長期優良住宅を建てた施主のもとに、10年目を前に建てた会社から定期点検の案内が届くことがある。見積もりには点検費と補修工事がまとめて並び、合計が10万円を超えることもある。「点検しないと認定を取り消され、補助金を返すことになる」と説明されれば、断りにくい。
長期優良住宅は、2025年度に着工された新築一戸建ての49.8%にあたる戸数が認定を受けるまでに普及した。累計の認定戸数は約190万戸に達し、多くの家がこれから10年目の点検を迎える。
本稿では、「点検しないと即返還」という説明のどこまでが正しいのかを整理する。そのうえで、点検の依頼先の選び方と見積もりの比べ方を考える。
維持保全計画は「30年以上」点検を続ける約束
長期優良住宅の認定は、建物の性能だけで決まるわけではない。長期優良住宅の普及の促進に関する法律(以下、長期優良住宅法)第6条は、建築後の維持保全の方法が国の基準に適合し、その期間が30年以上であることを認定の条件としている。認定を受けた人(法律上は「認定計画実施者」)は、この維持保全計画に沿って家を手入れし続けることを約束したことになる。
点検の対象は、基礎や柱などの構造耐力上主要な部分、屋根や外壁、サッシなどの雨水の浸入を防ぐ部分、給水と排水の配管の3つである。国の告示と技術解説は、これらの点検の時期を「建築の完了又は直近の点検、修繕若しくは改良から10年を超えないもの」と定め、地震や台風の後には臨時点検を行うよう求めている。
もう一つの義務が記録である。第11条は、建築と維持保全の状況に関する記録を作成し、保存することを求めている。長期優良住宅法施行規則第16条は、保存する記録の一つに維持保全を行った年月日と内容を挙げ、維持保全を委託した場合は委託先の氏名または名称も含めるとしている。
点検は義務だが依頼先は法律で決まっていない
「点検義務」は、何を、どの頻度で、誰に頼むのか。対象の部位と「10年を超えない」間隔は告示で決まっている。一方で、長期優良住宅法にも告示にも、点検を建てた会社に依頼しなければならないという規定はない。点検の実施者は認定計画実施者であり、維持保全計画の項目を満たしていれば、依頼先は施主が選べる。
実務では、建てた会社が引き渡し後の定期点検を無償で行い、10年目以降は有償に切り替える例がある。品確法(住宅の品質確保の促進等に関する法律)は、構造耐力上主要な部分と雨水の浸入を防止する部分について、施工会社や売主に引き渡しから10年間の瑕疵担保責任を義務付けている(住宅瑕疵担保履行法により、保険加入などによる資力確保も義務付けられている)。
この10年の節目に合わせて、会社によっては「10年目の点検と指定の有償工事」を保証延長の条件にしている。点検の案内が10年目に集中するのはこのためだ。
ここで区別したいのは、法律上の点検義務と、会社独自の保証延長の条件である。前者は依頼先を問わない。後者は会社との契約であり、他社の点検を選ぶと保証が延長されない場合がある。見積もりを受け取ったら、どの項目が認定の維持に必要で、どの項目が保証延長のためのものかを分けて確認する必要がある。
注意したいのは、長期優良住宅の制度を利用して不安をあおり、高額な点検や補修工事の契約を急がせるケースだ。「今日契約しないと認定が取り消される」「この工事をしないと補助金を返すことになる」などと説明されても、その場で契約する必要はない。
判断に迷ったときは、まず認定時の維持保全計画を確認し、自治体の窓口や建てた会社、第三者の住宅診断会社などにも確認する。制度上必要な点検と、保証延長や予防的な補修のための工事を切り分け、複数の見積もりを比べることが、不必要な契約を避けるうえで重要になる。
点検をしていないだけで、補助金の返還を求められることはあるのか。結論からいえば、点検をしていないだけで補助金の返還を一律に求める仕組みではない。
認定を条件とする補助金は、維持保全計画に沿って定期的に点検と手入れを続け、長期優良住宅であり続けることを前提としたものだ。点検をしないままでいると認定を取り消される可能性はあり、そうなれば補助金の返還を求められることもある。ただし、それは認定を取り消され、補助金の受給要件を満たさなくなった場合に限った話である。
最大30万円の罰金は「報告をしない」とき。取消は最後の段階
では、点検をしないと何が起きるのか。筆者がe-Gov法令検索で現行の条文を確認すると、手続きは報告・改善命令・取消で構成されているが、報告は改善命令の法的な前提ではない。
まず、報告の徴収について確認する。第12条により、所管行政庁は維持保全の状況の報告を求めることができる。自治体によっては、完了から5年目や10年目の住宅を抽出し、報告書と点検記録の写しの提出を求めており、この報告をしない、または虚偽の報告をした場合に、第21条の30万円以下の罰金の対象となる。罰金が科されるのは「点検をしなかったこと」ではなく、「報告をしなかったこと」だ。
第13条は改善命令を定めている。計画どおりに維持保全を行っていないと認められると、相当の期限を定めて改善を命じられる。自治体によっては、点検をしていなかった場合も維持保全計画書で点検箇所と時期を確認し、必要な点検を行って報告するよう案内している。
