
実家の売却は、相続前と相続後どちらにするかによって、税金などに大きな影響があります。相続は突然発生することが多いため、事前に知識を深めておくことが重要です。
- 相続した実家を売却したらどのような税金がかかるのか知りたい
- 実家を売却するには相続の前と後どちらが良いのか知りたい
- 実家の売却で利用できる税金の控除や特例を知りたい
この記事では、上記のように考えている人に向けて実家の売却は相続の前と後でどのように変わるのか、それぞれのメリット・デメリットなどを中心に解説します。
この記事で分かること
- 相続した実家を売却した際にかかる税金
- 実家を相続前・相続後に売却するメリット・デメリット
- 実家の売却を相続前後のどちらにするか判断するポイント
- 実家を売却した場合に利用できる税制の特例など
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もくじ
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相続した実家を売却した際にかかる税金

相続した実家の売却にかかる税金として、主に以下の3つが挙げられます。
- 相続時には相続税がかかる
- 売却時には譲渡所得税がかかる
- そのほかにかかる税金(印紙税、不動産取得税など)
相続時には相続税がかかる
実家を相続した時には相続税がかかります。相続税は、亡くなった人が所有していた実家などの財産を相続人が取得する時にかかる税金です。
相続税には、その計算時に相続財産の額から差し引くことができる基礎控除が設けられています。計算式は、以下の通りです。
基礎控除額=3000万円+(600万円×相続人の数)
例えば、父親がなくなり、母親と兄弟二人の合計3人で相続するという場合には、以下のように基礎控除額を計算します。
3,000万+(600万×3)=4,800万
課税対象となる相続財産の合計額が基礎控除額を上回ると相続税の課税対象となり、基礎控除額を下回ると相続税はかかりません。
売却時には譲渡所得税がかかる
実家を売却した際には、譲渡所得税がかかります。譲渡所得税とは、譲渡所得にかかる以下の税金の総称です。
- 所得税
- 住民税
- 復興特別所得税
譲渡所得税は、譲渡所得に税率を乗じることで算出します。
譲渡所得税=譲渡所得×税率
譲渡所得=売却金額−(取得費+譲渡費用)
取得費は、土地の場合は土地の購入費用のことであり、建物の場合は購入費用から減価償却費を控除した費用です。譲渡費用は、不動産の売却に必要な費用のことで、仲介手数料や印紙税、登記費用などが該当します。
譲渡所得に乗じる税率は、不動産の所有期間によって以下のように異なります。
| 所得の種類 | 短期譲渡所得 | 長期譲渡所得 |
|---|---|---|
| 所有期間 | 5年以下 | 5年超 |
| 所得税率 | 30% | 15% |
| 住民税率 | 9% | 5% |
| 復興特別所得税 | 0.63% | 0.315% |
※参考:No.1440 譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき|国税庁
そのほかにかかる税金(印紙税、不動産取得税など)
そのほかの税金としては、不動産取得税や売買契約締結時にかかる印紙税などがあります。
印紙税は、不動産売買契約書に対して課税される税金です。不動産売買契約書に、収入印紙を貼って消印することで、納税したとみなされます。
印紙税の金額は契約金額によって変わり、令和6年3月31日までは印紙税に軽減税率が適用されています。
| 契約金額 | 印紙税額(令和6年3月31日まで) |
|---|---|
| 10万円超50万円以下 | 200円 |
| 50万円超100万円以下 | 500円 |
| 100万円超500万円以下 | 1,000円 |
| 500万円超1,000万円以下 | 5,000円 |
| 1,000万円超5,000万円以下 | 1万円 |
| 5,000万円超1億円以下 | 3万円 |
| 1億円超5億円以下 | 6万円 |
※参考:No.7108 不動産の譲渡、建設工事の請負に関する契約書に係る印紙税の軽減措置|国税庁
印紙税を納めなかった場合は、印紙税額の3倍の過怠税が徴収されるので注意しましょう。
不動産取得税とは、土地や建物などの不動産を取得した際に課される税金です。この税金は、不動産の取得価額や所在地によって異なる税率が適用されます。
一般的に、不動産取得税は登記手続き後、約6ヶ月以内に納税通知が送られ、通知を受取ってから2ヶ月以内に納税しなければなりません。
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▶︎不動産売却にかかる税金はいつ払う?節税方法や相談先についても解説
実家を相続する前に売却する場合のメリット

