
親の土地相続で兄弟間のトラブルを防ぐには、正確な知識と計画が重要です。相続は感情的な問題と密接に関わるため、適切な対応をしないと争いに発展する可能性があります。
土地を相続する際には、共有分割や換価分割、現物分割、代償分割、相続放棄といった5つの選択肢があります。それぞれにメリット・デメリットがあるので、土地の状態や相続人の希望などを考慮し、自分たちに合った分割方法を選ぶことが重要です。
この記事では、親の土地相続で兄弟間がもめる主な原因を解説するとともに、争いを避けるための具体的な分割方法や流れについて説明します。
この記事で分かること
- 親の土地相続で兄弟間がもめる原因
- 兄弟で土地を相続する一般的な方法
- 兄弟で土地を相続する一般的な流れ
- 兄弟で土地を相続するときの注意点
- 土地相続で兄弟間の意見がまとまらない場合の解決策
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もくじ
親の土地相続で兄弟間がもめる原因

最初に、親の土地相続で兄弟間がもめる代表的な原因を紹介します。
- 遺言書が見つからない
- 想定より土地以外の財産が少ない
- 代償金の基準が双方で異なっている
- 寄与分の主張が生じている
- 特別受益の主張が生じている
- 遺留分の侵害が生じている
遺言書が見つからない
親が生前に遺言書を作成していない場合、または遺言書が見つからない場合、一般的には法定相続分を目安に、遺産分割協議によって財産を分けます。
【法定相続分とは】
法律で定められた相続人が受取る財産の割合を指します。配偶者と子どもが相続人の場合、配偶者1/2、子ども1/2(複数いる場合は均等に分ける)になります。
【遺産分割協議とは】
相続人全員が集まって遺産をどのように分割するか話し合い、合意するための手続きです。
土地や建物などの不動産は物理的に分割が困難であることが多く、金額や評価額に換算しなければなりません。また、「思い出の家だから売りたくない」「兄が住んでいる土地だからそのまま使ってほしい」など、感情的な要素や家族ごとの事情が絡むことで対立が起こりやすくなります。
遺言書があれば原則として記載された内容に従う必要があるため、兄弟間がもめる原因を排除できる可能性があります。遺言書が見つからない場合、まずは最寄りの公証役場に被相続人の公正証書遺言が保管されているかどうか確認しましょう。
【公正証書遺言とは】
公証役場で公証人に作成・保管してもらう遺言のことで、公証役場で20年間保管が可能です。
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想定より土地以外の財産が少ない
親の財産が土地に偏っており、預金や有価証券などの流動資産が少ない場合は兄弟間でもめやすくなります。よくあるトラブル事例は、以下のとおりです。
- 兄弟のうち一人が土地を継ごうとして他の兄弟と対立する
- 特定の相続人が家を取得し代償金を支払うか、土地を売却して現金で分配するのか、方針が合わずに対立する
- 代償金を支払う場合に土地の評価額が妥当かどうかで意見が分かれ、話し合いが難航する
- 親と同居していた相続人が、実家を追い出されて住む場所を失う
土地以外の資産が少ない場合は親が生前に土地の売却や分割について相談し、兄弟間で方向性を共有しておくことが重要です。
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代償金の基準が双方で異なっている
代償金とは、土地など分割が難しい財産を特定の相続人が相続する代わりに、他の相続人へ公平を保つために支払う金銭のことです。代償分割とも呼ばれ、相続人全員の同意があれば、金額や支払い方法を自由に決定できます。
代償分割のメリットとして、特定の相続人が土地を単独で相続できるほか、公平な遺産分配を実現しやすい点が挙げられます。ただし、土地を相続する側には代償金を支払う義務が生じるため、一定の経済力が必要です。
一方で、代償金の額を巡って意見が分かれるケースも少なくありません。また、遺産分割協議書の書き方によっては贈与税が課される可能性があるため注意が必要です。
代償分割を行う際には、相続に詳しい司法書士や弁護士に相談し、代償分割を行う旨や金額、支払い方法などを遺産分割協議書に明記しましょう。
寄与分の主張が生じている
寄与分の主張があると、兄弟間で公平な分割が難しくなる原因になります。
寄与分とは、被相続人(亡くなった親)の財産形成に貢献した相続人が、相続財産の一部を優先的に受取ることができる権利のことです。
