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重視するポイントは?

「家族全員が元気なうちに、まずは相談を」―相続専門の士業に聞く相続トラブル防止のポイント

不動産売却のきっかけの一つとして相続が挙げられます。2024年4月からは相続登記が義務化されることに伴い、相続不動産の扱いが注目を集めています。また、相続不動産の売却は、相続税の支払いや分割などに専門的な知識が必要になることから、トラブルにつながる可能性も高いと言われています。

今回は、不動産を相続する際に起こりがちなトラブルや、トラブルを防ぐための注意点について、税理士で相続診断士の高橋大祐氏と司法書士の鶴見英司氏に話を聞きました。

近年、増加しつつある相続トラブル

税理士・相続診断士の高橋大祐氏

―最初に、相続をめぐるトラブルの現状について教えてください

高橋大祐氏(以下、高橋):裁判所のデータによると、遺産分割に関する事件の件数は、この20年で1.3倍に増え、約1万1,000件にのぼるとされています。

個人的には、件数の増加と同時に、内容も変化してきていると感じています。以前は、「いかに相続税を節税するか」という相談が多かったのですが、最近では、「残された家族に迷惑をかけないためにはどうすべきか」という相談が増えてきているように思います。

鶴見英司氏(以下、鶴見):私も相続を専門にしているのですが、問い合わせが増えている実感があります。いわゆる「おひとり様」や、お子様がいないご夫婦からの相談も多い印象があります。

高橋:こうした親兄弟や子どもなど法定相続人がいないケースでは、それ以外の人、例えば、親戚や知り合いに相続してもらうということになりますが、何の準備もしていないと相続が成立しません。

なので、遺言書の作成、家族信託の利用、寄付などの準備をしておく必要があります。不動産の場合は、最近では国に返すという制度(※)もありますが、それは本当に最後の手段なので、積極的にそういう選択肢を選ぶ方は多くありません。

※参照:放棄に代わる新たな選択肢に?相続土地国庫帰属制度について弁護士が解説

―不動産は分割が難しいので、トラブルにつながる可能性も高いとされています。

高橋:相続を受ける側からしても、お金と不動産では扱い方が全く違います。「実家やお墓の管理を任される以上、それに見合う財産は欲しい。しかも、なるべく現金で欲しい」と考える方もいらっしゃるのではないでしょうか。

鶴見:遺言の相談でも、不動産をそのまま相続させたいと考える方もいますが、不動産の分割が難しいことを危惧して不動産を売却し現金化した上で、相続人に分けたいという要望も多いですね。

高橋:不動産は託される側の都合も考慮する必要があるので、遺言書を残すならば、そこまで考慮して書くのがよいと思います。そして、その実現性を確保するために、遺言執行者を選任した上で、適切に権限を付与するとよいでしょう。

家族間のコミュニケーション不全が相続トラブルの原因に

司法書士・相続診断士の鶴見英司氏

―相続時に起こりがちなトラブルには、どのようなものがあるのでしょうか?

鶴見:不動産を処分したい、もしくは残したいといった明確な意思があって準備しているのであれば対策もあるのですが、「そもそも相続の準備をしていない」という人も一定数います。

例えば、お子様がいないご夫婦で夫が亡くなった場合、遺言書がなければ夫名義の自宅不動産は、妻だけではなく夫の親・祖父母もしくは夫の兄弟姉妹・甥姪と共に相続することになります。こうした状況を理解した上で、対策を取る必要があるのですが、実際には何もしないという人も多い。

そうなると不動産の遺産分割協議が上手くまとまらずに、相続手続きが進まないもしくは不動産の売却ができないといったことが起こりえます。

高橋:これは私の肌感ですが、おひとり様や子どもがいないご夫婦からの相談というのは全体の2割ぐらいです。

残りの8割は、相続財産を受け取る人が複数いるというケースですが、遺産の分割をめぐり兄弟間でトラブルになることも多い。

お子様がいないご夫婦やおひとり様といった方々は自分が亡くなった後のことをイメージしやすい。しかし、お子様がいるご夫婦に「ご兄弟が3人いますけど揉めませんか?」と聞くと、「うちは大丈夫ですよ。仲も良いし揉めるわけない」とおっしゃるわけです。しかし、実際に相続が起こるとトラブルになったりする。

このように「早い段階で対策が必要だ」というイメージを持てない方が多い印象があります。実際に準備しているのは、過去に近しい人が相続で苦労した経験を見たことがあるという方ぐらいですね。

