つくばエクスプレス(TX)が運んだ20年を、柏の葉スマートシティはどう走り抜けたのか。2008年に4者連携で描かれた"国際学術研究都市・次世代環境都市"の理想は、街に根付いたのか。住民の数、地価、現地の手触り、そして住民の声から、20年が経った街の現在地を確かめる。

TX開業から20年。"国際キャンパスタウン構想"が描いた未来

イノベーションキャンパスの将来像模型イノベーションキャンパスの将来像模型

柏の葉スマートシティは、千葉県柏市の北西部、TX柏の葉キャンパス駅を中心に広がる約13km2の街である。この街の出発点には、明確な理想と4者連携の設計図があった。

柏市北西部のこのエリアは、もとは米空軍柏通信所と農地が占める広大な低利用地だった。1979年の通信所返還、1984年の土地区画整理事業認可を経て、2005年8月にTXが開業。秋葉原とつくばを結ぶ路線が、都心30分圏内という新しい生活基盤を一気に整えた。

街の方向性を決めたのが、2008年3月に千葉県・柏市・東京大学・千葉大学の4者で策定された「柏の葉国際キャンパスタウン構想」である。「環境共生都市」「健康長寿都市」「新産業創造都市」の3本柱と、8つの目標・27の方針が体系化された。構想区域の主対象は約13km2、計画人口は2.6万人とされた。

公・民・学連携の拠点UDCKの外観公・民・学連携の拠点UDCKの外観

構想の実装役を担うのが、2006年11月に日本初のアーバンデザインセンターとして設立されたUDCK(柏の葉アーバンデザインセンター)である。柏市・柏商工会議所・田中地域ふるさと協議会・柏の葉地域ふるさと協議会・三井不動産株式会社・首都圏新都市鉄道株式会社・東京大学・千葉大学の8構成団体で運営され、公・民・学の連携を制度として20年近く継続している点で、ほかの都市開発と一線を画す。

【LIFULL HOME'S】柏の葉キャンパス駅周辺の不動産・住宅を探す
【LIFULL HOME'S】柏の葉キャンパス駅周辺の投資用不動産を探す

【参考サイト】
・柏市 柏北部東地区一体型特定土地区画整理事業
・三井不動産 柏の葉スマートシティの歴史
・UDCK(柏の葉アーバンデザインセンター)公式

数字で見る20年。街は計画通りに立ち上がったのか

理想を掲げた街は、20年でどれだけ形になったのか。検証はデータから始めたい。

街の活発さを最も端的に示すのが駅の利用者数である。TX柏の葉キャンパス駅の1日平均乗車人員は、開業初年度の2005年度3,916人(片道)から、2025年度には21,322人に達した。20年で約5.4倍の成長である。コロナ禍の2020年度は前年比25.4%減と一時的に落ち込んだが、2023年度にはコロナ前の水準を上回り、過去最高を更新し続けている。

ららぽーと柏の葉のエントランスららぽーと柏の葉のエントランス

住宅地としての吸引力は、町丁別の人口推移にも表れる。駅東口側の若柴の人口は、2004年12月末の2,268人から2026年5月末には16,030人へと約7.1倍に増えた。パークシティ柏の葉キャンパスをはじめとする大規模マンション街区への入居が、この数字の理由になっている。

ららぽーと柏の葉のエントランス街区内に整備された街路と歩道

地価も20年の経過を物語る。柏の葉一丁目の住宅地公示地価は2010年の197,000円/m2から下落を続け、2020年に167,000円/m2の底値を記録した。しかし2021年から上昇に転じ、2026年は224,000円/m2まで回復している。柏市の住宅地公示地価平均は2025年から2026年で+5.2%と、千葉県平均+4.6%、全国平均+2.1%を上回った。"ハードとしての街"は、概ね計画通りに立ち上がったといえる。

【参考サイト】
・首都圏新都市鉄道 乗車人員(年度別)
・柏市 住民基本台帳人口(大字町丁別・男女・世帯数)
・国土交通省 不動産情報ライブラリ(標準地・基準地検索)
・千葉県 令和8年地価公示 概要PDF

"歩いて暮らせる未来都市"を実際に歩いてみた

数字の裏にある街の手触りを確かめるため、ある平日の昼間に駅西口を起点に歩いてみた。
TX柏の葉キャンパス駅の西口を出ると、すぐ目の前に商業施設「ららぽーと柏の葉」へつながる屋根付きの歩行者デッキが伸びている。信号も横断歩道も介さず、駅から商業に直接到達できる動線だ。この駅前デッキは2014年4月に高質化整備が完了して以降、街の象徴的な景観になっている。

