覚王山に住むクリエイターたちの「面白そう!」が街おこしを後押し

▲日本で唯一お釈迦さまの骨を安置する「日泰寺」につづく落ち着いた参道が、街のメインストリート▲日本で唯一お釈迦さまの骨を安置する「日泰寺」につづく落ち着いた参道が、街のメインストリート

名古屋市の『覚王山』エリアは、タイゆかりの覚王山日泰寺につながる参道を中心に発展してきた門前町。人気の邸宅街として知られているが、名古屋市民にとっては「おしゃれなお店がある」「エスニックな雰囲気」といった街歩きのイメージもあると思う。

覚王山商店街のメインストリートである「参道」には派手な看板やBGMは一切なく、初めて訪れた人は「ここが商店街なの?」と戸惑ってしまうかもしれない。でも静かで落ち着いた街並みと、裏道に入って穴場のお店や景色を見つける宝探しのようなワクワク感が、この街の魅力といえる。

「20~30年前の覚王山は、空き店舗が多く人もあまり来ない商店街でした。でも立地のよさからクリエイターが多く住んでおり、皆が飲み明かす中で『イベントをやると面白いね』などと盛り上がっていったんです。さらに行政の支援が追い風となって、店主と有志によるにぎわいづくりが始まりました。実は私も覚王山のフリマに出店してスカウトされたんですよ(笑)」と話すのは、覚王山商店街振興組合でアートやイベントの制作・監修を務める、アーティストのすずきめぐみさん。

すずきさんはにぎわい創出の起爆剤となった「覚王山MAP」の立役者であり、「彼女なくして今の覚王山の活気はない」と言われる存在。さっそく街づくり物語を聞いてみた。

イラストレーターが手描きする『覚王山MAP』は、客もお店も呼び寄せた!

1997年、大判でカラフルな「覚王山MAP」が、覚王山商店街で無料配布された。
「このMAPから、覚王山のにぎわいが始まったと言えます。地元のテレビや雑誌で徐々に取り上げられるようになり、街へ訪れる人が増えたのを実感できました。MAPを持ち帰った方のクチコミ効果も大きかったですね」

「覚王山MAP」には2つの大きな特長がある。1つ目は「アート作品としての完成度」だ。
「ポスターのように部屋やトイレに貼って楽しめて、捨てられないMAPを配布しよう」という趣旨から、創刊以来20年間、イラストレーターの伊藤ちづるさんがオール手描きで制作している。とても細かく描き込まれた人や動物、建物を眺めているだけでも何だか楽しい。

2つ目は「街歩きしたくなるトリビア」。「ねこの小径…」「桜のために壁こわした!?」「坂の上に五重塔!」などと記してあり、思わず足を延ばしたくなる。
これらの情報は「面白いモノを見つけるのが得意」というすずきさんが歩いて集め、スタッフで検証して選び抜いたもの。作品や読み物としてのクオリティを皆で高めよう!というクリエイター魂が、MAPから伝わってくる。

さらに、覚王山MAPは「店舗誘致」という思わぬ効果ももたらした。「このMAPに載りたい」といって出店を決めるオーナーが増えたのだという。
「街づくり当初から『ここでしか買えないオンリーワンショップが増えれば』と考えていて、実際に炭の専門店や陶芸工房などが出店してくれました。今は街が有名になって賃料が上がり、小さな専門店が出店しにくいというジレンマもありますが、『覚王山MAP』によって裏道やマンションの一室を使ったお店にも誘導し、ぶらりと歩いて楽しめる街になればいいと思っています」

▲左/B2サイズでゾウのイラストが目印の「覚王山MAP」。右/「覚王山新聞」はすずきめぐみさんが情報発信ツールとして自作したのが始まり。今は新聞店の協力で地域へ配布されている▲左/B2サイズでゾウのイラストが目印の「覚王山MAP」。右/「覚王山新聞」はすずきめぐみさんが情報発信ツールとして自作したのが始まり。今は新聞店の協力で地域へ配布されている

まるで学園祭のように。年3回の『覚王山祭』はすべて手づくりで

覚王山でおなじみの催しといえば、春・夏・秋の「覚王山祭」。クリエイターのアート&クラフトブースや、レトロ&アンティークブース、多国籍な飲食屋台・音楽が集結し、アートでエスニックな情緒が漂うお祭りとして、毎回大盛況だ。

年3回と開催頻度が高いが、商店街の店主やスタッフだけで運営する“手づくり感”が面白さの秘訣だという。
「チラシの制作、出店者のブース割り、ステージの出演者依頼、レンタル業者への発注から警察への道路使用許可申請まで、業務を分担して運営しています。みんなで『わたしたち頑張っているよね』と褒め合い、励まし合いながら(笑)。覚王山商店街はキーマンが引っ張るというより、個々の店主が『お金がなくとも、手づくりでお祭りを盛り立てよう』と楽しんでいるのが特徴で、まさに学園祭のノリですね!」

