
不動産売買契約においては、クーリングオフ制度が設けられています。この制度を知っておくことで契約後の不安を軽減することにつながります。逆にクーリングオフの適用条件や手続き方法などを理解していないと、後悔するおそれがあるでしょう。
この記事では、不動産売買契約においてクーリングオフをするための条件や、クーリングオフができない場合の契約解除などについて解説します。
この記事で分かること
- そもそもクーリングオフとは?
- 不動産売買契約でクーリングオフをするための条件
- 不動産売買契約でクーリングオフをするには書面が必要
- 不動産売買でクーリングオフができない場合の契約解除方法
- 不動産売買契約でなるべくクーリングオフを避けるためのポイント
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もくじ
そもそもクーリングオフとは?

クーリングオフとは、契約を締結した後でも一定期間内であれば無条件で契約を解除できる制度です。主に訪問販売や電話勧誘などの消費者取引に適用され、強引な営業や誤解による契約から消費者を守るために設けられています。
不動産取引についても宅地建物取引業法にクーリングオフが規定されていますが、対象は限定的です。
例えば、規定には『宅地又は建物の売買契約について』とあり、賃貸は対象外です。また、売主が宅地建物取引業者(以下、宅建業者)である場合の売買取引において、宅建業者の事務所以外の場所などで買受申込や契約を締結した買主が、8日以内に撤回や解除ができます。
不動産取引は契約金額が大きく、法的にも重要な位置づけとなるため、詳細な条件を理解することが重要です。
※参考:宅地建物取引業法 第三十七条の二|e-Gov法令検索
不動産売買契約でクーリングオフはできるのか

不動産売買契約において以下の5つの条件をすべて満たせば、クーリングオフは可能です。
<5つの条件>
● 売主が宅建業者であること
● 買主が宅建業者者以外であること
● 事務所や案内所以外で契約を締結していること
● クーリングオフの期間内(8日以内)であること
● 決済・引き渡し前であること
不動産取引では契約内容が複雑で売主と買主の立場が大きく異なるため、適用条件が明確に定められています。特に、売主が宅建業者であることや、契約場所が事務所以外であることなどが条件となっています。
いくつかの条件が設定される背景には、不動産取引が高額、かつ法的拘束力の強い契約であることが挙げられます。売主と買主の信頼関係が契約成立の基盤となるため、無条件で契約解除できる状況を厳格に限定する必要があります。
不動産売買契約でクーリングオフをするための条件

ここでは、不動産売買契約でクーリングオフをするための条件の詳細について解説していきます。
- 売主が宅地建物取引業者であること
- 買主が宅地建物取引業者以外であること
- 事務所や案内所以外で契約を締結していること
- クーリングオフの期間内(8日以内)であること
- 決済・引き渡し前であること
売主が宅地建物取引業者であること
不動産売買契約においてクーリングオフが適用されるのは、売主が宅建業者の場合に限られます。なぜなら、宅建業者は一般個人が売主の場合と違って不動産取引のプロであり、専門的な知識や責任が求められ、契約内容を適正に整える義務があるからです。
不動産の購入時には売主が宅建業者なのか、個人なのかを確認することが大切です。例えば不動産仲介会社を介して契約する場合、売主が仲介会社自体であるケースもあれば、不動産を所有する個人が売主となっているケースもあります。
事前に確認することで契約後のトラブルを防ぐことが可能です。
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買主が宅地建物取引業者以外であること
買主が一般消費者である場合にのみ、クーリングオフが適用されます。消費者保護を目的とする制度であり、取引に不慣れな一般個人が不利な契約を結ばされないようにするためです。
例えば、個人が新築マンションを購入する場合は対象となりますが、宅建業者が仕入れのために土地を購入するケースは対象外です。また、法人であっても宅建業者に該当しない場合には適用されます。
以下は、売主と買主の属性ごとのクーリングオフの可否をまとめたものです。
| 売主 | 買主 | 適用可否 |
| 宅建業者 | 個人 | ◯ |
| 宅建業者 | 宅建業者 | ✕ |
| 個人 | 個人 | ✕ |
| 個人 | 宅建業者 | ✕ |
購入時には自分がクーリングオフの対象者であるかを確認し、売主と買主の資格を慎重にチェックすることが大切です。
事務所や案内所以外で契約を締結していること
不動産売買契約においてクーリングオフが適用されるのは、契約を不動産会社の事務所や案内所、モデルルームなどの業務を行う施設以外で締結した場合に限られます。
事務所や案内所、モデルルームなどには専任の宅地建物取引士が常駐しており、業務が適正に運営されると見なされるため、クーリングオフの適用外となります。
一方、カフェなどで契約を結んだ場合は適用対象です。
クーリングオフの期間内(8日以内)であること
クーリングオフは、売主である宅建業者から「クーリングオフが可能」という説明を受けた日から8日以内に行う必要があります。
ただし、宅建業者が買主に対してクーリングオフの説明をしていない、あるいは法に基づく書面を交付していない場合、以下の条件を満たせばクーリングオフが可能です。
- 物件の引き渡しを受けたが代金を支払っていない
- 代金を支払ったが物件の引き渡しを受けていない
決済・引き渡し前であること
クーリングオフが適用されるのは、不動産の代金を全額支払っておらず、引き渡しが完了していない場合に限られます。決済や引き渡しが済んでしまうと、契約が完全に履行されたとみなされ、クーリングオフができなくなります。
例えば、マンションを購入する際に引き渡し日が契約から1ヶ月後に設定されている場合、決済や引き渡しが行われる前であればクーリングオフを主張することが可能です。
契約後に迷いや問題が生じた際には、決済や引き渡しの日程やその他条件を確認し、期限内に手続きを進めましょう。
不動産売買契約でクーリングオフをするには書面が必要