柏の葉キャンパス駅の駅舎入口柏の葉キャンパス駅の駅舎入口

デッキを降り、高架下に赤ちょうちんが並ぶ20店舗の飲食店街、「かけだし横丁」を右手に見ながら北へ向かうと、街路に沿って研究と産業の機能が連なる 、「Koil Terrace」と柏の葉散策の出発地点として建設された、「Koil Link Garage」が見えてくる。更に北へ進めば、親水公園とそのほとりに、5棟の三角屋根が連なる柏の葉T-SITEに突き当たる。蔦屋書店を中核に、PENNY LANE(ベーカリー&カフェ)やキッズ向けの店舗、房の駅などが入る複合施設で、水辺のウッドデッキにはベンチが並び、平日昼間でもパソコンを開く利用者の姿があった。

柏の葉キャンパス駅の駅舎入口緑に包まれた柏の葉T-SITEの外観
柏の葉キャンパス駅の駅舎入口街区130箇所のシェアサイクル拠点

街路の路面には、緑色のラインで自転車レーンが表示されている。シェアサイクル「HELLO CYCLING」の拠点は2026年2月時点で街区内に130箇所まで広がった。自動運転バスは2026年1月13日より、柏の葉キャンパス駅と東京大学柏キャンパスを結ぶシャトル路線で、レベル4(特定自動運行)の営業運行を千葉県内で初めて実施している。

TX高架下の水路と植栽が整備された遊歩道をたどると、調整池を改修した「柏の葉アクアテラス」(2016年11月開業)に出る。水辺のウッドデッキにはベンチが並び、平日昼間でもパソコンを開く利用者の姿があった。さらに北側に歩けば、東京大学柏キャンパスの正門に到着する。駅・商業・大学・研究機関・水辺空間が、約2km四方の中に収まっていることが、歩いてみるとよく分かる。

【参考サイト】
・柏の葉スマートシティ 公式サイト
・経済産業省 一般道におけるレベル4自動運転による運行開始
・東京大学生産技術研究所 柏の葉地区で特定自動運行(レベル4)の運行開始

柏の葉キャンパス駅の駅舎入口つくばエクスプレス(TX)が運んだ20年を、柏の葉スマートシティはどう走り抜けたのか。2008年に4者連携で描かれた"国際学術研究都市・次世代環境都市"の理想は、街に根付いたのか。住民の数、地価、現地の手触り、そして住民の声から、20年が経った街の現在地を確かめる。
柏の葉キャンパス駅の駅舎入口水と緑が共生する街区のランドスケープ

光と影。住民の声と"街の中の二極化"

緑色のラインで示された自転車レーン緑色のラインで示された自転車レーン

一方で、データはもう1つの現実も語る。住民のアンケートと町丁別の構成比に目を向けると、街の中に温度差が浮かぶ。

柏の葉スマートシティコンソーシアムが2025年9月に公表した「ビジョンブック」には、TX沿線地区の住民へのアンケート結果が掲載されている。「街並みや治安の良さ」「文化施設の充実」については9割前後が満足と回答する一方、「文化活動や地域コミュニティ」「介護・福祉サービス等の質」「子どもへの教育サービス」については満足度が低い結果となった。

ハード面の整備が先行している反面、ソフト面の厚みがこれからの課題であることがうかがえる。
移動手段に関する設問では、市内移動で最も多く使われている手段が自家用車で52%、市内移動の不満で最も多いのが「道路の渋滞」で35%だった。マルチモーダルなウォーカブルシティを掲げた街でも、住民の半数は自家用車で移動しているのが現状である。

人口構成にも差が見られる。柏市の住民基本台帳によれば、2026年3月末時点で柏の葉一丁目の65歳以上比率は52.4%、柏の葉三丁目は49.0%に達した。これらの町丁は2000年代前半に住宅整備が進んだ早期入居エリアで、その後の新規流入が限定的だったことがこの結果の背景にある。参考までに、入居開始から54年が経過した多摩ニュータウンの諏訪地区・永山地区の65歳以上比率は、2025年4月時点でそれぞれ27.08%と31.34% (多摩市「高齢者状況表」)。母集団の規模が柏の葉一丁目の464人に対し、諏訪地区は10,538人と大きく異なるため率の単純比較には注意が必要だが、20年で街の中に世代差が生まれている事実は変わらない。