例えば、親と同居しながら介護を続けた相続人は「長年の介護に見合った遺産分配を受けるべきだ」と主張することがあります。
一方、別居していた相続人は「同居していた分、生活費の負担が軽減されるなどの恩恵を受けていたはずだから、その分を相続から差し引くべきだ」と考える場合もあります。
寄与分が認められると、本来の法定相続分よりも多めに遺産を相続できるものの、以下の条件を満たさなければ特別な貢献とはいえません。
- 無償または無償に近い貢献であること
- 通常の親子関係を超えた特別な貢献があったこと
- 専従的な貢献(他に代わりのない重要な役割を果たしている)であること
- 長期間にわたり、事業の手伝いや介護を続けていたこと
認めてもらうためのハードルが高くなるので、兄弟間でもめる原因となりやすいでしょう。
特別受益の主張が生じている
特別受益とは、相続人のうち特定の人が生前に被相続人から受取った贈与や援助のことです。
例えば、親が生前に結婚資金や住宅購入資金を援助していた場合、それが特別受益に該当すると認められると、遺産相続分が減少する可能性があります。
しかし、生前贈与が特別受益に該当するかどうかの判断は難しく、基本的には特別受益を主張する側が贈与額を証明することになるでしょう。証拠が十分でない場合は協議が長引き、結論が出にくい状況になりがちです。
特別受益をめぐるトラブルを避けるには、生前贈与についての記録を明確に残しておくことや、遺言書で明確に分割方法を指定しておくことが有効です。
遺留分の侵害が生じている
遺留分とは、法律で定められた最低限の相続権のことです。遺留分が侵害された場合、相続人は遺留分侵害額請求と呼ばれる法的手段を使って、自己の権利を守ることができます。
被相続人は生前に贈与を行ったり、遺言で特定の相続人に遺産を譲渡したりすることができます。しかし、遺留分権利者(配偶者や子ども、直系の親など)には最低限の生活保障を確保するための権利があります。
そのため遺言や贈与があっても遺留分権利者には、その取り分(遺留分)が法律で保障されています。
例えば「長男にすべての遺産を相続させる」という遺言は、遺留分を侵害した例だと言えます。相続で兄弟間がもめないようにするためには、遺留分を考慮した遺言書の作成が必要になります。
兄弟で土地を相続する一般的な方法

土地を兄弟・姉妹で相続する際、相続人間で公平かつ円滑な分割方法を選ぶことが重要です。相続方法にはいくつかの選択肢があり、それぞれにメリットとデメリットがあります。
ここでは、兄弟で土地を相続する際の一般的な方法を紹介します。
- 共有分割
- 換価分割
- 現物分割
- 代償分割
- 相続放棄
共有分割
共有分割とは、法定相続分や兄弟間で決めた持分に応じて、相続人全員で土地を共有する方法です。
共有分割の主なメリット・デメリットは、以下のとおりです。
| メリット | デメリット |
| ● 土地を維持できる ● 公平に遺産分割できる ● 他の分割方法より費用や手間がかからない |
● 売却時には全員の同意が必要になる ● 土地を活用しづらい ● 税金や維持費の負担割合でもめる可能性がある ● 相続人が増えて権利関係が複雑になる |
土地の権利や家賃収入などの権利を公平に分割できますが、売却時には全員の同意が必要であり、次回の相続が発生すると権利関係が複雑になってしまいます。
共有分割はデメリットが多いため、一般論としては、あまりおすすめできる土地の分割方法ではありません。
共有分割が向いているケース
共有分割は、後述する「換価分割」「現物分割」「代償分割」など土地の分割方法を選択できず、遺産分割協議がまとまらないときの一時的措置として選ばれることが多くなっています。
デメリットの多い共有分割は遺産分割の最終着地点とはなりにくく、引き続き相続人間で話合いを続けるケースもあります。
換価分割
換価分割とは、土地を売却して得た現金を相続人間で分割する方法です。
換価分割の主なメリット・デメリットは、以下のとおりです。
| メリット | デメリット |
| ● 公平に遺産を分配できる ● 相続税の支払い資金を確保できる ● 代償金が不要になる |
● 土地や不動産を手放す必要がある ● 兄弟全員の同意が必要 ● 売却を急ぐと低い価格で取引される可能性がある ● 譲渡所得税や仲介手数料がかかる |
使わない土地を相続した場合、換価分割は最も現実的な選択肢となります。
一方、相続人の誰かが住み続けるような不動産の場合、売却して現金化する選択肢は取れないため、換価分割という選択肢を選ぶことは困難です。
換価分割が向いているケース
換価分割は、以下のような状況に向いています。