―やはり、兄弟間で分割割合をめぐってトラブルになるというケースも多いのですね。

高橋:相続人が複数いる場合では、親の近くに暮らしている子どもと離れて暮らしている子どもの間で揉めるというケースがあります。

当然、親の近くに暮らしている方が、事前に様々な対策をするわけですが、コミュニケーションが不十分だと、離れて暮らしている兄弟に「その遺言って本当に親の意思なのか」という不信感が生まれやすいのです。「そそのかされて書いたんじゃないか」とか思ってしまうわけですね。遺言書を残すことが、かえって「寝た子を起こす」ことになってしまうケースもありますね。

なので、私たちも相談を受けた際に「遺言書を作るのは良いと思います。ただ、兄弟間でしっかりコミュニケーションをとっておかないと、この遺言書がかえって火種になる可能性もありますよ」という話をします。法人であれば利益の追求が第一ですが、相続は家族の幸せという感情が問題になるので、その部分に難しさがありますね、

鶴見:税金のことだけ考えれば、「やっておいた方が良い贈与」などがある場合もあります。ただ、それでも「家族全員の感情を考えた場合にはやらない方がいい」という判断もあり得ます。

以前、私のところに「妹の指示で父が妹に有利な遺言書を作ってしまったので、自分に有利な内容に父の遺言書を作り直させたい」といった相談が来たことがあります。このようなケースは遺言書があってもなくても、結局トラブルになると思います。

―相続というと「お金持ちのもの」というイメージを持つ人も多いと思いますが。

鶴見:財産が少なくても不動産があれば相続登記をしなければなりませんし、預貯金があれば解約の手続きをしなければなりません。遺言書がなければ財産をどのように分けるか話し合いが必要になるなど、財産の多い少ないにかかわらず相続について考えておかなければなりません。

元々仲の悪い兄弟が相続を契機に仲が良くなることはないので、トラブルになった場合は長期化する傾向があります。それでもまだ親が生きているうちは話し合いの余地があるケースが多い。

親が亡くなった後に仲の悪い兄弟だけで親の財産をどのように分けるか話し合いもしてもうまくいくわけがありません。なので、やはり家族のメンバーが全員そろっているうちに対策をしておくべきだと思います。

相続は「相談していい」。まずは専門家に相談を

―自身が亡くなることを想定して相談に来る親世代と、親からの相続について相談に来る現役世代でいうと、どちらが多い印象がありますか?

鶴見:私の場合は、同じぐらいという印象があります。最近では、家族信託や任意後見について自分たちで調べた上で、専門家の話を聞きたいという方もいます。

逆に、かなりギリギリの段階になってから相談に来るケースもあります。最近も息子さんから「父の遺言書を作りたい」という相談があったのですが、遺言書の作成が間に合わずにお父様が亡くなってしまうということがありました。もちろん、我々としても可能な限り迅速に対応はするのですが、やはり早く相談に来てほしいですね。

高橋:我々のような専門家に相談に来たものの、なかなか細部が決まらず、やっと「じゃあ遺言書を書こう」という段階になって亡くなってしまうというケースもあります。

鶴見:遺言書を書くのにかかる時間は、人によって大きく違います。しかし、遺言書を残すべき本人が相談に来た場合は、比較的スムーズに話が進みます。一方で、ご家族が相談に来るケースだと長引くことが多いように思います。

―不動産を相続する際の注意点はありますか?

鶴見:ご家庭ごとに状況が異なるので難しいのですが、大前提として家族仲が良い方が好ましいですね。そもそも仲が悪いと揉めやすいので、最低限、家族全員と連絡がつく環境を構築しておく必要があると思います。

また、財産が不動産だけだと分割するのは難しいので、可能であれば現金・預貯金を準備しておくと対策が取りやすくなります。

高橋:そういう意味では、親世代が所有している不動産を事前に部分的にでも現金に変えておくことも選択肢になると思います。相続が起こって必要に迫られてから売却するよりも、事前の準備という意味で検討しておいても良いかもしれません。

鶴見:また、売却に限らず、アパートやマンションなどの賃貸物件をお持ちの場合、所有者が認知症になってしまうと、賃貸借契約の更新や修繕が困難になってしまいます。なので、元気なうちに生前対策を行なっておくことが重要でしょう。

―4月から相続登記が義務化されますが、関連する相談は増えていますか?

