今注目の「アフォーダブル住宅」とは?
約30年ぶりの上昇水準ともいわれる、昨今の家賃の高騰。地価や建築費の上昇を背景に起こっているこの大きな変動は、特に“利便性が高く、安心して住める手頃な広さの物件”を求める現役の子育て世帯やひとり親世帯にとって、住まいの確保が死活問題になっている。
そこで注目を集めているのが、東京都が進めている「アフォーダブル住宅」の取組みだ。アフォーダブル(Affordable)とは、“手が届く、手頃な価格の” という意味であり、都におけるアフォーダブル住宅は、子育て世帯等が手頃な家賃で安心して住むことができる住宅を指す。
都では、2025年3月、「2050東京戦略」において、アフォーダブル住宅に関するさまざまな施策を打ち出している。総額200億円以上を目指す「アフォーダブル住宅供給促進ファンド」もここで示されている。2025年11月にはファンド運営事業者候補を選定し、2026年2月にファンドを設立。350戸程度の供給に向けて各社が動き、同年5月29日には、第一弾となる物件において入居募集が開始された。今後順次公開されるという物件にも熱視線が向けられている。
この記事では、都のアフォーダブル住宅の施策の全体像とともに、目玉となるこのファンドがどういう仕組みで成り立っているのかについて、東京都住宅政策本部と産業労働局2局の担当者からのヒアリングをもとにお伝えする。
3つの局が連携して推進する「アフォーダブル住宅」の取組み
アフォーダブル住宅への取組みは、すでに多くの国で導入されている。
イギリスでは行政がデベロッパーに対して開発許可の条件としてアフォーダブル住宅の設置を義務付けていたり、アメリカでは廃業したモーテルや空きオフィスを都市計画の用途規制を特例で免除して低所得者向け恒久支援住宅として転換する条例が施行されていたりと、アプローチはさまざまだ。
都は海外の事例をそのまま模範とするのではなく、東京都の実情に合わせて、主に住宅政策本部・産業労働局・都市整備局の3局が連携しながら、さまざまな取組みを進めている。
住宅政策本部は、都の住生活・住宅政策の総合的な方針“住宅マスタープラン”の策定や都営住宅の管理・整備、民間住宅施策の推進などを所管している。アフォーダブル住宅については、都の取組み全体の進捗管理や舵取りを担うほか、JKK東京(東京都住宅供給公社)と連携した公社住宅の活用や、都有地を活用した住宅供給の検討など個別施策に取り組んでいる。
産業労働局は、「国際金融都市・東京」の実現のため、様々な社会課題解決につながる官民連携ファンド事業を実施している。アフォーダブル住宅についても、都の出資を呼び水に、民間から資金やノウハウを呼び込むこの事業の枠組みを活用している。
都市整備局は、まちづくり・都市づくりを所管する局で、都市整備の計画から事業実施まで幅広い領域を所管している。アフォーダブル住宅については、リノベーションまちづくりによる供給の促進や、都市開発に合わせて供給する場合の容積率緩和といった施策に取り組んでいる。
このように、3局が連携し、子育て世帯等にとって住みやすい環境を形成していくことを目的に、事業運用を進めている。
行政予算に頼り切らない、ファンドによる持続可能な「家賃低廉化」の仕組み
アフォーダブル住宅供給促進ファンドは、都が全額拠出する補助金ではなく、「出資」の形式をとり、この出資を呼び水に、事業趣旨に賛同する投資家からの出資を引き出す。都が目標額の半分(100億円)を拠出し、ファンド運営事業者が民間投資家などから半分(100億円)以上を募る仕組みだ。
家賃の低廉化のため、通常のファンドより期待利回りが抑えめだが、都としては、本ファンドへの出資を通じて、投資家が、アフォーダブル住宅の供給に関するノウハウの獲得や、企業ブランドの向上といったメリットを得られるのではないかと考えているようだ。ファンド運営事業者の方でも、空き家を活用することなどにより、なるべく安価に物件を購入するといった家賃を低廉化するための民間ならではの工夫を加えている。
ファンドへの出資金は、家賃収入とファンド期間終了後の清算手続きを通じて回収される予定だ。
都市課題を多角的に解決する「4つのコンソーシアム」の布陣
アフォーダブル住宅供給ファンドには9社が参画。それぞれの領域に合わせて組成された4つのコンソーシアムによって展開されている。各コンソーシアムの特徴と概要は次のとおりだ。
<Tokyoネウボーノファンド投資事業有限責任組合>| ファンド運営事業者 | 株式会社SMBC信託銀行・株式会社萬富 |
| 都出資額/ファンド規模 | 20億円/40億円以上 |
| ファンド期間 | 15年間(最長2年間延長) |
| アフォーダブル住宅の供給戸数(見込み) | 約60戸 |
