大阪府茨木市は、大阪府北部に位置する北摂エリアの街だ。大阪の都心や京都へも短時間で出られる立地で、古くからベッドタウンとして発展してきた。都心への通勤圏である一方で住宅地としての落ち着きもあり、子育て世代を中心に人気の高い街である。

茨木市の中でも利用者数の多い駅は、阪急茨木市駅とJR茨木駅の2つ。2駅は約1km離れて位置しており、それぞれの駅前が商業や生活の拠点になっている。

その中でも、JR茨木駅は大阪駅・新大阪駅・京都駅という主要駅へ電車一本で移動できる。快速が停まるため、新幹線が発着する新大阪駅・京都駅にもアクセスがよく、出張や遠方への移動でも使い勝手が良い。

もう一方の阪急茨木市駅は、平日ダイヤの全営業列車が停車する主要駅で、大阪梅田駅までは特急で約17分と近く、通勤・通学の負担が少ない。朝夕にはOsaka Metro堺筋線へ直通する列車も走っており、都心のオフィス街へ乗り換えなしで移動できるのが魅力である。

その阪急茨木市駅の西口で、駅前の「顔」として半世紀以上親しまれてきたのが商業施設「ソシオ茨木」だ。今、この駅前のランドマークが建替えの局面を迎えようとしている。

国際博覧会の年に生まれた「ソシオ茨木」が築55年で再整備へ

阪急茨木市駅阪急茨木市駅

ソシオ茨木が誕生したのは、1970年である。この年、阪急茨木市駅の西口では、国際博覧会の開催を機に開発が進み、駅前広場と2棟のビルが一体的に整備された。それが茨木ビルと永代ビルからなる商業施設「ソシオ茨木」だ。

地上6階建ての茨木ビル(ソシオ1)と地上4階建ての永代ビル(ソシオ2)は、飲食や物販の店舗が集まる駅前の商業施設として、半世紀以上にわたり茨木市民の暮らしを支えてきた。

駅ビルに隣接して東西に配置されているソシオ1駅ビルに隣接して東西に配置されているソシオ1
駅ビルに隣接して東西に配置されているソシオ1ソシオ1の西側で南北に配置されているソシオ2

しかし、築55年以上が経過する中で、建物の傷みが目立つようになっていった。設備の老朽化に加え、旧耐震基準で建てられた建物の耐震性にも不安が残る。駅前の一等地だけに、建物の安全性を高める対策は避けて通れないテーマだった。

このような背景から、地権者と茨木市は早くから再整備の検討を重ねてきた。半世紀以上前に生まれた駅前の顔を、次の時代へどうつなぐのか。その協議は10年以上前から始まっていたが、計画は当初描かれた姿から大きく変わっていく。

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駅ビルに隣接して東西に配置されているソシオ1ソシオ茨木の中にはレトロな雰囲気が残る区画も

45階から24階へ縮小した建替え計画

ソシオ茨木の再整備として当初計画されていたのは、駅前に45階建てのタワーマンションを建てるという構想だった。しかし、今では24階・約86mの建物が建設されるという計画となっており、当初の半分程度の規模に縮小された。なぜタワーマンションという大きな構想が見直されることになったのだろうか。

建替えの検討が本格化したのは2014年だ。この年、地権者による建替え推進が決議され、ソシオ茨木建替え推進委員会が発足。事業パートナーには阪急阪神不動産と大林組が選ばれた。

2020年6月に茨木市が公表した「阪急茨木市駅西口駅前周辺整備基本計画(案)」では、45階建ての超高層マンションが想定されていた。当時の建設予定地は高さ制限が43mであったため、実現には制限の緩和を前提とする思い切った構想である。

この計画の主な建設地と見込まれていたのが、近くにある市営駐車場の敷地だ。ところが、その後の見直しでこの駐車場は事業エリアから外され、事業面積は当初の約2ヘクタールから縮小し、計画は見直しを迫られる。

その結果、計画は当初の45階建てから、現在の24階・約86mへと規模が縮小されたのだ。

ただし、計画が見直された背景には、事業用地縮小の他に、事業の進め方の変更も大きく関わっている。市が主導する再開発から、地権者が主体となる方式へ切り替わったのだ。

茨木市営阪急茨木西口駐車場茨木市営阪急茨木西口駐車場

地権者主導で進むソシオ茨木の建替え

ソシオ茨木の建替えには、大きな特徴がある。市が中心となって進める「市街地再開発」ではなく、地権者が主体となる「自主建替え」で計画が動いている点だ。

市街地再開発は、都市再開発法に基づき自治体などが主導する事業である。公共性の高い都市計画事業として位置づけられ、行政による調整や支援を受けながら、複数の敷地を1つに集約して整備を進める開発方式だ。

