少子高齢化が進展するなか、深刻度を増す空き家問題

2012年1月に公表された国立社会保障・人口問題研究の「日本の将来推計人口」によれば、日本の総人口は今後、長期的に減少し続けると推計されている。総務省統計局による人口推計では、現在の日本の総人口は1億2709万人(2014年10月1日現在・概算値)。これが2026年には1億2000万人を切り、2048年には1億人を割り込んで9913万人に。さらに2060年には8674万人になると推計されている。

総人口が減少する一方、高齢者人口は今後も増加を続け、2042年に3878万人でピークを迎える。その後、高齢者人口は減少するものの、高齢化率は上昇し、2060年には高齢化率が39.9%に達すると見込まれている。実に国民の2.5人に1人が65歳以上の高齢者という社会が到来するのだ。

このように「超高齢社会」へと突き進む日本では、近年、「空き家問題」が深刻さを増してきている。総務省の統計によれば、総住宅数に占める空き家率は、1963年時点では2.5%。90年代には10%を突破し、2013年度の住宅・土地統計調査では、過去最高の13.5%に達した。総住宅数6063万戸に対し、空き家数は820万戸。直近5年間で63万戸の空き家が増え、実におよそ7戸に1戸が空き家という状況にある。

今後も高齢者が相続などで入手した持ち家が、賃貸や売却などによって有効活用されることなく、未使用で放置され、空き家化していく事態がますます増えていくに違いない。

オーナーの不安を払拭するため、定期借家契約を活用

住健トラストの直野氏住健トラストの直野氏

解決の糸口すら見出しづらい空き家問題だが、これを何とかしようと奮闘を続ける企業がある。愛知県江南市の不動産仲介会社「住健トラスト」だ。社長を務める直野武志氏は、大手不動産会社に勤務していた時代から空き家に強い関心を抱いてきた。そして2011年11月11日、「自分の力で空き家問題を何とかできないか」と一念発起し、同社を設立した。

同社が既存の不動産仲介会社と大きく異なるのは、空き家解消を促すために「定期借家契約」を積極的に活用し、子育て世帯の住み替えを強く支援している点だ。

直野氏は、各地の空き家問題に直面するなかで、この問題の根底にあるのは、“オーナー側の不安”だと感じたという。「できれば空き家を有効活用したいと思っていても、一度貸してしまうと返ってこないのではという不安から、貸し渋っているオーナーが本当に多い」と直野氏。そこで考えたのが、「定期借家契約」を活用する方法だった。

従来から一般的に行われている「普通借家契約」には、「法定更新」という考え方がある。これは、貸主側が契約期間満了で契約を終了させようとしても、「正当事由」がなければ契約終了を主張できないというもの。多少の契約違反や滞納などでは「正当事由」に認めらない場合が多く、オーナーが家を返還して欲しいと主張してもなかなか返ってこないのが実情だ。こうした不安を解消するのが、定期借家契約である。

2000年3月に法制化された定期借家契約では、賃貸契約の期間を自由に設定でき、6カ月前までに借主に通知すれば、期間満了とともに契約を終了できる。立ち退き費用が発生したり、居座られてしまう心配がなく、必ず戻ってくる安心感がある。オーナー側の不安を解消することで、有効活用されずに眠る空き家を賃貸物件として活用してもらおうというのが直野氏の狙いだ。

住居費を安価に抑え、豊かな暮らしを応援

一宮市奥町の物件。子育て世帯に向けてかわいらしい外観に改装された一宮市奥町の物件。子育て世帯に向けてかわいらしい外観に改装された

「貸す側」のみにメリットがあるかに見える定期借家契約だが、実は「借りる側」にもメリットがある。一番の利点は、割安な家賃だ。一般的に定期借家契約の物件の家賃は、相場の1~3割程度安く設定されることが多い。集合住宅並みの家賃で、広い一戸建てに住むことも十分可能だ。これにより恩恵を受けやすいのが、若い子育て世帯である。