| 特徴 | 【テーマ】子育て支援 【投資対象】新築マンション 【想定家賃水準】市場家賃の80%程度 |
| 入居資格 | 未就学児が入居する世帯・出産を控えている世帯 |
| 入居申し込み先 | 未定 |
| ファンド運営事業者 | 野村不動産株式会社・野村不動産投資顧問株式会社 |
| 都出資額/ファンド規模 | 20億円/40億円以上 |
| ファンド期間 | 10年間(最長2年間延長) |
| アフォーダブル住宅の供給戸数(見込み) | 約60戸 |
| 特徴 | 【テーマ】子育て支援 【投資対象】新築・築浅マンション 【想定家賃水準】市場家賃の80%程度 |
| 入居資格 | 世帯年収800万円以内の子育て世帯等 |
| 入居申し込み先 | 野村不動産パートナーズ株式会社(https://www.nom-rent.com/) |
| ファンド運営事業者 | 株式会社ヤモリ・三菱UFJ信託銀行株式会社 |
| 都出資額/ファンド規模 | 20億円/40億円以上 |
| ファンド期間 | 10年間(最長3年間延長) |
| アフォーダブル住宅の供給戸数(見込み) | 約160戸 |
| 特徴 | 【テーマ】空き家活用 【投資対象】中古戸建 【想定家賃水準】市場家賃の80%程度 |
| 入居資格 | 子育て世帯等 |
| 入居申し込み先 | 株式会社エアドア(https://airdoor.jp/blog/article/affordable-housing) ほか |
| ファンド運営事業者 | 株式会社LivEQuality大家さん・株式会社りそな不動産投資顧問・株式会社マックスリアルティー |
| 都出資額/ファンド規模 | 40億円/80億円以上 |
| ファンド期間 | 10年間(最長5年間延長) |
| アフォーダブル住宅の供給戸数(見込み) | 約70戸 |
| 特徴 | 【テーマ】ひとり親支援・子育て支援 【投資対象】中古・新築マンション 【家賃水準】市場家賃の平均75%程度 |
| 入居資格 | 世帯年収600万円以内の子育て世帯等 |
| 入居申し込み先 | 未定 |
※2026年6月29日現在。
2026年5月より順次募集開始。6月からはファンドだけでなくJKKも
募集の早い物件では、2026年5月から入居者募集が開始。
第1弾となったのは、野村不動産アフォーダブル住宅投資事業有限責任組合(以下、野村不動産)の新築マンション2棟の31戸と、Tokyo空き家再生賃貸アフォーダブル住宅ファンド投資事業有限責任組合(以下、ヤモリ)の戸建て住宅9戸。
それぞれ、野村不動産は14万9,000円~17万2,700円(市場家賃対比75%程度~80%程度)、ヤモリは9万5,000円~19万8,000円(市場家賃対比65%程度~80%程度)の賃料帯となっている。
年収額や世帯構成、提出書類などに要件があるほか、入居者の選定方法も先着順や抽選と事業者によって異なるため、都のホームページや各参画企業のホームページを参照されたい。
アフォーダブル住宅は、都の政策連携団体であるJKK東京でも、子育て・新婚世帯に向けて供給が予定されている。供給数は今後6年間で1200戸。6月23日から毎月ぺースで募集を開始する。
金融スキームの活用と既存公社住宅ストックの活用とで、子育て世帯等の住まいの選択肢が増えることが見込まれる。
東京発・官民連携モデルが日本の住まいを変える
産業労働局担当者によると、ファンド事業の当面の優先事項は、見込みである350戸程度を確実に供給するとともに、その過程で出てくる課題を検証すること、と見定めている。住宅政策本部担当者も、「住宅確保の課題解決は公共事業として捉えられがちだが、この官民連携による都の取組みによって、民間事業者等にも『この手法なら自分たちでもできるかもしれない』というイメージを持ってもらうことが理想。社会的な気運の醸成になれば」と期待を寄せていた。
また、すでに他自治体からの問合せも増加中とのこと。都が提示したこの柔軟な仕組みは、人口減少や家賃高騰に悩む日本全国の都市にとって、住宅政策の次世代スタンダードとなる可能性を秘めているといえるだろう。
誰もが安心して手頃に暮らせる住まいを、未来へと持続させていく。そんな新しい活路を切り拓いた都と民間企業とのチャレンジが、今後どう育っていくのか。これからの動きを追っていきたい。
■東京都 官民連携アフォーダブル住宅供給促進ファンド
https://www.sangyo-rodo.metro.tokyo.lg.jp/gfct/initiatives/green-finance/affordable-fund
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