一方の自主建替えは、マンション建替え円滑化法に基づく方式で、ビルの区分所有者が自ら建替組合をつくり、その組合が主体となって建替えを進める形で開発が進められる。

ソシオ茨木も、当初は市主導の再開発を念頭に検討が進んでいた。しかし2024年1月、地権者は自主建替えで進める方針を決めた。

決め手となったのは、所有権をめぐる意向だった。市はかつて、ソシオ茨木の土地を市が買い取り、地権者は定期借地の建物として改めて区画を取得する案を提案していた。

しかし、地権者への聞き取りでは、所有権を手放さず持ち続けたいという人が多数を占める結果となった。そのため、市の案では合意形成が難しいと判断され、推進委員会は自主建替えへと舵を切ったのである。

築50年を超えた駅前ビルの再整備は、いまや全国共通の課題である。市街地再開発に頼らず地権者主導で立て直すソシオ茨木の試みは、同じ悩みを抱える街の手本の1つになるだろう。

商業・住宅の複合ビルに生まれ変わる駅前

建替えプロジェクトは、すでに事業計画案として示されている。ソシオ茨木は、規模の異なる2棟の商業・住宅の複合ビルへと生まれ変わる計画だ。

計画の中心となるのが、茨木ビル(ソシオ1)と永代ビル(ソシオ2)の跡地に建つ複合マンションだ。

・茨木ビル跡地:地上24階・高さ約86m、総戸数212戸(住宅)
・永代ビル跡地:地上13階・高さ約43m、総戸数107戸(住宅)

2棟を合わせると300戸を超える住宅が駅前に生まれる計画となる。

いずれの棟も、低層部を店舗などの商業施設、高層部を住宅とする構成で、同じ建物の低層階で買い物を済ませ、そのまま上階の住戸へ戻れる。駅にも商業施設にも近い暮らしができるのだ。

複合マンションで計画されている断面図(画像引用:茨木市「ソシオ茨木建替え事業計画案」)複合マンションで計画されている断面図(画像引用:茨木市「ソシオ茨木建替え事業計画案」)

計画のもう1つの柱が、駅前空間の再構成である。新しい建物の隣に民間が整備・運営する広場を設け、これを既存の駅前広場とつなげて一体の空間として使う構想だ。

緑を植え、店舗やカフェを配置し、市民活動やイベントにも開かれた空間を目指す。ただの通路ではなく、人が滞在できる駅前へと変えていくという狙いがある。

計画は着実に進んでおり、2026年2月16日に阪急茨木市駅西地区の地区計画が都市計画決定された。これにより、高さや用途制限などのルールが正式に定まり、事業は次の段階へ入ることになる。次は2026年度以降に地権者が建替組合を設立する予定で、その後の2027年度以降に解体工事と本体工事へ順次着手する計画である。

複合マンションで計画されている断面図(画像引用:茨木市「ソシオ茨木建替え事業計画案」)駅前空間の配置案(画像引用:茨木市「ソシオ茨木建替え事業計画案」)
複合マンションで計画されている断面図(画像引用:茨木市「ソシオ茨木建替え事業計画案」)現在の茨木市駅前のバスロータリー
複合マンションで計画されている断面図(画像引用:茨木市「ソシオ茨木建替え事業計画案」)駅前空間のイメージ図(画像引用:茨木市「ソシオ茨木建替え事業計画案」)

駅前の再整備は茨木市の住宅価格にどう影響するのか

最後に、茨木市駅の再整備が住まい選びにどう関わるのかを考えたい。

「LIFULL HOME'S 住まいインデックス」によると、茨木市駅周辺の標準的な中古マンション価格(築10年・専有面積70m2の物件をAI査定した参考価格)は、直近3年間で約4.77%上昇しており、価格は右肩上がりで推移してきた。

ここに駅前の再整備が加わる。駅前の再開発は周辺の利便性を高めるため、住宅需要を後押しするのが一般的だ。ソシオ茨木の建替えでは、300戸を超える住宅が駅前に生まれ、低層の商業施設や開かれた広場も整備される。徒歩圏内の生活利便性が向上すれば、周辺の住宅価格を押し上げる方向に働くだろう。

茨木市駅の住宅価格推移(画像引用:LIFULL HOME'S 住まいインデックス)茨木市駅の住宅価格推移(画像引用:LIFULL HOME'S 住まいインデックス)

一方で、気をつけたいポイントもある。駅前の一等地に建つ住宅は、希少性の高さから価格も高めに設定されることが予想される。まとまった数の新築住戸が供給されれば、住まいの選択肢は広がるが、手が届く価格帯かどうかは冷静に見極めておきたい。

今茨木エリアで住まいを探すのであれば、現在の姿に加え、将来的に駅前がどう変化するのかも判断材料にするべきだ。街の変化を理解した上で、自分のライフステージや予算に合う選択をすれば、後悔のない住み替えにつながるだろう。