売却を依頼された物件の多くは、不動産会社専用の物件情報ネットワーク「レインズ(指定流通機構)」に登録され、全国の不動産会社で共有される。ところが、売主と買主の双方から手数料を得る「両手仲介」を狙った囲い込みによって、レインズが本来の役割を果たせていないケースがある。

そこで筆者はLIFULL HOME'S PRESS>の記事『「レインズ」はなぜ形骸化したのか。不動産会社の元営業が見た“囲い込み”の実態』で、その実態を元営業の立場から紹介した。

2025年1月にはレインズでのステータス登録(取引状況を公開・管理する仕組み)が義務化され、実態と異なる登録が行政処分の対象になった。規制の強化は適正な取引に向けた第一歩だが、それだけで囲い込みがなくなるとはいえないだろう。

囲い込みがなくならない理由は3つある。
1つ目は「見えない」問題だ。物件がいつから売り出され、問合せが何件あったのか。このような販売の経過は、今の仕組みでは売主にも買主にも十分に伝わらない。
2つ目は「確かめられない」問題。売却を任された元付の不動産会社が客付の不動産会社に「商談中です」と紹介を断っても、第三者は真偽を検証できない。
3つ目は「儲からない」問題で、売主か買主の一方だけを仲介する片手取引の報酬は両手仲介の半分にとどまるため、両手仲介を優先する動機となってしまう。

そこで今回は、米国の不動産流通システム「MLS」や他産業の事例をもとに、この3つの要因に対応する改善策を筆者の経験を交えて提言したい。

米国MLSの透明性と非公開物件の争い

米国には、日本のレインズにあたる「MLS」がある。MLSは不動産会社向けのデータベースで、他社の登録物件を自社のWebサイトに載せられるが、元付の不動産会社に断られると掲載できない。その点は日本と同じだ。日本と違うのは、自社物件の掲載を断った会社は、他社の物件を自社サイトに掲載できなくなることである。

米国の大手ポータルサイト「Zillow(ジロー)」では、価格の履歴や掲載期間まで確認できる。一方、日本のポータルサイトでは、価格が変更された事実はわかってもそれ以上の経緯は正確に把握できない。そのため、詳しい経緯を知りたい買主は、不動産会社に尋ねるしかないのが実情だ。

筆者も営業時代、物件を探している顧客から「この物件はいつから売られているのか」「前はいくらだったのか」とよく聞かれ、レインズで経緯を調べて分かる範囲で答えていた。気に入った物件でも長く売れていないと分かると、購入に慎重になる買主が多い。販売の経過は、買主にとって重要な判断材料の1つなのだ。

とはいえ、米国も理想とはいえない。2025年3月、全米リアルター協会(米国で最大規模の不動産業界団体)は、売主が希望すれば他社サイトやポータルサイトへの掲載を一定期間遅らせる例外を設けた。その間も他社は物件を紹介できるものの、ネットで先に宣伝できるのは元付の不動産会社だけだ。こうした非公開での販売をめぐる対立は訴訟にまで発展しており、2026年5月には、Zillowが大手仲介会社とシカゴ圏のMLSを提訴している。

情報共有の仕組みが整った米国でも、自社で買主を見つけたほうが得なら、物件を公開しない動きが出る。囲い込みは業界の体質だけでなく、報酬の構造の問題ともいえるだろう。

提言(1) 販売の経過を公開する

レインズの成約価格は、国土交通省が案内する消費者向けサイト「レインズ・マーケット・インフォメーション」で、すでに公開されている。一方、いつ・いくらで売り出され、価格がどう変わったのかは消費者には見えにくく、レインズ内でも物件を一度削除して再登録すると履歴が途切れてしまう。

実際に、レインズやポータルサイトの物件情報を「更新」ではなく「削除して再登録」するケースが見受けられる。なぜ削除して再登録するのか、理由は定かではないが、これを見た不動産会社や顧客が「新着物件だ」と勘違いしてしまうこともあるだろう。

そこで参考になるのが中古車業界である。中古車業界では、走行距離を偽る「メーター巻き戻し」が問題になったが、車検証の記録に過去の走行距離を残すなどして、改ざんを見抜く仕組みが整えられた。また、米国の一部のMLSでも、45日以内に再登録された物件は、販売日数が通算されるルールがある。

レインズでも、再登録しても履歴が引き継がれる仕組みにするのが正しいのではないか。そのうえで、売出し開始日や価格改定の回数など、範囲を絞って消費者に公開していくのが現実的だと筆者は考える。

ただし、販売期間が長い物件は「売れ残り」と見られる恐れがある。売れ残った物件のなかには「売主の事情で内覧の日時が限られていた」「周辺に競合物件が多かった」など、販売期間が長引いてもおかしくないケースがあるため、物件の事情を補足できる仕組みも並行して整えるべきだ。