- 兄弟のうち誰もその土地に住む予定がない場合
- 土地を活用できる見込みがない場合
また、相続税の支払い資金が不足している場合にも有効です。相続税は、遺産総額が「3,000万円+600万円×法定相続人の人数」を超えると課されます。
例えば、相続人が兄弟2人の場合、4,200万円(3,000万円+600万円×2人)以上の遺産があれば相続税を納めなければいけません。
相続税の税率は額によって10%から最大55%となっており、遺産の額が増えるほど税率も上昇します。
現物分割
土地を現物分割する際は、1つの土地を二つ以上に分けて登記する「分筆」によって兄弟間で分けます。
現物分割のメリットは、十分な広さがあれば、分筆された土地を各相続人が自由に使える点です。その他のメリットやデメリットも以下で確認しましょう。
| メリット | デメリット |
| ● 1つの土地を巡る争いを避けることができる ● 各相続人が独立して土地を利用できる |
● 公平に分けるのは難しい ● 分筆には追加の費用がかかる |
例えば、都心部にある広い土地は、売却せずに利用価値を見出すこともできます。100坪の土地を2人兄弟で分筆した場合はそれぞれ50坪を取得でき、住宅用地や駐車場としても十分に活用可能です。
現物分割が向いているケース
現物分割は土地が広く、相続人間で分割が比較的容易な場合に適しています。ただし、土地の性質や法律上の制約によっては分筆が不可能な場合があります。
- 地域の条例で分筆が禁止されている
- 分筆後の土地が条例で定められた最低面積を下回る
- 分筆により、土地の面積が0.01㎡未満になる
- 隣地所有者との境界に関するトラブルがある
- 分筆後、道路に面しない土地や、道路に面する部分が2m未満の土地が生じる
上記のような条件に該当する土地では、分筆が認められないので注意が必要です。
代償分割
代償分割とは、分割の難しい土地を特定の相続人が相続する代わりに、他の相続人に対して金銭を支払う方法です。代償分割のメリット・デメリットは以下のとおりです。
| メリット | デメリット |
| ● 公平に遺産を分配できる ● 土地を単独名義で相続できる ● 小規模宅地等の特例を利用できる場合がある |
● 代償金を準備する必要がある ● 土地の評価額でもめやすい ● 代償金の支払い条件でもめやすい |
例えば、相続人が兄弟2人で、相続財産が2,000万円の土地と1,000万円の現金だけのケースを考えます。この場合、2人はそれぞれ1,500万円分の財産を受取る権利があります。
兄が土地を相続し、弟が現金だけを受取ると公平ではありません。したがって、兄が自身の貯金から500万円を弟に代償金として支払うことで、兄弟ともに実質1,500万円分の財産を得る形となり、公平な分割が可能になります。
ただし、代償分割を実行するには、代償金を支払う側に十分な現金や資力が必要です。理論的には公平な方法ですが、現実には資金不足や価値評価のトラブルから選択が難しい場合も少なくありません。
代償分割が向いているケース
代償分割は、以下のような状況に向いています。
- 土地を相続する人が代償金を支払う資力がある場合
- 他の相続人が現金で相続を希望する場合
相続放棄
相続放棄とは、相続人が自分の相続権を放棄する方法です。主に被相続人の財産よりも負債が多い場合に利用されます。
相続放棄のメリット・デメリットは以下のとおりです。
| メリット | デメリット |
| ● 遺産相続に関わらずに済む ● 借金を含む負債を相続せずに済む ● 比較的簡単な手続きで行える |
● 土地や預貯金などのプラス財産も相続できなくなる ● 申請は被相続人の死亡から3ヶ月以内に行う必要がある ● 単純承認(遺産を一部でも利用する行為)が成立すると放棄ができなくなる |
例えば、親が多額の借金を残して亡くなった場合、相続放棄をすることで相続人は一切の債務を引き継がずに済みます。
また、必ずしも負債がある場合だけでなく、兄弟間のトラブルを避けたい場合や特定の相続人に資産を集中させたい場合にも、相続放棄が選ばれることは少なくありません。
なお、兄弟のうち一部が相続放棄をした場合、残りの兄弟が遺産を分けることになります。兄弟全員が相続放棄をした場合は法定相続順位に従い、被相続人の直系尊属(両親など)や兄弟姉妹(亡くなっている場合は甥や姪)が相続権を引き継ぎます。
相続放棄が向いているケース
相続放棄は、以下のような状況に向いています。
- 被相続人の借金が多く、相続人が負担を回避したい場合
- 土地や財産を相続することに同意できない場合
- 土地や不動産の維持・管理が困難で、負担が大きいと判断される場合