不動産売買契約でクーリングオフを行う際は、契約解除の意思表示を示した書面による通知が必要です。
書面の発送時点でクーリングオフの効力が発生するため、説明を受けてから8日以内の発送であれば、売主側への到着が期間終了後でも問題ありません。
なお、書面発送は普通郵便やFAXも利用できますが、内容証明郵便をおすすめします。内容証明郵便は「誰が、いつ、どのような内容の書面を、誰に差し出したか」を郵便局が証明する仕組みで、受取ったかどうかのトラブル回避に役立ちます。
なお、書式のサンプルは東京都住宅政策本部が公表しています。
※参考:「不動産取引の手引き」8 契約を解除するときは | 東京都住宅政策本部
不動産売買でクーリングオフができない場合の契約解除方法

クーリングオフが適用されない場合でも、契約解除の方法はいくつかあります。
- 債務不履行解除
- 消費者契約法にもとづく契約解除
- 錯誤や詐欺による契約解除
- 手付解除
ここでは、不動産売買でクーリングオフができない場合の契約解除方法を紹介します。
債務不履行解除
不動産売買契約で、売主や買主のいずれかが契約内容を履行しない場合、債務不履行に基づいて契約を解除することが可能です(民法第541条、第542条)。具体的には、売主が物件を引き渡さない、買主が代金を支払わない場合などが挙げられます。
また、契約に基づく物件や附属物の種類、品質、数量に不一致がある場合、買主は「契約不適合責任」に基づき契約を解除できます(民法第564条)。
ただし、債務不履行や契約不適合の内容が、契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であれば、契約解除は認められない点に留意する必要があります(民法第541条但書)。
※参考1:民法第541条|e-Gov法令検索
※参考2:民法 第542条|e-Gov法令検索
※参考3:民法第564条|e-Gov法令検索
※参考4:民法第541条但書き|e-Gov法令検索
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消費者契約法にもとづく契約解除
買主が一般個人で売主が事業者である場合、売主が以下の行為を行った際に、買主は不動産売買契約を取り消すことができる場合があります(消費者契約法第4条第1項〜第4項)。
- 重要事項の虚偽告知
- 不確実な事項について断定的判断の提供
- 不利益な事実の告知義務違反
- 消費者の要求に反する不退去
- 退去を希望する消費者の妨害
- 過量契約
- 消費者の不安を煽るような告知
- デート商法
- 霊感商法
- 契約締結前のサービス提供
不動産売買契約においては、「1〜3」などが特に問題になりやすいため注意が必要です。
例えば、将来的な値上がりを期待させるなどして不適切に勧誘し、買主が期待をもとに不動産を購入した場合、契約を取り消すことができる場合があります。
もし、営業担当者の言動が上記に該当するのではないかと疑問に思った場合は、弁護士に相談して確認することをおすすめします。
錯誤や詐欺による契約解除
不動産売買契約において、重大な誤解が生じた場合は『錯誤取消し(民法第95条)』、売主によってだまされて契約締結をした場合は 『詐欺取消し(民法第96条第1項)』が認められることがあります。
それぞれの要件は以下のとおりです。
<錯誤取消しの要件>
1. 次の2つのいずれかに当てはまること
a. 意思表示に対応する意図が欠けていた
b. 意思表示の動機について誤った認識をしており、その動機を相手方に伝えていた
2. 上記の錯誤が、契約目的や取引の常識に照らして重要な内容であること
<詐欺取消しの要件>
1. 相手方が欺罔(ぎもう)的な行為を行ったこと
2. 欺瞞行為により、購入者が誤った認識に陥ったこと
3. 誤認に基づいて、購入者が商品やサービスを購入したこと
※参考:民法第九十五条|e-Gov法令検索
※参考:民法第九十六条第一項|e-Gov法令検索
手付解除
不動産売買契約の際に、売主に対して手付金を支払った場合、買主は手付金を放棄することで契約を解除が可能です(民法第557条第1項)。
しかし、以下の条件に該当する場合、手付解除は認められません。
<手付解除が認められないケース>
● 契約に定められた手付解除の期間を過ぎている場合
● 契約で手付解除が認められない旨が記載されている場合
● 売主が契約の履行を開始した場合(例:注文住宅の建築工事が始まった場合など)
※参考:民法 第五百五十七条|e-Gov法令検索
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不動産売買契約でなるべくクーリングオフを避けるためのポイント