実家を相続前に売却するメリットは、主に以下の3つが考えられます。
- 現金化によって相続しやすくなる
- 売却資金をその後の暮らしに活用できる
- 子どもが実家の処分に困ることがない
現金化によって相続しやすくなる
実家を相続前に売却して現金化しておくことで、相続しやすくなる点はメリットのひとつです。
相続人が複数人いる場合、実家を相続しても公平に分配するのは難しく、どのように分配するかで家族間のトラブルに発展するケースがあります。しかし、相続前に売却して現金化していれば、公平に分配できるため、トラブルのリスクを低減できます。
売却資金をその後の暮らしに活用できる
実家を相続前に売却することで、売却資金をその後の暮らしに活用できます。
例えば、サービス付き高齢者向け住宅や、シニア向けマンションなどに移住する資金として使うこともできるでしょう。老後の暮らしや医療費の支払いなどにも活用できるため、資金面での不安が軽減されます。
子どもが実家の処分に困ることがない
相続前に親が実家を売却することで、子どもが実家の処分に困らなくなります。
相続した実家に子どもが引き継いで住む場合は問題ありません。しかし、子どもが実家に住まない場合は空き家となってしまい、維持コストや管理の負担がかかったり、どのように実家を処分するかで頭を悩ませたりする原因となります。
実家を相続する前に売却する場合のデメリット

実家を相続前に売却するデメリットは、主に以下の2つが考えられます。
- 次の住居を決めるのが難しい場合がある
- 税金が高額になる可能性がある
次の住居を決めるのが難しい場合がある
実家を相続前に売却して賃貸物件に住む場合、スムーズに物件が決まらないことがあります。特に、高齢者が物件を借りる際は、貸主が家賃の滞納や孤独死などを懸念して、入居審査が厳しくなるケースがあると言われています。
物件がいつまでも決まらない場合、高齢者向けの賃貸物件なども選択肢に入れるべきでしょう。また、実家を売却して現金化した後でも住み続けられる「リースバック」というサービスもあります。売買契約と同時に賃貸借契約を締結することで、売却後は賃貸として毎月家賃を支払えば、引越しせずに住み続けられます。
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▶︎リースバックはどんな仕組み?メリットや利用上の注意点、実際に相談できる業者などについて徹底解説
税金が高額になる可能性がある
実家を相続前に売却することで、相続税が高額になる可能性があります。
相続前に実家を売却した場合は、相続税の課税対象は売却で得た現金になります。一方、相続後に売却する場合は、相続税の課税対象は土地と建物です。一般的に土地と建物の課税評価額は現金よりも低くなるため、相続前に実家を売却して現金化すると、相続税が高額になる可能性があります。
相続前に実家を売却するには税金がどのくらいかかるか、事前に調べておきましょう。
実家を相続後に売却するメリット

実家を相続後に売却するメリットは、主に以下が考えられます。
- 最後まで実家に住み続けられる
- 不動産を相続することで相続税を抑えられる
最後まで実家に住み続けられる
実家を相続後に売却することで、親が実家に最後まで住み続けられます。
高齢になってから引越しや新しい住居に住むのは労力がかかります。住み慣れた実家でストレスなく生活できるのは大きなメリットと言えるでしょう。
不動産を相続することで相続税を抑えられる
現金ではなく不動産で相続することで、相続税評価額が抑えることが可能です。不動産を相続する場合の相続税は、土地は路線価を、建物は固定資産税評価額を基に計算されます。
路線価は実勢価格の約80%で、固定資産税評価額は実勢価格の約70%で算出されるため、現金で相続するよりも相続税評価額が抑えられ、節税につながります。
実家を相続後に売却するデメリット

実家を相続後に売却するデメリットは、主に以下の3つが考えられます。
- 相続トラブルにつながる可能性がある
- 相続税の支払いに充てる場合は安く売ってしまうリスクがある
- 子ども世代の負担になる可能性がある
相続トラブルにつながる可能性がある
実家を相続後に売却する場合には、相続トラブルにつながる可能性があります。
相続した実家を売却するには、相続人全員の同意が必要です。1人でも反対すれば売却できず、相続人同士の関係が悪化することもあります。相続ではトラブルが起こりやすいため、慎重に協議して決めることが重要です。
相続税の支払いに充てる場合は安く売ってしまうリスクがある
相続税の支払いに実家の売却資金を充てる場合は、期限内に売却しようとスピード重視で安く売ってしまうリスクがあります。
実家を相続した場合は、相続税を計算して支払う必要があります。相続税の納付は、相続が発生したことを知った日の翌日から10ヶ月以内が期限です。
相続税の支払いに売却資金を充てる場合は、なるべく早めに売却活動の準備を進めておくことが重要です。
子ども世代の負担になる可能性がある
実家という相続財産が増えることで、子ども世代の負担になる可能性があります。
実家を相続すると相続登記が必要となり、売却するにも不動産会社とやり取りして進めなければなりません。空き家になってしまった場合は、管理の手間や維持コストがかかります。
実家を相続させて子どもに負担をかけたくない場合は、相続前の実家売却を検討しましょう。
実家の売却を相続前後のどちらにするか判断するポイント

