「公営住宅」と聞いて思い浮かぶのは、エレベーターのない灰色の階段室型団地、昭和のままの台所ではないだろうか。筆者は住まいの相談を受ける機会があるが、「公営は古くて狭いから」と最初から候補に入れない相談者は少なくない。

そのイメージはどこまで事実なのか。本稿では国・東京都・品川区の公開データで公営ストックの年代構成と更新の進み具合を確かめ、建て替え後の仕様や供給形態の多様化、民間連携の実例を整理する。

全国213万戸の6割は築30年超で「古いのは事実」

全国の公営住宅は213万2,991戸(2022年3月末)。国土交通省の資料によれば、2015年3月末時点の建設年度別構成は昭和40年代(1965〜74年)が29.7%、昭和50年代が26.8%を占め、両者で約57%に達する。同時点で築30年超のストックは131万戸、61%だった。

東京都も同じ構造だ。都営住宅等約25万2,000戸(2024年度末)のうち昭和40年代以前に建設された約7万戸(約3割)が建て替え対象で、都は新規建設を行っていない。建て替えは2025年度で3,800戸を予定しているが、2024年度の実施は1,911戸だった。品川区営住宅(13団地439戸)は都営からの移管物件が多く、区も「半数以上が築40年以上経過」と認めている。

つまり「公営住宅は古い」は平均像としては正しい。問うべきは、その古さが放置されているのか、更新の途上にあるのかである。


出典:全国賃貸住宅新聞「公営住宅213万戸、減少傾向」
出典:国土交通省 社会資本整備審議会住宅宅地分科会 新たな住宅セーフティネット検討小委員会「参考資料」(2016年7月)P6「公営住宅の建設年度別ストック数」
出典:東京都住宅政策本部「事業概要(令和7年版)」
出典:品川区「品川区公共施設等総合計画(改定)」
出典:品川区「区営住宅一覧」

都営住宅の建て替えで進む省エネ性能の向上とバリアフリー化

都の長寿命化方針は、昭和40年代の住宅の課題を「断熱性や遮音性といった基本性能、階高の低さ、バリアフリー性能、設備類の規格水準」と明記する。建て替えはこれらを一気に解消する機会だ。

都営住宅では、建て替えに合わせて太陽光発電設備の導入や断熱性能の向上、高効率給湯器・LED照明の採用などを進めている。2023年度には、ZEH水準への性能向上を盛り込んだ基準建物設計の見直しも行われた。エレベーターの整備や住戸内の段差解消など、バリアフリー化も進められている。

既存住棟にも、廊下型は10戸以上、階段室型は1階段10戸以上かつ5階建てを条件にエレベーターを後付けしており、設置実績は廊下型1,472基、階段室型154基(2024年度末)に上る。ただし、適用される設計基準や設備は整備時期・住棟によって異なり、過去に建て替えた住宅すべてが同じ性能を備えているわけではない。


出典:東京都住宅政策本部「東京都公営住宅等長寿命化方針」(令和6年4月一部改訂)出典:東京都住宅政策本部「事業概要(令和7年版)」

「家族向け一律」から高齢者・車いす・子育て世帯へ

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供給形態も画一的ではなくなった。都営住宅では、生活援助員(LSA:ライフサポートアドバイザー)または管理人が配置された高齢者向け「シルバーピア」を1987年度から4,438戸、車いす使用者向け住宅を1,036戸整備している。大阪市営住宅のように、子世帯用の2DK・3DKと親世帯用の1DK・1Kを2戸1組で近接して貸す「親子ペア住宅」を設ける自治体もある。

注目したいのは若年夫婦・子育て世帯向けの「定期使用住宅」だ。入居期間を原則10年(10年の期間満了時に子がいる場合は、最年少の子が18歳になる年度末まで延長)に区切って高齢化した団地に若い世帯を呼び込む仕組みで、2026年5月の都営定期募集では450戸に1,288名、倍率2.9倍と、世帯向(8.5倍)より入りやすい。


出典:東京都住宅政策本部「事業概要(令和7年版)」
出典:東京都住宅政策本部「都営住宅の入居資格 若年夫婦・子育て世帯向(定期使用住宅)」
出典:東京都住宅供給公社「令和8年5月 都営住宅入居者募集にかかる抽せん結果について」
出典:大阪市住宅供給公社「公営・改良住宅とは」

民間連携で「団地」が「まち」に変わる兆し

財政難の自治体にとって、老朽ストックを更新する切り札がPPP(官民連携)やPFI(民間資金の活用)である。公営住宅のPFI事業は109事例・約2万30戸(2023年3月時点で実施方針公表済み)に上る。

徳島県は公営住宅で全国初のBOT(建設・運営・譲渡)方式により12団地を3団地に集約し、県営住宅300戸と高齢者向け住宅60戸、福祉施設を一体整備した。鹿児島県鹿屋市は財政難で凍結した建て替えをPFIで再始動し、地域優良賃貸住宅として子育て世帯・新婚世帯向け40戸(約75m2、家賃は減額後で月5万1,000〜5万3,000円)をママカフェ付きで整備している。

東京都も建て替えで創出した用地を民間に貸し付け、八王子市長房地区では2021年に商業・医療・福祉の複合施設が竣工した。品川区でも2016年の西中延区営住宅は特別養護老人ホームと、2017年の中延一丁目区営住宅は従前居住者用住宅「ソレイユ中延」との複合施設として建て替えられている。