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兄弟で土地を相続する一般的な流れ

ここでは、兄弟で土地を相続する一般的な流れを紹介します。
- STEP1.遺言書の有無を確認する
- STEP2.法定相続人を確認する
- STEP3.相続財産を確認する
- STEP4.遺産分割協議を行う
- STEP5.相続登記を行う
STEP1.遺言書の有無を確認する
遺言書の有無によって相続の進め方が大きく異なるため、まずは被相続人(親)が遺言書を残しているかどうかを確認しましょう。遺言書が存在する場合は、記載された内容が法的に優先されます。
また、遺言書には「公正証書遺言」「自筆証書遺言」「秘密証書遺言」の3種類があり、公証役場や法務局で保管されている場合もあります。
保管場所や家庭裁判所による検認は、以下のとおりです。
| 公正証書遺言 | 自筆証書遺言 | 秘密証書遺言 | |
| 保管場所 | 公証役場 | 自宅 | 自宅 |
| 家庭裁判所による検認 | 不要 | 必要 | 必要 |
なお、自宅に保管されている自筆証書遺言や秘密証書遺言を有効にするには、自分で開封する前に家庭裁判所での検認が必要です。
STEP2.法定相続人を確認する
法定相続人を確認しないまま手続きを進めると、後になって相続人の一部が除外されていたなどの問題が発覚し、相続全体が無効になる可能性があります。
基本的に誰が相続人になるかは家族間で把握できているものですが、被相続人に前妻(前夫)との子どもや養子がいる可能性も考慮しなければなりません。
法定相続人を確認する際は、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本を取り寄せましょう。
STEP3.相続財産を確認する
遺産分割を円滑に進め、相続税の申告を正確に行うためには、被相続人が所有していたプラス・マイナスの財産をすべて確認することが重要です。
主なプラスの財産は以下のとおりです。
- 土地や建物などの不動産
- 現金や預貯金
- 株式や債券などの有価証券有価証券
- 自動車
- 宝石類、美術品
主なマイナスの財産は以下のとおりです。
- 借金
- 住宅ローンや自動車ローン
- 未払いの税金
- 未払いの家賃
土地などの不動産は、市区町村から送付される固定資産税納税通知書を確認するのが一般的です。また、自宅に保管されている登記識別情報や、登記済証(権利証)も有効です。
さらに、不動産が所在している市区町村の場所が分かれば、故人がその市区町村内で所有していた不動産を一覧できる名寄帳を取得することもできます。故人との関係を示す戸籍などの書類を用意して申請しましょう。
預貯金については、被相続人名義の通帳やキャッシュカード、金融機関から届いた通知書などで確認が可能です。債務は契約書や返済予定表のほか、信用情報機関への情報開示請求で調査できます。
STEP4.遺産分割協議を行う
遺言書がない場合や形式が不適切で無効と判断される場合、または土地などの財産の分配先が明確でない場合には、相続人全員で遺産分割協議を行う必要があります。
分割協議の目的は、相続人である兄弟全員が合意に達することです。
話し合いの方法としては、相続人全員が一堂に会して意見を交換する方法や、メールや手紙などを用いて非対面で進める方法があります。ただし、相続人のうち一人でも欠けた状態で進めた協議は無効となり、改めて全員参加でやり直さなければなりません。
協議では、以下3つの選択肢から、土地や財産に関する権利と義務を決めることになります。
- 相続する(単純承認)
- 相続しない(相続放棄)
- プラスの財産の範囲で債務を引き受ける(限定承認)
協議の結果がまとまったら、「兄弟のうち誰が土地を相続したか」「どの方法で土地を分割するか」などの詳細を記載した遺産分割協議書を作成します。
相続人全員が署名し、実印を押印することで法的効力を持つ正式な文書となります。
STEP5.相続登記を行う
土地などの財産を引き継ぐ人が決まった後は、その名義を変更するために「相続登記」を行う必要があります。相続登記は、不動産が所在する地域を管轄する法務局で申請することで手続きが完了します。
以下の表は、名義変更を行う際の必要書類をまとめたものです。
| 必要書類 | 取得先 |
| 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本 | 本籍地の市区町村 |
| 被相続人の除住民票 | 住所地の市区町村 |