【参考】
・柏市 住民基本台帳人口(大字町丁・年齢各歳・男女別)
・多摩市 高齢者状況表(高齢化率等)
・柏の葉スマートシティビジョンブック(2025年9月策定/柏の葉スマートシティコンソーシアム)※冊子

次の20年への助走。"スマートシティ2030"と問いの転換

街全体を再現したUDCK内の縮尺模型街全体を再現したUDCK内の縮尺模型

課題が見えてすぐ、街は次の動きを始めている。2025年9月、街は新しいビジョンを公表した。

柏の葉スマートシティコンソーシアムが2025年9月に策定した「スマートシティビジョンブック」では、2030年に向けた具体的な目標が公表された。住民向けには街への満足度90ポイントとスマートシティサービス利用者3万人、企業向けには累計従業者18,000人と参画プロジェクト50件、社会向けには延べ視察人数50,000人といったKPIが掲げられている。ライフサイエンス、モビリティ、エネルギー、学び、安全・安心の5分野を重点として位置づけた点も特徴だ。

ソフト面の取り組みも具体化している。柏たなか駅近くで2027年4月に供用予定の2号近隣公園(1.5ha)は、整備計画を地域住民と共に作る市民共創ワークショップで設計された。2025年3月から7月までの全5回のワークショップで、688件のアイデアが集約されている。

さらに、街の周辺では、世代の異なる新しい街も育っている。柏たなか駅周辺では2017年7月の換地処分で新設された小青田一〜五丁目を中心に、2020年の4,072人から2026年5月末には6,603人(+62%)へと人口が伸びた。いずれの町丁も65歳以上比率は10%以下と、柏の葉本体に比べて若い構成になっている。

東京都は2025年4月、「多摩ニュータウンの新たな再生方針」を策定した。半世紀かけて多摩ニュータウンがようやく直面した世代循環の課題に、柏の葉スマートシティは20年で取り組みを迫られている。ハードとしての街が立ち上がる段階はほぼ達成された今、次の20年に問われるのは、世代をどう循環させるかというソフトの設計である。LIFULL HOME'S PRESSがすでに取材した多摩ニュータウンの再生の動きと並走するように、柏の葉も新しいフェーズに入っている。


【参考】
・柏市 住民基本台帳人口(大字町丁別・男女・世帯数)
・東京都都市整備局 多摩ニュータウンの再生
・柏の葉スマートシティビジョンブック(2025年9月策定/柏の葉スマートシティコンソーシアム)※冊子
・みんなで作るあたらしい公園(UDCK・UDCKタウンマネジメント/2号近隣公園市民共創ワークショップ記録)※冊子

出典・参考資料 一次情報URL一覧

1. 人口・統計
・柏市 住民基本台帳人口(大字町丁別・男女・世帯数)
・柏市 住民基本台帳人口(大字町丁・年齢各歳・男女別)
・多摩市 高齢者状況表(高齢化率等)
・東京都都市整備局 多摩ニュータウンの世帯数と人口(令和6年10月1日現在)

2. 鉄道乗車人員
・首都圏新都市鉄道 乗車人員(年度別)
・千葉県統計年鑑 令和6年版 民鉄等駅別1日平均運輸状況

3. 地価公示・基準地価
・国土交通省 不動産情報ライブラリ(標準地・基準地検索)
・千葉県 令和8年地価公示 概要PDF
・千葉県 地価調査・地価公示ポータル
・柏市統計書 第1章 1-4 地価公示・地価調査

4. 柏の葉の街づくり・スマートシティ
・三井不動産 柏の葉スマートシティの歴史
・柏の葉スマートシティ 公式サイト
・UDCK(柏の葉アーバンデザインセンター)公式
・柏市 柏北部東地区一体型特定土地区画整理事業

5. 多摩ニュータウン再生
・東京都都市整備局 多摩ニュータウンの再生

6. 現地取材で入手した冊子
・柏の葉スマートシティビジョンブック(2025年9月策定/柏の葉スマートシティコンソーシアム)
・柏の葉国際キャンパスタウン構想 フォローアップ調査2025(2026年3月発行/柏の葉国際キャンパスタウン構想委員会)
・柏の葉国際キャンパスタウン構想 要旨(2019年11月改定)
・柏の葉アーバンデザインセンター(UDCK)パンフレット(2024年5月発行・第9版)
・みんなで作るあたらしい公園(UDCK・UDCKタウンマネジメント/2号近隣公園市民共創ワークショップ記録)