出典:国土交通省住宅局住宅総合整備課「公的賃貸住宅等のPPP/PFI」
出典:鹿屋市建設部建築住宅課「鹿屋市子育て支援住宅(ハグ・テラス)の空き待ち入居申込者受付」
出典:東京都住宅政策本部「都営住宅の建替による創出用地を活用したまちづくり」
出典:品川区「品川区公共施設等総合計画(改定)」

入居資格と家賃の仕組みをおさらい

公営住宅の入居収入基準は、政令月収(世帯所得から同居者1人38万円などを控除し12で割った額)15万8,000円が基本だ。高齢者や障がい者のいる世帯などは事業主体が条例で25万9,000円を上限に引き上げることができ、都営住宅は21万4,000円としている。

家賃は「応能応益」で決まる。政令月収に応じた家賃算定基礎額(3万4,400円〜9万1,100円の8区分)に、市町村立地係数や規模係数(床面積÷65m2)、経過年数係数、利便性係数(0.5以上1.3以下。市町村立地係数によっては上限が1.3を下回る)を掛け合わせる。

一般的に、古く小さい住戸ほど安くなる構造だ。引き続き3年以上入居して基準を上回れば「収入超過者」として割増家賃と明け渡し努力義務が課され、引き続き5年以上入居し、最近2年間引き続き月収31万3,000円を超えれば「高額所得者」として明け渡し請求の対象になる。

なお、紛らわしいのは「区民住宅」「市民住宅」だ。どちらも家賃を抑えて住める公的な住宅だが、公営住宅とは運営主体や入居条件が異なる。

区民住宅や市民住宅は、特定優良賃貸住宅制度に基づく中堅所得者向けの賃貸住宅で、自治体が自ら整備・管理するものと、民間の住宅を自治体などが借り上げるものがある。家賃は相場よりは安いものの、公営住宅ほど安くはない。対象となる所得層は区営住宅とは異なり、設備も比較的新しい。

たとえば、品川区の区民住宅「ファミーユ」は特定優良賃貸住宅制度に基づく中堅所得者向けで、2人世帯の所得227万6,000円〜622万4,000円が対象だ。ファミーユ西五反田・東館(2004年、400戸)の家賃は1LDK〜4DKで10万4,800円〜18万2,200円と、公営住宅とは別の価格帯にある。


出典:e-Gov法令検索「公営住宅法」
出典:e-Gov法令検索「公営住宅法施行令」
出典:東京都住宅政策本部「東京都公営住宅等長寿命化方針」(令和6年4月一部改訂)出典:品川区「区営住宅への入居案内」
出典:品川区「区民住宅への入居案内」
出典:品川区「区民住宅一覧」

【体験談】古さを感じない住戸もあれば4階の階段が負担になる住戸もある

ファミーユ西五反田 西館の外観 筆者撮影ファミーユ西五反田 西館の外観 筆者撮影

筆者の知人に、品川区の公的住宅に住む2世帯がいる。

1世帯は1970年代築の区営住宅に暮らす60代女性で、当選まで区営・都営合わせて7回申し込んだ。「浴室は改修されて追い焚きもあります。困るのはエレベーターがない4階で、買い物袋を持って上がるのが年々つらいです」。

パート収入が増えた年に収入超過の通知が届き「追い出されるのかと動揺しました」が、翌年の減収で解消したとのことだ。近隣の建て替えで仮移転が2回必要になった世帯もあり、「引越し代は出ても荷造りは自分でやるしかありません」と話す。

もう1世帯はファミーユ西五反田に住む40代の共働き夫婦だ。「古い団地を想像していましたが、外観も内装も民間の築浅マンションと変わりません。設備に不満はありません」」。ただし家賃は民間相場に近く「安さより、当たれば駅近の広い部屋に住める点に価値があります」と話す。また、年1回、今後1年間に発生する空き室の入居予定者を登録する募集方式については、「今後の生活設計や計画が立てにくいです」と感じたという。 

残る課題は「更新の遅れ」「偏在」「エレベーターのない中層階」

品川区営住宅の整備計画では、1968〜79年築の多くが建て替え時期を2044〜53年としており、建て替え時の築年数には65〜85年の幅がある。計画どおり年3,800戸で進んでも、対象約7万戸の更新には20年近くかかる計算だ。直近の実績は年1,911戸(2024年度)で、このペースならさらに長期化する。

地域偏在も大きい。2026年5月の都営定期募集のうち世帯向(一般募集住宅)の倍率は、区部平均15.3倍、市部平均3.1倍で、品川区は63戸に554名の8.8倍、町田市は2.5倍だった。区部では倍率が高く、古い住棟でも競争が激しい。

エレベーターの有無も、住み続けやすさを左右する。既存住棟への後付けには建物の構造などの条件があり、すべての住棟に設置できるわけではない。エレベーターのない4〜5階の住戸では、加齢や身体状況の変化によって階段の昇降が負担となり、居住を続けるうえでの障壁になる場合がある。


出典:品川区「品川区公共施設等総合計画(改定)」
出典:東京都住宅供給公社「令和8年5月都営住宅入居者募集 区市町別倍率表」出典:東京都住宅政策本部「事業概要(令和7年版)」

「古い」は現在地であって終着点ではない

公営住宅の過半数が、昭和40〜50年代築という現実は動かない。しかし建て替えの基準はZEH水準の断熱や太陽光発電の設置拡大へと改められ、バリアフリー化も併せて進められた。福祉や商業と一体の「まち」に再生された団地も生まれている。公的賃貸はもはや「古くて安い」の一言では括れない。

住まいの候補として検討するなら、団地名で建設年度とエレベーターの有無、建て替え計画の時期まで調べておきたい。同じ「公営」でも、どの棟に当たるかで暮らしはまるで違うからだ。

ホームズ君

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