| 相続人全員の戸籍謄本 | 本籍地の市区町村 |
| 相続人全員の住民票 | 住所地の市区町村 |
| 相続人全員の印鑑証明書 | 住所地の市区町村 |
| 土地の固定資産評価証明書 | 毎年4月頃に市区町村から送付 |
| 登記申請書 | 自分で作成するか司法書士に依頼する |
| 相続関係説明図 | |
| 遺産分割協議書 |
相続登記の手続きは専門知識が多く複雑になることも多いため、司法書士に依頼することをおすすめします。費用はかかりますが、後のトラブルのリスクを下げることができます。
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兄弟で親から土地を相続するときの注意点

兄弟で親から土地を相続する際には相続後の共有状態や費用負担、売却時の税金など、さまざまな注意点があります。
- 相続が開始された時点で土地を共有していることになる
- 固定資産税を別々で支払えないケースがある
- 土地を分筆する場合は境界確定が必須になる
- 土地を売却して譲渡所得が発生した場合は税金の支払い義務がある
トラブルを未然に防ぐためにも、注意点を理解しておきましょう。
相続が開始された時点で土地を共有していることになる
相続が開始された時点で遺産分割協議が完了するまでは、土地は相続人全員の共有状態になります。そのため、兄弟全員の同意がなければ土地を売却したり、利用方法を変更したりすることはできません。
例えば、兄弟の一人が土地を使用して事業を始めようとしても、他の相続人の同意が得られなければ進められないケースがあります。
共有を解消するためには、遺産分割協議で所有者を明確に決めることが重要です。
固定資産税を別々で支払えないケースがある
固定資産税は、土地や建物などの固定資産にかかる地方税で、その年の1月1日時点での所有者が支払う義務があります。相続した土地の場合でも、親名義の固定資産税はそのルールに従います。
親が亡くなった時点で固定資産税が未納であれば、遺産分割が終わるまでは便宜上の代表相続人が一時的に納税するのが得策です。なぜなら、固定資産税を滞納すると延滞金がかかるからです。
納税はあくまで仮の措置であり、支払った人が所有者として確定するわけではありません。遺産分割が完了して新しい所有者が決まった後は、翌年以降、新所有者が固定資産税を負担します。
土地を分筆する場合は境界確定が必須になる
兄弟間で土地を分けるために分筆を行う際は、隣接する土地との境界を明確にする「境界確定」が必須です。境界には以下の2種類があり、どちらも確定している必要があります。
- 民々境界(みんみんきょうかい):隣接する私有地との境界
- 官民境界(かんみんきょうかい):公道や公共用地との境界
特に官民境界を確定する場合には、道路に面している側の土地所有者全員の同意を得る必要があります。所有者の数や同意の難易度によって時間がかかることがあり、場合によっては半年以上を要することも少なくありません。
また、土地の分筆は「接道義務」を満たす必要があります。接道義務とは、幅が4m以上の道路に少なくとも2m以上接していない土地には建物を建てられない規定です。
条件を満たさない土地は「無道路地」と呼ばれ、建物を建てられないため、利用価値や価格が大きく低下してしまいます。
兄弟で相続した土地を分筆する際は、無道路地が発生しないよう十分に計画を立てることが重要です。
隣接する土地の種類や分割方法に応じて境界確定にかかる費用は大きく異なり、数十万円から数百万円に達することもあります。
分筆や境界確定の手続きは専門性が高いため、土地家屋調査士に依頼するのが賢明です。
土地を売却して譲渡所得が発生した場合は税金の支払い義務がある
相続した土地を兄弟で売却し、利益(譲渡所得)が発生した場合には、所得税や住民税として「譲渡所得税」を支払う義務が生じます。
譲渡所得は、売却価格から取得費や譲渡費用、特別控除額を差し引いた額に、所有期間に応じた税率を掛けることで算出されます。
譲渡所得税の計算式は以下のとおりです。
● 譲渡所得 = 売却価格 – 取得費 – 譲渡費用 – 特別控除
● 譲渡所得税 = 譲渡所得 × 税率
もし購入価格が分からない場合、概算取得費として売却価格の5%を用います。相続した土地の場合は取得費が不明の場合が多く、概算取得費が適用されるケースがほとんどです。
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土地相続で兄弟間の意見がまとまらない場合の解決策

ここでは、土地相続で兄弟間の意見がまとまらない場合の解決策を紹介します。
