日本におけるリバースモーゲージの歴史は35年になるが……

2015年3月2日に三井住友銀行が「リバースモーゲージ」の取扱いを始めた。これによって3メガバンクの商品が出揃ったわけだが、リバースモーゲージとはいったい何なのか、まずは国内における歴史を簡単に振り返っておくことにしよう。

アメリカでリバースモーゲージの取扱いが始まったのは1960年代のようだが、日本では20年ほど遅れて、1981年に導入された武蔵野市の制度が全国初とされている。その後いくつかの自治体や信託銀行で取扱う事例があったものの、バブル崩壊後における担保不動産の価値下落の流れの中で、実質的に取扱いを中止する例も少なからずあったようだ。

リバースモーゲージが再び注目されるようになったのは2000年頃からであり、その背景には公的年金への信頼感低下、医療費負担の増大、定年後の再雇用への不安など、老後の安定した生活確保の困難さが社会問題化してきたことがある。2003年には厚生労働省が各都道府県への通知を行い、社会福祉協議会による「長期生活支援資金貸付制度」などにリバースモーゲージの仕組みが取り入れられるようになった。

その後、地方銀行、第二地方銀行、信託銀行、信用金庫などによる取扱いも少しずつ増えていたが、その増加が目立ち始めてきたのは2013年頃からだ。2013年7月に、みずほ銀行がメガバンクとして初めてリバースモーゲージに参入し、大きな話題となった。続いて2014年2月に三菱東京UFJ銀行が参入し、2015年3月の三井住友銀行の参入でようやく3メガバンクが出揃ったところである。

各行のWEBサイトに記載された商品説明をもとに作成(2015年5月時点)各行のWEBサイトに記載された商品説明をもとに作成(2015年5月時点)

リバースモーゲージの仕組みはさまざま

リバースモーゲージは「逆抵当融資方式」といわれるもので、高齢者などが持家を担保にして生活資金などの融資を受け、本人が死亡したときに遺族が持家の売却代金で一括返済することが一般的だ。本人はそのまま自宅に住み続けることができ、通常のローンが借りにくい高齢者でも持家があれば利用できる。「子どもに家を残さない」と割り切れば有効な選択肢だろう。

具体的な仕組みは金融機関ごとに異なり、初めにまとまった資金を受取るタイプ、毎月または毎年など定期的に一定額ずつを受取るタイプ、利用限度枠内で自由に引出すことのできるタイプ、あるいはそれらを組み合わせたタイプなどがある。また、返済方法も金融機関によって、あるいは商品によって異なり、毎月一定額を返済するタイプ、利息だけを毎月支払うタイプ、利息を含めて死亡後に一括返済するため借入期間中の返済が一切不要なタイプなどさまざまだ。

みずほ銀行や三井住友銀行は、事業性資金や金融商品の購入など特定の使途を除き原則として自由にお金を使えるが、三菱東京UFJ銀行は自宅のリフォーム資金やサービス付き高齢者向け住宅の入居一時金に使途が限られるなど、金融機関によって融資金の目的が異なる場合もある。

また、自治体や社会福祉協議会による融資は低所得の高齢者向け福祉施策として制度化されているものであり、当然ながら所得制限が設けられている。さらに、一部のハウスメーカーでは自社物件の所有者を対象に「住み替え支援」を目的としたリバースモーゲージを取り扱っている例もある。

住宅ローンを返済し終えて抵当権が抹消されていることを要件とする場合が多いものの、一部の金融機関では、リバースモーゲージによる融資金を既存の住宅ローンの返済に充てることが認められている。毎月の住宅ローン返済がなくなり、リバースモーゲージ分に対しては利息のみの返済になるため、老後の生活に大きな余裕が生まれるケースもあるようだ。

リバースモーゲージにはいくつかのリスクがある

リバースモーゲージの担保となる土地は一定期間ごとに評価が見直される。地価の下落などにより担保割れが生じたときには、契約終了前に融資が打ち切られることもあるだろう。また、金利は一般的に変動型であるため、金利上昇によって借入残高が想定以上に増えれば、同様に担保割れを引き起こすことがある。さらに、貸付限度額いっぱいまで借りた後も長生きをすれば、本当に必要なときに新たな融資を受けられないばかりか、利息だけを支払い続けなければならなくなる危険性もある。リバースモーゲージのいわゆる「長生きリスク」だ。

このような事態になれば、融資が中断されるだけでなく、途中で元金の返済を求められることになりかねないため、金融機関や自治体、社会福祉協議会では、融資額に余裕を持たせ、限度額を土地評価額の50%〜70%程度に抑えていることが多い。仮に4,000万円と評価された土地でも4,000万円が借りられるわけではなく、50%なら2,000万円までしか融資されないことになる。また、借入れ時の年齢も一部の金融機関では55歳以上となっているが、多くの場合は60歳以上または65歳以上だ。