実家の売却を相続の前後どちらにすれば良いか判断するポイントは以下の2つです。
- 不動産市況
- 支払うことになる税金の額
不動産市況
実家の売却を相続後まで待つ間に、不動産市況が変化している場合があります。
景気が良くなれば不動産価格も値上がりしやすい反面、何らかの理由で不動産価格が値下がりすることも考えられます。
市況の変化を見極めるのは難しいため、前述した実家の売却を相続前と相続後それぞれのメリット・デメリットとあわせて判断した方が良いでしょう。
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支払うことになる税金の額
相続前と相続後で、実家の売却で支払うことになる税金の額を計算して判断しましょう。一般的には相続後に自宅を売却した方が、相続税評価額が抑えられるため、節税効果が高くなります。
税金の計算は複雑であるため、税理士などに確認してみましょう。売却を検討している場合は、不動産会社に相談した際に税理士を紹介してもらえる場合があります。
実家を売却した場合に利用できる可能性がある税制の特例など

実家を売却した場合に利用できる税制の特例は、主に以下の4つが挙げられます。
- 3,000万円の特別控除
- 軽減税率の特例
- 特定マイホームの買い替えの特例
- 空き家に係る譲渡所得の特別控除の特例
特例を利用するには、それぞれ一定の要件を満たす必要があります。
3,000万円の特別控除
3,000万円の特別控除とは、自宅となる実家を売却した場合、譲渡所得から最高3,000万円まで控除が受けられる特例です。
この特例は、住居に住んでいた人が使える特例であるため、相続後に子どもが売却しても利用できません。また、すでに引越している場合は、住まなくなった日から3年経過した年の12月31日までに売却する必要があります。
詳しくは、国税庁のホームページをご確認ください。
※参考:No.3302 マイホームを売ったときの特例|国税庁
軽減税率の特例
軽減税率の特例とは、所有期間が1月1日時点で10年を超えている実家を売却した場合、要件を満たせば通常よりも低い税率で譲渡所得税の計算ができる特例です。
主な税率は、以下の通りです。
・譲渡所得6,000万円以下の部分:14.21%(※1)
・譲渡所得6,000万円を超える部分:通常の税率20.315%(※2)
※1:所得税:10%・住民税4%・復興特別所得税:0.21%
※2:所得税:15%・住民税5%・復興特別所得税:0.315%
軽減税率の特例は、3,000万円の特別控除と併用できます。詳しくは、国税庁のホームページをご確認ください。
※参考:No.3305 マイホームを売ったときの軽減税率の特例|国税庁
特定マイホームの買い替えの特例
特定マイホームの買い換えの特例とは、実家を売却した金額よりも高いマイホームに新しく買い換えた場合、一定の要件を満たせば、実家にかかる譲渡所得税を将来に繰り越せる特例です。
この特例を利用するには、以下のような要件を満たす必要があります。
- 自分が実家に住んでいた
- 住まなくなってから3年以内に売却する
- 実家の居住期間が10年以上
- 実家の売却価格が1億円以下
- 実家を売った年の前年から翌年までの3年の間に買い換える
詳しくは、国税庁のホームページを確認しましょう。
※参考:No.3355 特定のマイホームを買い換えたときの特例|国税庁
空き家に係る譲渡所得の特別控除の特例
空き家に係る譲渡所得の特別控除の特例とは、相続して空き家となった実家を売却して、一定の要件を満たせば、譲渡所得から最高3,000万円まで控除が受けられる特例です。
この特例を利用するためには、以下のような要件があります。
- 1981年(昭和56年)5月31日以前に建築されたこと
- マンションなどの区分所有建物ではないこと
- 相続開始直前まで亡くなった親以外誰も住んでいなかったこと
- 売却資金が1億円以下であること
詳しい要件や手続きについては、国税庁のホームページをご確認ください。
※参考:国税庁|No.3306 被相続人の居住用財産(空き家)を売ったときの特例
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▶︎マイホーム売却で利用できる特例を解説! 注意点や損失が出た場合の特例も紹介
実家の売却のタイミングについては不動産会社に相談を

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記事執筆・監修
矢野 秀一郎(やの しゅういちろう)
不動産会社で2社勤務。1社目では時間貸駐車場の開発営業を中心に携わり、2社目では不動産売買の仲介営業や、一戸建ての分譲工事のプロジェクト、および新築・リフォーム工事の現場監督など、幅広く業務を担当。現在はフリーのライターとして不動産や金融に関する内容を中心にライティング・記事監修を実施。