- 正しいコミュニケーションの取り方を押さえておく
- 遺産分割調停を検討する
- 言い争いが深刻化した場合は弁護士に相談する
正しいコミュニケーションの取り方を押さえておく
土地相続でトラブルを避けるためには、兄弟間での冷静かつ正確な話し合いが重要です。
まずは、相続財産の詳細や現状を全員で共有しましょう。不明点や不安をひとつずつ解消することで、誤解や不信感を減らせます。
話し合いは、感情的にならないことが重要です。対立が激化しそうな場合、第三者として専門家の司法書士や弁護士に立ち会ってもらうことをおすすめします。
また、話し合いの際は記録を残しておくことで後のトラブル防止にも役立つでしょう。
遺産分割調停を検討する
話し合いがまとまらない場合、家庭裁判所で遺産分割調停を申し立てる方法があります。調停では、調停委員が双方の意見を聞きながら公平な解決案が提示され、冷静な議論が進みやすいのが特徴です。
もし、相続人全員が調停委員の案に同意すれば調停が成立し、提案された内容に基づいて遺産分割が行われます。
一方、相続人全員による同意が得られない場合には不成立となり、「審判」へと移行します。審判は、裁判所が遺産分割問題の解決方法を示す手続きです。
反対者がいても審判の決定は法的効力を持ち、当事者に適用されます。
言い争いが深刻化した場合は弁護士に相談する
兄弟間の対立が深刻化し、感情的な争いに発展した場合は、早めに弁護士に相談することをおすすめします。
弁護士に依頼すれば、相続人としての権利を適切に主張できます。特別受益や寄与分、遺留分などの権利についても法的な根拠に基づいて主張を行い、適切な取り分を確保するサポートを受けられるでしょう。
感情的な対立によって話し合いが進まない状況でも、弁護士は法的視点から問題を整理し、冷静かつ効果的に対応してくれます。
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兄弟で土地相続する場合によくある質問

ここでは、兄弟で土地相続する場合によくある質問を紹介します。
- 独身の兄弟が亡くなったときの土地相続はどうなる?
- 単独名義で相続登記が完了していたら自分の意思で土地を売却できる?
- 兄弟間で土地の相続登記をしないままだとどうなる?
独身の兄弟が亡くなったときの土地相続はどうなる?
独身の兄弟が亡くなった場合の土地の相続は、主に以下のとおり進みます。
- 子どもや孫がいる場合:子どもや孫が相続人となる
- 子どもや孫がいない場合:直系尊属(親や祖父母など)が相続人となる
- 親や祖父母がすでに亡くなっている場合:兄弟姉妹が相続人となる
独身の兄弟が亡くなった場合でも、必ずしも兄弟である自分が相続できるわけではないことに注意が必要です。
単独名義で相続登記が完了していたら自分の意思で土地を売却できる?
結論として、土地の売却は可能ではあります。たとえ土地の上に建物が建っており、名義が異なる場合でも基本的にお互いの許可は必要ありません。
例えば、以下のケースでは土地・建物をそれぞれが売却することも事実上は可能です。
- 兄が土地を所有している
- 弟が無償で土地を借り、自宅を建てて使用している
ただし、土地を自由に活用できない点や、建物を購入しても土地を無償で利用し続けられるとは限らない点などから、どちらかを単独で売却するのは難しいでしょう。
兄弟間で土地の相続登記をしないままだとどうなる?
兄弟間で土地の相続登記を行わない場合、以下のような問題が発生する可能性があります。
- 過料が科される可能性(最大10万円)
- 土地売却時に相続人全員の同意が必要
- 兄弟が亡くなると、相続人が増え続ける
22024年4月1日から施行された相続登記義務化により、不動産を相続した場合、相続登記を3年以内に行うことになりました。期限内に登記を行わなかった場合は正当な理由がない限り、10万円以下の過料(行政上の罰金)が科される可能性があります。
また、相続登記をしないままだと兄弟の相続人である子どもや孫も土地所有者となり、権利関係が複雑化してしまいます。
兄弟で土地相続する場合にもめないためには

兄弟での土地相続を円満に進めるには、事前準備と適切な対応が重要です。まず、遺言書の有無を確認し、法定相続人や相続財産を正確に把握することが基本です。
また、遺産分割の方法について十分に話し合い、それぞれのメリットやデメリットを共有することで、互いの理解を深められます。意見が対立した場合は、調停や弁護士への相談など、第三者の力を借りる解決策も検討するのがおすすめです。
適切な対応を心がけて、兄弟・姉妹での土地相続をスムーズに進めていきましょう。