鶴見:相続登記の義務化に関する相談が増えているという実感があります。

例えば、「田舎の土地の名義がおじいちゃんのままなんだけど、大丈夫でしょうか」といった相談が多いですね。あるいは、「法務局から通知が届いているけど大丈夫か」といった相談です。

相続が適切になされておらず、関係者が大人数になっているケースなどでは「費用を誰が負担するのか」といった問題も出てきます。相続登記の義務化に伴い、今後もこうした相談も増えてくるのではないでしょうか。

―相続不動産を売却する際には、かなり専門的な知識が必要になりそうですね。

鶴見:相続不動産の売却には、不動産会社だけでは対応できない場合もあります。遺産分割協議や登記などの手続きが整っていないと、基本的には売却は行えません。適切な専門家の協力を仰ぎながら、売却に向けて必要な手続きを進めていきます。

高橋:税金なら税理士、登記なら司法書士、相続人同士でトラブルになっているなら弁護士にそれぞれ協力を仰ぐことになりますが、そもそも、ご自身がどのケースに当てはまるのか判断がつかないという場合には、まずは相続診断士に相談して、適切な専門家に繋いでもらうところから始めたらよいと思います。

鶴見: 最近、私のところに借地権付き建物を相続したという方から相談があったのですが、その方は管理会社から「建物は取り壊して土地を返すのが原則だ」と言われたというんです。

一般の方が管理会社からそんなことを言われたら、「そういうものなんだ」と思ってしまいますよね。しかし、実際には、借地権は売却することも可能です。このように不動産会社側に相続の知識がない、あるいは何らかの意図があって誤ったことを伝えてくるというケースもあるわけです。なので、相続不動産を売却する際には、「相続に詳しい」不動産会社に相談した方が良いと思います。

―いわゆる「相続に強い税理士・司法書士」は、どれぐらいいるのでしょうか?

高橋:私の所感ではありますが、税理士については5人に1人ぐらいだと思います。ただ最近は、以前と比較して相続の案件も増えているので、「相続の知識・経験がある」という税理士も増え、全体の20〜30%ぐらいはいると思いますね。

鶴見:司法書士の場合、相続登記であれば、ほとんどの司法書士が対応可能でしょう。しかし、遺言などの生前対策の相談や登記以外の相続手続きについては知識・経験に差があると思います。

―相続は対応に必要な知識が幅広く、家庭ごとに置かれている状況が異なるため、「どこに相談すれば良いのか」というのは難しいですよね。

高橋:ぜひ、相続診断士に相談してほしいですね。そのうえで、相続診断協会が用意する30項目の「相続診断チェックシート」に取り組んでいただくことをお勧めします。

このシートにチェックがつく項目があるようであれば、相続に関して何らかの「問題がある」ということですで、その部分から対策を考えていくのが良いと思います。

例えば、「お腹が痛い」と感じても、その痛みの原因を自分で特定することは困難でしょう。通常であれば、病院に行って医師に診断してもらい、症状に応じて適切な専門医に繋いでもらうことで症状の改善を行いますが、これは相続についても同じことが言えると思います。

一度、相続診断士に相談することで、我が家の相続に必要なのは税理士なのか、あるいは司法書士なのか、はたまた他の専門家なのかを判断してもらうと良いでしょう。

また、遺言を書く前段階として、エンディングノートを書くこともお勧めしています。エンディングノートを書く理由は二つあります。

一つは自分自身の考えの整理、もう一つは「書けない部分」を確認することです。

実際に、エンディングノートを書いてみると、「手が止まる項目」があるはずです。そして、その項目に相続上の課題があることが多いのです。なので、その「手が止まる項目」について家族で話し合ったり、把握できていない部分があるのであれば調べてみたりすることから始めてみるのが良いのはないでしょうか。

最後に、大前提として、「相続は相談していいんだ」ということを伝えたいです。まだまだ「こんな恥ずかしい話は人にできない」と考えている方も多いと思いますが、まずは一歩踏み出すという意味で、相続診断士に話をしてみてほしいと思います。

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プロフィール

高橋 大祐(たかはし だいすけ)

税理士/相続診断士。資産税業務を専門とし、相続診断士との連携を中心に、個人の相続対策から中小企業の事業承継まで、幅広く対応している。
HP:税理士法人HOP

鶴見 英司(つるみ えいじ)

司法書士/相続診断士。不動産登記を中心に、商業登記、相続登記等の登記業務を数多く担当する。
HP:赤羽相続相談窓口