国や自治体だけなら地方創生は進まない

地方創生、地域活性化、地域振興、地方経済活性化、まち・ひと・しごと創生、東京一極集中是正、一億総活躍社会……。さまざまな言葉で表現される取組みが各地で始まっているものの、全国的な人口減少が進む社会構造の中で着実に成果を上げていくことは容易ではない。国や自治体だけでなく、幅広い民間の積極的な関与が求められるほか、若い世代の柔軟な発想や行動力も欠かせないだろう。

それらの取組みの中で「潤滑油」としての役割を期待されているのが銀行だ。それも都市銀行(メガバンク)ではなく、地域に根ざした地方銀行、第二地方銀行、信用金庫、信用組合などである。2016年4月には千葉県市川市と金融機関6社(千葉銀行、京葉銀行、市川市農業協同組合など)が「地方創生に係る連携等に関する協定」を締結したが、同様の動きはこれからも全国で増えていくものと考えられる。

そうした動きの一つとして挙げられるのが、茨城県、常陽銀行、JTI(一般社団法人移住・住みかえ支援機構)の3者による「茨城県への移住促進に関する連携協定」だ。この協定による新たな取組みが2016年4月1日にスタートした。

首都圏に近い茨城県でも人口減少は深刻化している

お話を伺った常陽銀行の池田氏と高田氏お話を伺った常陽銀行の池田氏と高田氏

茨城県は関東北部に位置し、2015年国勢調査(速報集計)による都道府県別人口では全国11位である。県南部の「つくば市」は市町村別の人口増加数で全国16位になったほか、県南部・県西部の龍ケ崎市、常総市、取手市、牛久市、守谷市、坂東市、つくばみらい市などは地価公示法における「東京圏」に組み入れられており、首都圏との繋がりも深い。過去10年間(2006年~2015年)における工場立地面積、件数とも全国1位(経済産業省:工場立地動向調査)だ。

しかし、茨城県全体では人口減少が進んでおり、2010年から2015年にかけての人口減少率(2015年国勢調査速報集計)は、全国平均のマイナス0.7%を上回る1.7%の減少である。

そこで地方創生の一環として進められているのが、主に東京圏の住民を対象とした「茨城県への移住・二地域居住の促進」である。茨城県、常陽銀行、JTIなどの連携で始まった「いばらきふるさと県民登録制度」および「いばらき発 残価保証型居住プラン『ゆとりライフ』」について、常陽銀行(本店:茨城県水戸市)地域協創部の池田氏と高田氏にお話を伺った。

「いばらきふるさと県民登録制度」を将来的な移住のきっかけに

「いばらきふるさと県民登録制度」は茨城県や県内の市町村、民間事業者などで構成する「いばらき移住・二地域居住推進協議会」が主体として運用するものであり、「地方創生の先駆的事例」として国による「地方創生加速化交付金(2015年度補正予算)」の対象事業にも採択されたそうである。

「将来的に茨城県への移住などを検討する人」(移住予備軍)に対して「いばらきふるさと県民登録証」を発行し、ホテルや旅館、レストラン、レンタカー、ガソリンスタンドなどの割引サービスを提供するほか、移住体験ツアーの実施やさまざまな情報提供、特典の付与などを通じて、繰り返し茨城県を訪問するよう促すとのことだ。

これによって将来的な移住などを義務づけるものではないが、「第2のふるさと」として愛着を持ってもらうことで、実際の移住や二地域居住の有力な選択肢として、茨城県を検討してもらうことのきっかけにしたいという。もちろん、移住に関する相談受付などもあり、茨城県内だけでなく、東京都内にも相談窓口が設けられている。

なお、「いばらきふるさと県民登録」の受付は、いばらき暮らしサポートセンター(千代田区有楽町)、いばらき移住・就職相談センター(千代田区平河町)などの窓口のほか、郵送、電子メール、WEBサイト(茨城県移住ポータルサイト)の登録フォームなどからの申込みもできる。

移住のネックはマイホームに残った既存の住宅ローン

「移住・住みかえ支援適合住宅証明書」のサンプル。これによって移住後の借上家賃が保証される「移住・住みかえ支援適合住宅証明書」のサンプル。これによって移住後の借上家賃が保証される

だが、多くのケースで移住検討のネックとなるのが、いま住んでいるマイホームの住宅ローンだ。実際にそのような事例をこれまでに数多く見てきたと池田氏は話す。

帝国データバンクが2013年にまとめた資料によれば、2012年に本社移転(都道府県を越える移転)が判明した2,338社の集計で、埼玉県、神奈川県に次ぐ転入超過の全国3位が茨城県だった。ちなみに転出超過が多いのは東京都、大阪府の順となっている。

ところが、会社が茨城県に移転してもその従業員が従来のマイホームを手放すことができずに長距離通勤を続けていたり、退職後に元のマイホームに戻ったりするケースも多いそうだ。マイホームを売却しようとしても、既存の住宅ローン残高を上回る価格で売れなければ思いどおりにいかないのである。

そのような事情も考慮しながら常陽銀行が開発した住宅ローン商品が「いばらき発 残価保証型居住プラン『ゆとりライフ』」とのことである。簡単にいえば、JTI(一般社団法人移住・住みかえ支援機構)との提携により、「移住などで住まなくなった家の家賃を保証」する仕組みをセットにした住宅ローンだ。既存の住宅ローンを借り換える場合は「JTIの建物要件(耐震基準等)を満たした住宅」に限定されるが、築年数に関わらず最長35年の保証も可能だという。

返済期間が異なる固定金利と変動金利の住宅ローンを組み合わせることで将来的な負担分を軽減するとともに、実際に移住をした後、一定の期間が経過した時点からJTIが一定の家賃を保証する。それによって、早期の移住なら既存住宅ローンの負担を軽くし、定年退職後などの移住であれば実質的にローン返済負担が生じないように設計するのが「ゆとりライフ」の特長だ。さらにローンを完済した後は、JTIからの家賃を老後の生活費に充てることができるほか、その家を子どもに相続させることも可能となっている。

低金利のいまこそ、マイホームの行く末も考えておきたい

「ゆとりライフ」の住宅ローンを借りた場合でも、将来的な茨城県への移住を強制するものではなく、あくまでも「移住を視野に考えてもらえれば」というスタンスのようだ。常陽銀行の営業エリア内であれば、対象住宅の所在地を問わないとのことである。ただし、当面は一戸建て住宅を対象とし、マンションについては今後、検討していくとのことだ。

また、新築住宅の購入や建築の場合には、JTI協賛のハウスメーカーなどが建てる「認定長期優良住宅」であることを前提にして、JTIによる家賃保証は最長50年間になるとのこと。将来的に移住する場合だけでなく、高齢者施設へ入居する場合などでも、マイホームが空家となることを未然に防ぐ効果が考えられそうである。

実際に移住する場合には、移住先での住居負担も考えなければならないが、東京など大都市で暮らすよりもかなり低い生活費で済むことが多い。住宅ローンに縛られて「動くに動けない」という状況を解消するための一つの選択肢として、この新たな住宅ローンの活用を検討してみるのもよいだろう。

茨城県・常陽銀行などの取組みに限らず、これから他の道府県の地方銀行などで開発される住宅ローン商品にも注目していきたい。

いばらき発 残価保証型居住プラン「ゆとりライフ」のイメージ(常陽銀行資料より引用)いばらき発 残価保証型居住プラン「ゆとりライフ」のイメージ(常陽銀行資料より引用)

2016年 05月17日 11時04分