第14条は認定取消しを定めている。取り消せるのは、改善命令に違反したときや、本人が維持保全を取りやめると申し出たときなどに限られる。点検が遅れた時点で直ちに取り消されるわけではなく、改善命令に従わなかった場合の最終手段といえる。
認定取消しで補助金や税の優遇措置等の返還を求められることがある
認定が取り消された場合に何を返すことになるのか。国土交通省が作成した認定者向けの案内は、新築時に長期優良住宅の認定取得を条件とする補助金を受けている場合、認定が取り消されると補助金の返還を求められることがあると明記している。
税制の優遇については、長期優良住宅法には、取消を理由に過去の控除や軽減をさかのぼって取り戻す規定は見当たらない。ただし、国土交通省の現行の案内は、認定取得を条件とする税の優遇措置等を受けている場合も、認定が取り消されると返還を求められることがあるとしている。また取消後は、それ以降に受けるはずだった優遇を失う可能性がある。新築後5年度分の固定資産税の減額期間中に取消を受けた場合の扱いは自治体に確認が必要だが、10年目を迎える住宅はすでにこの期間を終えている。
整理すると、「点検しないと補助金返還」は、点検をせず、改善命令にも従わずに認定を取り消された場合の話である。点検案内の見積もりを断っても、別の方法で点検と記録を続けていれば、このリスクは生じないと考えてよい。ただし、税目ごとの実際の扱いは、税務署や自治体に確認するのが確実だ。
点検費用は「点検」「工事」「保証」に分けて比べる
建てた会社の見積もりが10万円を超える場合、点検費に加え、防蟻処理や外壁のシーリング補修などの工事費が含まれていることがある。
筆者の知人で、千葉県内に築9年の木造2階建て(延べ床面積約110m2)の認定長期優良住宅を持つ40代の会社員に協力してもらい、実際の見積もりを調べた。建てたハウスメーカー・第三者の住宅診断会社・地元のリフォーム会社の3社から見積もりを取り寄せた結果は以下のとおり。
総額は9万9,000円から30万8,000円まで3倍以上の開きがある。しかし点検費だけで比べると3万3,000円から9万9,000円の幅に収まり、総額の差の大半は防蟻処理とバルコニー防水の工事費である。同じ工事でも、ハウスメーカーとリフォーム会社では防蟻処理で5万5,000円、防水で2万2,000円の差があった。
なお、第三者の住宅診断の料金は会社や地域によって異なる。首都圏のある大手ホームインスペクション会社の料金表では、住んでいる一戸建ての診断が8万8,000円(税込)からで、床下や屋根裏に入る詳細調査は別料金となっている。第三者に頼む場合も、調査の範囲によって費用が変わる点は押さえておく必要がある。
ハウスメーカーの担当者に確認すると、防蟻処理は20年目までの保証延長の条件であり(バルコニー防水は条件に含まれない)、認定の維持に必要な点検とは別のものだという説明だった。点検の範囲にも違いがあり、リフォーム会社は小屋裏に入らないため、維持保全計画に小屋裏の点検が含まれる場合は別の手段で補う必要がある。
知人は「最初は全部やらないと認定が取り消されると思い込んでいました。3社を並べて、点検と工事を分けて聞いただけで判断の材料がそろいました」と話す。
知人は、保証延長の価値と工事費の差額を比べたうえで、点検と防蟻処理は建てた会社に依頼し、バルコニー防水はリフォーム会社に任せることにした。点検と工事を切り分けて比べれば、どこに費用をかけるかを施主が自分で選べるようになる。
制度を正しく知ることが、囲い込みを防ぐ第一歩
住宅の点検をめぐるトラブルは少なくない。国民生活センターによると、全国の消費生活センター等には2026年度も5月末までに点検商法の相談が2,193件寄せられ、前年同期を上回った。長期優良住宅の10年点検は正規の手続きだが、「点検しないと罰金」「補助金を返すことになる」という説明で判断を急がされる構図は共通している。
施主が押さえておきたいのは以下の3つである。
●点検は10年を超えない間隔で必要だが依頼先は選べること
●罰金の対象は点検の不実施ではなく報告の拒否や虚偽であること
●補助金の返還は改善命令に従わず認定を取り消された場合の話であること
長期優良住宅の価値は、認定を受けた時点ではなく、30年以上の維持保全を続けることで保たれる。点検の記録を自分で持ち、複数の依頼先を比べる。その手間が、制度を理由にした実質的な囲い込みから家計と住まいを守ることになる。
(出典)
・国土交通省「長期優良住宅の認定状況について(令和7年度末時点)」
・e-Gov法令検索「長期優良住宅の普及の促進に関する法律」
・住宅性能評価・表示協会「長期優良住宅に係る認定基準 技術解説(令和7年4月1日版)」
・e-Gov法令検索「長期優良住宅の普及の促進に関する法律施行規則」
・住宅瑕疵担保責任保険協会「住宅瑕疵担保履行法とは」
・e-Gov法令検索「住宅の品質確保の促進等に関する法律」
・京都府「認定長期優良住宅の維持保全状況に関する抽出調査について」
・草加市「認定長期優良住宅の維持保全状況に関する抽出調査に係るQ&A」
・国土交通省「長期優良住宅の認定を受けられたみなさまへ(令和5年8月版)」
・さくら事務所「サービス料金表-地域別ホームインスペクション費用」
・国民生活センター「訪問販売によるリフォーム工事・点検商法」