もうひとつ、「覚王山祭のチラシ」にも商店街の狙いがある。
「2007年からチラシ制作を若い作家に依頼しています。手描きなので、毎回個性やテイストがバラバラですが、それがいいんです。覚王山祭のチラシを描いたことをきっかけに、活躍の場が広がってくれたらうれしいですね」

これまでチラシを描いた作家は30人にのぼり、その後イベントやショップに協力して覚王山の街に関わり続けている人も。「覚王山祭」は街の知名度アップだけでなく、商店街の団結と、若手作家の発掘という役目も果たしている。

▲「覚王山祭」には、すりこぎ専門店や紙風船つりまで個性豊かなブースがずらり。その場で手作り体験ができる『ワークショップコーナーも。作家が手描きする味わい深いチラシは、クオリティを保つためにすずきさんが監修を行っている▲「覚王山祭」には、すりこぎ専門店や紙風船つりまで個性豊かなブースがずらり。その場で手作り体験ができる『ワークショップコーナーも。作家が手描きする味わい深いチラシは、クオリティを保つためにすずきさんが監修を行っている

秋のアートイベントは「覚王山の日常」を伝えるために

▲2016年秋は「覚王山」をテーマに、スケールの大きな布作品や、モザイクタイルを使った仕掛けアート、子どもたちの灯籠や旗などのアートが街を彩った。「毎回80組ほどの作家さんが無償で協力してくれて、本当に感謝しています」▲2016年秋は「覚王山」をテーマに、スケールの大きな布作品や、モザイクタイルを使った仕掛けアート、子どもたちの灯籠や旗などのアートが街を彩った。「毎回80組ほどの作家さんが無償で協力してくれて、本当に感謝しています」

季節の風物詩として定着した「覚王山祭」だが、「街を単なるお祭り会場にはしたくない」というのがすずきさんらのこだわりだ。

「やはり日常のお店や風景を見てほしいという想いがあり、2001年から毎年秋に10日間ほど『覚王山参道ミュージアム』を開催しています。このイベントで『覚王山はアートな街』というイメージが定着したと思いますね」

同イベントは“街に仕掛けるアート”として、参道の街路樹や店舗の前にアート作品を展示するもの。

「商店街を会場にするからには『どの場所で何を展示するか』が肝心です。そこで作家さんと参道を歩いて場所や展示方法を一緒に考え、スタッフがお店に交渉します。例えば、畳屋さんなら『イグサを分けてもらって作品に活かそう』と提案したり、『屋根にも展示したい』とお店に交渉したり。お店と作品を関連づけることで、展示中には作家の代わりに店主の方が作品の説明をしてくれるんですよ。団子やのおじさんが『ほら、ここ触ってみると動くよ』って(笑)」

「お店や街の人と会話を交わした記憶が、また覚王山に来たいという想いになってくれるはず」というすずきさんの言葉が印象的だ。ただ作品を募集して商店街に並べるだけでは、会話は生まれない。“覚王山”と“アート”へのリスペクトがあるからこそ、作家や店主が楽しんで協力してくれるのだろう。

「覚王山をアーティストが育つ街にしたい」

最後にもうひとつ、アートなにぎわい創出の取り組みを紹介しよう。常設で若手作家のアートに親しめる場として、2003年に「覚王山アパート」をオープンした。築60年ほどのアパートを改修した同アパートには、古本カフェや針金アート、オリジナルイラスト雑貨、きのこ雑貨、ギャラリーなどの、覚王山らしいオンリーワンショップが集まっている。

また若い作家さんの拠点ができたことで、商店街の店主が気に入った作家にチラシや看板、包装紙の仕事を依頼してくれるようにもなった。「覚王山でアーティストを育てていきたい」とすずきさんは笑顔で語ってくれた。

まだまだ、街づくり・にぎわい創出の新たな挑戦はつきない。レトロでアートな名古屋・覚王山の街を「覚王山MAP」を片手にまずは歩いてみてほしい。

覚王山商店街
http://www.kakuozan.com/top.html

▲「覚王山アパート」に入居する作家が協力して「覚王山さんぽ」という観光小冊子を2016年に創刊した。「作家さんが全国で展覧会を行う時に、各地のギャラリーに置いてもらっています。おかげで最近では九州や沖縄から訪ねてくれる方もいるんですよ」とすずきめぐみさん▲「覚王山アパート」に入居する作家が協力して「覚王山さんぽ」という観光小冊子を2016年に創刊した。「作家さんが全国で展覧会を行う時に、各地のギャラリーに置いてもらっています。おかげで最近では九州や沖縄から訪ねてくれる方もいるんですよ」とすずきめぐみさん

2017年 02月11日 11時00分