人気急上昇の那古野エリアにある、町並み保存地区「四間道」とは?

名古屋駅から徒歩約15分。「那古野」エリアは都心の立地と郷愁を誘うレトロな町並みが人気を博し、隠れ家的な店が続々とオープン。ここ数年、名古屋市内でも注目度が高まるエリアだ。

那古野の中で名古屋市の町並み保存地区に指定されているのが、今回ご紹介する「四間道(しけみち)」。1610年の名古屋城築城とほぼ同時期に、商人が移り住み発展した。この珍しい地名は、大火の延焼を防ぐために幅4間(約7m)の道を整備したことが由来とされている。

「四間道」は空襲の被害が少なかったため、蔵や町家が残る区画があり、今もなお江戸時代の面影を楽しめる。ところが2016年12月、四間道の景観を代表する築120年の長屋の一角が取り壊され、駐車場になるかもしれないという話が持ち上がった。

「人づてにお伺いした話なので取り壊しは決定ではなかったのですが、『それはまずい』という危機感が正直な気持ちでした」と話すのは、那古野のまちづくりに関わる「ナゴノダナバンク」の主要メンバーで、那古野で生まれ育った藤田まやさん。

四間道の景観を守るために、まちづくりのメンバーはどう動いたのか?「クラウドファンディング」という新たな取り組みで町並み保存を叶えたプロジェクトについて、詳しくお話を聞いてきた。

「四間道」エリアは、蔵や町家が並ぶメイン通りの風情はもちろん、裏の路地めぐりも面白い。子守地蔵のある細い路地や民家と並んでカフェやバーが点在する通りなど、宝物を見つけるようにまち歩きが楽しめる「四間道」エリアは、蔵や町家が並ぶメイン通りの風情はもちろん、裏の路地めぐりも面白い。子守地蔵のある細い路地や民家と並んでカフェやバーが点在する通りなど、宝物を見つけるようにまち歩きが楽しめる

築120年の長屋がもつ可能性を「ナゴノダナバンク」が具体的に描いた

さて「ナゴノダナバンク」とは? こちらは商店街の店主、建築家、コンサルタント、大学の研究室、企業など那古野を愛するメンバーでつくられた組織「那古野下町衆」から派生したグループ。古民家・空き店舗の開発や出店者とのマッチングを行い、30店ほどの新店舗の誘致を成功させてきた。現在は建築家の市原正人さん、藤田まやさん、建築家の齋藤正吉さんの3人が、主要メンバーとして活動している。

今回の長屋解体の話は、ご近所の方からメンバーに持ち込まれた。ご近所の方が町並み保存地区にかかわる名古屋市に相談したところ、「ナゴノダナバンクにも相談しては?」という提案があったという。ナゴノダナバンクの活動が地域に認知されていることがよく分かる。

「所有者の方が古い建築物を残すためのハードルは、『修繕コスト』と『借り手のニーズへの不安』だと思います。そこで、資金計画と改修プラン、借り手の見込みをすべて用意して、所有者の代理人の方にお会いしました」と市原さん。

「貴重な建物を残したい!」というまちの情熱だけでは、所有者の心を動かすことはできない。これまでも那古野の空き店舗活用に向けて所有者と交渉する場合は、「1度目に納得してもらえなければ、2度目はない」という覚悟で、不安や負担を払拭する具体的なプランを描いて臨んできたそうだ。こうしたノウハウの蓄積が奏功。所有者や代理人の方とナゴノダナバンクがタッグを組み、2017年夏、町並み保存のプロジェクトがいよいよスタートした。

黒壁の長屋の一角(写真上)を守るために活動したメンバー(写真下)。右から、那古野の円頓寺商店街でお店も営む建築家の市原正人さん、同商店街の「化粧品フジタ」で生まれ育ち、まちのコーディネーターとして活動する藤田まやさん、地縁はないものの仲間と20年前から関わってきた建築家の齋藤正吉さん黒壁の長屋の一角(写真上)を守るために活動したメンバー(写真下)。右から、那古野の円頓寺商店街でお店も営む建築家の市原正人さん、同商店街の「化粧品フジタ」で生まれ育ち、まちのコーディネーターとして活動する藤田まやさん、地縁はないものの仲間と20年前から関わってきた建築家の齋藤正吉さん