提言(2) 内覧の受付をシステム化する

売主が物件の反響を知る手段は、元付の不動産会社からの報告がメインだ。宅地建物取引業法では、専任媒介契約は2週間に1回以上、専属専任媒介契約は1週間に1回以上販売状況を売主に報告する義務がある。

筆者も営業時代は、週に1度まとまった時間をとり、問合せの件数を表計算ソフトで整理してメールで報告していた。売主から「本当にこれだけ?」と聞かれた経験もあるが、裏づけとなるのは自身の集計だけだった。購入希望者からのメールや問合せフォームからの反響は履歴に残るものの、客付けの不動産会社からの問合せは電話が中心で記録には残らない。

とはいえ、売買の問合せをすべてシステムに移すのは難しい。売却理由や売主に配慮するべき点は物件ごとに異なり、詳しい事情は電話で伝える必要があるからだ。

それでも、内覧の受付ならシステム化できるのではないか。賃貸では、内覧予約をWebで受け付けるサービスがすでに提供されている。また、米国の内覧予約サービス「ShowingTime」では、売主が内覧の実施状況や内覧者の感想まで確認できる。

そこで、レインズに内覧予約を受け付ける機能を設け、件数や日時、申込の有無を、会社名を伏せたうえで売主の確認画面に自動で表示する仕組みを整えたい。そうすることで、売主は元付の不動産会社の自己申告だけに頼ることなく、販売状況を客観的に把握できるだろう。

提言(3) 不動産IDでレインズとポータルサイトをつなぐ

pixta_89489271_S

物件情報は、レインズと複数のポータルサイトに別々に登録・管理されているため、情報に食い違いが生じることがある。同じ物件でも、ポータルサイトへの掲載を止めた会社と続けている会社が混在していたり、ポータルサイトから問合せるとすでに申し込みが入っていたりするケースもある。

こうした食い違いは、データを照合すれば検出できる。実際に、LIFULL HOME’Sは賃貸で、管理会社の成約・申込データと掲載情報を照合し、募集が終わった物件を自動で非掲載にする仕組みを導入している。

売買でも、レインズとポータルサイトの物件を共通の番号で結びつければ、「レインズでは申込が入っているが、ポータルサイトでは募集中」といった食い違いを自動で見つけ、掲載会社に確認を求められる。さらに、売主の確認画面に自分の物件の掲載先を表示すれば、売主自身も状況を把握できるだろう。

その共通の番号として期待されるのが、土地や建物ごとに割り振る「不動産ID」だ。国土交通省は、日本郵便の住所データをもとに建物ごとにIDを付ける方式で検討を進めていて、2027年度中に一部地域で試験運用を始める予定だとしている。ただし、建物単位では同じマンション内の住戸を区別できないため、売買の流通で活用するのであれば、部屋単位のIDまで整備する必要があるだろう。

提言(4) 他社からの申し込みが売主に届く仕組みにする

両手仲介では、売主と買主の双方から手数料を受け取るため、報酬は片手取引の約2倍になる。一方、売主側と買主側の業務を1つの流れで進められるため、不動産会社の業務量は単純に2倍とはならない。この差が、囲い込みの動機となっている。

ただ、両手仲介そのものが悪いわけではない。筆者が営業時代に両手仲介を担当した際、売主の事情を細かく把握していたことで、買主への提案や双方の歩み寄りがスムーズに進んだケースがある。そのため、思考を停止して「両手仲介を禁止する」という意見には反対だ。

不動産取引では、買主を選ぶのは売主だ。複数の申し込みが同時に入った場合、申し込み内容を一覧にして売主に示すのが基本だが、元付の不動産会社が他社からの申し込みを隠してしまうと売主は比べようがなくなってしまう。

そこで、内覧予約と同じく購入申し込みもレインズ上で受け付けられるようにして、他社から申し込みが入った際に売主の確認画面にも表示される仕組みにするべきだ。申し込みの日時が記録に残れば、元付の不動産会社が他社の申し込みを隠しても売主にはわかる。

ただし、申し込みが見えるようになっても「両手仲介を目指して高い報酬を得る」という囲い込みの動機が消えるわけではない。透明性を高めても囲い込みが続くようであれば、両手仲介で報酬が2倍になる仕組みそのものを見直す必要があるだろう。

レインズを売主・買主が信頼できる流通インフラに

今回提言した4つの改善策は、いずれも囲い込みを生む構造そのものを変えるためのものだ。制度面でも、2025年1月にステータス登録が義務化され、不動産IDは2027年度に試験運用が予定されるなど、少しずつ動きが出てきている。

レインズが改善され、販売状況が売主と買主に正しく届くようになれば、誠実に運営している不動産会社ほど評価される市場になるはずだ。元不動産営業の一人として、レインズが売主・買主の双方から信頼される流通インフラになることを願うばかりである。