「当社では定期借家契約に“再契約”という仕組みを取り入れた独自の契約形態を採用してします。貸す側の懸念材料である契約違反や滞納といった問題を起こさない借主であれば、あらかじめ設定した契約期間の満了後も、基本的に再契約を結ぶことを前提としているのが特徴です。さらに、最近注目を集めている「DIY型賃貸」の仕組みも取り入れ、貸主が入居前・入居中の修繕義務を負わない分、借主が自分たちで自由にリフォームできる物件も提供してします」と直野氏は話す。

集合住宅での子育ては、近隣住民への気遣いがストレスになることが多い。核家族化が進み、慣れない子育てに不安やいらだちを覚えることが少なくない親にとって、周りに気兼ねなく子供を遊ばせられる庭付きの広い一戸建ては、ありがたい存在に違いない。

十分な貯蓄がない20~30代の子育て世帯が、一戸建てへの憧れから無理な住宅ローンを組んでしまえば、毎月の収入の多くが住居費に消えてしまい、子どもとの時間を満喫する金銭的な余裕はなくなってしまう。定期借家契約による割安な家賃の住宅が普及すれば、住居費への負担が減り、子育て世帯がより豊かに生活できるようになる。さらには、非正規雇用の労働者が増えるなか、金銭的な問題から結婚・出産に踏み出せない人たちを後押しすることにもつながりそうだ。

「若い世代が増えていかなければ、結果的に家を必要とする人が減り、さらに空き家が増加してしまう。それはなんとしても食い止めたい。住居費を減らすことができれば、たとえ賃金が安くても豊かな暮らしができるはずです。そうすればもう一人育てようという意欲が湧いてくるかもしれない。だからこそ子育て世帯に今後もこだわっていきたいと考えています」と直野氏は口にする。

同社が最近手掛けた一宮市奥町にある物件は、昭和45年築の平屋の一戸建てだ。直野氏の取り組みを新聞記事で見た空き家物件のオーナーから、「自分が所有する空き家の周囲にゴミを捨てられたりして、防犯面や衛生面で困っている。なんとかできないか」と相談を受けて話が進み始めた。雑貨店やカフェの建築を手掛ける職人に依頼し、おしゃれな戸建て住宅へとリフォーム。耐震補強によって家族が安心して暮らせる家へと生まれ変わり、子育て中の家族が入居を決めた。

定期借家契約のひな形を公開し、取り組みを全国へ

「貸す側」「借りる側」双方にメリットが大きい定期借家契約だが、法制化から14年が経過した今でも一般に広く普及しないのにはワケがある。それは、手続きが煩雑なうえ、契約時に適切な書面が必要なこと、期間満了の通知が必要なことなどがあり、貸す側は不動産会社には負担が大きいからだ。

そこで同社では現在、経営コンサルタントと協働し、定期借家契約のノウハウや契約書の書式をまとめたひな形をネット公開し、無料でダウンロードできる仕組みを構築中だ。これにより、定期借家契約による空き家の活用が全国に広がっていけば、と直野氏は考えている。

「これからは賃貸物件の仲介と並行し、築年数の古い物件をリノベーションして子育て世帯に販売する事業も本格化させていく計画です。通常であれば更地にして売却してしまうような物件を再生し、安価な中古物件として子育て世帯に販売することで、豊かな暮らしを手に入れるお手伝いがしたい。今後も空き家対策と少子化対策に貢献していきたいと思います」と話す直野氏。

国土交通省は今年9月23日、都市郊外の一戸建て空き家を地方自治体が借り受け、子育て中の世帯が住みやすいように改修し、貸し出す取り組みを促す施策を決定した。来年度から階段の手すりや、手を挟みにくい扉といった子供の事故防止対策費が助成対象となる予定だ。

日本が抱える2つの難問を解決に導く同社の取り組み。重い腰を上げ始めた国の後押しを追い風に、同様の取り組みが全国各地へと広がっていくことに大いに期待したい。

2014年 11月21日 11時14分