さらに、高齢夫婦の二人世帯でリバースモーゲージを利用する際には、主債務者が死亡したときの扱いについて十分に注意しなければならない。夫が契約者として融資を受けるとき、妻を連帯債務者としたうえで、夫の死後も妻がそのまま住み続けられる場合がある一方で、夫の死後は妻の継続居住を認めず、一定期間内に家を明渡して売却することを求める金融機関もある。

リバースモーゲージが抱える現状の課題とは

老後の生活を支え、ゆとりある暮らしを実現してくれるリバースモーゲージだが、現状では認知度が低いことをはじめ、いくつかの課題もあるようだ。民間金融機関が取扱うリバースモーゲージでは、そのリスクを回避するために地価が比較的高く、さらに将来的な地価下落がそれほど大きくないと見込まれる大都市圏のみを対象とすることが多い。地方銀行などでも、自行の営業エリア内において対象地域を選別するか、担保評価を極端に抑え込むことがあるだろう。

また、敷地の権利が所有権の一戸建て住宅に限定し、借地権などの場合は対象外とするケースも多い。マンションでも対象となるのは一部の金融機関に限られる状況だ。さらに、融資期間の長期化を避けるため若い世代を対象とすることはない。つまり、リバースモーゲージの主な利用者は「大都市圏で所有権の敷地に建てられた一戸建て住宅を持つ高齢者」にならざるを得ない。自治体などによる生活扶助が目的のリバースモーゲージなら、主な対象は「所有権の敷地に建てられた一戸建て住宅を持つ低所得高齢者」だ。

家を子どもに残さないことが前提となるため、申込みにあたっては契約者の子など推定相続人の全員が承諾をしたうえで「同意書」を提出するなどしなければならず、その合意が得られないためにリバースモーゲージが使えないこともあるだろう。さらに、たいていの場合は高齢者の一人暮らし、または高齢夫婦の二人暮らしの場合を対象としているため、子どもが同居して親の介護をしているようなケースではリバースモーゲージが使えないことになる。

また、担保評価の低いリバースモーゲージで融資を受けるよりも、生前に持家を売却したうえで生活コストの安いところに住み替えたり、高齢者向けの賃貸住宅などに入居したりするほうが、より有意義にお金を使えるケースもあるだろう。現状では必ずしもリバースモーゲージが最適な選択肢とはならないケースも多い。

リバースモーゲージはこれから普及するのか?

潜在的なリバースモゲージの需要は多いと言えそうだが、金融機関は取り扱いに消極的だ。やはり担保評価の問題が大きいだろう。様々な制度との組み合わせが必要だと見られる潜在的なリバースモゲージの需要は多いと言えそうだが、金融機関は取り扱いに消極的だ。やはり担保評価の問題が大きいだろう。様々な制度との組み合わせが必要だと見られる

総務省の家計調査(2014年)によれば、世帯主が60歳代の持家率は87.6%、70歳代の持家率は89.3%に達する。潜在的なリバースモーゲージの需要は多いといえるだろうが、これが普及していくためのハードルは高いようだ。

国土交通省が2015年3月に公表した「平成26年度民間住宅ローンの実態に関する調査」(調査時期:2014年10月〜12月)の結果によれば、回答をした1,304金融機関のうちリバースモーゲージを「現在、商品として取り扱っている」としたのは31金融機関(2.4%)、「商品化を検討中」としたのは53金融機関(4.1%)にすぎない。それに対して「商品化の予定はない」との回答が1,203金融機関(92.3%)にのぼっている。

大半の金融機関がリバースモーゲージの取扱いに消極的なのは、やはり担保評価の問題が大きいだろう。アメリカでは担保物件の評価が十分でない場合でも融資金を受取ることができるように国が関与した仕組みとなっているようだが、国内では金融機関などによる独自の評価に大きく左右される。そのため、国土交通省が設置した「安心居住政策研究会」の中間とりまとめ(2015年4月公表)には、今後取組むべき対策としてリバースモーゲージの拡充に向けた公的機関の関与のあり方(公的保証の付与など)、担保評価手法の高度化、住宅金融支援機構による住み替え支援のためのリバースモーゲージ活用などが盛り込まれた。

その一方で、新たな動きも出てきているようだ。一部の地方銀行では、住み替えを希望する人に対して、持家を貸したときの賃料を担保に融資をし、その賃料収入で返済をするタイプのリバースモーゲージを取り扱っている。これをうまく活用すれば、空き家対策の一助にもなるだろう。単なる生活資金の融資とせず、さまざまな制度とリバースモーゲージを組み合わせることで、新たな活用の道が開けるかもしれない。

2015年 06月08日 11時08分