ここでは、不動産売買契約でクーリングオフを避けるためのポイントを紹介します。
- 依頼する不動産会社が過去に行政処分を受けていないか確認する
- 購入の意思決定を明確にする
- 納得するまで不動産会社と話し合う
依頼する不動産会社が過去に行政処分を受けていないか確認する
不動産取引を進める際は、依頼する不動産会社が過去に行政処分を受けていないか確認しましょう。
国土交通省の『ネガティブ情報等検索システム』を活用すると、宅建業者をはじめ、不動産鑑定業者やマンション管理業者に関する免許停止・業務停止・指示・行政指導の履歴を簡単に調査できます。
システムの情報は1ヶ月に1回の頻度で更新され、直近から5年間の履歴を確認可能です。
※参考:ネガティブ情報等検索システム<宅地建物取引業者>|国土交通省
購入の意思決定を明確にする
不動産売買契約は、人生に一度あるかないかの大きな決断であり、後悔しないためには購入の意思決定を明確にすることが重要です。事前に物件の選定理由や価格、条件などをしっかりと確認し、納得してから決断しましょう。
また、家族や専門家の意見を聞くことも大切です。自分の意思がしっかりと定まっていれば、クーリングオフを行う必要もなくなるでしょう。
納得するまで不動産会社と話し合う
不動産売買契約を結ぶ前に、疑問点や不安があれば納得するまで不動産会社と話し合いましょう。納得できない場合や迷いがある場合は、「持ち帰って検討したい」と伝え、契約を急がない姿勢をとることが重要です。
また、「今だけのチャンス」「当社だけの特別条件」などを謳う不動産会社は、自社の利益のために早期契約を促している可能性があります。その条件が特別なのかの具体的な説明を求め、納得のいく回答が得られない場合は契約を見送る勇気も大切です。
不動産売買契約のクーリングオフに関するよくある質問

ここでは、不動産売買契約のクーリングオフに関するよくある質問を紹介します。
- 電子取引で不動産売買契約をした場合にクーリングオフはできる?
- 個人から不動産を購入した場合にクーリングオフはできる?
- 宅建業者にクーリングオフの説明義務はある?
電子取引で不動産売買契約をした場合にクーリングオフはできる?
電子取引による不動産売買契約でも、条件を満たせばクーリングオフの適用が可能です。ただし、契約を締結した場所に注意が必要です。
例えば、買主自身があらかじめ自宅や勤務先など、クーリングオフの対象外となる場所を指定して契約を行った場合、対面契約と同様に対象外となります。
※参考:ITを活用した重要事項説明に係る社会実験のためのガイドライン|国土交通省
個人から不動産を購入した場合にクーリングオフはできる?
クーリングオフは基本的に宅建業者との契約に適用されるため、個人から不動産を購入した場合には適用できません。
民間の個人売買契約では消費者契約法による解除や、手付解除など、他の方法を選択することになります。
宅建業者にクーリングオフの説明義務はある?
宅建業者には、クーリングオフに関する説明や書面交付の義務は法律上課せられていません。しかし、クーリングオフの権利を行使されることを避けたい宅建業者は、契約締結後速やかに書面を交付することが一般的です。
一方、クーリングオフの説明が行われない場合、買主はクーリングオフの期限に制限なく契約を解除できます。したがって、契約後は交付された書面をよく確認し、権利を行使できる期間を把握しておきましょう。
不動産売買契約のクーリングオフは一定の条件を満たすことが必須

不動産売買契約におけるクーリングオフを行使するには、いくつかの条件を満たす必要があります。主な条件として、売主が宅建業者であること、買主が個人であること、事務所や案内所以外の場所で契約が締結されていることなどが挙げられます。
また、契約日から8日以内で、決済や引き渡しが行われていない点も重要です。契約内容を事前にしっかり確認し、条件を理解しておくことで、安心して取引を進められるでしょう。