クラウドファンディングは「皆がまちに愛着を持てるのがメリット」

一番気になる資金確保はどのように行ったのか? ナゴノダナバンクでは初めて「なごや歴史的建造物保存活用工事助成(クラウドファンディング活用型)」の助成を活用。クラウドファンディングで必要額の1/2以上集めると差額を助成してもらえる制度により、助成金を含めた1000万円でリノベーション計画を進めることにした。

「クラウドファンディングは初の試みなので不安でした」と話す市原さんだが、50日で目標額500万円を見事に達成!
「リターン目的ではなく、昔住んでいた方など他県の方からもご支援をいただきました。何より町内会の方々が興味を持ってくれたのがうれしかったです。神社の社務所で説明会を開催し、パソコンが苦手な方の代理で手続きも行いました」と齋藤さん。“この改修は一人の所有者の利益になるのでは?”という素朴な疑問も上がったが、「町並みを残すことが四間道全体のメリットにつながる」という説明により、支援の輪が広がったという。

3人にクラウドファンディングを利用した感想を聞いてみると、「リターンの手配や記事のアップは正直大変でした」と笑う。リターンの宿泊体験では、15組の宿泊・食事をコーディネートするなどボランティアで奔走したが、「毎回ゴミやリネンがきれいに片付けてありました」と純粋な支援の気持ちを改めて実感できたと話す。

「クラウドファンディングは、みんなで一緒にまちをつくり上げる一体感を味わえます。運営側は支援によって使命感を持てますし、支援者の方々は町並みにより愛着を持っていただけると思いますね」と新たな手法に手応えを感じたようだ。

長屋の右半分がリノベーションした部分だが、外観は近くで見ても気づかないほど(写真上)。内観は吹き抜けと広いLDKのある今ドキの賃貸住宅に一変(写真下)。「長く住むことを考え明るく快適な間取りにしました」と齋藤さん長屋の右半分がリノベーションした部分だが、外観は近くで見ても気づかないほど(写真上)。内観は吹き抜けと広いLDKのある今ドキの賃貸住宅に一変(写真下)。「長く住むことを考え明るく快適な間取りにしました」と齋藤さん

観光地化ではなく、「まちの発展には人の営みを残していきたい」

店舗誘致を手がけてきた「ナゴノダナバンク」。今回はなぜ長屋を店舗に活用しなかったのだろうか?

「お店が増え人が住まなくなれば、それは“まち”ではなく、テーマパークやショッピングモールと同じです。まちとして発展するには人の営みを維持したいと考え、用途を変えず賃貸住宅にしました。私自身、旅先では普段の暮らしぶりをのぞいたり、地元の方と交流するのが好きなんです」と藤田さんは話す。

確かに皆を魅了する昔懐かしい佇まいが急激に変わると、那古野エリアの魅力が失われてしまう。そこで店舗ゾーンと住居ゾーンをある程度分けたまちづくりを意識しているそうだ。

さて1年半ぶりに那古野・円頓寺商店街に訪れてみて、おしゃれなお店ができ、平日の人通りが増えていることに驚いた。「一番活気がなかった10年前には、想像もしなかった光景です。新旧のお店がうまくつながり、暮らしやすく、訪れて楽しいまちになっていくといいですね」と市原さん。
また活気が増すことで、既存のお店もリノベーションを行ったり、後継者ができたりと、まち全体に相乗効果が生まれている。「名古屋で一番古い喫茶店の方から『お店を次の世代へつなぐことができた。ありがとう』という言葉をいただきました」と藤田さんはほほえむ。

まちの歯車が再び動き出した那古野エリア。ぜひとも出張や観光のついでに立ち寄って、食事やまち歩きを楽しんでもらいたい。「渋くてレトロ」な中に、きっと面白い発見があるはずだ。

看板が様変わりし、スタイリッシュな雰囲気になった「円頓寺(えんどうじ)商店街」のアーケード。既存のお店もレトロな建物を生かしてリニューアルしている看板が様変わりし、スタイリッシュな雰囲気になった「円頓寺(えんどうじ)商店街」のアーケード。既存のお店もレトロな建物を生かしてリニューアルしている

2018年 04月27日 11時05分