成果指標」などもまとめられているが、やや力強さに欠ける部分、あるいは従来よりも後退した部分があることも否めないだろう。

賃貸用または売却用のものを除いた「その他の空き家」数については、2013年時点の318万戸から、2025年は400万戸程度におさえる目標が掲げられたが、現状よりも減らす目標ではなく、空き家の増加を前提として、そのスピードダウンを図ろうとするものである。また、既存住宅流通の市場規模を2025年に8兆円、住宅リフォームの市場規模を2025年に12兆円とする目標も掲げられたが、これは従来の政策(「2012年日本再生戦略」「日本再興戦略 改訂2015」等)において「2020年までに実現すべき成果目標」としていた数値(2010年比で倍増)を変えることなく、そのまま5年「先送り」したものである。

その背景には「住宅ストック活用型市場への転換の遅れ」もある。国土交通省のまとめによれば2008年から2013年までの5年間で、住宅リフォームの市場規模は1割あまりの増加にとどまり、既存住宅の取引数にいたってはほとんど変化がみられないのだ。新築住宅供給事業者から大きな反発を受けるくらいの強いメッセージを発しないと、なかなか住宅市場の構造は変わっていきそうにない。

2006年6月に施行された「住生活基本法」において住宅ストック重視(既存住宅流通・リフォーム市場の整備の推進)の方針が打ち出されたものの、その後の10年間において新築主体の住宅市場構造が大きく変わることはなかった。だが、「住生活基本計画」の改定によって2016年が日本の住宅政策における新たなスタートの年になることを期待したいものだ。

2016年 02月09日 11時05分