昨今、企業による個人情報漏洩の報道が後を絶たない。サイバー攻撃や不正アクセス、従業員による情報の持ち出しなど原因はさまざまだが、AI技術の発達で攻撃手法が高度化し、企業の情報管理はますます難しくなっている。特に一度流出した個人情報は回収が難しく、被害が長期化する可能性もある。賃貸住宅に関連するサービスでも情報漏洩が報じられた。
ここで考えたいのが、賃貸住宅業界特有の個人情報の流通構造だ。一度の部屋探しでも、その裏側では多くの企業が関わっている。利用者が想像する以上に、個人情報に接する事業者が多いのだ。
部屋探しで個人情報はどこまで広がるのか?個人情報を渡す3つのタイミング
賃貸物件の部屋探しでは、大きく3つの段階で個人情報が取得される。たいていの場合、最初は物件への問合せだ。不動産ポータルサイトや不動産会社のホームページから問合せる際、氏名、メールアドレス、電話番号などの個人情報を入力する。
賃貸住宅業界が特徴的なのは、その情報を取扱うのは問合せ先のサービス・会社だけではない点だ。ポータルサイト経由での問合せなら、サイトの運営会社と不動産仲介会社の双方が情報を扱う。仲介会社がCRMなどの顧客管理システムを利用していれば、そこにも情報が登録され、システムの運営会社も情報を扱うことになる。問合せ先とSNSやチャットツールでやり取りすれば、サービスの仕組みによってはプラットフォーム側でも情報が処理・保存される。たった一度の問合せでも、複数の企業やシステムが関係するのだ。問合せ後に連絡が途絶えた顧客の情報も、削除のルールがなければ各所に残り続けることになる。
次は仲介会社での受付や内覧の段階だ。氏名や連絡先だけでなく、現住所、勤務先、転居理由、入居希望時期などを聞くこともある。紙の受付シートやオンラインフォームで取得した情報は、たいてい別の会社が運営する顧客管理システムなどに登録される。
そして3つ目が入居申込だ。入居審査のために年収や緊急連絡先を確認し、本人確認書類や収入証明書類を提出することもある。ここで関係者は一段と増える。仲介会社から管理会社へ申込情報が連携され、家賃保証会社に情報が渡る。オーナーが審査に関与する場合や、保険会社との契約手続きもある。電子申込サービスを使用する際は、その運営会社も情報処理に関係する。必要な同意などが得られれば、駆けつけサービスや引越し会社に情報が提供されることもある。
ここには現場ならではの課題がある。仲介会社では申込時に個人情報の取扱いに関する書面を交付していても、付帯サービスの運営者への情報連携など、具体的な利用目的を十分に説明していないケースがある。申込手続きが立て込むと、契約を進めるのに必要な署名や同意欄へのチェックを優先し、説明が形式的になりがちだ。利用者が後から知らない会社から連絡を受ければ、不信感やトラブルにつながりかねない。書面を渡すだけでなく、何のために、どの事業者へ情報を提供するのかを分かりやすく説明する必要がある。任意の付帯サービスについては、契約に必須の手続きと区別して案内することも大切だ。
こうして見ると、仲介会社、ポータルサイト、顧客管理システムの運営会社、SNSプラットフォーマー、管理会社、家賃保証会社、オーナー、保険会社、付帯サービス会社など、関係者は実に多い。もちろん無断で個人情報を横流ししているという話ではない。必要な手続きのための情報連携でも、取り扱う場所や人が増えるほど管理上のリスクも生じる。利用者が情報漏洩を100%防ぐのは難しい。不要な情報の提供を避け、付帯サービスへの同意内容を確認することはできるが、契約に必要な情報連携を完全には管理できない。だからこそ不動産会社側の責任は重い。
その顧客情報、いつまで残す?不動産会社の情報管理の落とし穴
実際の不動産店舗の現場では、何年も前の問合せ情報が顧客管理システムに残っていることがある。管理会社でも、昔から使っている共有フォルダに退去済みの入居者データや申込書の画像がそのまま保存され、誰が閲覧できるのか把握できていないケースがある。担当者が変わるたびにフォルダが増え、古いファイルの存在すら忘れられていることもある。成約しなかった顧客や過去の入居者の情報が残っていれば、漏洩時の被害は広がりやすい。
さらに中小の不動産会社では、担当者が個人の携帯電話で顧客と連絡を取るケースも珍しくない。写真や本人確認書類を私用端末で受け取り、個人のメッセージアプリに残してしまえば、会社が保存先や削除状況を管理しにくい。端末の紛失や退職後のデータ残存もリスクとなる。担当者に悪意がなくても、端末のバックアップ先や他のアプリとの連携まで会社が把握できていない場合がある。便利さを優先した運用が、情報管理の盲点になっているのだ。
一方、不動産業界には法令に基づく帳簿の保存義務もある。宅地建物取引業者は取引帳簿を原則として各事業年度末から5年間、自ら売主となる新築住宅に関する帳簿は10年間保存する必要がある。要件を満たせば電子保存も可能だ。ただし、取引帳簿と営業で取得した顧客情報は同じではない。帳簿の保存義務を理由に、問合せ履歴や本人確認書類をすべて一律に保存する必要はない。クラウドの普及で数十年分のデータも簡単に残せるようになった。便利な半面、不要な情報を削除する意識が薄れがちだ。保存できることと、保存し続けるべきことは違う。
個人情報漏洩を防ぐために、不動産会社が今すべきこと
では、不動産会社は何をすべきか。まずは情報の棚卸しだ。顧客管理システム、共有フォルダ、紙の書類、従業員の端末まで確認し、どこに何が残っているかを把握する。情報の種類ごとに利用目的と保存期間を定め、法令や業務上の必要性がなくなった情報は適切に削除・廃棄する。保存期間を決めるだけでなく、定期的に削除状況を確認する担当者と手順も決めておきたい。
次にアクセス権限を見直す。全従業員がすべての顧客情報を閲覧できる必要はない。業務に応じて権限を限定し、異動者や退職者のアカウントを速やかに変更・停止する。多要素認証や共有アカウントの廃止も基本だ。個人携帯での顧客対応についても、会社管理の端末や業務用アカウントへの移行など、実行可能なルールを設けたい。
外部サービスを導入する際は、価格や機能だけでなく、情報の保存先や管理体制、契約終了後の削除方法も確認する。利用者から情報を取得するときには、利用目的と情報提供先を説明し、必要な同意を適切に取得することが欠かせない。漏洩発生時の報告経路や被害拡大防止策を定め、従業員への研修も行うべきだ。現場任せにせず、経営者や管理責任者が運用状況を継続的に確認する姿勢も欠かせない。
今後はAIによる顧客対応やデータ分析も進むだろう。しかし情報の活用と、必要以上の保有は別問題だ。AIサービスに顧客情報を入力する際も、入力の必要性やサービス側での取扱いを確認したい。個人的には、これからの不動産会社に求められるのは、情報を多く集めることよりも、必要な情報を適切に取得し、安全に管理し、不要になれば処理する姿勢だと考える。多くの事業者が関わる賃貸住宅だからこそ、利用者の信頼を守るために自社の情報管理を見直す必要がある。








